高山が作家として更に飛躍することを願い創作活動を支援したい!~エッセイ「ガーターベルトの女」の作品化を目指して【498】

妄想家・夢想家無名居士の
夢物語の記録です
無名作家 高山のエッセイ
「ガーターベルトの女」の
映画化芝居化 
その他いろいろ作品化できれば
なんて途方もない夢を観ています

📖 高山のエッセイ~「何かを落として来たような気分」

わりと、つい最近の話しです。

四十九才のリアルな心情です。

仕事で現場に行ってて、トンネル工事の作業員の様子を見たり仕事を手伝ったりしてました。

何時もの事です。

そこの所長と缶コーヒー飲みながら立ち話ししてて、タイヤショベルに乗ってる作業員の話しになりました。


見てて下手なんですよね。


それが掘る方を手伝うようになってて、あれは駄目だろうと言いました。

元々は、元請けから頼まれて地元の人間だと言うので仕方なく入れたんです。

雑工やらせてたけど、いまいちでした。



しかし、雑工でもそこは大きいトンネルで予算出てるから一日一万八千円です。


年齢は三十一位です。



トンネルの経験が浅いのが分かったのと、どうも何かにつけて楽をしようと言うのが見えたから、何度か柔らかく注意はしました。

地元の人間を使うと言うのは、地元の人への配慮と仕事を斡旋すると言う意味では円滑に仕事がしやすいから良いんですよ。 僕の呼んでる作業員も二人は近くの出身でした。
しかし、トンネル作業員はそれにばかり気を使うと良いのが使えなくなるからね。
元請けが附帯するダンプ屋とかそういうのを地元を率先して使います。 下請けの僕らはそれに余り固執しません。

やはり良い仕事するには全国から集めますからね。
その作業員は、元請けの所長が雑工で良いし金額も少し落として良いからと言うから仕方なく入れてました。
うちの所長に、いつの間に掘る方に回ってるのか聞くと、一人一時休んでて仕方なくだそうです。 それでも見てたら下手でね。 あれなら、他の雑工やってるのと代えろよと言いましたね。 事故でもやりそうだし、他の雑工やってるのでまだ上手いのが居ましたからね。

掘る方に回ると日給が大きく上がるし、請け負いですから取れる時は取れますからね。

下手なのにお金を取らせるより、上手いの入れた方がましです。

僕は、自分自身が呼んでるからとかよりも、単純に下手な奴にやらせるより上手いのにやらせようです。
それで下手な方を呼んだんですよ。
交代してしてくれと伝えました。
わりと丁寧に言ったんですけどね。


そしたら明らかに不服そうな顔をしたのと、高山さんが呼んでる人を使うのは贔屓してるみたいに言ったんですね。



僕は一瞬カチンと来たけど冷静に、そうでは無くて貴方まだ慣れてないから危ないよと説明しました。
それでも俺なんかまだやれるのに、贔屓して汚いみたいに言いました。

細かい言葉は忘れたけど、少なくとも歳上で下請けのトップの立場にある僕に、汚いって言葉を吐いたのがカチンと来ました。

それまで丁寧でしたが、一瞬にして言葉使いが変わりましたね。
てめえ、俺に喧嘩を売ってんのかです。
そしたら、もう歳でしょうとかえって来たから、顎を手のひらで思い切り殴りました。
拳だと痛いけど掌低打ちです。
顎を打たれて倒れたから、足先に鉄板の入った長靴で一度だけ蹴りました。
そして、贔屓はしないけどお前の仕事ぶり見てたら雑工も手抜きだから、もう少しきちんとしないなら辞めさせるぞです。
最後に、このくそガキがと言いましたよ。
元請けも何人か見てたけど、使えない事は分かってたんでしょうね。 その後も何も言われなかったし、その作業員はびびって仕事に戻りましたよ。 気持ち的には特に興奮も無くて、良い気分でも無くて仕事をしたと言う感じでした。

その夜打ち合わせがあって、何時もの安いメンズのスナックに行ってました。
打ち合わせは相手の都合でそこで行われ無くて、安い食べ物ある居酒屋に変わってしまい、メンズのスナックを後から来ると行って出て、居酒屋で一時間程飲みながら新しい仕事の話ししました。

相手は、今度の仕事で雇う外の仕事を受持ってくれる所の社長でしたから、立場的にこっちが上でも社長だから仕方ないかです。


お金の話しとか細かい詰めはしてたから、飲みながら仕事の簡単な段取りの話しでした

社長は感じも良くて年齢は僕より歳上ですが、いかにも小さい会社の社長でしたね。


そこでビールを何杯か飲んだから、メンズのスナックに戻って焼酎の水割りをチビチビ飲んでました。


僕は、飲まないなら全く飲まなくて良いんですが、飲んだら徹底的に酔わないと嫌なんですよね。



そこに、若い顔見知りで何度か話した事のある男が二人で来ました。



二人とも二十代前半で、一人は良く店で会っててわりと気の良い兄ちゃんって感じでしたが、こいつ口が達者だけど大した事がないなと言う印象でした。



もう一人は、初めて会ってほとんど飲んでないようで、隣に座って大人しそうな人の良さそうな男でした。



何度か話した事のある、若い男に挨拶して飲んでました。



店の男の店員を交えて、三人で話してる感じになりましたね。



話しの中で何かの拍子に、来年俺も五十だなと言うと若い顔見知りの兄ちゃんが、高山さんみたいな五十代になってこういう風に飲みたくないと言いました。



え!?です。店員もえ!?って感じでしたが、僕は半分笑いながらどうしてと聞くと、友達とかと一緒に飲んだりしたいと言いましたね。


それもかなり生意気な口調でね。



僕は、元々の生まれがこっちでは無いのと、友達とかはもうほとんど結婚してるし面倒だよと言うと、同窓会とか行かないんですかと言われました。


こうしてエッセイで書くとその雰囲気伝わりずらいでしょうが、若い顔見知り兄ちゃんは酔ってて、いきがってる感じが凄かったです。

同窓会とか行かないとか、一人で飲むの惨めだなとまで言いましたね。
店員が明らかに僕が怒るのではと言う感じで見ながら、酔ってる若いのをたしなめてました。

僕はニヤニヤしながらまあ、若いうちは分からないよと言いながらも、腹の中はお前に俺の何が分かるで怒りで一杯でした。

もう一人、その兄ちゃんの友達もたしなめてましたね。
そのあとも、五十前でそういうのやだなあとか言ってたけど、適当に相槌打って誤魔化しました。
昔の僕なら直ぐ怒鳴ってたでしょうね。
その兄ちゃんが酒に弱く、酒に呑まれるタイプとは知ってたけど、まさかって感じてした。
少しして、帰るとなって帰りました。


僕がため息つきながら煙草吸ってたら、男の店員が来てすいませんでした。



他に僕も親しい若い女の子来てたのもあって、強気な所を見せたかったようです。


僕はそれからかなり飲んで歩いて帰ってたら、さっきの事が沸々と思い出されて腹が立ってきましたよ。


現場では躊躇せず冷静に怒れるのに、ああいう場で怒れなくなってる自分自身が情けなもなって来ました。

酔ってたから素面なら十分も有れば帰れる所を、延々と歩いてるように感じてベンチに座ってスマホを何となく開けて小説サイトを開けたら、誰かのレビューが付いてました。 後から見ないと一度見ると酔って返事はしたくないから、誰かは分からなかったけど、

少しだけ荒れてた気持ちが柔らぎました。 ベンチをゆっくり立つと、ふらふらしながら帰りながら自分も随分換わってしまったなとも思いましたね。


そういう場で怒れるのが偉いとかでなくて、そういう場で何となく気持ちを抑えたり流したりする自分自身が嫌ですね。 それが、大人だと言われても嫌ですね。 現場でもそういう場でも、二十代や三十代の頃は変わらなかったです。

それが、何処かで抑えてしまって気持ちの持って行きようの無さを味わうようになったのは、四十代を過ぎてです。
家に戻って店の店員にLINEして、あれは酷かったと愚痴を入れました。
それも昔は無かったし、したあとで後悔しながら眠りました。

後で店員から、あれは高山さんが我慢してくれて大人ですよと言われたけど、我慢したと言うより誤魔化したんですよね。 そういう誤魔化しを覚えてしまった自分自身が、最近つくづく嫌でうんざりします。
何時までも肉体は若くないけど、精神やポリシーを誤魔化したくないなと思います。

こういう事は最近良く起こってます。

それが溜まってる時に、偶然コンビニとかで若者が我が物顔で座ってると車から降りて邪魔だろう!!とか怒鳴ってます。
ガス抜き代わりに使われた若者も可哀想ですね。
言った後で、ガス抜きに使ってる自分自身を分かってるから後ろめたさを感じますよ。
本来怒るべき所を誤魔化して、生きてる自分自身が嫌ですね。
この十年程で、気持ちの上で何かを落としてしまったように思うんですよね。


何時までも若くいたいは無理ですが、精神等は昔を忘れずにと思いますよ。


おわり

📖管理人・無名居士の 童話『花物語』〜ドングリさんの嘆き

花の行商をしていたおかあさんから
お花の話を聞いて育った少女は
大きくなって念願のお花屋さんを開きました
少女のもう一つの夢は
子どもにお花のお話をすることでした
おかあさんがしてくれたように・・・

向かいの塀の外に
ドングリさんが落ちているでしょ
そのドングリさんを拾っていたら
ドングリさんがじっと私の顔を見て
どうか私の話を聞いてくださいって言ったの

鳥さんや風さんから
よくお山の噂を聞いているのです
サルさんやイノシシさんやクマさんのことです
年々お山には食べるものが少なくなって
仕方なくお山のふもとまで下りて行くんです

お山のふもとは昔は畑だけだったのが
今では人が住む家がたくさんできて
いろんなお店まで出来ているんです
おサルさんもイノシシさんもクマさんも
そんなふもとの変化に驚いているんです

ちょっと食べるものをいただいたら
すぐにでも山に帰りたいいんです
人は怖いと教えられているからです
でも人の方が彼らを怖がって
危ないから捕まえようとするんです

人は網や棒や鉄砲を持ってかれらを追いかけます
彼らは怖いから必死で逃げます
捕まりたくないから必死で暴れます
彼らはお腹がペコペコなので
ちょっとだけ何か食べたいだけなのです

足を滑らせ壁にぶっつかり
彼らは逃げようと必死です
人が怖くて必死です
そんな彼らのことを思うと
たまらなく悲しくなります

お山に食べ物が少なくなったのはなぜですか
昔は山もふもとも自由に行き来できたのに
それが出来なくなったのはなぜですか
みんなと仲良くなりたいのです
仲良くなれないのはなぜですか


まぐまぐ!「花を歌うかな」'08/10/23 No.1245 から転載

📖 高山の作品から〜「Yとの嬉しい再会〜 12」

Yのシリーズ続いてますね。

管理人さんが感想の返事で言われてる作者に直接的メッセージとは、知らなかった人からの反響が有るって事です。

珍しい事ですし嬉しいです。

続けてるのは、今の現場にYとかつて仕事をしてた非常に良い坑夫が集まってます。

そこで、Yとの昔の話しが出るんですよ。それで、エピソードが増えてますね。

もう少しエピソードが出てくると思います。

面白い物で、元々そこの現場は良い作業員が揃ってましたが、Yが入る事で刺激を受けた人間も居れば、Yが居るならそっちに行こうかと言う良い坑夫が集まってます。

人の流れが、Yによって作られつつ有ります。

それも腕の良い坑夫が、Yが居るならって感じで来てます。

二人程、しばらく一緒に仕事をしてなかったのが、来ます。

二人とも、Y以外のメンバーもある程度知ってますね。

Yと初めて会った鳥取の現場で二人とも仕事してるし、ある意味僕にとってもこの現場が、父の会社倒産後の初めての大きなトンネルでしたから、原点に近いのかも知れないですね。

一人は、Yと僕が出会った頃は十八才とかでしが、今では三十代の半ば過ぎになって、非常に腕の良い坑夫になってます。

五年ほど前かな少しだけ仕事をしましたが、火薬を挿入する機械を二人で競争して乗りましたね。

元々僕が鳥取の頃に色々教えた男ですが、才能が有りました。

競争は、ほとんど五分五分でしたね。

こっちはズルい方法知ってるからまだ、抜かせるかよと笑いましたね。

鳥取の頃には、僕が掘削班に入ってからはYと雑工してて、Yにも色々習ったようです。

Yさんは、火薬の免許さえ取れば凄くなりますと言ってたし、自分自身駆け出しの頃に色々教えて貰ってるから、Yにも僕にも頭が上がりません。

しかし、正月明けから来ますが、実際にYを見たら驚くと思いますよ。

僕は掘削班でしたが、Yは当時は火薬の免許無いために掘削になかなか入れなかったから、余り見てないですからね。

もう一人もYと鳥取で初めて会って、三人で幾つかの現場を渡り歩きました。

こいつは、その前から僕は知ってて、多分最も僕とは長い付き合いで、同い年です。

全国を回ってますし、非常にあちこちから引っ張られるベテランになりましたね。

Hと言う名前で、何度もこのエッセイに出てきます。

Hも正月休みに入る少し前から、既に来てます。

丁度東北の方に行ってて、仕事の区切りも良かったし、元々九州の人間ですからね。

Yが来てて、非常に掘削で頑張ってるし腕も良いと言うと、あいつは耳が悪いのをカバーして余りある一種の超能力が有るよと言ってましたが、実際に見たらやはり、ここまで出来るようになってるのかで驚いてますね。

Yの一種の超能力に、僕の周りで最初にハッキリ気付いたのはHだったと思います。

Yは勿論、勘とか目で色々見てて出来るんですが、明らかにそりゃ少し人に説明出来ないよって事が有ります。

昔、たまたまHと見てて、Yが二十トンダンプをバックさせてたら、Yに向かって違う機械が来てたんですね。

相手のミスです。

Yのダンプは、ミラーも壊れてるしカメラも壊れてるのにYは、顔も出さずにそれをスッと避けてバックしたんです。

多分、顔を出してても相手の機械はライトも無いし、粉塵が凄かったからほとんど見えなかったと思いますね。

普通なら、耳が悪くなくてもぶつかってると思いますね。

僕もHも、見てて危ないと思いながらも、Yなら避けるなと言うのが有りましたね。

無意識に何度もそう言う場面を見てたから、Yが避けると思ったんです。

Yに、その辺りを突っ込んで聞いた事が有ります。

ああいう時に耳は聴こえてるのか?とか、何故分かったのかです。

Yが言うには、耳は多少は聞こえてても、機械の音とかダンプの音で分からないらしいです。

見えてるかと言うと、見えてないけど感じると答えるんです。

来てるから、避けないとって感じると答えましたが、幾らそれ以上聞いてもYに説明するだけの語彙力ないし、感じるで僕らは納得しましたね。

Yが言うには、バイクに乗っててカーブでギリギリまで倒しても、ここまでなら大丈夫って分かるでしょう、それと同じだと言うんです。

Yは、ハーレーに乗る前は完全な走り屋で地元では、速いのと危ない運転をこなすので有名だったらしいです。

昔は、レーサータイプのバイクに乗ってたらしいですからね。

しかし、普段の補聴器付けてない時のYは非常に鈍感です。

朝礼してても、聞こえて無いから字を追うのと、いざ現場を見てから決めますね。

朝礼してて後ろから蹴っても気付きませんが、トンネル内とか作業してると、後ろに行くとスッと気付きます。

本人いわく、スイッチを切り替えるという言い方してましたね。

仕事になるとスイッチを入れる、という感じです。

こうなるとお前はロボットか、或いは格闘家かと思いますね。

考えるな感じろってのは、ブルース・リーの名台詞ですが、それに近いのかもです。

僕も剣道をするから、多少は分かるんですよ。

見えなくても、相手が何処を打ってくるか分かる瞬間ってのが、たまに有ります。

しかし、それは、たまになんですよ。

無の状態と言うけど、そう簡単に何時もそういう状態にはなれません。

Yは、それに近いものを意識してやれるって事なのかもです。

それとも、全く違う回路が有るのかも知れないです。

僕らの分からない違う回路と、鋭い勘のようなものが合わさってるのかもと、僕は最近は思います。

Yに説明を求めても、何せ語彙力が無いから聞いても分かる物は分かる、で終わりです。

まあ、言葉で説明できない事象なのかもとは思いけどね。

Yは、本も読まない、漫画も読むのは読むけど直ぐに意味が分からないと、聞きます。

それが、難しい漫画なら分かるけど、『こちら葛飾区亀有公園前派所』を読んでて、●●ちゃんこれは、どういう意味とか聞きましたからね。

『こちら葛飾区亀有公園前派所』の意味を聞くってのは、そういう理解力が相当低いって事ですね。

ある部分は相当欠けてますが、ある部分は特化してるって一つの例かも知れないですね。

ハーレーやバイクを弄ってても、ほとんど見てなくても分かるようです。

手先も器用ですからそれって凄いなと言うと、何時も触ってるんだから分かるよと、当然のように言われます。

Hも僕もYが耳のせいで事故をするとは思ってないですし、最も事故の少ないタイプではと思ってます。

Hが言うには、あいつは慌てないしそういう点でも、トンネルでの事故は余程じゃないとないなあと言ってましたね。

Hは、三十才の時に現場が一緒になって唯一、仕事抜きで時々僕が電話する相手です。

トンネルの作業員に関しては非常に冷静に見てるし、完全な職人ですね。

僕とはタイプが違うけど、何も気にせず話せる少ない相手です。

それでHとこないだ現場で休憩してて、かつての話しになりました。

鳥取の現場の後に何処に行ったかですが、あちこち行ってるんですよね。

僕のおじさんが所長で、小さい現場を転々としました。

他の会社の応援とか、本当に小さい現場を何ヵ所か行ったので、何処にどういう順番で行ったか覚えてないです。

しかし、Yも大抵居たのは覚えてますね。

おじさんが、僕とHとYを使ったからですし、使いやすかったのだと思います。

三人とも若いし、働き者だしですね。

技術的には、当時はHが三人では一番でしたね。僕がそれに続いて、Yが僅差で僕に続いてるって感じでした。

確か愛知県かその辺りの県で、小さいトンネルを手堀りで八十メートル程掘りました。

手掘りってのは、機械はピックと言う手に持てる機械で掘る事です。

良く手に持ってダダダって感じで、土やコンクリートを掘ってるの見ませんか。

破砕機です。それで硬い山を掘って行くんです。

これは、まあ疲れます。

そして、土をキャリーダンプと言う一輪車にキャタピラが着いたような、小さいダンプで出すんです。

なんと言っても掘るのが狭い場所です。高さが約二メートル、横幅が四メートル位だったと思います。

そこを三人で掘って、鉄の枠支保工を入れて板で周りを囲むんです。

支保工ってのは、大きい現場も小さい現場も使います。

僕らの呼び方では、「しほうこう」です。

この工法は古くからあって、僕らは在来工法と言います。

単純ですね。掘ったら鉄の枠を建てる、そこを矢板と呼ばれる板を入れていって囲むんです。

それをキャンバーで締めたりします。

キャンバーとは、楔のような板です。

隙間が多ければ、板を二重にしたり色々です。

僕はこの工法を何度もやってるから知ってますが、今の若い人は臨機応変にこの工法を上手く出来なかったりします。

古い工法ですが、今でも有ります。

主に今は小さいトンネル、例えば農業用水路になるトンネルとかに使われますね。

この工法は山が良ければいいですが、山が崩れやすいとか水が出るとか言う場合は、非常に技術的なものが必要です。

おじさんの所長と四人で行って、おじさんが基本を皆に教えました。

そして何か有れば、おじさんが対処の仕方を教えましたね。

古い工法を知ってましたからね。

しかし、普段はおじさんは材料の準備をすると、何かない限り事務所に居て見回りに来てましたね。

そして、何故若い連中が三人入ってたかは、山さえ良ければひたすら体力仕事なんですよ。

ピックで山を削って、それをキャリーダンプに積んで、枠を建てて板を入れると言うのは、かなりしんどいです。

それも硬かったから、ひたすら三人で交代してピックで山を削ってましたね。

汗びっしょりになりながらです。

麦茶の大きな容れ物を買ってきて、何度も飲んでました。

宿舎は古い民宿で、食べて風呂に入ったら三人ともテレビ見ながら、何時の間にか寝てるような感じでした。

かなり筋肉も付いたけど、掘るのはパワーのあるYと僕が中心でした。

Hは、建てる時に細かい所のチェックしてましたね。

Hは、見た目は眼鏡を掛けて、何処かの公務員のようでした。

体力的に劣るとか無かったですが、器用でしたし残りの二人がYと僕でしたから、Hがきちんと最後を決めるって感じでした。

時々、粉塵の凄い中を出て三人で、外で煙草を吸ってたから多分冬では無いですね。

一般の人が、こんな所にトンネルがって感じで、細い道路を通ってましたよ。

たまに女子高生が通ると、三人でニヤニヤしてましたね。

まあ、三人とも若いし仕方ないですね。

そういう中で半分を過ぎた辺りから、山が崩れ易くなって作業を急ぐようになりました。

時には、おじさんの所長も来て手伝いながら、怒鳴ってましたね。

こうなると、掘って建て込むまでが非常に急ぐのと、色々な工夫が必要になってきました。

そういう技術は当時の僕らに無くて、おじさんが指導しながらやってました。

当時のおじさんは五十代を越えてて、厳しかったです。

何しろ一歩間違えたら山が崩れるから、指示しても遅かったら相当怒られましたね。

Hも僕もYも必死に付いて行きながら、工法を覚えましたね。

Yは、帰りながら凄いなあとか言って感心してましたし、こういうスリルを楽しんでるようでした。

耳がほとんど聞こえなくてもおじさんが何が必要としてるかを、一番早く察知したのはYでした。

 

その次がHで、最後が僕でしたね。

Hも相当器用で勘も良かったけど、Yの方が早いのには皆驚いてました。

最後が僕でしたが、二人が勘が良すぎたんですよ。

おじさんも途中から、Yの勘の良さに驚いてましたね。

あいつは耳が本当は聞こえてるんじゃないか、とまで言ってた位です。

おじさんも、Yの一種の超能力的な部分を凄く感じたようで、早く火薬の免許取らせないとなと、真剣に言うようになりましたね。

僕に一度落ちた時は、お前の教え方が悪かったんじゃないのかと笑ってましたね。

あいつは勿体ない、とも言ってましたね。

目の当たりにして、Yの才能を完全に分かったんでしょうね。

民宿に戻ると、火薬の免許の勉強を僕とするようにとなりましたね。

Hもおじさんも発破技師と言う火薬の免許では、一番下のしか持ってなかったです。

トンネルの火薬の免許は発破技師、乙種保安委員、甲種保安委員とあって、僕だけ一番良い甲を持ってたから、Yにまた教えるようになりました。

しかし、疲れてて途中で寝てしまうってのが、多かったですね。

それに、僕も発破技師は直ぐ取ったけど、甲は三度目て通ってますから得意では無かったです。

そういう山が厳しい時が続いてて、たまたま何かのりました。

中には、Yしか残ってないからです。

すると更に激しい音がして、前を見ると山が崩落してました。

支保工は鉄ですが、グニャリと曲がって倒れてましたね。

山が抜けたり動いたりする時ってのは、凄い力が掛かるんですよ。

おじさんも音に気付いて、急いで来ました。

中にYが居るのを知ると、お前たちはYだけ残してたのかと怒りましたが、とにかく急いで側に行きながらも次の崩落があったら逃げるからな、と大声で言いました。

二次災害を防ぐ為です。

崩落した直ぐ側まで来ると、完全に山が抜けてて土砂で塞がれてました。

粉塵も凄いし、何よりそういう光景を見ると恐怖が沸きますよ。

どのくらいの区間崩落したのかさっぱり分かりませんでしたが、とにかくYを大声で呼びました。

しかし、Yが耳が不自由なのに気付いて僕らは絶望的になりながらも、スコップを持ってきて掘り出しました。

おじさんは掘りながらも、次の崩落が来たら諦めろと言いましたね。

Yが埋まったのか、それとも崩落した所から離れてたのかさっぱり分かりませんでしたが、スコップを皆で必死に使いました。

昔、大きな現場で崩落を見てるし、つい最近も見てるから今はそれほど焦りませんが、この時はYが残ってるってので慌てましたね。

耳が不自由なの分かってても、皆でYを大声で呼びましたよ。

おじさんは殺してたまるかとか言って、必死の形相でスコップ使ってました。

Hも珍しく完全に取り乱してて、スコップを上手く使えて無かったのでおじさんから、しっかりしないかと怒られてはっとしてましたが、冷静さは無かったです。

皆、必死でした。

しばらくするとおじさんが、ちょっと待てと止めました。

耳を澄ますと向こうから、何かの音が聞こえて来ました。

生きてるな!とおじさんは言うと、またスコップを使いながら掘り出しました。

向こうから、微かに何かの音が、一つのリズムを持って聞こえて来ました。

おじさんは、向こうにもスコップは有るんだろうと聞いて来たから、埋まってないなら有ると答えました。

僕は、ピンと来ました。向こうからもYがスコップで掘ってるのが分かりました。

皆にそれを言って、急いで掘り出そうと伝えました。

Hのスコップを持つ手が震えてるのが分かったから、僕は横から思い切り顔を張りました。

しっかりしないか!!と言うと、分かってると言いながら何とかスコップを使ってました。

しかし、相当パニックでしたから、使い物に余りなりませんでした。

後から聞いたら崩落は初めてで、あの時程焦ったのは今までないと言いましたね。

度胸は有るんですが、パニックに珍しくなってましたよ。

まあ、考えたら幾ら腕が良くてもまだ、三十代前半でしたからね。

パニックになるのが普通です。

僕とおじさんはひたすら掘りましたね。

段々、向こうからの音が大きく聞こえて来ました。

おじさんは、近いぞと言うと、失敗してYの顔にスコップをぶつけても良いぞと言って笑いました。

これは、昔、崩落事故の時に僕が人を助けに行って、生き埋めの人を掘り出してて、顔にスコップをまともに突っ込んでしまいながら助けたのを知ってるから、冗談で言ったんでしょうね。

因みにその人の頬には、スコップで抉れた痕が一生残ったけど、会うたびに僕のお陰で生きてると言われましたね。

当時会社内では、この事は有名になりましたが、Hは知りませんから僕にしか通用しないジョークでしたね。

この話しは、確かサイトのエッセイで書いたと思うので、ここでは割愛します。

ジョークが出るって事は、おじさんの中でも大丈夫って確信があったと思います。

僕も、怪我はあるかも知れないが生きてて、大丈夫と言う確信が有りました。

その雰囲気がHに伝わったんでしょう。     

Hはヨッシャア!!と叫ぶと、スコップをまともに使い始めました。

しばらくすると向こうの音が、側に来てるのが分かりました。

少しだけ慎重にこっちから掘ってたら、いきなりグサっと、スコップが向こうから突き抜けて来ました。

Yのスコップです。

そこから皆で慎重にYを掘り出して、外に出しました。

Yは出てくると笑いましたが、泥と血で顔が酷い状態でした。

おじさんはYを座らせて、あちこち触ってました。

Yに痛い所は無いかとか、どのくらい崩れたんだと聞いてました。

Yは、痛いのは鼻血が出たからそこだけで身体は大丈夫と答えて、崩れたんのは多分十メール位だと思うと答えました。

HがYの所にすがるように行くと、持ってた使ってない軍手で顔を拭いてやりながら泣きました。

冷静なHが、酔ってない時にここまで取り乱して泣くのは、初めて見ましたね。

Yは泣かなくて良いと言うと、皆が助けに来てくれるのが見えたから、俺も頑張れたと言いました。

多分、本当に見えたのでは無いかとか思いますね。

Yにはそういう能力が有るんだと、僕もHもおじさんも信じてましたね。

おじさんは疲れたらしく、座り込むとこの後休憩したら、元請けが来るまでにこれを何とかするぞと言いました。

Yも風呂に入ったら、出れたら出ろと言いました。

Yは、オーケーだけどコーラが飲みたいと言うと、笑いました。

おじさんは、僕にコーラと皆に何かを買ってこいと、非常に顔色の悪い顔で言いました。

後からこれも知るんですが、この時おじさんは心臓が相当悪くて、医者に手術を勧められたらしいです。

数年後手術するんですが、この時もとてもあんなことをする体力は、実は無かったようです。

僕は、走って外に出ようとして転けましたね。

コーラを買いに近くの自販機に行くと、脚と手が今になってブルブル震えました。

激しい喧嘩の、後のような感じでしたね。

コーラとかジュースを買ってくるとYは、一気に大きい缶コーラを飲むとゲフ!!と、げっぷをしたので皆で笑いました。

相当な重労働で喉が渇いてたんでしょう、立ち上がると自分自身でもう一本買ってくると言いながら、あー!っと叫びました。

皆、何か起こったかと思って聞くと、小便が漏れてると言って笑いました。

流石のタフなYも、小便が漏れたんでしょうね。

おじさんが、そのくらいどうしたと言うと笑いましたね。

その後、皆で休憩して崩落の処理を始めました。

元請けには、人が埋もれたとか崩落も軽い物だったと言えと、おじさんに言われました。

そうしないと工事がストップするからです。

皆で土砂を出したり、元の形に戻す作業に入りました。

Yは、宿舎の民宿で風呂に入らせて無理なようなら休めと言われてたけど、直ぐに戻って来ました。

元に戻すのは深夜までかかりましたが、おじさんは途中で抜けたけど、三人は元気に頑張りましたよ。

Hがこの話しを良く覚えてて、話して僕はそう言えばそうだったな、と思い出しました。

崩落の事故は覚えてたけど、細かくは忘れてましたね。

Hにとってはショックな事故で、自分自身が情けなかったと言ったけど、誰でもこういう事に遭遇したらパニックになると言いました。

しかし、Hはお前もおじさんもしっかりしてたと言いますが、僕も後から震えが来たと言いました。

それでもHは、あの時の自分自身はお前たちに負けたと言います。

まあ、それは持ってる気質でしょう。

Hにとってはプライドも傷つけられた話しなので、良く覚えてるんでしょうね。

苦い思いでとしてですね。

それより、Yの特殊さとYのタフさに驚きましたね。

Yはこの話しすると、あー!小便が漏らしたからなあと笑うらしいです。

いかにもYらしいです。

おじさんは心臓が悪くて、僕は後から強烈に震えが来て、Hは劣等感に苛まれてですが、Yは小便が漏れたっていかにもYですね。

それぞれが必死でしたが、Yは助けが来てると見えた、と言ったのが印象的です。

多分信じない人が多いでしょうが、その場に居た僕らは、見えたのだろうと信じてますね。

それと、いかに事故をしないだろうと言われてるYと言えども、事故は何時起こるか分からないって事ですね。

自然相手と言うのは怖いです。だから、色々な迷信と言われる物にすがるんです。

常に現場には塩を置いてるし、お神酒をきちんと毎月上げますからね。

僕は、ケータイで気軽に写真を撮るなと言われました。

その人は事故をしてて、その前に矢鱈に若い連中がケータイで現場の写真を撮ってたらしくて、簡単に山や現場を撮るのは良くないと言われて、一切撮りませんね。

Hもその人から聞いてから、全く撮らなくなりましたね。

まあ、個人個人での迷信のようなのも残ってます。

怖さを知ると、何にでもすがりたくなるんですよ。

とにかく事故だけは、避けたいですね。

おわり

📖「ガーターベルトの女」の映画化のためにエッセイをお読み下さい・・・「ガーターベルトの女 14」

ガーターベルトシリーズが、まさかこんなに長くなるならと今では色々思うけど、まあ記憶が掘り起こされたんでしょう。

初めての方の感想も入ってて、ありがとうございます。

これは、纏めたらかなりの枚数になるし要らない部分を削れば短編になるだろうけど、今の僕にはそれが出来る余裕がないです。

これを書いて別れにしようと思ってるけど、全て予定は未定です。

Aと言うヤクザの親友を出した事で変わりましたね。

まあ、別れも書かずに終わるかも知れないです。

今のところ何とも言えないですね。

その前の話しで、福岡までラーメン食べに行こうとなって食べられずに帰ったことから、思い出した話しが有ります。

Aは、十代の頃から死ぬまでラーメン好きでした。

しかし、凄く美味しいとか言う所にわざわざ並ぶタイプでは無くて、そこそこのラーメンでも飽きずに食べられる所を好みましたね。

グルメブームが二十年以上前に既に起こってて、そういうのは僕もAもMも嫌いでしたね。

Mは、そんなに美味しくても数時間並ぶとか信じられないと言ってたし、美味しいのはお腹の空いてる時よとも言ってて、食には特に何が食べたいは無かったです。

他の拘りがそれぞれあったから食にまで行かなかったのかも、と今では思います。

僕も今でも拘りないですね。

ある人が悪いとかではないんですよ。

そういうAと僕でも、一軒だけ拘わった店が有りました。

かなり前に無くなりましたがね。

それは、僕らの街では有名なラーメン屋でね。

土間はコンクリートの打ちっぱなしで、何十年前のか?って感じのポスター貼られてるような、外見も汚い店でした。

僕が小学生位の時に、出汁に猫を使ったとかで一時的に閉まったらしいですが、真相を知るのは居ませんでした。

多分、保健所に入られただけではないのかが正確だと思います。

きっかけは、高校の時に有名だからとAも居て、皆で行ったんですよ。

しかし、当時の先輩達から、お前ら一回行っても美味しいと思わないぞと言われてました。

必ず、二回は最低行けでした。

三回行っても駄目なら、食べる資格ないと言われましたね。

そんなラーメン屋ってありかよでしたが、正解でしたね。

一回目は皆、味の独特な濃さにやられて何とか完食しました。

不味くはないけど独特なんですよ。

豚骨ベースなんだろうけど、スープは多くなくて麺が太くて独特な味でした。

行ったメンバーは、そんなに言うなら二回は行くぞでした。

しばらくして二回目に行くと美味しいと言う奴とまだ合わないってのに別れました。

Aも僕も美味しいと思いましたね。

三回目行っても合わないのも居ましたが、ほとんどが何人で行ったか覚えてないけどそこの虜になりました。

しかし、十代はそこの場所は僕らの高校の縄張りで無くて、飲み屋街から直ぐで隠れて行ってましたね。

この頃はおじいさんとおばあさんがやってて、非常に美味しかったです。

ある時スープを飲み干したら底から十円玉が出てきて、ばばあ!こら!と言うと婆さんはあんたにやるよと全く意に介せずで、こっちが笑ってしましたよ。

店の裏に大量のリポビタンDが積まれてて、あれが何かの隠し味だろうと言ってたけど、分からずじまいでした。

Mの店で飲んでる時に、あの店が近く閉めるって噂流れてるから俺は行ったよと、Aが言いました。

閉めるって噂は前から何度も出てました。

おばあさんが病気になったらしく、おじいさんと少し知恵の遅れた息子とやってたから味が変わった、とも言われてましたね。

僕は、やはり味が変わったのかと聞くと、Aは基本は変わらないけど、ばあちゃんの時が一番だったろうなと答えました。

それでも充分旨いけどと付け加えましたね。

閉めるのかと聞くと、じいさんに聞いてもその辺りははっきりしなかったらしいです。

それでもあの息子が作るって事は無いだろうから、いつか急に閉まるだろうなでしたね。

街の人の見解も同じでした。

ばあちゃんが居たときが一番だけど、まだまだ美味しいって所まで同じでしたね。

Mは店は知ってるけど、女の子一人はあそこは入りにくいでした。 

確かにそうでしたね。若い女性が一人で来てるの見たこと無かったです。

家族で来てるのは何度か見たこと有るけど、父親に無理矢理連れて来られた感じでした。

ばあちゃんがいた頃は、鍋を持っていくと持ち帰りあったから女の子も居たぞ、とAが言いました。

十円玉の話しもしてるとAが、Mちゃんこの街に住んでるんなら行かないとと微笑みました。

そして僕の方を指差しました。

僕は、俺が連れて行くのかそれも一回では分からないぞと言うと、Aはお前も俺も昔あの辺で喧嘩して、ばあちゃんに助けられたの忘れたのかと言われました。

言われて、あー!そう言えばあの辺で違う学校の連中に囲まれて、人数多すぎて逃げた時に店に入ったらばあちゃんが、トイレに入れと言ったのを思い出しました。

探しに来た連中にばあちゃんが、そんなの知るか!!と怒鳴って帰らせたなと笑いました。

狭いトイレで暑いのに二人で隠れただろうと、Aは微笑みました。

Mは、それなら連れてってよと言い出しました。

僕は、そこは時間が昼に空いて遅くまでやる時と早く閉める時が有るから、俺が現場の昼休みに連れてってやると約束しました。

その頃は、現場は比較的のんびりしてて二時間位戻らなくても、たまには良かったです。

現場の昼休みにMと待ち合わせて行きました。

Mはゆっくり食べるとスープまで綺麗に飲み干して、十円出てこないって事は外れと笑いました。

味を聞くと、美味しかったでした。

高校の時に来れば良かったかも、とも言いましたね。

一回で美味しかったと言うのは希でしたから、驚きましたね。

今度はAさんと三人で来ようよ、と笑いました。

Mがそう言ってたとケータイで伝えると、Aは店が始まる前に空いてたら行こうと笑いました。 

Mの店は普通は八時に開けるのに、遅い時は九時に開けました。

M次第では、時には九時を過ぎましたね。

その日、八時少し前にMの店に集まると、Aが今なら空いてたけどMちゃん行けると聞くと、店は私の自由だから行こうでした。

しかし、珍しくと言うか気まぐれと言うか、Mはいかにも水商売の格好して、ミニスカートにおそらくガーターベルトをして網タイツ穿いてました。

僕の中では、Mがわざと目立つ格好で来たな、でしたね。

Aは特にそれを気にせず、じゃあ行こうと言いました。

Mは店の看板と電気消すと鍵を掛けて、三人で歩いて店まで行きました。

飲み屋街をわざと通って、Mが先頭で僕たちは後ろからついて行きました。

Aが女王様だな、とニヤリとしましたね。

ラーメン屋の側に来るとけっこう混んでて、Mは更に目立ちましたが、Aが引き戸を開けておいちゃん座れると聞くと、じいさんがカウンターに座るように手招きしました。

水を息子が持ってくるとMを見て、うわ!と言いました。

じいさんは、それほどしゃべらないんですが、悪がき二人が立派になって、綺麗な女の子連れてくるとはなと笑いました。

覚えてたんですね。

僕らの事をね。

Aが煙草吸いながら中身は変わらないけどねと言い返しました。

しばらくするとラーメンが並ぶと、黙って三人で食べました。

食べ終わるとMが、確かに一回目よりも更に美味しいと言って、麻薬でも入ってるのと笑いました。

この店のラーメン中毒は、冗談でそれを良く言ってましたからね。

Aが三人分と言って五千円札を出すとじいさんに渡して、釣りは良いからばあちゃんにもよろしく言っておいてよ、と言うと席を立ちました。

じいさんは当たり前のように釣りを出さずに、ありがとうございましたとだけ言いました。       

店を出ようとしてると既に酔った中年が、姉ちゃんが来るような所じゃないしパンツが見えるぞ、と言いました。

Mは、パンツが見たかったら見れば良いけど、また来るねと笑い返しました。

酔った中年は一瞬カチンとしたような顔をしたけど、Mを店から出しながら僕らが睨むと座りました。

    

Mは、歩きながら美味しかったねと言って店に真っ直ぐ戻らず、商店街の方を歩きました。

飲み屋街と商店街は隣接してましたから、僕らもそれについて行きながらAが自販機でビールを買うと二人はコーラが良いかと聞いたので、僕はたまにはビールで良いと答えました。

Mは、この人のビールを分けて貰うと答えました。

商店街はアーケードになってて薄暗く、すっかり寂れてましたね。

商店街を歩きながらMとビールを飲んでいたら色々思い出して、僕はジーパン屋を指すと昔はこの店もけっこう置いてたよなあとかAに話し掛けました。

Aは小さいパチンコ屋を指すとMに、こいつのホームグラウンドだったんだよと言いました。

高校の頃、最も通った店でしたね。

Mはビールを片手に、良いねえそう言う話しが沢山あるからね。

私なんて取り巻きは居たけど友達はいなかったからなあ、と言いました。 

二人はこれから先もそういう話し出来るんだね。十年先も二十年先もね。

どうせ二人とも結婚しないじゃないかな、と言いました。

私は二人を応援するチアガールみたいなので良いけどね、と言って微笑みました。

Mはそう言うとヒールを脱ぎ、商店街を軽く走り振り向いて僕の顔を見ると、キャッチしてよと言いました。

Mは走ると、僕の所にジャンプして抱きついて来ました。

思わず尻餅をついて、何とかキャッチしましたね。

Aが珍しく大きく笑うと、Mちゃんのパンツは黒だったと言いました。

そして、Mちゃん全く今の状態で無くて白紙だったら、こいつと俺だとどっちと付き合うと笑いながら聞きました。

Mは一瞬だけ真剣な顔をすると、笑いながらこの人と僕を指しました。

理由はバカじゃん、この人は。

頭の回転は良いけど子供みたいなバカだから、付いててあげないとねと言いました。

Mはそう言うと、パンツが見えたかと笑いました。

僕もおかしくて笑いましたが、Mの身体が密着してて勃起してました。

Mはそれに気づくと、Aに僕の物を握りながら昔からこんなのだったの、と聞きました。

Aは冷静に戻って、昔からだけどMちゃんだからだよと答えましたね。

そこには、さっき質問した事など無かったかのような感じでしたし、Mの解答に納得してるようでした。

Mはそれならよろしいと言うとヒールを履いて、今日は沢山飲もう私が酔ったら店閉めてねと笑いました。

そして十年先も二十先もかと言うと想像できないね、と笑いました。

Mの突然のジャンプは、今思えばチアガールみたいなのでと言ったのに照れたのかも知れないですね。

結局Mの予想は当たって僕もAも結婚しなかったですが、Aがああいう形で亡くなるなんてその時は誰も思ってなかったし、僕がその後に波乱な人生になるのも予想してなかったですね。

そのラーメン屋は、それから数年して無くなったと思います。

Aは、街に戻ると必ず行ってたようです。

僕らは、十代の頃に今位の時期にトイレで隠れていたんですよね。

そう思うと感傷的になりますね。

十代の夏、Mの飛びついて来た時の肉体の感じ、僕のものを握るMの小さい手を、あのラーメン屋の味と空気、Aの微笑み、色々な感覚が甦ります。

二十年以上過ぎてもそれは愛しく、何処か切ない物です。

おわり

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