玄田有史 斎藤珠里 著 『仕事とセックスのあいだ』を読む 第2章 世界一セクシーな国の女性労働者

この本は、日本ではタブーとされている多くの女性の悩みに応える本だと思ったので、その部分を引用する。斎藤珠里さんが取材し、ご自分の体験を踏まえて書かれたのだと思う。

働く女性を救う「骨盤底リハビリ」


  そのセックス大国フランスの面目躍如ともいえそうな、働く女性のための国家政策がある。出産によって傷ついた骨盤底を、元通りの状態に修復する費用を100%社会保険の対象にする「骨盤底リハビリ」と呼ばれるものだ。骨盤底とは、腔まわりの筋肉や神経組織、子宮や膀胱などの臓器を指す。
 自然分娩や無痛分娩などの腔分娩の場合、直径10センチ以上もある赤ん坊の頭が産道や腔口を無理に押し広げて出てくるため、会陰裂傷することも珍しくない。裂けないまでも、腔周辺の神経組織が傷つけられたり、筋肉が伸びてしまったりする。さらには、胎児の重みや長時間に亘る出産時の息みで、膀胱や子宮などの臓器が下の方に押し出されてしまう性器脱と呼ばれるケースも起こる。こうした骨盤底にかかる出産時の負担が、後に尿失禁や性器脱につながる主たる原因だと考えられている。
 具体的にどういうことかといえば、電車に乗り遅れないように階段を駆け上ったり、くしゃみをしたり、ちょっと重いものを持ち上げたりしたときに、オシッコがもれてしまう。エアロビをしていたら、膀胱が外に飛び出てしまった……など。こうした事態の数々が、女性を待ち受けているということだ。この話を東京・浅草で育った50代の知人にしたら、合点したという。「小さいころに通っていた銭湯で、湯船に入ろうとするおばあちゃんたちが下の方に何かぶらさげているのを子ども心に何だろうって不思議だったんですが、あれが子宮脱だったんですね」
 日本では、出産経験者の4割が尿失禁で悩み、そのうち性器脱を併発している女性が3割というデータがある。閉経を迎える50歳前後で症状が顕著化し、60代になると3人に1人の割合でオムツが必要、ともいわれている。つまり、生理ナプキンが不要になったら、尿もれナプキン。実際、いまや生理ナプキン売り場のそばには「尿もれ用」として、超薄型パッドから長時間用まで、オシヤレなパッケLソングで豊富なラインアップが取り揃えてある。オムツのイメージが払拭されて抵抗なく買えるようになったが、対症療法であることに代わりはない。
 しかしフランスでは出産に伴う女性特有の下半身の不具合、つまり尿失禁や性器脱の元凶である骨盤底ダメージを修復するための「骨盤底リハビリ」を1985年、世界に先駆け国家の医療政策として導入した。現在、毎年75万作を超す出産のうち、腔分娩をする約9割の女性の大半がリハビリを受けている。その二ーズにあわせて養成された骨盤底リハビリを施す運動療法士の数は、全国で3万6千人にものぼる

「骨盤底の不具合は社会的損失」

 1991年から2年間、フランス政府給費留学生としてパリの医療機関で研修をした経験をもつ三井記念病院産婦人科の中田真木医師は、この問題にフランス政府と医療機関が一丸となって取り組むことになった経緯を知って、驚いたと同時に納得させられてしまったという。
 「尿失禁や性器脱で日常生活に支障があれば、当然、労働にも影響します。尿もれなどが気になって仕事に身が入らないなどということがあれば、生産性も上がらないわけです。さらに、骨盤底に不具合があると男女ともにセックスに消極的になるので、夫婦の関係がまずくなる。そうなれば妊娠の機会が減って少子化にもかかわってくる。つまり、産後の身体ケアを怠れば社会の利益に大きく反する連鎖反応を引き起こしかねない、という考え
方です。様々な意見集約をもとに試行錯誤しながら答えを導き出すアメリカと違って、直感的に意見をまとめ、納得いく理屈があれば議会が動き、合理的な制度が出来てしまうのが、フランスという国なんです」
 身体あっての労働、身体あってのセックス、セックスあっての夫婦や家族、そして社会・・・。 まさに冒頭の「セックス問題が国家の一大事」というフランス式愛の方程式が、実は非常に理にかなったものだと思えてしまう。もっとも、骨盤底リハビリを国家負担とする議案を可決させるために、女性議員たちの強い働きかけもあったという。しかし、セックスを語ることがタブー視される日本社会では、医療関係者の問ですら認識が浅いというのが実状だ。ましてや一般人にとって、どれだけの人が骨盤底という言葉を聞いてピンとくるだろうか。

弱電流刺激で筋力を鍛える

 私自身、骨盤底リハビリの存在を、身をもって知ったのが6年前だった。3人目を出産 して半年後、育児休暇中に滞在したリヨン市で産婦人科医を訪れたときだ。
 「これまで日本で、何も言われなかったんですか?」
 内診中に、ミニのジャッパースカート姿が似合う美人医師に突然、そう言われたのである。何事かと思ったら、膀胱が下垂気味だということだった。
 「尿失禁で困っているんじゃないですか? こんな状態で放っておいたんですか?日本の医者には何も言われなかったんですか?」
 矢継ぎ早に尋問された。産後1ヵ月健診で、医師から排尿中におしっこを止める練習と、腹筋運動を心がけるように勧められたことを話すと、
 「おしっこを止めたら、ばい菌が膀胱内へ逆流して膀胱炎を引き起こします。腹筋運動も、下垂してきている膀胱や子宮に腹圧をかけることで、外に飛び出してしまうことだってあるんですよ。とても危険。絶対に止めてください」と、日本の医療をバカにしているとでも言わんばかりの表情で、「アンクロワイヤーブル、アンポッシーブル(信じられない、あり得ない)」を連発されてしまったのである。
 結局、骨盤底リハビリを受けるようにと薦められ、処方薗を手渡された。薬局に行くと、注文の品をI週問後に取りに来るようにいわれた。その品とは、言葉を選ばずに言わせてもらうと、腔挿大柿だった。長さ約10センチ、直径3センチのプラスチック製で、片側から電気コードが伸びている。その反対側の若干太くなっている部分の周囲には、5ミリ幅の金属製の帯が2本巻かれていた。
 この腔棒をバッグにしのばせて助産婦クリニックを訪ねると、最初に股間を締める運動を数種類教えてもらった。次に腔棒を使ったトレーニングで、腔内の緩んだ骨盤底筋に20から100ヘルツの弱電流刺激を与え、筋力を鍛える、という趣旨だった。約20秒ごとにピーッという音が鳴り、10秒間ほど電流が流れる間に腔筋を締め付ける運動を繰り返す。効果的に鍛えられているかどうかは、内診台の横に置かれた筋電図モニターで確認できる仕組みだ。
 体操と腔棒をつかったリハビリー回の所要時間が30分で、10回で1クール。―回分の費用が18・50ユーロ(約2700円)と、そう安くはないが、フランスの社会保険に入っていれば1クール分は全額払い戻される。それでも改善が認められなければ、医師の判断でもう1クールの追加も自己負担を伴うが可能だ。

リハビリで自信を回復

 もともとスウェーデンで開発された骨盤底リハビリに目をつけ、フランスに持ち込んだパリ第5大学のアラッーピニエ教授は、「最初の出産後にきちんとケアをしておかないと、
出産を重ねるごとに修復がむずかしくなる」と忠告する。教授によれば、骨盤底リハビリだけで尿失禁などの症状が「完治する」が25%、「改善される」が50%という確率だ。残りの25%の女性については、後で触れるTVT手術などを勧めている。
 パリ16区の高級住宅街にあるピニエ教授のクリニックに勤務する女性泌尿器専門の運動療法コンサルタント、ジョエルースフイール医師も、「はじめて足首を捻挫したときに、ちゃんと治しておかないいと、クセになってまた捻挫を起こしやすくなりますよね。骨盤底の神経組織や筋肉も同し原理なんです」と説明する。ケアを怠ると、尿失禁だけではなく、夫婦生活にも支障が出る、とも。「腔分娩で腔周辺の神経組織が破壊されると、女性はオルガズムを得にくくなるからです。でも、リハビリによって腔内壁の筋肉に弾力を取り戻せれば、神経はまた敏感になります」
 ピニエ教授とともにフランスに骨盤底リハビリを根付かせた国際骨盤底リハビリ研究所のアラッ・P・ブルシエ医師は、年間に1万人を診察するなかで様々なドラマに遭遇してきた。出産後に腔まわりが緩んだことで夫から求められなくなり、愛人をつくられて離縁した女性。美人でスタイルもいいのに、産後の腔ケアを怠ったために下半身にはコンプレックスを抱え、新しい彼氏とのセックスになかなか踏み切れない女性……。セックスあっての人生というお国柄だから、「骨盤底に自信がもてない女性は、人生も充実しない」と言い切るブルシエ医師の言葉には含蓄があった。
 私か以前に住んでいたアパートの隣人ドロテ(38)も、骨盤底リハビリで自信を取り戻したひとりだ。初めて子どもを出産して5ヵ月後、職場復帰したころは、育児と仕事の両立が大変だったこともあるが、ヒステリックに子どもをしかりつけている声がドア越しによく聞こえたものだった。が、半年後、表情がやわらかくなって別人のようにみえた。中庭で子どもと戯れるドロテに「何かいいことでもあったの」と聞いてみると「骨盤底リハビリのお陰かも」という。 
 ドロテは4キロ近い体重の子を30歳過ぎて産んで以来、尿失禁に悩んでいたらしい。
「オフィスで咳き込んだら、パンツやスカートにシミがつく。イスにもうつかうか座っていられない。それに、夫も出産後にセックスを再開してこないから、浮気を疑ったこともあったし。人には言えない状態が続いていたの」。しかし、産婦人科医の勧めで骨盤底リハビリを2クール続けたところ、失禁の心配がなくなった上、オマケまでついてきたらしい。「夫から毎晩のように求められるようになったの。リハビリで鍛えた腔筋の恩恵を感じたのは、私だけじゃなかったのね」
 骨盤底リハビリでは尿失禁の症状が改善されず、TVT手術を受けたというリヨンの食料品店の女主人もしかり。「尿がもれる、という恐怖から解放されたでしよ。精神的にと
っても自由になって、仕事も楽しい毎日ですよ。でも、私よりもむしろ喜んでいるのは主人かも。何のことか、わかるでしよ」と、いたずらっぽい目で笑った。
 腹圧性尿失禁に高い成功率を上げているTVT(Tenssion-free Vaginal Tape)は、スウェーデンで1996年に発表された新世代型の手術で、腔口からの施術のため傷跡が外目にわからない。もちろん骨盤底修復にかかわる医療費だから、自己負担はI切ない。さらに、出産時に緩んで伸びた会陰部分が縫合で多少せばまり、「会陰短縮手術」の異名で親しまれているほど美容整形効果も期待できるという。

仕事と出産の両立を支える国策

 尿失禁と性生活の改善-。日本では、人前でははばかられるような話題が、フランスでは女性の尊厳に関わる重要事項として社会的に認知され、国家まで解決策に乗りだす。
お国柄の違いが顕著に出た例だが、両問題をひとくくりに解決する骨盤底リハビリやTVT手術を社会保険枠に組み込んだ政府の意図の根底には、出産後の女性労働力の確保と、性生活の充実による出産増加の狙いがあった、とは前にも書いたとおりだ。
 実際、骨盤底リハビリの普及が進んだここ10年間と出生率の回復時期がほぼ重なっている点は興味深い。フランスの出生率は1994年に1・65まで落ち込んだが、2005年は1・94に上昇。過去最低を記録した日本の1・25どころかEU平均の1・5を大きく上回り、欧州全体でも最高水準をマークしている。人口も2050年にはドイツを抜いて7500万人に達する見込みだ。
 果たしてフランスの骨盤底リハビリ政策が、本当に産後のセックスの回数を増やすのか、ひいては第2子目、第3子目の出生にもつながっているのか実証するデータはない。しかし戦後、女性の社会参加と反比例するように出生率が下降線を描いてきたドイツや日本とは一線を画して、95年に出生率が増加に転じたフランスの少子化対策には、様々な側面がある。その一環として、女性たちに広く受け入れられるようになった骨盤底リハビリなどの普及促進を位置づけることは理にかなっていると思う。
 経済協力開発機構(OECD)の労働市場統計によれば、出産期にあたる25~44歳のフランスの女性労働力率は、1980年ごろからゆるやかな右肩上がりで伸び続け、東西ドイツが1990年に統一した以降もドイツをしのいで2000年時点で79・5%に達している。一方の日本も、伸びているとはいえ、フランスを15ポイント近く下回る形で200O年で65・6%。さらに顕著なのは、日本では22~29歳と45~49歳で70%を超すが、子育て期の30~34歳では60%にくぼみ込む明確なM字型であることだ。
 いまやフランス女性にとっては、仕事か出産か、などという選択はナンセンス。2つの要素は妨げあう関係ではなく、むしろ人生設計の要として手に手をとりあっている、という仲なのだ。その五息昧においては、労働とセックスライフの充実をワンセットとしてとらえたフランスの政策は実を結んでいるといえる。

女性の悩みに冷たい日本社会

 ところで、日本でも骨盤底リハビリを社会保険でまかなうことは出来ないだろうか。先の三井記念病院の中田医師は、「医療費に回せる条件が限られているという事情は、どの国も同じです。でも、フランスでは女性が子供を産むことが社会的活動と位置づけられているので、産前産後に関わる女性の医療費負担には国民の理解が得られる。日本はというと、妊娠中絶も含め女性の性的な悩みには社会が冷たい。骨盤底ケアを受けたい人がいて
も、受け皿の準備ができていない」と話す。
 少子化対策にかける出費が、2001年の統計でフランスが国内総生産(GDP)の2・8%を投じているのに対して、日本はわずかにO・6%。いまや国の最重要課題として抜本的な見直しが迫られている状況下で、骨盤底に関わるヶアも少子化対策に盛り込むことを中田医師は提言する。
 「子どもの医療費負担や保育所の整備を促進するのと同様に、出産に伴う女性の身体に対する出来るだけの手当てを公費で負担する、という内容を盛り込むべきです。結果としてそれは、M字型にへこんでいる日本女性の労働力を持ち上げることにもつながるのではないでしょうか」

「多数家族」認定制度

 骨盤底リハビリのはかにも、フランスの出生率を語る上では、数々の少子化対策がある。
そのひとつが、3人目の子どもが生まれた家族を「多数家族」と認定する制度だ。3児の母親で、パリの小学校教師アンージョゼフーラペルデリーさん(46)も、「家族手当が大きいし、ほかの経済的支援も受けられるので、すでに子どもが2人いるならもう1人産んだ方が得、と考えるでしょうね」と話す。
 日本の場合は所得制限つきの児童手当しかないが、フランスでは子どもが2人以上いれば所得額とは関係なく家族手当が支給される。月額で、子ども2人で約1万8千円、3人で約4万1千円。それ以上は、I人増えるごとに約2万円が加算される。さらに、教育費がかさ11~15歳までは月額で約5000円、16~19歳以下には約8900円か支給される。
 国有鉄道を利用する場合も「多数家族」の証明書があれば、乗車券の割引率が大きい。子供3人で3割、4人で4割……6人以上で6割というものだ。ラペルデリーさんも「学校は2ヵ月ごとに長期休暇があり、年間5週間の休みが保障されているフランス人にとって、ヴァカンス中の旅行が生きがいです。だから鉄道の割引制度は利用価値が大きいんですよ」と話す。
 育児支援策のなかでも、働く女性に特化した社会的な制度や慣習もうらやましいほど充実している。産後の職場復帰に関しては、半日勤務や週3日勤務などの勤務時間短縮、子どもの年齢や人数に応じて勤務者の希望に即した柔軟な取り決めが職場との話し合いで可能だ。多種多様な保育サービスやシッターの選択肢もある。幼稚園や小学校にしても、夫婦共働き家庭のために朝7時から夜6時までの預かり保育制度を設けている。保護者会は、日本のように専業主婦しか出席できないような平日の日中には開催されない。
 以前に住んだリヨンで、息子を預けていた幼稚園の保護者会が開かれだのは、夜9時だった。子どもたちに食事をさせて寝かしつけ、大家さんの孫娘の高校生に時給500円で留守番を頼んで幼稚園に行くと、ほとんどの家庭が夫婦そろって参加していた。先生との話し合いの場面で、お父さんたちが積極的に発言している光景は、日本ではまず見られないなあと思った。

35時間労働で夫婦円満

 さらには、2000年に施行された35時間労働のメリットが大きい。35時間をオーバーして働かせた場合には罰金が科せられるなど、経営者にとっては甚だ迷惑な制度だともいうが、労働者の家庭生活を守るという点では効果を発揮している。それが顕著に現れているのが、帰宅時間だ。内閣府経済社会総合研究所が2005年に発表した「フランスとドイツの家庭生活調査」によれば、パリでは「午後8時以降に帰宅」する男性が26%強。
「午後6時ごろ」と「午後7時ごろ」がそれぞれ17%、「午後5時ごろ」が12%程度で、7時前に帰宅できる男性をあわせると全体の5割を占めていることがわかる。一方、東京では「午後8時以降に帰宅」という男性が60%を超えている。日本の30代男性の3割以上が、週60時間働いているというデータもある。男女参画型社会にはほど遠い現実だ。
 ところでフランスのように、夫婦がそろって夕食時間に帰宅できるということは、どんな意味をもつのだろうか。
 リヨンの郊外の一軒家に、妻と3人の子どもと暮らす歯科技工士エリック・ボームガルテン(42)も「35時間労働」規制の枠で働いているため、毎晩6時には帰宅する。妻のパスカル(39)は、美術ギャラリーとフリー契約して仕事を請け負うため、帰宅時間は決まっていない。だから9歳、7歳、5歳の子どもだちと庭で遊んだり、学校の宿題をみてやったりするのはエリックの日課だ。そんな夫に、妻は「彼がいなければ私は好きな仕事ができなかった」と感謝する。「それにカレは、とびきりの演出で私を驚かせてくれる才能があるのよ」。週に2日ほど残業で帰宅が遅くなる妻のために、エリックが子どもたちだけで先に食事をさせ、特別な演出をして妻の帰りを待つというのだ。
 「この間も、夜9時すぎに帰宅したらテーブルの上にメモで『これを着て。プールサイドで待っている』とあったの」。それは胸元が開いたセクシーな黒いドレスだった。プールはライトアップされ、そばの丸テーブルにワインと食事の用意がしてあった。「シンプルな食事だったけれど、ちょっとワクワクして、ロマンチックな夜になりました」と、妻は目を輝かせて話してくれた。
 フランスでは夫婦そろっての交際が盛んだが、ボームガルテン家の夫婦も平日の夜に週にI回は数組の友人夫妻たちと夕食を共にする。それはエリックに言わせれば「夫婦がマンネリ化しないため」。その真意を聞くと、なかなか奥が深かった。
 「魅力的な女性がいれば、友人という一線を越えないまでも心がときめきます。それは妻にしても同じこと。食卓の上でセクシーな目線が飛び交い、別れ際に気になる女性と頬にキスを交わすときに香りを吸い込む。そんな仕草が互いの夫婦にとっても、軽い嫉妬という刺激をもたらすから、愛の炎が消えないんだと思います」
 性愛文化を支えるこうした社交が日常的に行えるのも、やはり35時問労働のなせる業といえるだろう。セックスは、男女のコミュニケーションの延長線上にあるものと考えると、長時間労働で夫婦の会話はゼロに等しく、見るのは相手の寝顔だけなどという日本の夫婦のセックスレスはむしろ無理からぬこと、となる。
 世界一セクシーといわれる国のインフラは、医療政策から労働環境まで、さすがに隙がなかった。

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