天気予報の恋人

※イエスノー、潮と計

––––きょうはきのうの陽気から一転、真冬並みの寒さとなりました。
––––確かに三寒四温なんて言いますけど、本当に気温が乱高下してますよね。
––––そうなんです、冬と春の気圧がせめぎ合うことによって、季節が行ったり来たりの時期ですが、国江田さんは春物のコートで凍えたり、しませんでしたか?
––––あ、大丈夫でした。きっちり冬物で。
––––テレビの前の皆さんも、国江田さんを見習って天気予報をこまめにチェックしてくださいね。ではあすの関東地方のお天気……。

天気予報、そりゃ見てる。天気も気にしてる。お仕事の一環として。日々、お天気のコーナーで二言三言交わす雑談は毎日の流れだけに結構難しいからだ。きょうは風が強かったけど春の暖かい空気を感じましたねとか、何時ごろの旭テレビ近辺雲ひとつありませんでした、等々、何でもないことほどきちんと準備していないと事故る可能性がある。でも国江田さんの服装は、別に天気予報のアドバイスに従っているわけではない。

「きょう、たぶんマフラーいらねえな」
起きて、朝ごはんを食べているくらいのタイミングで、潮が言う。計はふーんとかああとか生返事をして、その発言を特に吟味するわけでもなく、言われたとおりにする。すると、間違いがない。

「軽めのコートで大丈夫みたい」
「防寒しといたほうがいいんじゃね」

こんなふうに。おおかたキッチンに立っている間(つまり計がまだ眠っている間)にでも、天気予報を流し聞きしているんだろうと勝手に思っていた。
ところが、ある日、ロケ先でにわか雨に降られた。気温は忙しなく上がったり下がったりしつつも穏やかな晴天が続いていたので、久しぶりの、そして想定外の雨だった。
「そういえば、天気予報で言ってたかなあ」
緊急避難した地下街でDがぼやく。計は、朝早くに現場直行のスケジュールでばたばたしていてチェックしそびれていたのだが、潮からは何も言われなかった。それで、帰って文句を言った。

「おい、雨降るんだったら言え!」
「は?何が?」
「天気」
「知らねえよ、天気予報なんかいちいち気にしてねえもん」
「え」
「自宅自営ですから」
いや知ってるけど。そりゃそうだけど。
「だってお前、いっつもきょうは厚着しろとかいらないとか……」
確かに服装、つまり気温に関する助言だけで、降雨への言及はなかった。単純に晴れ続きだったから、じゃないのか?
「あーあれね」
潮はあっさり言った。
「天気予報してんのは、俺じゃなくてお前」
「俺?」
って、まだ目覚めきらない頭でもぐもぐタイムしている最中に言われたりしてるのに?超能力に開眼した覚えはまだない。
「何の話だよ」
「かわいく『教えて』ってお願いしてくれたら教えてやる」
「かわいげなんて俺がわざわざ提供するもんじゃなくてお前が勝手に見出すもんだろーが!」
「なるほど」
さっさと教えろ、と急かすと笑いながら「予報っつーかお告げ?占いに近いな」と言う。
「だからしてねえよ」
「そう、見出してんの。俺が先に起きた時の、国江田さんの寝相から」
「は……?」
「エアコンで室温調整しても、微妙に違うんだよな。ふとんも毛布もすっぽりかぶってみの虫の日は昼間も気温上がらなくて、毛布だけの日はちょっとあったかい。ぜんぶはね除けてる日は春の陽気。足だけ出てる日はマフラー要らず。別に答え合わせしてねえけど、毎日そのとおりに着てるから、まあまあ当たってるんだろうな」
「……へえ」
ネタばらしされてしまえば何てことはない……いや、あるわ、俺が恥ずかしい。大いに今さらだけど、無防備の極致状態なんか観察してやがってと思えば。別にちょっかいをかけられているわけじゃないから苦情も言えないし、こっちが早く起きて朝支度をする選択は論外だし。
「ほら、そうやって照れると思ったから黙っててやったんだよ」
「うるせえ、恩着せがましい」
「かわいーね~」
「うっさい、めし食う」
「言われたとおりに見出してんのに」
「だーまーれ!!」
さて、あすの国江田予報の結果やいかに。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

186

一穂ミチ

みちはうす

ノートのまとめ
1つのマガジンに含まれています

コメント1件

可愛いは見出すもの。至言ですなぁ。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。