大塚已愛

小説家。 日本ファンタジーノベル大賞2018と第4回角川文庫キャラクター小説大賞をw受…

大塚已愛

小説家。 日本ファンタジーノベル大賞2018と第4回角川文庫キャラクター小説大賞をw受賞してデビュー。 新潮社より『鬼憑き十兵衛』 KADOKAWAより『ネガレアリテの悪魔』シリーズを刊行

最近の記事

(いまごろですが)通販開始しました

以前よりnote上でサンプル公開しておりました「Nostalgia」ですが、BOOTHにて通販を行っております。 Twitterなどでは宣伝していたのですが、noteでは失念しておりました、申し訳ありません💦 おかげさまで残り20冊くらいなので、通販ご検討されている方はお早めにです。 Nostalgia 1 | みなそこ https://minasoko-tuka.booth.pm/items/1676798 とはいえ、これだけでは愛想がないので、こそっと裏話をば。

    • 11/24の東京文学フリマに参加します。

      というわけで、11/24の文フリのサークルスペースが出ましたのでご報告です。 サークル名:みなそこ スペースナンバー:ケ-52 新刊1種、商業2冊を持って行きますので、お気軽に遊びに来てくださいませ~  と、いうわけでいままで何の文言もつけずにUPしてきた「Nostalgia」ですが、これが新刊になる予定です。  ページ数などはまだ未定なのですが、表紙が届きましたのでお裾分けなど。  イラストレーターは きれじさんです。  ツイッター:https://twitter.

      • Nostalgia 第二章 2&3

        二  六時の鐘が鳴った辺りか。  ミューディーズ本店の前は、野次馬でごった返していた。店の中に突っ込んだ乗合馬車は既に除けられ、大きく空いた玄関からは、内部の惨状がはっきり見えた。  血に塗れた玄関からは、幾つもの担架に乗せられた『人間の残骸』が運び出されている。運良く生きのこった者達も、医者や看護婦の手によって治療を施されて居る間中、ずっと苦痛の叫びを上げていた。  それらの苦痛の声に呼ばれるように、医者の手によってダフィーズ・エリクシルのラベルの付いた木箱が幾つかミュー

        • Nostalgia 第二章・1.5

           メアリは結局、あの老人に譲られた本の他には、イザベラ・バード女史の記した日本旅行記と、ルイ・ジャコリオが記した『印度(インド)騎行』の二冊を借りることにした。  なんとなく、先ほどの紳士の言葉が引っかかっていたからである。文化の死とは、一体どういうことなのだろう。  貸し出しカウンターは混んでいた。順番を待つ間、メアリは先ほどの紳士の話をウィリアムに訊いてみる。  果たしてウィリアムは、茫とした目のままで答えてくれた。 「文化の死、というのはいろいろな意味がある。文化という

        (いまごろですが)通販開始しました

          Nostalgia 第二章・1

          第二章 一  新しい服と靴が出来上がったのは、採寸から丁度一週間後のことだった。靴を待つ間、メアリは家から一歩も出ないままに十二月を迎える。  一週間家に籠もりきりだった割に、退屈は一切なかった。教授の家にはひっきりなしに来客があったからだ。  教授を尋ねてくる人間は学者仲間かと思いきや、実際は軍人や警官が殆どだった。教授は軍は勿論、警察にも協力しているのだそうだ。彼等は難しい暗号の解読や、あるいは困難な事件があると、教授のもとに資料を持ち込み、意見を聞きに来るとい

          Nostalgia 第二章・1

          Nostalgia 第一章・3+4

          三  ヴィクトリア駅の通りの前で馬車を降りると、教授は馭者に、三時間後に迎えに来るように命じた。馭者が馬に鞭をくれ、去って行くのを眺めてから、教授はW・H・スミスの売店を通り過ぎ、その前にある、一際大きな建物を目指す。倫敦でも珍しい、五階建ての大きなビルだ。  窓硝子に金文字で『Travel Agency』と書かれたその建物は、フォッグ社本店――八十日間で世界一周を果たした『誠実なる紳士』、フィリアス・フォッグの名を冠した、英国でも有数の旅行代理店である。  教授が中に入る

          Nostalgia 第一章・3+4

          Nostalgia 第一章・2

          二  空は何処までも青かった。あとすこし、ダラムという駅で降りると、父親は言う。そこには、『おじいさま』が住んでいるらしい。はじめて『おじいさま』に会いに行くメアリは、お気に入りの白いドレスを着て、列車の窓から流れる景色をはしゃいで見ていた。  コンパートメントの中には、父親とメアリの二人しか居なかった。随分と立派な客車で、座席もどこかふわふわだ。  父親は、とても優しい目でメアリを見ていた。いつも仕事で忙しく、殆ど家に帰ってこない父ではあったが、休みの度に、こうしてメアリ

          Nostalgia 第一章・2

          Nostalgia 第一章・1.5

           大英帝国、リヴァプール。――始まりは、あるいはこの場所だったのかも知れない。  イーストエンドの騒動と同時刻。倫敦から南へおよそ八十哩(マイル)の港町でも事件は起こった。  深夜であるにもかかわらず、港に停泊した汽船からは、一斉に乗客達が降りていく。極東――日本からの船である。乗客の数は意外と多く、タラップの辺りでは少しばかり渋滞が起きているようだ。見れば、本国では流行遅れのバッスルを付けた婦人が階段を降りるのに難渋しているものらしい。彼女たちはおそらくは、日本帰りの外交官

          Nostalgia 第一章・1.5

          Nostalgia 第一章・1

          第一章 一  一八九四年十一月某日、大英帝国・倫敦。  そもそもの始まりが何時だったかはわからない。しかし、終わりの始まりは確かにこの日、この時、この場所だ。  少女は、濃い霧の中をひたすらに駆けている。クレープの喪服が風に舞う。  ブルネットの長い髪が美しい、大きな翠の目をした少女だった。小柄で痩せぎすの体を見るに、年の頃は十四、五才か。幼さの残る、けれど聡明そうな顔立ちだ。  時刻は深夜零時を過ぎていた。冬の夜気は、突き刺さるように肌に冷たい。吐く息は、霧よりも猶、

          Nostalgia 第一章・1