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Whisper

今日は疲れた。だからといって特段悪い事が有ったわけでも無い。一日が長かった。何度も時計を確認し、その度に時間が経つ速度が遅くなっていった。
午前中から既に意識していた帰路につき、たった今玄関のカギを開けたのだ。お疲れ自分、おめでとう自分、早く横になろう。
桜が散り、早くも夏の足音が聞こえる。シャワーで済ませても寒くない。出来合いの中華をかき込みながら録画していたバラエティを見る。
最近のバラエティは下らないとか、詰まらないとか、そんなものは楽しむことを忘れてしまった悲しい人間による詭弁である。
容器を捨て、ソファーに寝そべる。午後11時、なんとなくもったいない気もするが、このタイミングで寝るのが健康面でも精神面でもベストであることは分かっている。
もったいない気もするけど、今日は早く寝よう。もったいない気もするけど・・・

パーカーを被り財布と携帯をねじ込みドアのカギを閉めた。温かいとまではいかないが生ぬるい風が吹き、乾ききっていない髪を撫でる。
結局早寝をして健康的になっちゃう未来は訪れなかった。夜空を見上げるが、街灯や24時間営業の店舗の灯りが溶け出していて、辛うじて見えるのはあの金星だけだ。
月は、左側が欠けているので、おそらく上弦の月だ。あれ、下弦だっけ・・・いや、あってるか。
道を曲がって比較的大きな通りに出ると、すぐ左にセブンがある。
通いすぎたためすぐ店員に顔を覚えられてしまい、長い間ヤンキーが溜まる高架下とかよりも避けたい場所であったのだが、最近はもうどうでも良くなってしまった。
どうせなんとも思っていない、そういう思考になるだけで、解決した。人生ってのは案外そういうものなのかもしれない。
アジア系の留学生であろうグォンさんの日本語は最初見た時とは比べ物にならないレベルに達していた、しかもかわいい。ストローは付けてくれなかった。
辛いポテチ、コーラ、紙パックのお茶、本能に従い購入した物品は冷静に考えると水分が多めである。コンビニを出ると、日付が変わっていた。
イヤホンを取り出し、携帯に挿す。音楽が流れる。

街は活動を止め、明日に備えて充電中だ。一本道を入ると、深夜とはいえちらほら見えていた人影は全くみえなくなる。縁石に腰掛ける。
先ずはポテチの袋を開け、一枚食べてみるが、期待していたより全然辛くない。コーラはいつまでもコーラで、お茶はストローが無くて飲めない。
お腹が満たされ眠くなってきたが、ここで帰宅して寝てしまってはエモくなれないとおばあちゃんが言っていたような気がする。
しばらくゆらゆらしていたら携帯の電池が切れてしまった。音楽が止まり、静寂が訪れる。
イヤホンを外し一つ息をついたところで、街路樹が風で揺らめくかすかな音に気づいた。