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球磨川リバイバルトレイルの記録

あ、やるんだ…。やらないと思ってた。やるはずがないと思ってた。
球磨川リバイバルトレイル、という九州初の100マイルレース。そうかやるのか。やるんだったら仕方がない。とりあえず完走を目指そう。

ちなみにこのレースは、2020年に大雨で氾濫した球磨川流域の甚大な被害の復興をテーマに掲げていて、関係する自治体が主体となって開催したもの。だから名称に「リバイバル」を冠している。

レース前夜は王子ロッジ泊。
友人の谷口くん(王子)のロッジに泊まらせてもらった。今回は二回目。お母さんのおいしい手料理をごちそうになって、仲間とわいわいしながらくつろぐ。ここで過ごした時間はほんとに最高だった。しかも冷蔵庫にはビールがぎっちり入ってるし、テーブルには極楽(焼酎)がどーんと屹立してるもんだから、誘惑にはことのほか弱い僕は手を出さずにはいられなかった。
記録:ビール350ml×2と極楽水割り×3でストップ

午前2時起床。
前夜は20時頃に眠りについて4時間ほど熟睡。12時頃には目が覚めてしまったけれど布団の中でじっと体を休めて過ごした。睡眠時間はちょっと足りてないけど、まあこんなもんかな。

スタート会場に行くとたくさんの友人がいて、声をかけたりかけてもらったり。レース前の昂揚感を共有しながらスタートを待つのも久しぶり。

実は今回のレース直前、調子が上がらずに困っていた。やらないと思ってたのでろくに走りもせず、2月の総距離は200㌔程度だし、ジョグしてもなんだか体がだるくてペースは上がらないし、暴飲暴食で体重は4㌔以上増えてるし…。
ということでレース前の目標はあくまでも「完走」。完走できたらそれでよしとしよう。

4時スタート。
真ん中より少し後方からスタート。選手はみんな元気に坂を走って登っている。でも僕は走らない。走ろうと思ったら走れる斜度だけど走らない。この斜度はレース後半でも走れるかな、走れそうにないな、じゃあ歩こう。そんなことを考えながら、とにかく登りは歩く。
気が付けば、後ろにいるヘッデンの灯りは5個くらいしかなかった。

脊梁パートに入った。
このあたりで塚田さんに追いついて一緒に進んだ。ここ、雰囲気がすごく良かったな。レースよりもテントを背負ってゆっくり歩きたい感じ。大峰奥駈に似てるな、ここテント張れるな、この木の間隔はハンモックにちょうど良さそう、でも水場が厳しそうだな、カレー飯食いたいなとか言いながら進んだ。やばい。塚田さんと一緒だとレースじゃなくなる。妄想が止まらなかった。
トレイルに入っても登りは歩く。スピードは上げない。というか、上がらない。後に付かれたら早めに横にずれて先を譲る。どうぞどうぞ先に行っちゃってください、と。急ぐ必要はない。なんせ目標は完走だから。

なんとなくコースが下り基調になってきて、気持ち良く進んでいる時にふと思った。あれ、そんなに調子悪くないかも、と。でも、まだ序盤なので、これは錯覚で本当は調子が悪いはずだ、と、暗示をかけておいた。

調子にのるなよ、ゆっくりでいいんだよ、と自分に言い聞かせながら進んでいたら、A2でマイル初挑戦の友人の石川さんを発見。ちょっと調子が悪そう。このエイドは石川さんが先に出たけど、A3手前で追いついた。僕としては、絶好調の石川さんが先を進んでいるのを追いかける展開で、後半になって石川さんが疲れてきたところを、マイルは甘くないでしょって囁きながらその横を颯爽と走り抜ける…そんな状況を勝手に思い描いていたんだけどな…。そんな話をしながら、A3まで一緒に進むことにした。石川さんとは福岡に住んでいた頃によく一緒に走ってたから懐かしくてとてもいい時間だった。

やっとA3に着いた。
ここには仲間がたくさんいた。やっぱり仲間と会うとそれだけで元気になる。しかもこのエイドはそれだけではない。ペーサーが待ってくれているのだ。今回、友人の王子にペーサーをお願いしていた。サブエガだし山も強い。まさに最強の武器。まだ100㌔以上残ってるんだけど、もうこの時点で完走は確信していた(これほんと)。

ところで僕はエイドの滞在時間が短い方だと思う。心地よいけど長居するのはいや。ボラの人に元気をもらって、補給して、少しだけ座って(これ僕にとってご褒美)、サッと出る。
補給と言えば、今回はかなり補給のことを考えてレースに臨んだ。エネルギー系のジェル、アミノ酸の粉末、回復系のジェル、ミネラル成分をとにかくがんがんぶち込んでみた。それと水分と。僕にとっての最適解をなんとなくつかめた感じ。

さて後半だ。
大事だからもう一回言うけど、まだ100㌔以上残っている。
記録を振り返ったらA3で100位だった。正確な人数はわからないけど、半分よりほんの少し前あたりだと思われる。だいぶゆっくりだったんだな。でも、これは想定通り。

しかし、ここから先は前半とは違う。何が違うかと言えば、そう、ペーサーがいる。最強のペーサーが。
A3を出るといきなり1000mアップの峠道。パワーウォークとジョグを織り交ぜてひたすら登ったら、けっこう脚が動くし、疲労感も少ない。どうやら調子が悪くないと思ったのは錯覚ではなかったらしい。
果てしなく続く上りを登りきった後は長い下りパートが待っていた。
レースを振り返ると、僕にとっての今回のレースのポイントは、何度も何度も現れる林道とロードの長い下りだったと思う。とにかくペーサーの王子が飛ばす。実際にはそんなに飛ばしてはいないんだけど、周囲とは明らかにペースが違う。王子は前に人が見えるとペースを上げたがる。追いかけようとしたがる。僕にはそんな余裕はないので、追うなよ、とか、勝負してないから、とか、早いよ、とか…、王子をなだめるのに必死だった。
でもこのおかげてだいぶ前を追い抜いて、A4では53位までジャンプアップしていた。

この辺りまではだいぶセーブして進んでいたんだけど、100㌔を過ぎた辺りで、ゴール時間をなんとなく意識し始めた。ばく然とではあるけれど、36時間くらいかな、できれば早くゴールしたいな、そんなことを思い始めた。
王子と一緒に進み出してからはエイドごとに順位を上げていった。この間、意識して前を追うことはしていなかったんだけど、ペースを維持していると勝手に前が落ちてくるので結果的には拾いまくることになった。

A4からA5までの区間。この区間が一番きつかったかもしれない。細かいアップダウンが連続して、なかなか次のエイドが見えてこない。ここで悟った。目に映ったものしか信じない。曲がり角の向こうに何かを期待してはいけない、と。時間帯としても眠気がやってくる頃。王子も何やら叫んで眠気と闘っていた。眠いのは僕だけじゃない。ペーサーも一緒だよな。
最近、マイルの前はカフェイン抜きをするようになった。2週間くらい一切カフェインをとらない。2日程度でいいという説もあるけれど、僕は2週間くらいやっている。レース中に一番眠気がきつい時にカフェイン入りのジェルをダブルでぶち込む。これがけっこう効果がある(自分調べ)。
この区間で38位まで上がっていた。

残り50㌔、次のA6までは下りだ。
この頃、林道の下りを待ち焦がれているのを自覚していた。なぜなら距離が稼げてその上時間も短縮できるから。林道はまだか、さあこい林道、そう念じていた。そうか、僕は林道が大好きなんだ。これは新たな発見だ。no 林道 no life。
そして、来た、林道。ここは走ったなあ。あいかわらず王子は前を見つけると追いかけたがる。しかも、とても自然にすっと上げるもんだからやっかいだ。おいっ、と言うと、あ、ばれました?とか言いやがる。
おかげてA6では21位。※順位は後から確認。

A6を出たら残りの山はあと2つだけ。
しかし、このレースの最大の誤算がここで発生した。王子と一緒に進みながら、これが最後の上りだな、よくやっよな、ああこれが最後の下りか、最後だからかっ飛ばそうぜ、と言いながら下ってきたら、若岡くんの姿が見えた。ますますうれしくなってスピードアップして下りきった。
そしたら若岡くんが、さあこれから最後の山ですねがんばってください、とか言っている。何を言っているんだ彼は?僕も王子も、もう十分がんばったよ。とか言いながらもやがて現実を受け止め、仕方がないので登ってやった。たかだか360mのくせに高岳とか大層な名前を付けやがって…。もはやいちゃもんでしかない。

そして最終エイドA7に到着。ここまでで距離はすでに100マイルに達していた。時間にして30時間と5分。自分でも驚きのペースだ。残すは球磨川が八代湾に流れ込むところと併走するロードの15㌔だけ。ここで初めて目標タイムを明確に設定した。最悪値33時間、最高値32時間切り。設定は㌔7分。うまくいけば32時間は切れる。
少し休んで走り出したけど、何かおかしい。これ㌔7なのか。早くねえか…。と思ったらやっぱりだ。王子が勝手に㌔6まで上げてやがった。誰も頼んでないぞ。
途中、歩きを挟みながらも順調に進むが、ゴールの気配が全く感じられない。そんなとき黄色いバイクにまたがった村の青年と出会った。青年いわく残り3㌔らしい。
もうペースはどうでもいい。とにかくゴールに早く着きたい。まだゴールは見えないけど、近いことは間違いない。

そしてやっとゴールが見えた。
すべてが報われる時だ。
博多婦人会の黄色い声が聞こえた。
ビール飲みたい。
王子と肩を組んで走ってゴールした。

距離177km
累積7853mD+
タイム31:48:19 
順位19位

できすぎだ。
王子、ペーサーを引き受けてくれてありがとう
大会関係者と開催した地域の方に感謝。
応援してくれたみんなに感謝。
ホスピタリティは過去最高。
コースには水害の爪痕が。

その晩、部屋飲みしているところに100mile優勝の川崎さんと100km優勝の土井さんが現れるというサプライズ。うれしかったな。
土井さんとは朝風呂もご一緒したんだけどお互い眼鏡をかけていなくて誰かわからず無言。

#トレイルランニング
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