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「少女文学 第二号」に参加します&本文サンプル

第一号のときから、大好きで、何度も読んだ“少女小説”をテーマにした豪華なアンソロジー「少女文学」。その二号に参加させていただきました!

二号は「ファンタジー」特集。

執筆陣の本気具合はぜひ上記の紅玉いづき様のnoteにてご確認ください。本気すぎる。今でもここに自分がいることが夢なのでは…? と思っちゃうほどです。

私は「霧の大地の物語」というお話を書いております。素敵な扉絵はすみす様にお願いしました! 若かりし頃、私の根底を造ったといっても過言じゃない“コバルト”や“ホワイトハート”の匂い漂うイラストを頂戴したときは、もうヒャッホーでした。

下記にサンプルをおいております。本のほうにはここに序章が1頁挟まれるのですが、本文からお届けしております。

◆◆◆

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(一)

「見て、オラティオ。とても古い絵が残ってる」
 少女のつま先が、ととん、と石床を踏むたびに砂埃が舞う。
 夕暮れの一時だけ吹く風が霧を押しやり、沈んでゆく太陽の光が差し込んだ。少女は光のなかで、世界の成り立ちが描かれた古いタペストリーを見上げている。
 朽ちた神殿らしき建物のなかに伸びる影はふたつあった。
 ひとりは、廃墟のなかを軽やかに舞う少女。肌も、長い髪も、まとっているすその長い軽やかな装束でさえ真っ白だった。少女を彩るものは、手や首や足元を飾る細い金の飾りと、紫水晶のような瞳だけである。
 一方、オラティオと呼ばれた影の持ち主は、少女とは逆に黒に覆われていた。
 少女よりも頭三つぶんは背が高い男がまとうローブは、光を呑み込むほどの漆黒。目深なフードの下には木製の仮面がつけられ、唯一見えているのは、やけに骨ばった長い指だけだ。その皮膚はやけに青白かった。
「リートゥス、遊んでばかりではいけない。夜になってしまう」
「でも、見てほしいの。ほら! きっとここは人々の記憶を刻んでおく場所だったんだわ」
 オラティオの忠告が少女――リートゥスには聞こえていない様子だ。
 仮面の下で溜息をつき、オラティオは少女のもとに歩み寄る。
「見て。この辺りではふたつの血がともに生きていたのね。美しいわ」
 リートゥスが指さす石壁には、別のタペストリーが掲げられていた。
 そこには、翼竜とともに水面を覗く占術師と、様々な草花を手にする薬師らしき姿が描かれている。
「……ああ、ふたりは恋に落ちたのね」
 別の壁面に続く絵物語を追って、リートゥスは歩み続ける。
 違った成り立ちを持つふたつの種族の長が恋に落ち、やがてひとつの集落が生まれた。
 丁寧な手仕事で織られたタペストリーは、長きに渡り人々の間で大事にされていたのだろう。建物が朽ち、雨ざらしになり糸がほつれても、こうして歴史を語りかけてくる。
「面白いかい」
「ええ。とても美しいもの。あなたはどう思う?」
「わからないな。見事な色使いであると感じるが」
「もう、オラティオは目に見えるものだけしか信じないのね。この絵物語の向こうにあるものを見てほしかったのに」
「……すまない」
「いいの」
 リートゥスがわずかに唇を尖らせている。
 彼女の唇が春に咲く花のように色づくのは、少し拗ねている証だ。
「マラキア、薬師と占術師が拓いた街――いまはどうなっているのかしら」
 リートゥスがそっとタペストリーに触れると、ざらりとした砂埃の感触が伝わってきた。
 この歴史を守る者もおそらくもう数少ないのだろう。
 百年の霧に囚われ、魔術は衰えた。
 祈りや占術といったたぐいの力が、人々の暮らしのなかから忘れられていくには十分な時間がたっている。
「百年前と同じ場所にある、稀有な街……」
「行こう、夜が来る前に」
「ねえ、思い出した?」
 オラティオは答えることなく、リートゥスの手を引き霧の中を歩み始めた。



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