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アダンくん

 最近、同棲を始めた。とても賢いアダンという男の子だ。
 
 ちなみに前もっていっておくが、人間ではない。誰も人間だとはひとことも言っていない。
 アダンくんは、黒くて小さな蜘蛛だ。一般的な家庭にも出現する種類だから、きっと誰の家でも見れると思う。
 虫が苦手な人には非常に申し訳ない。その人はぜひ虫以外のもので想像して読んで欲しい。
 
 アダンくんはある日突然現れた。朝の8時頃だっただろうか。仕事に行く前にいつも通り食パンを焼いて、ぼーっとしながら食べていた時だった。部屋の隅に冷蔵庫があるのだが、彼はその辺りから急にやってきた。
 はじめは少し驚いたが、小さい頃からおばあちゃんに「朝蜘蛛は縁起がいいから殺しちゃいけない」と言われてきた。普段はあまり迷信は頼りにしないのだが、やはりいい事は信じたくなる脳のようだ。芥川龍之介の「蜘蛛の糸」のような話もあるし。
 そう思ってそのままにしておくと、蜘蛛は冷蔵庫と壁の隙間に逃げていった。

 次の日のこと。また昨日と同じ時間帯に食パンをかじっていると、同じ蜘蛛が現れた。なぜかわからないがサイズと挙動ですぐに同じ蜘蛛だとわかった。
 一人暮らしで心なし寂しいのもあり、ちょっと面白くなって「おはよう」と声をかけたりすると、返事をするように口元をわしゃわしゃ動かすのでついに可愛く思えてきてしまった。

 3日目を過ぎても現れるから確信しか持たなかった。それ以降ずっと毎朝8時に、私の目につくところにアダンくんは顔を出す。食パンを食べていたら冷蔵庫近辺に出るし、寝っ転がっていたら天井にいる。不思議な事に夜は絶対出てこない。
 
 アダンくんの名前の由来はアダンソンハエトリという種類だからという単純な理由。ハエトリというだけあって害虫を食べる。そういえば去年のこの時期なかなかに困っていたコバエが今年は一度も出てこないのだ。みんなの苦手なGだって食べてくれる。

 そんな不思議な蜘蛛、アダンくんと棲むようになってから、朝が少し楽しみになった。
 私は危ないのだろうか。でもこの際、共感などは要らない。
 ぜひ蜘蛛を見つけたらそっとしてあげて欲しい。私からのお願いだ。

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iCHiO

フリーランスのイラストレーター。 「彩りで日常彩る」がコンセプト。 HSS型HSPのXジェンダーです。 エッセイイラスト「つらつら」更新中。 イラスト、文章、ダンス、音楽など様々な表現が好き。 ホームページhttp://www.ichio.info/
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