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アイドルのライブビューイング(?)から虚構の可能性を考える

ライビュ初体験

友人イチオシの男性アイドルユニットが映画館でライブビューイング(?)を行うとのことで、名前を知っている程度の知識しか無かったものの、同行させていただきました。

そもそもアイドルのコンサートが初めてだし、コンサートを現地ではなく映画館でスクリーン越しに鑑賞する「ライビュ」というのも初めて。
新参者故の不安は色々ありましたが、座席に着くや否や「押せば光るから!」とペンライトを渡された瞬間潔く覚悟を決め、いざ待機。

事務所を跨いだ計3ユニット、総勢18名が出演する今回のライブは、ライブ全体のテーマを描くイントロ映像からスタートしました。


エモを掻き立てる壮大なBGMと共に映し出されるアイドル達の足元や襟元。(ギリギリ顔を映さない演出が最高にエモ(※1)。そのくせ仕草やイメージカラーから大体どれが誰なのか分かってしまうのが最高にエモエモのエモ。)

映画レベルで気合いの入ったイントロ映像。
最新技術と美術が詰め込まれたステージセットや演出。
モニター越しに伝わる現地ファンの熱気。
現地に負けないくらいの歓声とペンライトの光に包まれる映画館。

メインテーマと共にアイドルがスクリーンに登場した瞬間、そこはもう完全にコンサート会場そのものでした。

感極まって涙を流す友人や周りのファンの皆様。
鍛え上げられたコールアンドレスポンス。

なによりも印象的だったのが、ファンの皆様が、彼らが歩んできた歴史の全てを含めて「(アイドルのみんなが)ある種の集大成として今日ここでライブが出来て/この景色が見られて本当に良かったね」という気持ちで涙を流していらっしゃる姿でした。

ファン歴の長い方だと、彼らが芸能専門学校に通っていた頃から応援しているとのこと。

MCの中でも少し語られていた通り彼らにも色々な事があって、順風満帆とは行かなくて、でもこうして堂々と幸せそうにライブをしている姿を目の当たりにしてしまうと、

ほぼ初見の私ですら、泣きました。アンコールで完全に泣きました。


それほど今回拝見したライブ(ライビュ)はパフォーマンスや演出の全てを含むライブそのもののクオリティも高く、アイドル本人が持つ魅力も色濃く、素晴らしいエンターテイメントでした。

「すごいモノを体験してしまった」ーーそんな壮大な感情に満たされて、私は会場を後にしました。


虚構と現実の境界線はどこにあるのか

さて、そんな私が本日参加したライビュ(?)は『劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪マジLOVEキングダム(http://utapri-movie.com/)』でした。

先どのホットでエモーショナルな感想は全て、実在しないアイドルの「劇場版アニメ映像作品」を観た感想です。

そしてここからは、そんな虚構と現実の話です。

今回鑑賞のお誘いを受けて心配だったのが、言葉を選ばずに言うならば「冷めずに鑑賞できるか?」という点でした。


「うたの☆プリンスさまっ♪」というコンテンツ自体への思い入れがあまり無い中、ちゃんと作り手の理想通りの受け取り方ができるかどうか、そこが少し心配でした。

スクリーンに映し出されるものは、言ってしまえばライブ風に仕立てられたアニメーション映像作品。

実在しない「キャラクター」の映像。スクリーンの向こうのアイドルも観客もステージも、ライビュを意識したファンサも語られたMCも何もかも、シナリオ通りに作られた、ただの映像。

ただの映像。ただの虚構。
だと、思っていたんです。

完全に現実でした。現実でしたよ。

彼らのアイドルとしての立ち振る舞いは本物で、滲み出る「積み重ねてきた感」も本物で、堂々と幸せそうにステージに立つ表情や歌声やMCもまた間違いなく本物であり、現実でした。

「うたの☆プリンスさまっ♪」というコンテンツは2010年に発売されたPSP用ゲームソフトから始まります。

翌年にはアニメ放映がスタート。その他キャラクターソングやドラマCDのリリース、ファンブックやコミカライズのリリースに声優さん達によるwebラジオやライブの開催、舞台俳優を用いた実写舞台化など…作品が世に生み出されて以降実に様々なメディアミックスを行いながら規模を拡大していきました。

中でも私が密かに注目していたのが、キャラクター自身によるtwitter運用。

彼らはそれぞれ個人名義でツイッターアカウントを持っており、新作のリリース等に合わせて期間限定でツイートをするのですが、これがまた、いわゆる中の人を一切匂わさない運用で「生きてる感」が凄い。

元より「生きてる感の演出がうまいコンテンツである」という認識はあったのですが、ライビュの鑑賞では、彼らが生きているという確証を得た、という感覚が近いかもしれません。

約10年の中で彼らは「早乙女学園」という芸能専門学校に入学し卒業し、アイドルとしてデビューし、先輩やライバルに揉まれユニット内でも様々なぶつかり合いを経て成長を重ね、ツイッターでのパーソナルな部分の発信も怠らず、不祥事も起こさず、今回のライブに至り、そしてその全てを見守ってきたファンが物凄いたくさんいらっしゃる。

約10年の間、二次元の彼らを、三次元の我々が観測してきた、とも言えます。

観測の結果、我々生きた人間の心と記憶と体験に、彼らの存在が概念としてインプットされ、そうして長年積み重なったインプットは、無意識下で凄まじい没入感を生み出してくれる。

我々が目の当たりにしたのは二次元的な劇場版アニメ作品だった訳ですが、エンターテイメントの方向性としては、間違いなく三次元でのライブ鑑賞を体験してしまったのです。
これを、現実と呼ばずしてなんと呼ぶのでしょう。


虚構の可能性

例えば「VRが凄まじく発展しそう」程度の未来は、その手の情報に疎い私でさえ簡単に予言できます。

でも、私の脳みそは「リモートワークが捗る」とか「ビデオ通話より臨場感のあるweb会議が出来そう」とか「従来のシミュレーターより『リアルな』シミュレーションが出来そう」等、映像技術の上位互換の発想ばかりで、体験そのものがどう変わるのか?という視点を全く持ち合わせていませんでした。

ところが今回の「二次元情報の、三次元的な体験化」みたいな発想をVRに掛け合わせると、改めて、本当にマトリックスやアバターのような世界がやって来るのでは?と期待をせずにはいられません。
アバターのキャッチコピーを借りれば、今日の私は間違いなくアニメ映像を観ていたのではなく、アイドルのコンサート会場に居ました。

ST☆RISH、QUARTET NIGHT、HE★VENSの皆さん、そして制作・運営スタッフの皆さん、最高のライブをありがとうございました。

私は早くも帰国したい(※2)です。以上。

〜〜〜〜〜
※1「エモ」
エモーショナルの略。感情が複雑に絡み合い高まりを感じているものの、どのような言葉で表現するべきなのか皆目見当もつかない際に乱用する便利な言葉。
「エモエモのエモ」=「とにかく凄いエモい」

※2「帰国」
『劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪マジLOVEキングダム』のキャッチコピーは「ようこそ 夢の王国(ステージ)へ」。ステージは王国。王国は劇場。劇場の扉を潜ればそこは1つの国。そこから派生して鑑賞に行くことを「入国する」と表現するのですが(私だけかもしれない)、入国先がめちゃくちゃ居心地がよく感動に溢れていたので、「むしろ定住したい」「気持ちは常に王国と共に」という事で、2度目の鑑賞は「再入国」ではなく「帰国」と表現したい(私だけかもしれない)。

※とても余談
「劇場版 名探偵コナン 紺青の拳」では、コナン君が日本を飛び出してシンガポールへ密入国するシーンから始まるので、鑑賞に行くことを「出国してくる」と表現する場合があります。今年のオタクはパスポートの管理が大変です。

晩御飯のおかずを1品増やします。