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ブラジャーを拾ったよ

「ブラジャーを拾ったよ」

道ばたに白いブラジャーが落ちている。

おれ(本多)はブラジャーに駆け寄って拾い上げると、思わず空にむかって挙手の敬礼をした。

「誰のものかは存じ上げませんが、天からの恵みだと信じます」

推定Gカップもある大きなブラジャーだ。ほんのりといい匂いがする。思わぬ天からのギフトにおれは随喜(ずいき)の涙を流していた。

うるうるうるうる、ゴシゴシ。ブラジャーで涙を拭く。

「このブラジャー、乳房を保護するだけでなくハンカチの代わりになる。実にすぐれものじゃないか!」

不覚にもまた泣いてしまった。涙で視界がぼやけて太陽が二重に見える。まるでおっぱいだ。やはりこのブラジャーは天からの恵みだった!おれはクシャクシャになったブラジャーを手で伸ばしてふくらみを持たせると、乳を当てる面を太陽にむけて、遠近感を調整した。やがて太陽、、、もとい母なるおっぱいはブラジャーに包まれた。太陽の熱を吸収したブラジャーはまるで人肌だ。

おれは太陽を直視してしまったので一時的に盲になったが、太陽が目に焼き付き、目の前に複数の乳房が現れたように見えた。まばたきをして、視線を動かすたびに乳房が増える。これは大発見だ。

目に焼き付いた乳房を増やし、数珠つなぎにする遊びをしているうちに、目がもとに戻った。空に夏の太陽、下には100の乳房。おれは確かにヌーディストビーチで遊んでいたのだった。わーいわーい。

「何を見てるのかなボーイ??」

怪訝そうな顔をした小学生がじっとおれを見ている。ブラジャーを握りしめて叫ぶおれが相当、珍しかったらしい。

「この金でコロコロコミックでも買ってとっととお家に帰りなさい。シッシッ」おれは少年に1000円札を渡して退散させた。

ギクッ。

おれは財布の中身を改めて冷や汗をかいた。今、少年に与えた1000円はおれの全財産だった。給料日まで一週間。おれはブラジャーを拾うまで、1日100円弱で生活する覚悟をしていた所だった。

グ~~~ッ。所持金がゼロになったことを知るとたちまち腹が減ってきた。公園に食べられる草を探しにいこうか。ピンポン!😃💡おれは閃いた。

「そうだブラジャーがあるじゃないか!」

見たところブラジャーは繊維質でできている。これは食物繊維が豊富な証拠である。

いったいブラジャーとはどれだけ多様な使い道があるのだろう。ハンカチになる。食用になる。かぶってよし。嗅いでよし。かけてよし。つけてよし。はいてよし。振り回してよし。無人島🏝️に一つだけ何かをもって行くなら当然、ブラジャーである。泥水や海水もカップ部分で濾せばたちまち真水になるはずだ。聖書や豪華客船と答えるやつは飢えて死ねばいい。

ブラジャーの立ち食いは行儀が悪いのでベンチのある公園に行った。

さて、このブラジャー、どこから食べようか。おれは腕組みをして沈思黙考した。たい焼きを食べる時に頭から食べるか、それともしっぽから食べるか、という下らない議論がある。おれは当然、腹から食べる。なぜならたい焼きの中に、刺客がナイフを仕込んだ場合、頭もしくはしっぽからかぶり付くと、ナイフで喉を貫かれて死ぬからである。

おれはホックでも、肩紐でもなく、カップにかぶり付いた。

「硬い。キミ!実に食べごたえがあるじゃないか!」

豊かなバストを包み込んでいる時はあんなに柔らかそうに見えるのに不思議だ。なぞなぞ、硬いのに柔らかいなーんだ。答えはブラジャーである。

おれは歯で破いてほぐすと、ブラジャーの繊維を一本ずつよく噛みながら飲み込んでいった。ブラジャーは水分がないので喉につまる。公園の水を飲みながら、1時間かけて四センチ四方をゆっくりと食べた。

まだこれだけの面積がある!ブラジャーを食べれば今はやりのスローフードが自然と身につく。大したものだ。みんなも健康のために今すぐブラジャー食を実践すべきである。

お金がないとやることがない。それにブラジャーを食べたらアゴがすごく疲れた。公園のベンチでのんびりしながら、ブラジャーの更なる活用法を考えることにした。

「お巡りさんあいつです!」

さっきの小学生だ。小脇にコロコロコミックを抱えた少年がこっちを指差している。隣のいかついお巡りさんが肩をいからせてこっちへ向かってきた。

おれはとっさにポケットから名前ペンを取り出すと後ろを向き、でかでか

「1GUHS 大橋義雄」

と書いた。不利になってもこの名前を見せればたちまち立場は逆転、おれの無実は証明されるだろう。おれは自分は潔白だといわんばかりに、白旗🏳️を降るように白いブラジャーを振り回した。

ブンブンブンブン。ん??

Boom-Boom-Boom。

おれの体はたちまち空高くに消えた。

このブラジャーは本当に天からのギフトだった。ブラジャーは「反」重力の繊維でできているのだろう。振り回したブラジャーがプロペラになっておれはいま空を飛んでいる。さっきの巡査と少年がケシ粒のようになって見えなくなった。町が遠くになった。

おれはブラジャーを振り回すのをやめてみたが、ブラジャーは惰性で回り続けている。高速で回転するブラジャーを手で止めることは危なくてできない。コントロール不能、おれの意志に反してどんどん高度が上がっていく。おろしてくれ。寒いし空気が薄くなってきた。意識が朦朧としたおれはブラジャーから手を離してしまった。軽くなったブラジャーは急上昇していった。しかしそれでもおれの体はぐんぐんと浮かんでいく。さっき食べたブラジャーが体内で活性化して、重力に逆らっておれを空に飛ばしている。何だか眠くなってきた。もう疲れたよパトラッシュ。なんだかとっても眠いんだ。♪空を自由に飛びたいな。ハイタケコプター ♪アンアンアンとっても大好きドラエモン。。。


後日、南富士山駐屯地の敷地内に「1GUHS 大橋義雄」と書かれたボロボロのブラジャーが落ちているのが見つかった。よしお陸士長はおれのじゃない!と必死になって訴えたが誰も信じてはくれなかった。怒ったよしおは抗議の無人島🏝️ソロキャンプに出航した。半年後、精強無比になったよしおは3曹に昇格し、無人島🏝️から泳いで帰隊した。よしおの肩幅は3倍も広くなり、肌は松崎しげるよりも日焼けして黒かった。

そんなよしお3曹は屈強で近よりがたい存在となっていたが、食堂で、うかつにも羽賀陸士長があのブラジャーの話題を持ち出してしまった。羽賀はもう一度ブラ、、、と口に出した時には、言い終わらないうちに天井を突き破って、キラーンと星になって消えてしまった。

その夜、山崎陸士長は2筋の流れ星🌠を見た。一つは本多、もう一つは羽賀が大気圏で燃え尽きたものだった。山崎は流れ星が消えないうちに願い事を唱えた。


P.S. 南富士山(仮名)のみんな、元気にやってるかな?

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