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弐 「知らないと損をする」 ファミリーバイオレンス・スクリーニングツールの重要性~家族法実務家のために~

カナダ司法省のレポート「知らないと損をする」を翻訳・公開します。
作成者:ルークス・プレイス
執筆者:
パメラ・C・クロス(文学士―法学士、非営利団体「ルークの場所」法務部長)
サラ・クラン博士(ゲルフ大学 心理学部博士研究員)
ケイト・マッズオッコ(法学士/経営修士候補者2020、トロント大学)
メイビス・モートン博士(ゲルフ大学 社会および人類学部准教授)
2018年2月

調査結果

家庭内暴力スクリーニングツールの文献レビュー
概観

 この文献レビューは、カナダにおけるFLP用FVSTの開発に資するため、FV9スクリーニングに関連する最も一般的で推奨される実施例を概説したものです。レビューした文献には、ツールそのものと、それに付随する研究論文や実施方法(どちらかがある場合)が含まれています。このレビューは、FVスクリーニングに関連する主要な研究結果や一般的な組織的実践を要約することで、スクリーニングツール分析の補足として機能するものです。関連する利用可能な全ての文献の包括的なレビューであることを意図したものではありません。FVSTに関する追加情報については、以下を参照してください。Costa & Barros (2016); Haggerty, et al. (2011); Hussain, et al. (2015); Paterno & Draughon (2016); Rabin, Jennings, Campbell, & Bair-Merritt (2009)
 重要なことは、家族法の弁護士のためのスクリーニングツールをどのように設計し、実施するかは、スクリーニングツールの目的や目標だけでなく、文脈によって大きく左右されるということです。例えば、医療現場(救急部など)では、FVスクリーニングの目的は、メディエーションにおけるFVスクリーニングの目的とは全く違います。医療現場において、スクリーニングは、ケアプランに情報を提供し、報告義務(児童虐待が疑われる場合)に影響を与え、紹介の提供に影響を与える虐待の迅速な判断を下すために使用されることが多いようです。メディエーションにおいては、主にスクリーニングがメディエーションを選択するのが適切かどうかを判断するために使用されます。スクリーニングの文脈と目的におけるこのような違いは、ツールの最適な構造と設計(ツールの実施時間の長さ、質問の幅と深さ、管理形式など)に影響します。患者が医師や看護師と過ごす時間が数分しかない救急治療室で使用するスクリーニングツールは、依頼者と過ごす時間がかなり長いメディエイターが使用するスクリーニングツールよりも、おそらくずっと短い実施時間になるでしょう。このことから、家族法の弁護士のための新しいFVスクリーニングツールを開発するための重要な事前ステップは、そのツールの具体的な背景と目的を明らかにすることです。

FVスクリーニングの背景

 FVを特定するために作成されたスクリーニングツールは相当数にのぼります。このようなツールの大半は、研究目的や医療現場でのスクリーニングのために開発されたものです。しかし、法律分野向けに開発されたFVスクリーニングツールやプロトコル/枠組みも数多くあり(例えば、Davis, Frederick & Ver Steegh, 2015)、その多くはメディエーション用に特別に開発されたものです。
 家族法とメディエーションの文脈におけるFVスクリーニングに関する研究は、既存のFVスクリーニングツールには幾つかの限界があることを指摘しています(例えば、「DOVE」, Ellis & Stuckless, 2006; 「MASIC」, Holtzworth-Munroe, Beck, & Applegate, 2010;「葛藤方略尺度2(CTS-2)」, Straus, Hamby, Boney-McCloy, & Sugarman, 1996;「CAP」, Girdner, 1990)。総合すると、これらの限界には次のようなものが含まれます。
   ・身体的虐待など、特定の種類の虐待に焦点を当てる。
   ・何がリスクであるかの狭い定義(リスクの定義の両方について、および被害と加害のリスク)
   ・強制的な支配行動をスクリーニングすることができない。
   ・行動学に特化した質問がない(主観的な経験を評価する)。
   ・別居中の夫婦に特化していない
   ・併存疾患(例:薬物乱用、精神疾患)の問題に対処できていない、または文脈的要因(例:社会的支援の欠如、宗教的重要性)
   ・普遍的なスクリーニングのために設計されていない(即ち、十分に広範で包括的でない)
   ・被害者と加害者の両方を対象としたスクリーニングを行っていない
   ・集中的なトレーニングが必要(Beck, Menke, & Figuerdo, 2013; McIntosh,Wells, & Lee, 2016)
 同様に、医療現場などの臨床的な文脈では、FVスクリーニングツールは、精神的虐待、性的虐待、およびより深刻でない形態の身体的虐待に十分な注意を払うことなく、重度の身体的暴力を強調するために批判されてきました(Todahl & Walters, 2009)。
 このような限界にも拘らず、FVスクリーニングの標準プロトコルの使用は、主要な医療団体や組織(例:カナダ看護師協会、アメリカ保健社会福祉省、アメリカ看護師助産師協会、アメリカ家庭医学会、家族暴力防止基金など)によって、特に医療分野で推奨されています。実際、米国の幾つかの州では、医療従事者によるFVの定期的なスクリーニングが法的に義務付けられています。
 例えば、カリフォルニア州のスクリーニング法(事業及び職業法 2091.2, 健康と安全法の部1233.5 and 1259.5)は、i)医師、看護師、精神保健専門家に家庭内暴力の検出と治療に関するトレーニングを記録すること、ii)認可を受けたクリニックや病院に家庭内暴力のスクリーニング、記録、紹介に関する方針と手順を文書化することを求めています(コントラ郡医療サービス,1995;スタンフォード医学,2018)。
 法律実務家のFVスクリーニング実務については、幾つかの文献があります。よくある研究結果は、家族法の弁護士(その他の法律関係者は勿論のこと)は、FVに関する知識を持っていない傾向にあるというものです。このような知識が欠如していると、家族法の事件において、女性のFVの経験が無視される結果になりかねません。その結果、監護権、リロケーション、子育て時間、資産の分配、メディエーションやその他の代替的紛争解決に参加するかどうか、どのような親教育が必要かを決める際に、女性とその子どもにとってマイナスの影響を与えることになります(Araji, 2012; Abshoff and Lanthier, 2008; Bemiller, 2008; Davis et al., 2015; Laing, 2017)。全ての依頼者にFVをスクリーニングすることは、弁護士が満足のいく効果的な弁護を提供するのに役立ちます(Chewter, 2003; Minnesota State Bar, 2013; Sussman & Carter, 2007)。
 特に家族法に関連して、別離後がFVの被害者にとって最も危険な時期の1つであることが研究で一貫して示されています(Brownridge, 2006; Campbell et al, 2009; Hardesty, 2002)。このことは、法的文脈のために開発された幾つかのFVスクリーニングプロトコルやツールで認識されている(例えば、McIntosh et al., 2016; Minnesota State Bar, 2013; Sussman & Carter, 2007)。児童福祉分野におけるFVスクリーニングの有効性に関するある研究では、実務家がFVスクリーニングの質問を導入することで、インテークプロセスで特定される被虐待女性の数が300%増加しました(Magen, Conroy, & Del Tufo, 1997)。この研究の著者は、FVについて質問すれば、明らかに依頼者のFVの開示につながると結論付けています。
救急部や臨床治療の場などの医療現場では、直接尋ねられない限り、女性は自発的に虐待を開示する可能性は高くありません(Sohal, Eldridge, & Felder, 2007)。チューターは、虐待を受けている女性は、直接尋ねられない限り、家族法の弁護士にそのことを明かすのをためらうかもしれないと示唆しています(2003年)。パーカーとマクファーレンは、決められた方法のFVスクリーニングを、個人的に対面して実施した場合に、FVを特定する確率が高くなることを発見しました。女性が虐待の開示に消極的な理由としては、暴力は関係ないと考えることや、開示することに危険を感じることなどが考えられます(Stith, Rosen, Barasch, & Wilson, 1991)。トラウマの影響は、女性が最初に開示する量、出来事を思い出す能力、開示内容の一貫性、そして影響に影響を与えるかもしれません(Neilson, 2013)。また、家族法や離婚法の解釈や適用は、往々にして共同養育が常に子の最善の利益であると想定しているように見えます。母親が暴力の疑いを持ち出すと、裁判官や弁護士は、父親が子どもにアクセスすることを制限しようとしていると解釈しかねないからです(Dragiewicz, 2014)。
 法律分野では、メディエーションにおけるFVの検出のための手段として、スクリーニング使用を支持する更なる証拠があります。バラードら(2011)は、メディエーション事件の66.7%が行動別スクリーニング(「相手のパートナーに殴られたり蹴られたりしたことがあるか」など、虐待を示す具体的な行動について質問)で身体的虐待を報告したのに対し、クリニックで使用している標準的スクリーニングツール(裁判記録を調べ、葛藤歴やメディエーションの快適さを訪ねたもの)を用いたメディエイターが、事件の僅か21.3%しかIPVを報告しなかったことを見出しました。FVのスクリーニングは、虐待を経験している女性に対する二次的な介入ですが、FVについて話し合い、意識を高める場を作り(Jory, 2004; McFarlane, Greenberg, Weltge, & Watson, 1995; Thurston, Tutty, & Eisener, 2004)、結果として、意図しない良い結果(例えば、女性が受け取った紹介やリソース情報を将来的に利用したり、別の女性を助けたりする)をもたらすかもしれないため、一次的な介入と見なすことができます(コントラ郡医療サービス 1995; Sherman et al., 2017)10。
 以下に詳述しますが、医療と法律の両分野におけるFVスクリーニングの実施手順を記したスクリーニングプロトコルが多数存在します。これらのプロトコルは、依頼者への単なる質問の提供を超えた、スクリーニングの考え方や取り組み方について適切な指示を与えています。例えば、ミネソタ州弁護士会家族法部家庭内虐待委員会(2013)は、家族法の弁護士が「既存の面接プロセスにドメスティックバイオレンスのレンズを適用する」ためのヒントのリストを提供しています。
 FVスクリーニングに関する研究では、(医療、児童福祉、法律分野の)実務者が、FVに関する質問をすることを押しつけがましい、あるいは不快なものと解釈されるのではないかと懸念していることが一貫して示されています。しかし、FVスクリーニングを受けた女性の体験に関する研究によると、殆どの女性がFVスクリーニングを支持し(Magen et al., 1997; Sethi, Watts, Zwi, Watson, McCarthy, 2004; Todahl & Walters, 2011)、虐待体験について質問された結果、自分と子どもを守ることができるようになったと報告しています(Magen et al., 1997)。FVスクリーニングの重要性に関する理解の欠如は勿論のこと、FVについて話し合うことおよび/またはスクリーニングツールの使用に関する知識と快適さの欠如は、特に医療分野において、当たり前のこととしてFVスクリーニングを行う上での障壁として一般的に挙げられています(例:Furbee et al., 1997; Sherman et al., 2017; Thurston et al., 2004)。
 以下に提供される情報の目的は、FVスクリーニングの文献に見られる主要な問題と重要な考慮事項を強調することにより、FLPのスクリーニングツールの開発に情報を提供することです。

1.スクリーニングツールの目的

 スクリーニングツールによって、施術者が得られる情報の種類は異なります。これらのツールは、その性質上、依頼者のFV歴関する理解をより深めることが目指していますが、具体的な目的は、依頼者から求める情報の種類の関数として変化します。例えば、研究および調査監視の目的で開発されたツール(例えば、「CTS-2」、Straus et al., 1996;「CAS」、Hegarty et al., 1999;「SES」、Koss et al., 2007)は、臨床現場でしばしば使用されているものの、特に臨床ツールとして使用するために開発されたものではありません。その他のツール、例えば、「HARK」(Sohal et al., 2007)、「HITS」(Sherin et al., 1998)、「AAS」(Parker & McFarlane, 1991)、「OAS」(Weiss et al., 2003), そしで「DOVE」(Ellis & Stuckless, 2006) 等、多くのツールが個々の患者や依頼者のFVを特定する目的で特に開発されたものです。その結果、ツールの質問とそれに伴う指示や手順が異なる場合があります。
 a) 虐待や暴力の有無
   幾つかのツール、特に簡潔なものは、典型的に「依頼者は親密なパートナーからの虐待を経験しているか」という質問の回答を求めるものです(例:「AAS」, Parker & McFarlane, 1991; 「HARK」, Sohal et al, 2007; 「親密司法スケール」, Jory, 2004; 「マルチドア・スクリーン」, Rossi et al, 2015)。他のツール、特に詳細で自由形式の質問を含むツールは、次のような追加の質問が用意されています。「虐待は現在もあるのか、もうないのか」、「虐待はいつから始まったのか」、「虐待はどの程度の頻度で起こっているのか」、「依頼者は具体的にどんな種類の虐待を経験しているのか」、「虐待の影響は何なのか」(例:「ドアーズ」、McIntosh et al., 2016;「HITS」、Sherin et al., 1998;「IPV-SAT」、Todahl & Walters, 2005;メディエーション用に開発された全てのツール)。
 b) 虐待・暴力の背景と影響
   「IPV-SAT」(Todahl & Walters, 2009)のような幾つかのツールは、まず依頼者の生活の中にFVが存在するかどうかをスクリーニングし(即ち、「依頼者は虐待を経験しているか」)、次に暴力が要因である可能性を判断するためにより詳細に評価する多段階の評価を含んでいます。この評価段階は、以下のような質問の答えを求めるものです。「何が起こったのか、起こっているのか」、「いつ起こったのか」、「この行動の影響は何か」、「暴力は強制とコントロールの連続体のどこに位置しているのか」。
バタード・ウーマン司法プロジェクト(Davis et al., 2015)は、家族法/裁判の文脈に特化して開発された、虐待の特定、理解、説明のための枠組みによる多段階スクリーニング評価の別の例を提供しています。トダールとウォルターズ(2009)と同様に、この枠組みの最初のステップは、その事件において虐待が問題である可能性があるか否かを特定することです。デイビスとその同僚は、虐待の特定は重要な第一歩であるが、十分な情報に基づいた判断や行動を取るためには、虐待の性質や背景を理解することが必要であると主張しています。家族法においては、虐待が子育て、子どもの幸福と安全、虐待を受けている親にどのように関係しているかを理解することが特に重要です。

2.スクリーニングツールの構成と形態

a) 口頭か書面か(即ち、施術者対自己記入式)
  先行研究では、口頭形式(すなわち、施術者が行う質問)と書面形式(すなわち、患者または依頼者の自己報告尺度)を比較しており、一般に、医療環境の文脈におけるFVスクリーニングに関する研究では、FVを検出するための自己記入ツールの有効性について、様々な知見が示されています(Deckerら、2017;Shermanら、2017)。例えば、口頭でのスクリーニングでは、「AAS」で施術された妊婦の開示率が高くなりました(7%に対し29%)(Trabold, 2007)。しかし、筆記による自己記入式スクリーニングは、口頭(すなわち対面式)スクリーニングよりもデータの欠損が少ないことが示されています(MacMillan et al., 2006)。マクミランら(2006)はまた、対面式アプローチは、書面やコンピュータによる自己記入式アプローチと比較して、ヘルスケア環境において依頼者から最も好まれてないと報告しています。研究により、患者の自己記入式またはコンピュータによるスクリーニングは、開示、快適さ、スクリーニングに費やした時間の点で、臨床医の面接と同等の効果があることが示されています(Chen et al., 2007; Glass, Dearwater, & Campbell, 2001)。
  家族法の環境において、施術者によるFVスクリーニングと自己管理によるFVスクリーニングの有効性を研究した研究はないようです。しかし、このレビューに含まれるスクリーニングツールやプロトコルのうち、特に法律部門で使用するために開発されたものは、面接やインテークプロセスに統合されているため、多くが施術者によるものです。BC州家事司法サービスセンター(BC州司法省,2013)は、合成型アプローチを採用しており、インテーク/評価プロセスは家事司法カウンセラーによって進行されますが、依頼者はインテークミーティングに先立って、家族の力学と暴力に関する質問を含むアセスメントフォームを記入する責任があります。
 b) スクリーニングツールの使用時間の長さ
   一般に、単一の質問ツールは、FVを特定するのに十分でない場合があります(Sohal et al.2007)。虐待は複雑で多面的なものであり、単一の質問では十分な感度をもって検出できない可能性があります。例えば、質問項目が身体的暴力についてであっても、女性が精神的暴力を経験している場合、そのツールでは虐待の経験が検出されない可能性があります。しかし、ツールの長さとFVを効果的に特定する能力との間でバランスを取る必要があります。より短いスクリーニングツール(例えば、質問数が少ないツール)では、FVを発見するのに十分な広範な虐待行動を捉えることができないかもしれません。一方で、より長く、より包括的なツールは、妥当性、信頼性、有効性が高いかもしれないが、時間に制約のある環境では有用性が低いかもしれない(例えば、Straus et al., 1996; Hinsliff-Smith & McGarry, 2017)。上述したように、ツールの目的は、最終的にツールの使用時間の長さに影響を与えます。依頼者の虐待体験を深くニュアンス豊かに理解しようとするツールやプロトコルは、依頼者の生活において暴力が要因となっているかどうかを単純に判断しようとするツールよりも、最終的には長く、複雑なものになります。
 c) 標準化の度合い
   FVスクリーニングツールやプロトコルがどの程度まで標準化されているかは、様々です。「標準化」とは、統一された指示と採点方法が存在すること、及びFVを適切に検出するツールの信頼性と妥当性を検証する統計分析が含まれていることを意味します。私たちがスクリーニングツールや関連文献を調査したところ、示唆されました。FVスクリーニングプロトコルは、スクリーニングのための質問を含み、より包括的なアプローチを提供はしますが、医療分野と比較して、メディエーションや法律分野で多く見られ、一般的に簡単なスクリーニング質問票よりも標準化されていません。例えば、BC州家事司法サービスセンターのプロトコルでは、次のように語っています。アセスメント(FVスクリーニングを含むがこれに限定されない)を行うカウンセラーは、
非言語的な手がかりを観察するのは当然のことながら、専門家としての判断力、分析力、批判的思考に頼ることになるでしょう。例えば、依頼者がファミリーバイオレンスの質問については、スケールの下限で答える可能性がありますが、そうではないと思わせるコメントやボディランゲージを通して不快感を検出するかもしれません。当然、この時点ではもっと深く掘り下げていくことになります(BC州司法省、2013)。
 「消費者弁護士のための家庭内暴力サバイバー主導に関する消費者の権利(Sussman & Carter, 2007)」は、考えられるスクリーニングの質問のリストを提供していますが、これは台本として使用することを意図したものではなく、リストにある全ての質問をすることを推奨しているわけではないことを再度強調しています。寧ろ、弁護士は「これらのスクリーニング質問を(自分の)実務に注入する方法を決定するために面接における洞察力と判断力を駆使する」ことが推奨されています。
 対照的に、主に研究目的で開発されたFVST(例えば、「CTS-2」, Straus et al., 1996; 「CAS」, Hegarty et al., 1999;「SES」, Koss et al., 2007)および医療現場で一般的に使用される簡易スクリーニングツール(例えば、「HARK」, Sohal et al., 2007)には、通常、実務家が女性をFVの被害者として分類するためのカットオフ基準が含まれています。カットオフ基準は、標準化され、信頼性と妥当性が評価されているスクリーニングツールに最も適しています。
 d) 性別にとらわれない言葉
「  親密なパートナーからの暴力」(IPV)のような性別に関係ない言葉をスクリーニング中に使用すると、非異性関係の個人がスクリーニング中に疎外されたと感じないようになるという指摘があります(例えば、コントラ郡健康サービス、1995年)。親密司法スケール(Jory, 2004)などの尺度では、同性カップルに適切に使用できるように、意図的に性別にとらわれない言葉を使用しているものもあります。もちろん、性別にとらわれない言葉を使うことで、異性関係にある虐待の被害者である男性にも使用することができます。アメリカ法曹協会(発行年不明)は、FVスクリーニングを行う弁護士に対して、FV被害者の大半は女性であるが、男性も被害者になりうること、そしてFVはあらゆるタイプの人間関係で起こりうることを認識するよう勧告しています。
 e) ファミリーバイオレンスの概念化
   研究によると、異なる暴力行動を問う項目が多い行動特化型の詳細なスクリーニングツールは、項目数が少ない広範なスクリーンよりも暴力の発見率が高くなります(Rossi et al, 2015)。行動に特化した項目は、虐待の行動的側面について依頼者を教育するのに有効であり、依頼者が自身の経験を再認識するのに役立つ可能性があります(Jory, 2004)。また、特定の行動を記録することは、警察記録や裁判手続きに役立つ可能性があります(Jory, 2004)。しかし、具体的な身体的暴力行為は、FVを排他的に定義するものではなく、また虐待のパターンを特定することができます(Hegarty, Bush, & Sheehan, 2005)。更に、FVに関する調査は、身体的暴力が女性にとって最もダメージの少ないものであることが多く、その代わり、最も有害なのは心理的虐待と強制的支配であることを実証しています(Hegarty et al., 2005)。
親密な関係における暴力はお互い様かもしれませんが、FVがジェンダー化された現象であることを示す圧倒的な証拠があります。少なくとも臨床の場では、研究結果は、(「CTS-2」で行われているように)女性に自身の攻撃的な行動に関する質問をしたり、虐待が何らかの形で相互に影響し合っている可能性があることを示唆することは、女性が暴力的な状況に留まる結果になりかねないことを示しています(Jory & Anderson, 2000; Jory, 2004)。現在のところ、家族法の文脈における相互暴力については殆ど知られておらず(Kelly & Johnson, 2008)、相互暴力についての質問が、家族法の専門家が対応する女性に与える影響も不明です。実務家の立場からは、暴力の相互作用の程度について、依頼者間で不一致が生じる可能性があり、それを考慮して行動方針を決定する必要があることが示唆されています(Bickerdike, 2007)。

3.実務家のスクリーニングへのアプローチ
 a) 虐待の力学の文脈と知識に注意を払うことの重要性
   FVのスクリーニングは、単に質問事項を列挙するよりも複雑なプロセスです。法律分野では、スクリーニング依頼者との会話の中で行うことが推奨されています(ミネソタ州弁護士会, 2013; Sussman & Carter, 2007)。FVスクリーニングに関する詳細なプロトコルは数多く存在し(その中にはスクリーニングのための質問も含まれている)、スクリーニングのプロセスに関する追加的な考慮事項が概説されています。例えば、コントラコスタ郡健康サービス省(1995)のプロトコルには、多様な人々との協働に関するセクションがあり、医師は、他の要因の中でも、虐待体験や情報開示の要因として、人種的抑圧、言語の壁、家族や地域社会の価値観、恥の役割、女性のボディランゲージと年齢、障害の状態、性的指向、薬物乱用歴などの問題を考慮するように奨励しています。
   このような文脈的要因に注意を払わなかったり、患者/依頼者とラポールを築けなかったりすると、女性は危険を感じ、開示する意思が減退し、スクリーニングの効果が低下することがあります(コントラ郡健康サービス, 1995; ミネソタ州弁護士会,2013)。ノバスコシア州トランジションハウス協会(2000)が行った調査では、女性は不快であるという理由でメディエイターに虐待を開示しないことが多いことが実証されています。
   ミネソタ州弁護士会家族法部ドメスティックアビューズ委員会(2013)とBC州家事司法サービスセンター(BC州司法省、2013)は更に、親密な関係における暴力行為を考える際に、次のような文脈に注目することの重要性を認めています。 i)加害者の意図、ii)被害者にとっての暴力の意味、 iii)被害者に対する暴力の影響(Frederick and Tilley, 2001の研究より)。
   また、「事件の詳細、暴力的な出来事にどれだけの暴力、強制、脅迫が伴っていたか」など、その他の関連要因を考慮することの重要性も強調しています。なぜなら、これは弁護士と事件の行動指針に影響を及ぼすからです。サスマンとカーター(2007)も同様に、消費者法専門弁護士のためのスクリーニングプロトコルの中で、「文脈が鍵」であり、弁護士は依頼者の個々の状況や社会的立場(年齢、経済階級、セクシャリティなど)に配慮しなければならないと述べています。このように、特に法曹界の実務家が効果的にスクリーニング手続きを行うには、FVについて十分な認識と知識を持つことが必要です。虐待に関する知識(例えば、強制、支配、精神的虐待を含む様々な種類の虐待)の重要性は、2000年にノバスコシア州トランジションハウス協会(THANS, 2000)が実施したメディエイターにおける虐待スクリーニングに関する調査でも明らかにされています。
 b) スクリーニングを日常的かつ普遍的なものとしてとらえること
   医療分野では、FVスクリーニングの日常的かつ普遍的な性質に重点が置かれています。レビューしたスクリーニングのプロトコルやツールの多くには、FVスクリーニングは全ての女性患者に実施する日常的な措置であることを女性に知らせる冒頭文が含まれていました(例えば、アメリカ産婦人科学会,2012;コントラ郡健康サービス、1995)。
 c) 実務家の言葉遣い
   スクリーニングツールに使用される言葉遣いは重要です。医療分野では、アメリカ産婦人科学会ACOG(2012)が、「虐待」「レイプ」「叩かれた」「暴力」など、患者に烙印を押す可能性のある質問を避けるよう医療者に勧告しています。ミネソタ州弁護士会(2013)も同様に、依頼者が「ドメスティックバイオレンス」という言葉に共感しない可能性があるため、その使用を控えるよう勧めています。法的な文脈では、法律の略語や業界用語を避けることも重要です(ミネソタ州弁護士会,2013)。更に、ACOG(2012)は、文化的に適切な言葉を使用することを推奨しています。
 d) 直接的、繊細かつ安全な方法でスクリーニングにアプローチすること
   FVの話題へのアプローチとスクリーニングの質問の伝え方は重要です。スクリーニングは、単純な、または「事実の問題」の方法でアプローチすることが推奨されています(キング郡,2015)。例えば、コントラ郡健康サービスが概説しているスクリーニングプロトコルでは、医療従事者が脅威を与えない方法でFVについて直接質問し、患者に虐待について話すときは(文化的に適切であれば)直接アイコンタクトを維持することを推奨しています。更に、研究者や専門の医療機関によって、医療提供者は、いかなる形でも判断や不信を伝えない方法でスクリーニングに取り組むことが推奨されています(ACOG,2012; Furbee et al, 1999)。また、医療従事者は、虐待の被害者は自分の経験を自分の時間と条件で話すものであり、まず被害者との間に信頼とラポールのレベルを確立しなければならないことを認識し、患者/依頼者がスクリーニングの質問に答えるよう「奨励するが、強要しない」よう指示されています(コントラ郡健康サービス,1995;ミネソタ州弁護士会,2013; Sussman & Carter, 2007)。
   女性が最初の面談や面接でFVを開示しない可能性があることを更に認識し、幾つかの組織は、様々なセクターのサービス提供者が定期的に女性のFVをスクリーニングすることを推奨しています(例えば、ACOG,2012;Davis et al, 2015;; キング郡,2015;ミシガン州最高裁判所,2006;ミネソタ州弁護士会,2013;ノースダコタ州最高裁判所,2017)。加えて、過去に同じ機関からサービスを受けた女性は、施術者が依頼者の状況について最新かつ正確な情報を得るために、再スクリーニングを行うべきです(キング郡,2015)。
   スクリーニングツールの中には、暴力について段階的に質問する方法を採用しているものがあります。例えば、「ドメスティックバイオレンス質問票」(Magen et al., 1997)は、「正常な」人間関係の葛藤についての質問から、虐待行為についての質問に移行しています。「家族市民インテイク・スクリーン」(Salem, Kulak, & Deutsch, 2007)は、最も事実に基づいた、従って、防御が生じる可能性の最も低い質問(例えば、当事者に関する情報)から始めます。
   施術者は、「安全かつ情報に基づいたドメスティックアビューズの開示」を確実に推進することが推奨されています(Davis et al.2015)。FLPは、FVスクリーニングの目的(即ち、なぜ虐待について質問するのか)、提供した情報をどのように使用するのか、誰がその情報にアクセスできるのか、家庭裁判所のプロセスでどのように使用する可能性があるのかを説明すべきです(Davis et al., 2015)。医療の文脈におけるFVスクリーニングについても、同様の提言がなされています(例えば、Todahl & Walters, 2009)。

4.スクリーニングが陽性だった場合の推奨事項
  文献では、スクリーニングが陽性であった場合、3つの推奨事項を指摘しています。 i)リスクアセスメントおよび/または安全対策、ii)リソースと紹介の提供、 iii)肯定と検証。FVが特定された場合、多くの文献は、施術者が直ちに依頼者のリスクレベルを評価し、かつ/または、依頼者とその子どものための安全対策を作成することを推奨しています(例えば、疾病対策予防センターCDC,2007;「暴力のない未来」,2004)。
ドメスティックバイオレンス機関やシェルター、法律センター、メンタルヘルスサービスなど、関連するサービスへの情報資源や紹介の提供は、よく推奨される方法です。コントラ郡健康サービス(1995)のような幾つかの機関や組織は、医療提供者が女性を直接ドメスティックバイオレンス・サービスにつなぐことを提案し、女性が拒否した場合は、情報資源を提供するよう勧めています。ACOG(2012)のような他の団体は、女性に資源や紹介の受け入れを強制しないことの重要性を強調しています。
  リスク評価、安全対策、リソースや紹介の提供に加えて、FVSTの中には、女性の開示を肯定し、妥当性を確認することを推奨しているものもあります。例えば、スクリーニングが陽性であることが分かった後、「葛藤評価プロトコル」は、メディエイターが次のような発言をすることを推奨しています。「この件を口にするのは、大変お辛かったことでしょう。あなたが話してくれたことを、私は嬉しく感じています。なぜなら、今なら一層、あなたのお役に立てるからです」「話してくれたことがあなたに起こるべきではなかったし、あなたのせいではない、と私は言いたいのです」(Girdner, 1999, p. 3)。これに関連して、法的な文脈ではやや特殊ですが、アメリカ法曹協会(発行年不明)は、弁護士が効果的に依頼者を代理できるよう、すべての関連情報を持つことの重要性を強調し、施術者がスクリーニング時にこの点を強調して開示を促すよう推奨しています。

5.スクリーニングツールの開発
  レビューした文献に共通することは、FVSTを地域、国内、海外の実務家、研究者、コンサルタントなど、専門家間で協議し開発していることでした(「簡単な入院患者のスクリーニング」, Laurie et al., 2012;ニューサウスウェールズ州健康調査部, Ramdsen & Bonner, 2002; 「ドアーズ」, McIntosh et al, 2016)。法律分野で開発されたFVSTは、家庭裁判所の弁護士、裁判官、その他の法律専門家との具体的な協議も含んでいました(例えば、Salem et al., 2007; Minnesota State Bar, 2003)。虐待歴のある女性もない女性も、FVSTの開発過程に参加できる重要なステークホルダーのグループの1つです(例えば、「関係図」, Wasson et al.2000、ニューサウスウェールズ州健康調査部, Ramdsen & Bonner, 2002)。
  新しく開発されたツールを試験的に評価することは、適切で信頼性が高く、有効かつ効果的なスクリーニングツールを確保するために重要です。例えば、「親密司法スケール」(Jory, 2004)の開発者は、結婚と家族のセラピストを対象に探索的調査を行い、そこからスクリーニング用の質問を開発しました。開発に際して、セラピストは、その項目が身体的暴力や心理的虐待の良い予測因子であるかどうか、およびその項目が依頼者全員または一部に適用されるか、あるいは全く適用されないかに基づいて、面接から作成された項目を評価しました。

スクリーニングツールの分析

スクリーニングツールの概要
86件のFVSTを検討した。調査したツールの数が多かったため、ツールの統計と内容は、ツールを追跡し分析するために作成した調査ツールを使用し最善の形に要約しています。補足資料を参照して下さい。

分野と環境におけるFVSTの活用
 今回のレビューに含まれるFVSTの半数以上は、医療分野での使用を目的に開発されたものでした(図2)。約4分の1のツールは、家族法およびメディエーションで使用するために開発されたものでした。残りのツールは、他の分野や環境で使用するために開発されました。
ツールの53件(62%)は施術者がスクリーニングを行うことを意図しており、26件(30%)は自分で行うことを意図しており、4件(5%)は施術者でも自分で行うことも可能です。
 1つのツールにつき、平均11件の質問があり、70件以上の質問を含むものもあれば、1件だけのものもあります。各ツールの質問数の度数集計は、スクリーニング対象者のFV歴やFV開示に拘らず、スクリーニング対象となる全ての人に尋ねる主要な質問に限定しました。フォローアップの質問(即ち、依頼者が前の質問に肯定的に答えた場合にのみ尋ねられ、従って必ずしもスクリーニングを受ける全ての人が尋ねられるわけではない)は、最終的な回数には含まれず、従って質問の総数は、依頼者/患者がFVに特有の質問を尋ねられ得る最小限の数を指すものです。

質問タイプ
 全てのツールにおいて、スクリーニングのための質問で最も一般的な形式は、「はい/いいえ」の質問でした(67ツール、78%)。次に多いのは、自由形式の質問(31ツール、36%)とリッカート尺度(例:強く反対、反対、賛成でも反対でもない、賛成、強く賛成)(25ツール、29%)でした。殆どのツールに、質問タイプは1つから5つまでの複数の質問タイプが含まれていました。メディエイターや弁護士が使用するツールでは、「はい/いいえ」と「自由形式」の組み合わせが最も多く使用されています。

質問内容とフレーズ
 レビューされた全てのツールに基づき、86件のツール全体で49件の質問カテゴリーが特定されました。最も一般的な5つの質問項目(49項目中)は、身体的虐待、相手への恐怖、危害の脅威、性的虐待、精神的虐待に関連していました。図4は、これら5つの共通テーマを示したものです。各テーマで最も多い質問文は以下のとおりです。

1.パートナーからの身体的虐待(ツールの80%)
 多くのツールでは、身体的虐待の例を3つほど挙げて、その有無について尋ねています。最も多く使われる例は、「殴る、蹴る、傷つける、押す、叩く」で、「殴る」が最も多く使用されています。
身体的虐待に直接関連する質問を含むツールは69件あり、そのうち61件(88%)のツールが、行動に特化した質問をするものでした。首絞め・窒息行為に具体的に言及しているツールは15種類(全ツールの17%、身体的虐待に言及しているツールの22%)でした。致命的でない首絞めや窒息行為は身体的暴力の一形態であり、将来の深刻な暴力や殺人を予測できる危険因子です(Douglas & Fitzgerald, 2014)。女性に対する暴力に関する看護研究コンソーシアムは、この形態の暴力をスクリーニングするために、2007年に「虐待アセスメントとスクリーニング(AAS)」を変更しました(Laughon, Renker, Glass, & Parker, 2008)。この変更がツールの感度にどのような改善やその他の影響を与えたかについての研究は明らかにされていませんが、ラトンとその同僚ら(2008)は、スクリーニングツールに「窒息行為」という単語を追加しても、ツールの長さが大幅に増えるわけではなく、ツールの有用性が低下するわけでもないことを指摘しています。
  よくある質問のフレーズ:[誰か/あなたのパートナー/もう一方の親など]があなたを叩いたり、蹴ったり、傷つけたり、押したり、平手打ちしたりしたことがありますか?

2.家庭におけるパートナーに対する恐怖と安全の懸念(65%)
 分析したツールのうち56件は、面接対象者がパートナーに対して恐怖心を抱いているかどうかを尋ねています。その多くは、次のような質問をしています。「パートナーや身近な人を怖いと思ったことはありますか?」。同じでなくとも、少し変化させた形で質問することもあります。もうひとつ、よくある形式があります。「家庭や人間関係において、安全だと感じていますか?」。これらのツールの幾つか(9ツール)は、子どもの安全に対する不安について尋ねるために質問を拡張し、通常その質問を次のように表現しています。「子どもの安全について何か心配なことがありますか?」
3つ目の一般的な質問形式は、パートナーが面接対象者に安全を懸念させるようなことをしたかどうか、またはそのような影響を与えるような何かをしたり、言ったりしたかどうかです。例えば、「消費者弁護士のためのDVスクリーニングツール」では、「あなたのパートナーがあなたを怖がらせるような行動をとったことはありますか」と尋ねています(Sussman & Carter, 2007)。このような質問は、恐怖の原因が特定の発言や行動に集約できない場合に、その恐怖の基準点を面接対象者に求めるものです。
 スターク(2007)は、「虐待関係における暴力は、単発的というよりは継続的であり、その影響は特定の1回だけの出来事というよりは累積的である」(p12)と指摘しています。スターク(2007)は、フィンランドで行われた全国調査に言及し、パートナーが長年にわたって身体的な暴力を振るっていないにも拘らず、強制的な支配と精神的な苦痛という形で虐待を経験した女性に、恐怖が最も顕著であることを明らかにしています。
 恐怖心を抱かせる特定の行動があったかどうかを尋ねる質問では、長期にわたる複数の虐待の手口を含む行動パターンに根ざした恐怖心を捉えられない場合があります。第一に、恐怖感をもたらす正確に目標を定めた行動が存在しない可能性があります。第二に、これらの別の行動パターンを理解せずに、参照できる具体的な行動との関連で、第三者には恐怖が不釣り合いに見えるという懸念もあるでしょう。より一般的な表現として、単に「あなたは[ここに名前を入れて下さい]を恐れていますか」と尋ねることで、恐怖が非暴力的な強制と支配行動のパターンに触発されている状況をよりよく捉えることができるかもしれません。
  よくある質問のフレーズ:あなたは今までに、[あなたのパートナーやあなたの生活の中の誰かの名前などを入れてください]を怖いと感じたことはありますか?

3.依頼者/患者または他者に対する危害の脅迫(ツールの59%)
 脅迫的な質問は、主に面接対象者及び/又はその子どもに向けられた危害の脅迫に焦点を当てたものです。分析したツールのうち51件は、このテーマに触れた質問を含んでいます。この特定のテーマに当てはまらない脅迫的な質問は、子どもを連れ去るという脅迫や、面接対象者の出入国管理に関する脅迫が含まれていました。この種の脅迫的な質問は、分析したツールではかなり少数でした。子どもを連れ去るという脅迫に関連した質問を含むツールは全体の約17%であり11、移民関連の脅迫に言及するツールは全体の僅か1%でした12。しかし、安全なアクセス計画をアレンジする必要があることから、子どもを連れ去るという脅迫が過去にあったこと(Araji, 2012; Bemiller, 2008; Coy et al, 2015)は、家族法の文脈ではより問題とされます。
危害の脅迫に関する質問の大半は、子どもに対する脅威ではなく、面接対象者に対する脅迫に焦点が当てられています。更に、虐待者が別離後に子どもを支配の代用品として使う可能性があるため(Araji, 2012; Bemiller, 2008; Coy et al, 2015; Hayes, 2017)、ここでも別離の文脈で子どもに対する脅迫を尋ねることがより重要であると思われます。このように過去に子どもを利用したことは、元パートナーが将来、家庭裁判所の手続を通じて、またその結果としての監護やアクセス権の取決めにおいて、子どもを巻き込んだ支配の戦術に関与することを示す可能性があります。
 殆どの質問には、「脅迫した」、「危害を加える/加えるよう脅迫した」という一般的な表現が含まれていますが、中には、凶器(即ち「凶器で脅迫した」)や殺人を犯すような脅迫について具体的に言及しているものも含まれています。
  よくある質問のフレーズ:[あなたのパートナーや相手方などの名前を入れて下さい]が[あなたを/あなたに危害を加えると/あなたを傷つけると/あなたを殺すと]脅したことがありますか?

4.性的虐待/強制的な性行為(ツールの49%)
 42件のツールが、何らかの形で強制された性行為に直接言及しています。このように強制に焦点を当てることは、同意を重視するカナダの性的暴行に関する法律と一致しません13。注目すべきは、ツールの74%が米国で開発され、19%がカナダで開発されたことです(図5参照)。
スクリーニングツールの中で、性行為を強制するための脅迫の使用について言及しているものは殆どありません14。「葛藤方略尺度(改訂版)」(Straus et al., 1999)は、セックスを強要するために脅迫が使われたかどうか、身体的な力を使わずにセックスが強要されたかどうかを問うツールの一つです。他のツール、例えば、「バタード・ウーマン・プロジェクト」の「初期ドメスティックアビューズ・スクリーニングガイド」(Davis et al., 2015)や「虐待行為目録」(Shepard & Campbell, 1992)は、「強制」より寧ろ「圧迫」という単語を使っています。この表現は、身体的な力は加えられていないものの、面接対象者が性的接触に主観的に同意していないような性的虐待の事例をよりよく捉えることができるかもしれません。
 ツールで使用されている「強制された」という単語は、身体的強制力を伴わない事例を捉えるために使用される可能性がありますが、その典型となる身体的な力との関連は、性的虐待が起こっていた場合でさえ、面接対象者が否定的に反応する原因となる可能性があります。
  よくある質問のフレーズ:これまでに、[パートナーの名前を入れて下さい]が、[あなたが望まない/気が進まない]、[セックス/性行為]を強要したことがありますか?

5.精神的な虐待/侮辱(ツールの45%)
 質問項目は、「パートナーから精神的虐待を受けたことがありますか」というように直接的に精神的虐待に言及したものか、パートナーが何らかの形で「自分を貶める」行為をしているかどうかを面接対象者に尋ねたものがこのカテゴリーに含まれます。殆どのツールは、面接対象者のパートナーが自分を貶めたり、罵ったりしたことがあるかどうかを尋ねることで、精神的虐待について質問しています。例えば、「パートナー虐待評価質問票」(ニューブランズウィック州司法省,2011)には、以下のような質問が含まれています。「あなたやあなたのパートナーは、お互いに罵ったりした、悪口を言ったことがありますか?」。依頼者が肯定的に回答した場合、ツールでは追加のフォローアップ質問を推奨しています。より広く精神的虐待を問う質問を例示すると、「OAS」(Weiss et al.2003)では、「あなたは現在、パートナーまたはあなたにとって重要な人から精神的または身体的に虐待されていますか?」と尋ねています。
 この種の精神的虐待は、しばしば恐怖の存在と結びついており、虐待者のパートナーに対する力と支配を強化するものです。精神的虐待そのものは、一般的に言われている「相手を貶める、罵る」以外の様々な行為を含む、非常に広いカテゴリーを指しています。フェイバーとストランド(2007)は、精神的虐待を「被害者に対する支配、すなわち力と支配を達成し維持することを目的とした、言葉や行動の戦術」の数々を含むと定義しています。また、「パートナーが怖いか」、「パートナーがペットに危害を加えたことがあるか」、「脅したことがあるか」という質問に対する肯定的な回答も、精神的虐待を示唆するものです。そのため、フェイバーとストランド(2007)は、精神的虐待を発見するためのスクリーニングの一環として、ペット虐待に関連する質問を含めることを推奨しています。質問を虐待カテゴリーに細分化したツールのうち、「MASIC」(Holtzworth-Munroe et al.2010)はペット関連の質問を強制的支配の一形態として挙げ、「ドルゥース力と支配の車輪」(ドメスティックアビューズ介入プログラム,発行年不明)はペットへの被害を「脅迫」に、「バタード・ウーマン司法プロジェクト」(Davis et al., 2015)の面接ガイドは「ペットへの危害」を精神的虐待の形態として挙げています。コンパニオンアニマル(人間の伴侶としてのペット)に焦点を当てたためか、精神的虐待の手口として「動物への危害」を挙げているツールはありませんでした。
 ツールでは通常「ペット」という言葉が使われますが、「動物への危害」は「ペットへの危害」よりも広いカテゴリーであり、動物への危害を問う質問は、例えば、経済的な性質を持つ虐待のパターンを捉える可能性があります。「動物への危害」については、「ペット」という言葉から連想されるコンパニオンアニマルに加え、収入を得るための畜産動物、介助を行うために訓練されたサービスアニマルを含めることができます。サービスアニマルへの被害は、コンパニオンペットと比較して、面接対象者に更なる身体的および/または孤立的な影響を与える可能性があります。
 家畜は財産であり、別離時にその価値を分割しなければならないため、家畜への危害を捕らえるのに十分な幅のある質問(「動物への危害」という表現)を含むことは、家族法の文脈では重要かもしれません。加害者が別離後も家畜に危害を加え続けたり、動物虐待がエスカレートした場合、家畜を売却した際に面接対象者が受け取ることができる収入に影響を与える可能性があります(「サスカチュワン州動物虐待防止協会と暴力防止」,2006)。また、動物への脅迫を含むように質問を広げると、実際に動物が傷つけられたわけではありませんが、加害者が面接対象者を強要し支配力を発揮するために利用した事例を捉えることができます(Newberry, 2017)。
  よくある質問のフレーズ
   1.[パートナーの名前を入れて下さい]は、あなたを貶めたり、罵ったりしたことがありますか?
   2.[パートナーの名前を入れて下さい]は、今までに、ペットも含めて、あなたが大切にしているものを損傷/破壊したり、危害を加え/傷つけたりしたことがありますか?

最も多かった5つのテーマで最も多かった質問フレーズのまとめ
 1.[誰か/あなたのパートナー/もう一方の親など]があなたを叩いたり、蹴ったり、傷つけたり、押したり、平手打ちをしたことがありますか?(身体的)
 2.[あなたのパートナーの名前などを入れて下さい]を怖いと感じたことが、今までにありましたか?(恐怖)
 3.[あなたを傷つけた人やパートナーや相手方などの名前を入れて下さい]が[あなたを/あなたに危害を加えると/あなたを傷つけると/あなたを殺すと]脅したことがありますか?(危害を加えるという脅迫)
 4.今までに[あなたのパートナーの名前を入れて下さい]から、[あなたが望まない/あなたが不快に思う]ような[セックス/性行為]を強要されたことがありますか?(性的)
 5.今までに[あなたのパートナーの名前を入れて下さい]があなたを貶めたり、罵倒したりしたことはありますか?(精神的)
 6.今までに[あなたのパートナーの名前を入れて下さい]がペットを含め、あなたの大切なものを損傷/破壊したり、危害を加え/傷つけたりしたことがありますか?(精神的-ペット)

FVSTの包括性
 FVSTは、その包括性の度合いによって異なります。「包括性」とは、各ツールがカバーする質問テーマの数のことです。例えば、身体的暴力、精神的暴力、性的暴力についての質問を含むツールは、身体的暴力についてのみの質問を含むツールよりも包括的であると考えられます。表2は、分析に含まれる最も包括的なFVSTと最も包括的でないFVSTをリストアップしたものです。

 一般に、メディエーションや家族法の文脈のために特別に開発されたFVSTは、医療現場での簡易スクリーニングのために開発されたFVSTよりも包括的(即ち、より広い範囲の質問テーマをカバーしている)でした。ロッシとその同僚(2015)は、「MASIC」(私たちの分析で最も包括的なツール)と「マルチドア・スクリーン」(私たちの分析で包括的ではないツールの一つで5つの質問テーマしか表現されていない)の検出率を比較し、「マルチドア・スクリーン」がカバーしていない強制的支配やストーキングなどの虐待形態を評価する「MASIC」が著しく多くの虐待事例を検出することを明らかにしました。
 表2には、最も包括的でないツールが示されているが、これはこれらのツールが有効でないことを意味するものではありません。ドメスティック・バイオレンス・エバリュエーション(「DOVE」, Ellis & Stuckless, 2006)15は、自由形式の質問をして、スクリーニングのプロセスを終了します。「何か付け加えることはありますか?」という質問は、私たちが設定したどのテーマにも該当しないにも拘らず、多くの虐待の開示につながる可能性があります。
 また、あまり包括的でないツールは、特定の回答がさらなるフォローアップにつながることを想定して作られている可能性があります。調査したツールのうち22個(26%)が、フォローアップのための質問案を直接提供するか、主質問で虐待歴が検出された場合に更なるフォローアップが必要であることを言及しています。フォローアップの質問(多くの場合、主なスクリーニングの質問とは別のもの)は、その多くがリスクのレベルを評価するための質問です。「IPV評価のためのイェリネック目録」(Kraanen et al., 2013)と「メディエイターの対面スクリーニングプロトコル」(ミシガン州最高裁,2006)のように、リスクアセスメントの質問を提供しない幾つかのツールでも、暴力検出後のフォローアップとして使用できる別のリスクアセスメントツールに言及していました。フォローアップのアセスメントに言及していない多くのツールは、スクリーニングが陽性であった場合の手続き上のステップに言及していました。

実務者のFVST使用頻度
 レビューした文献から得られた共通の知見は、FVSTが全国のメディエーション認定基準の一部であるのに対し、FLPや医療分野ではあまり利用されていないことでした(Davis & Harsh, 2001)。
 例えば、ブリティッシュ・コロンビア州の家族法に関する規則(2012)の第3部では、メディエイターが認定されるために受けなければならないトレーニングが定められており、その中には、ファミリーバイオレンスや力関係の特定と評価に関する項目が含まれています。オンタリオ州では、オンタリオ州家庭メディエーション協会が定めた基準により、メディエイターは全ての依頼者に虐待や力の不均衡の発生をスクリーニングすることが求められています(オンタリオ州家庭メディエーション協会,2013)。その他、家庭メディエーション・カナダ(2018)は、家庭メディエイターのトレーニングと認定の基準を定めています。
 司法省が実施したカナダ家族法の実務に関する調査(Bertrand et al, 2016)では、弁護士のほぼ70%、裁判官の47%が、FVについて依頼者をしばしばスクリーニングするかほぼ常にスクリーニングすると回答しています。2%の弁護士とほぼ10%の裁判官は、FVのスクリーニングをしたことがないと報告しました。スクリーニングを報告した弁護士のうち、半数以上(53%)が標準化されたスクリーニングツールを使用したことがないと回答し、25%が標準化されたツールをほとんど使用しないと回答し、標準化されたツールを頻繁にまたは殆ど常に使用すると回答した弁護士は13%にとどまりました。司法省は、2018年にも本調査を実施する予定です。
 最近の文献レビュー(Costa & Barros, 2016)では、最も頻繁に使用されるFVSTは、「CST―2」(Straus et al., 1999)、「虐待アセスメント・スクリーン」(Parker & McFarlane, 1991)、「WHO-女性に対する暴力質問票」(Elsberg他, 2008)であると報告されました。私たちの分析に含まれる、彼らのレビューで一般的に使用されたその他ツールは、「性的経験調査」(「SES」、Koss et al., 2007)、「複合虐待尺度」(「CAS」,Hegarty et al.,ら、2005)、「パートナーバイオレンス・スクリーン」(「PVS」、Feldhaus et al., 1997)、「女性に対する暴力の深刻度」(Marshall、1992)、「女性の虐待経験」(「WEB」、Smith et al., 1995)、「障害・侮辱・脅迫・悲鳴」(「HITS」, Sherin et al., 1998)でした。
 本研究で実施したFVST分析では、特定のFVSTの使用頻度に関する情報は確認できませんでした。しかし、情報提供のための面接データは、家族法弁護士がFVSTを殆ど使用していないという文献から得られた知見を裏付けるものでした。今後の研究では、家族法弁護士を対象にした調査により、FVSTの利用頻度について更に検討することになるでしょう。

FVの有無を判断するためのアセスメントと採点手続き
 FVSTの重要な構成要素は、実務者がFVの有無を判断するために使用する一連の手続き上のステップです。この判断は、最終的には、サービス終了の判断(メディエーションの場合など)、当局への通報の必要性(児童虐待が発見された場合など)など、サービス提供に反映されることになります。分析されたFVSTは、様々なアセスメントと採点手続きを明らかにしています(図6参照)。これらのアセスメントと採点手続きは、大きく2つのカテゴリーに分類できます。
   1. 実務者の判断に基づく虐待の判定(ツールの52%)。
   2. 標準化された採点手続きに基づく虐待の判定(ツールの46%)
 FVが陽性かスクリーニング判定するための、以下に示す7つの異なるアセスメントと採点手続きが確認されました。
   1. 自由回答形式のオープンエンド型質問に基づいて実務者が判断 
   2. 選択肢の中から回答を選択するクローズエンド型質問に基づいて実務者が判定
   3. オープンエンド型とクローズエンド型の質問に基づいて実務家が判定
   4. 合計点数を計算するものの、限界値/閾値は提供されていない(従って、実務者がその意味を判断する必要がある)
   5. 合計点数を計算し、限界値/閾値と比較して評価
   6. 特定の質問に対する肯定的な回答
   7. 不明またはその他の採点手続き 
最も一般的な3つのアセスメントと採点手続きについて、以下に詳しく説明します。

1.オープンエンド型質問に基づいて実務者が判定する(30%)
 全てのFVSTにおいて、最も一般的なアセスメント/採点手続きは、「過去1年以内に、誰かに叩かれたり、蹴られたり、殴られたり、その他の危害を受けたことがありますか?」「今までに口喧嘩で警察を呼ばれたことがありますか?」というようなクローズエンド型質問に対する依頼者の回答に基づいて、実務者がFVの判定を行うことでした。親密なパートナーからの暴力における致死または致死未遂の可能性を評価するために設計された危険性評価機器とは異なり(Campbell, Webster, & Glass, 2009)、これらのFVSTの質問に対する回答に関連する定量的な値や得点は存在せず、また、FVの判定を行う上で、どの質問を最重要視するのか、より重要視すべきかに関するガイドラインも存在しません。実務者がスクリーニングツールからの情報を使い、与えられた依頼者のFVの有無について、情報に基づいた判断をすることが暗黙の了解になっています。

2.依頼者が特定の質問または一連の質問に対して肯定的な回答をする(21%)
 虐待の有無を評価するための2番目に多い手続きは、特定の質問または一連の質問に対して依頼者が肯定的な回答をした場合に、FVがあると結論づけるというものでした。例えば、「継続している虐待のスクリーニング」(「OAS」, Weiss et al., 2003)は、身体的虐待、性的虐待、パートナーへの恐怖について[はい/いいえ]で回答する4問の簡潔なスクリーニングです。依頼者が4つの質問のいずれかに肯定的な回答すると、FVのスクリーニングは陽性とみなされます。

3.依頼者のスコアがカットオフ閾値に達した(20%)
 3番目に多かったアセスメント/採点手続きは、スクリーニングツールを使用して採点し、依頼者のスコアが指定のカットオフ閾値に達した場合に虐待が陽性と判定するものでした。例えば、医療分野で最もよく使われているFVSTの一つである「HITS」(Sherin et al, 1998)は、4つの質問を用いて、全くない~頻繁にある、の5段階評価で測定しています。スクリーニング結果が陽性となるのは、6以上のスコア(可能な20のうち)です。
最もよく使われているアセスメント/採点手続きの種類は、分野によって異なります。家族法の文脈で開発されたFVSTは、実務者の判定による手続きを使用していました。使用された家族法のFVSTの90%は、FVの判定を行うために実務者の判定に頼っていました(図7参照)。

 同様に、メディエーション用に設計されたFVSTの60%は、実務者の判断を用いていました(図8参照)。家族法およびメディエーションのFVSTには、虐待の判定を行うための採点手続きやカットオフスコアが含まれていないのが一般的でした。寧ろ、依頼者や子どもに対する虐待、警察の関与の履歴などに関する一連の質問に対する依頼者の回答に基づいて、実務者が判断することが期待されています。
 一方、医療分野のFVSTは、施術者の判断と、より標準化された採点手続きの両方を含んでいました。分析対象となった医療分野のFVSTのうち、41%がFVの判定を施術者の判断に頼っていました。これらのツールの、19件のうち16件は、クローズエンド型の質問に対する患者の回答に基づくものでした。医療分野のツールの半数以上(54%)は、より標準化された採点手続きを用いていました。これらのツールの、25件のうち15件は、患者が特定の質問または一連の質問に肯定的に答えた場合、暴力のスクリーニングが陽性となるものでした。

スクリーニングが陽性時のフォローアップ手続き
 実務者は、FVが存在すると判断したら、この情報を自分の業務(メディエーションを変更するか終了させるかの決定など)に役立てるとともに、虐待を受けた女性(とその子ども)に適切な支援を行うために利用することが重要です。
 分析したツールのうち約60(68%)が、スクリーニング後のフォローアップの必要性に言及し、何らかのフォローアップの手続きを概説しています16。多くの場合、これらの手続きは、ドメスティックバイオレンスのケースを専門とする機関(例:ドメスティックバイオレンスセンター、シェルター)への紹介を含み、その機関自体が更なる質問を実施したり、リスクアセスメントに関与したりすることになります。これらのフォローアップ手続きから、私たちのレビュープロセスで幾つかのツールが包括的でなかった理由や、これらのツール自体がリスク評価後のフォローアップ質問をリストアップしていなかった理由をある程度説明できるかもしれません。実際、表2で「最も包括的でない」とされたツールのうち、研究者がフォローアップの質問や手続きの提案を見つけられなかったものは、「WEB」(Smith et al, 1995)と「STaT」(Paranjape & Liebschutz, 2003)だけでした17。
 組織によっては、スクリーニングツールを補完するために、社内でフォローアップ用ツールを開発しているところもあります。これらは、多くの場合、リスクアセスメントおよび/または安全対策用に設計されています。また、報告/文書化ツールやプロトコルもあります。例えば、ニューヨーク市児童サービスの「親のためのドメスティックバイオレンス・スクリーニング」は、多くのチェックリストの質問を含んでいて、以下の指示もその中に含まれています。

 ドメスティックバイオレンスがある、またはその疑いがある場合、「DVサバイバー認定アセスメント」を実施し、安全対策やその他の次の行動に取り掛かります。これが完了したら、「上司やDV専門家」と一緒に「アセスメント」と安全対策を確認し、安全であると判断した後、「虐待を受けたと特定されたパートナーに対するアセスメント」(発行年不明、p3)を実施します。

 他のツールでは、実施すべき特定の手順は挙げられていませんが、依頼者がドメスティックバイオレンスの陽性と判定された場合にどうすべきか、各機関が適切なプロトコルを確立する必要性に言及しています(Furbee et al.1998)。
 メディエーション用に開発されたFVSTは、一般的に、メディエイターや家族法実務者にFVが確認された場合にメディエーションを終了させるか、メディエーションに反対する勧告をするよう指示する内容を含んでいます(例えば、ミシガン州最高裁判所、2006年、ニューブランズウィック州司法省、2011年、ノースダコタ州最高裁判所、2018年、メディエーションとFVに関する研究概要についてはロッシ他、2015年を参照して下さい)。
 ミシガン州最高裁判所(2006年)の「家事メディエーションのためのドメスティックバイオレンスと児童虐待/ネグレクトのスクリーニング」のプロトコルは、これらの指示の背後にある懸念事項を明確に示しています。

 メディエーションは、参加者が相互に満足のいく紛争解決に到達するために、メディエイターの助けを借りて力の均衡を保つことができることを前提としています。紛争の当事者間にドメスティックバイオレンスが存在する場合、被害者に対する権力と支配を維持しようとする加害者の欲求は、メディエーションの方法と目的に矛盾しています。加害者を恐れて被害者がニーズを主張できなくなる可能性があり、メディエーションという場が加害者に被害者へのアクセスを与え、被害者、子ども、メディエイターを暴力の危険にさらすことになります(ミシガン州最高裁判所,2006,p1)。

推奨されるFVスクリーニングの実施
 分析の一環として、私たちはFVST開発者/著者によって推奨または承認された(即ち、ツールを使用する実践者のための説明書に含まれる)FVスクリーニングの実践について、各FVSTおよび付随する論文(可能であれば)を検討しました。実践者の専門知識、FVSTの運用、スクリーニング後にすべき事について推奨される実践は表3を参照して下さい。

インフォメーションインタビュー

  本報告書の冒頭で述べたように、調査チームは17回のインフォメーションインタビューを実施しました。これらのインタビューを通じて得られた情報は、文献調査やツールの分析から得られた知見とほぼ一致しました。つまり、スクリーニングはメディエイターや医療従事者には一般的ですが、FLPには限定的で、あまり一般的ではないということです。また、女性シェルターがFVのスクリーニングを行う場合、それは主に女性の安全対策プロセスを支援するためであることがインタビューにより明らかになりました。参加者の分野の概要については、付録Bを参照して下さい。
 インタビューした弁護士の中で、正式なスクリーニングツールを使っていると答えた人は殆どいませんでした。寧ろ、弁護士は暴力や虐待について話し合う機会を見出すために、「赤信号」の存在や依頼者との人間関係の継続的な発展に頼る傾向がありました。
 更に、インタビューにより、全ての弁護士が全ての依頼者をスクリーニングしているわけではないことが明らかになりました。インタビューした弁護士のうち、4人は「している」、3人は「していない」と答えました。なお、メディエーションを行う弁護士を含むメディエイターは、全ての依頼者をスクリーニングしています。メディエイターと弁護士の両方が、スクリーニングは依頼者との人間関係を通じて行い、それは継続的なプロセスであることを指摘しました。
 3人の弁護士が「標準化されたツールがあれば使う」と答え、4人の弁護士が「使うかもしれない」と答え、1人の弁護士がこの質問に対して「いいえ」と答えました。曖昧な回答をした弁護士と「いいえ」と答えた弁護士は、ツールを使うことで、ツールで特定できない虐待の兆候を見逃してしまうことを懸念していると指摘しました。
 インタビューでは、どのような特徴を持つスクリーニングツールが有用かについて、多くの提案がありました。
   ・使用時間が短い
   ・構造化している
   ・平易な言葉を使用する
   ・「ファミリーバイオレンス」のような刺激的な言葉は避ける
   ・「はい/いいえ」よりも、寧ろオープンエンド型の示唆に富む質問をする
   ・口頭、会話、語りかけ
   ・虐待のカテゴリーを含める
   ・サイバーストーカーやハラスメントに対応している
   ・使いやすい
   ・回答の採点方法を含む
 インタビューした人の多くが、トレーニングが非常に重要だと強く感じていました。恐らく、使用するツールの正確な構造よりも重要です。

(参に続く)

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