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「地方こそ、狭く深く届けることが大事」ーーferret創刊編集長・飯髙悠太が語る、地方のWebマーケティング戦略【EVENT REPORT #4】

Webの仕事をする人間であれば、耳馴染みのある『Webマーケティング』という言葉。
その中身はSEOやリスティング、アフィリエイトなど多岐にわたるが、全てを理解している方は少ないのではないだろうか。特に地方ではそもそもそういった知識を持っている人も、学べる機会も多くない。

そこで株式会社IDENTITYでは、マーケティングやスタートアップなど各分野で活躍されている人物をゲストとして招き、経験に基づいたビジネス戦略についてのトークセッションを行うイベントを主催している。
イベント開催4回目となる2018年2月21日。ゲストには、Webマーケティングメディア「ferret」創刊編集長の飯髙悠太さんをお招きした。

イベントは二部構成。第一部は、「これからの地方において、Webマーケティングはどのように行って行くべきか」をテーマに、飯髙さんに講演を行っていただいた。第二部として、IDENTITY共同代表の碇和生・モリジュンヤも交え、同テーマについてのパネルトークを行った。
会場は、名古屋市中区の堀川沿いに位置するワーキングスペース「sharebase.InC」。20名以上の参加者が集まった本イベントの様子をお届けする。

PROFILE

飯髙悠太(株式会社ベーシック執行役員)
広告代理店、制作会社、スタートアップで複数のWebサービスやメディアを立ち上げる。企業のWebマーケティングやSNSプロモーションをはじめ、50社以上のコンサルティングを経験。
2014年4月「ferret」の立ち上げにあたり参画し同年9月にリリース。3年半で月間430万 PV、37万人の会員(2018年1月現在)。東証1部上場企業を含め コンサルティングを実施。

INDEX
ー インターネット上において、99%の情報は届かなくなる
ー コンテンツマーケティングに必要なのは、全体で評価すること
ー 地方に行ったとき、美味しいものが食べたいのにお店が調べても出てこない
ー 「フォロワーは、量より質」どれだけ良いユーザーがいるか
ー マーケティング力を身につけるためには、実践するしかない

インターネット上で、99%の情報は届かなくなる

イベントの第一部では、飯髙さんにWebマーケティングに関する講演をいただいた。飯髙さんの「ferretって知ってますか?」という問いに、参加者が全員頷くと「絶対嘘だ〜」と笑い立てる飯髙さん。そんな暖かい空気から、話は始まる。

飯髙悠太(以下、飯髙):当たり前のことですが、現在のマーケットの主流はデジタルです。利用機器についてみてみると、圧倒的にスマホの利用率が高いですね。にも関わらず、サイトがスマートフォン対応していない企業が多い。明らかにナンセンスですよね。
またこれはユーザー目線だけでなく、プラットフォーム目線からも言えることで、Googleはスマートフォンに合ったコンテンツの順位をあげるようになっています。つまり今の時代に対して、スマートフォンに対応することは必須ということですね。

ここで、飯髙さんは参加者に質問を投げかけた。「現在Googleが認識しているページ数はいくつかわかりますか?」というものだ。会場を見渡した後、飯髙さんは言葉を続ける。

飯髙:正解は、60兆ページです。これがどういう意味かというと、みなさん全員が1万ページを持っている計算になります。そんな膨大な情報が溢れるゆえ、2020年には99%の情報はユーザーに届かなくなるとも言われています。

そう言われると、「コンテンツを作っても意味ないのでは?」と思うかも知れない。飯髙さんは、その思い込みは全くの逆だと語る。

飯髙:Googleは現在、良いコンテンツの掲載順位をあげる仕組みにになっています。いわゆる「コンテンツファースト」と呼ばれるもの。では良いコンテンツとは何なのか、それはユーザーにマッチしたコンテンツです。そのため、これからの時代、大事になってくるのは「狭く深いコンテンツ」。1つの領域に対して深みをもつことにより、ユーザーとのマッチングが起こりやすくなる。
届かない99%の情報は、ユーザーに合っていないコンテンツなだけ。しっかりと狭く深いコンテンツを作っていけばユーザーに届く1%のコンテンツに成り得るんです。

コンテンツマーケティングに必要なのは、全体で評価すること

Googleという主要プラットフォームの現状や未来について語ってくれた飯髙さん。次第に、今重要だとされているコンテンツマーケティングの話題へ移っていく。

飯髙:コンテンツマーケティングという言葉がここ数年流行ってますが、なぜ最近注目されているのでしょうか。それは、マーケティングが顕在層だけでなく、潜在層向けにシフトしているから。というよりも、シフトせざるを得ないんです。その理由は、少子高齢化などによりマーケットが縮小し、顕在層向けの施策だけでは限界がきているからです。
ただコンテンツマーケティングは、すぐに効果が出るものではありません。時間はかかりますが、いいコンテンツが増えれば資産になり、最後には広告とは別の集客手段になっていきます。

現在、「ferret」には広告費ゼロ円で月間3,000人の新規登録会員がいるという。「これはコンテンツを地道に作り続けたからこその結果」だと飯髙さんは語る。地道に作れば成果が上がる。ではなぜ、多くの企業はコンテンツマーケティングに失敗するのだろうか。

飯髙コンテンツマーケティングに失敗するのは、多くの企業がそれぞれの施策に対しての部分最適で評価するからです。例えばオウンドメディアは、1記事更新することに人件費がかかる。でも、その記事がどのくらい売上に貢献してるかは評価しない。
普通は1つの記事を読んですぐにモノを買うことなんてないですよね。買いたいものを調べて出てきたさまざまな記事を読んで、検討して購入する。でも、その一つひとつの記事がなければ買っていないかもしれません。であれば、その記事は評価するべき。つまり、CPAを全体で見て、全体で評価することが大切です。これはコンテンツマーケティングだけでなく、マーケティング全体でも同じことが言えます。

地方に行ったとき、美味しいものが食べたいのにお店が調べても出てこない

飯髙さんによる約40分のトークが終わり、プログラムは第二章へ。飯髙さんとIDENTITY共同代表碇和生のパネルトークに。モデレーターを務めるのは同じくIDENTITY共同代表のモリジュンヤだ。

モリジュンヤ(以下、モリ):今日は、「地方におけるWebマーケティング」というテーマなので、このトークセッションではその辺りを掘り下げていけたらと思います。
Webマーケティングって、インターネット上だし本来ならば場所関係なくできるはずですが、実際は東京と地方で地域差を感じます。碇は名古屋で地域のマーケティング活動に携わっていますが、、課題感や東京との違いを感じることはありますか?

碇和生(以下、碇):名古屋はメーカーの街なので、「これがいくら売れたらいくら儲かる」という発注者側の意識をみんな文化的に持ってると感じます。企業の上の層、決済権を持った方々は、さっきの飯高さんの話にもあった、全体で考えるっていう視点はなかなかないかもしれません。
また、運用や制作も、上流から降りて来たものをそのまま制作する場合が多く、しっかりとした現場のプレーヤーも育たない印象が強いです。

モリ:決定権を持った方々が、文化としてあまりマーケティング的な考えを持てていないということですかね。そういった方々とはどのように関係性を構築していったんでしょうか?

:目線を合わせることが大事だと思います。CPAのようなマーケティング用語を並べ立てても仕方ないので、しっかりと定量的な数字を使い共通言語で語る。そうすることで目線が合い、良い形でコミュニケーションが取れると思います。

飯髙:そういう意味でいうと、東京も定量的に喋れる方は少ないと思います。でも、確かに地方の方が、露骨に現れるのかもしれないですね。

モリ:飯髙さんも、地域問わずさまざまなところから依頼を受けると思いますが、地方特有の経験はありましたか?

飯髙:特有だ、と思ったことはまだないです。ただ面白いデータとして、総検索数の約半分は東京なんですよね。なので、地方の人は検索しない可能性もあるなと。(笑)

モリ:自分は岐阜出身で、岐阜含めさまざまな地方に行かせてもらうこともありますが、地方はWeb上のコンテンツが少ないなと個人的には感じます。だからこそ地方においてコンテンツマーケティングは大事だと思うんですが、その辺りはどうですか?

飯髙:それはおっしゃるとおりですね。地方に行ったとき、美味しいものが食べたいのにお店を調べても出てこない。だからこそ、現地の人が足を運んで現地の声でレビューするローカルメディアは絶対に良いと思います。ただユーザーに関していうと、地方の方が検索リテラシーが低い。なので設計がより大事になるかもしれませんね。

「フォロワーは、量より質」どれだけ良いユーザーがいるか

モリ:作ったコンテンツをどうやってみてもらうか、という部分を考えると、SNSアカウントの運用も大切になってくると思います。地方のアカウントに対して考えることはありますか?

飯髙:対比的にいうと、東京の企業アカウントの方がしっかりとコミュニケーションを取っているものが多いですね。フォロワーは量ではなく質。どれだけ良いユーザーがいるかが重要だと思います。
SNSを通してどれだけファン形成ができるかも大事です。自分はよくferretや自分の名前でエゴサーチし、つぶやいてくれている人には頻繁にコミュニケーションをとるようにしています。

モリ:ファンにどうやってなってもらうか、どうやって獲得していくかをメンバー自身にも体感させるということですね。

飯髙:講演聞いたり、本読んだりするとわかったような気になりますが、実際はやってみないとわからない。僕自身ferretを始めた当初は広告周りとSNSと改善周り以外はあまり得意ではなかったです。ただそれ以外のことも、実際に自分で運用することで、理解度が上がりましたから。

モリ:確かにSNSはもちろん、リスティングやアフィリエイトも、やろうと思えば少額からできる。既存のマスマーケティングはそう簡単に始められませんが、デジタルマーケティングは敷居が低い点で良いかもしれません。SNSに関していうと、最近主流になってきているインフルエンサーマーケティングはどう思いますか?

飯髙:自分のインフルエンサーの定義がもしかしたら世間と違うかもしれません。数が多けりゃ良いわけではない。先ほども言いましたが、いかに質の高いフォロワーがいるか。フォロワー数が少なくても、影響力、つまりエンゲージメント率が高い方が良いです。SNSのアカウントもやっぱり「狭く深く」を目指すべき

:それでいうと、「おいでよ名古屋(※1)」っていうTwitterアカウントがあって。ひたすら名古屋のグルメ情報やイベント情報を載せているアカウントなんです。フォロワー数は数万人いて、このアカウントをフォローしているのは9割以上名古屋の人たち。狭く深く、に成功しているアカウントだと思います。

飯髙:確かに。知り合いに、台湾のことしかつぶやかない台湾がものすごく好きな人がいるんですが、その人が動かしているのが「専ら台湾(※2)」というアカウント。「どこどこの百貨店で台湾フェアやってる」っていうツイートしたら400RTとかいくんです。結果JTB台湾含め、旅行会社数社から仕事の依頼が入っています。

やはりどれだけフォロワーが多いかというより、どれだけ狭く深く届けられるか、これが一番大事ですよね。

マーケティング力を身につけるためには、実践するしかない

トーク終了間際、参加者からの質問をTwitterのハッシュタグ「#IDENTITYイベント」で募集することに。イベントながら参加者が一堂にスマホを触る珍しい展開となった。

モリ:「これからの時代、ライターはどんな力をつけていくべき?」という質問が来てます。

飯髙:完全に「マーケティング力」ですね。ライターが書いたコンテンツをどう届けるのかがマーケティング。つまり、ライターがマーケティングもできるようになったらめちゃくちゃ強い。ただ勘違いしちゃいけないのはバズればいいってことではなく、自分のコンテンツの対象に届けるって意味で。ここまでできるようになれば、僕がいる意味なくなっちゃいますが、それはそれで次のステージいけますしね(笑)

モリ:ちゃんと作ったものをどう届けるか、ってことですよね。

飯髙:そうですね。せっかく書いたものが届かなかったら全くの意味がないですよね。だからどうやったら読み手に届くのかな?という視点を考えることが大事だと思います。

:逆に、ライター目線としてジュンヤからはどうですか?

モリ:ビジネススキームの中で、自分の作っているコンテンツがどこに位置付けられているのかを理解するのが大事だと思います。すると、何のためにこのコンテンツを作ってるのかがよりクリアになっていく気がします。

モリ:「マーケティング力を身につけるために大切なことは?」という質問も来ています。

飯髙:難しいですね。すごくシンプルにいうと、「実践すること」です。人間はインプットすることで成長していくので、書籍・記事を読むことは大事です。ただ、それ以上に大事なのは、インプットしたことを、やってみることですよね。

モリ:読んで、やってみて、わからなかったらまた調べて、っていうサイクルが大事ですよね。実践するにしても、いろんな選択肢があると思います。どういう部分から始めた方がいいですか?

飯髙:コモディティ化された部分はやっておいた方がいいかもしれませんね。いわゆるリスティングとかアフィリエイトとか。英語を覚える時のABCを覚えるのようなものなので。いきなり応用をやっても意味がないので、まずは基本が一番大事です。

モリ:ありがとうございます。碇はどう思いますか?

:実践することはもちろん大事です。あとは、人をよく観察して考えること。先程のどうやったら読んでもらえるか、という部分を考えるのもそうですが、人の行動からユーザーニーズをしっかりと把握することが重要になってくると思います。

飯髙:僕はそれに近いことを強制的にやってますね。街を歩いている時に、広告を見かけると、その広告は何でここに出しているんだろう?誰に向けてだろう?ということをいつも考えています。最初は昔働いてた会社の社長にやらされてたんだけど、習慣的にやるようになってしまって。でもそれによって、広告をはじめとする、あらゆるもののニーズについて考える習慣がつきました。

あっという間に過ぎてしまった1時間半。イベント終了後には、待ってましたと言わんばかりに登壇者に挨拶をする参加者の姿が見られた。
またパネルトークでのTwitterの話もあってか、終了後もイベントにまつわるツイートが多数呟かれていた。それはまるで、自分のTwitterアカウントをより個性的に、狭く深くするように。
“狭く深く”。繰り返し発されたこの言葉は、きっと多くの参加者に刺さったのだろう。確かに、東京の方が検索回数も情報量も多いのかもしれない。でも地方だからこそ、より”狭く深い”コンテンツを作れる可能性があるのではないだろうか。

※1:おいでよ名古屋(@oinagoya)とは、名古屋を淡々と紹介し続けるTwitterアカウント。
通称:おいなご
ローストビーフが主食。
※2:専ら台湾(@mopparataiwan)とは、台湾の情報を独自に紹介し続けるTwitterアカウント。

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