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ハーラン・エリスン 世界の中心で愛を叫んだけもの(1968)

「世界の中心で愛を叫んだけもの」の要約です。
 
(山上たつひこの「イボグリくん」みたいな不条理ギャグで始まり、一転してハードなSFになります)
 
ウィリアム・スタログという男が、牛乳配達員を後からつけて、家庭に届けられた牛乳瓶の一本一本にたっぷりの猛毒を入れて歩きます。二百人の老若男女が絶命。
 
スタログの叔母が末期癌にかかったという報せが届きます。彼は母を急き立ててスーツケースの荷造りをして、空港に送ります。スーツケースにはセットされた時限爆弾とダイナマイト。飛行機の爆発で母を含めて全員即死。
 
ある日、スタログは野球場へ行き、スタンドの上からサブマシンガンを取り出して、立ち上がった観客の背中に掃射を開始します。彼は群衆に取り押さえられるまでにたくさんの人を殺します。


イボグリくん

(あまりにもムチャクチャで、ここまで来るとギャグだよね。ここからハードSFに突入します)
 
宇宙探検隊が、彫刻室座方向にある惑星で、彫像を発見します。一人の男をかたどった巨大な彫像です。
 
男の顔は、ふしぎな至福の表情に輝いています。尖った頬骨、落ちくぼんだ目、広がった鼻の穴、異様に小さな口。
 
像の下にたたずむ彼らの、誰一人として知る由はありませんが、巨大な彫像の顔は、ガス室での死刑を宣告された時に裁判官に見せた、スタログの至福の表情とまったく同じだったのです。
 
スタログは「おれは世界中のみんなを愛してる」と叫んだ。
 
(彫刻室座だけに、どこかの彫刻家の宇宙人が地球を観察していて、彼の大量殺人の記念碑をつくったとか?続きを読むとそうじゃないんだけどね。「猿の惑星」の猿の顔をしたリンカーン像を思い出した)


リンカーンの顔が猿


 
「交叉時点」というムズカシイ言葉がでてきます。簡単に言うと「世界の中心」。我々が考えたり、認識できる時間や空間がまったく意味をもたないところです。時間も、空間も、平行に存在するたくさんの宇宙も、この世界の中心では区別がありません。
 
「レベル・パープル」の深紅のプールにうずくまるドラゴンがいます。7つの頭を持ち、犬の顔をしています。
 
ドラゴンはたくさんの目玉をらんらんと光らせ、飢えて、そして狂っています。ドラゴンは殺戮のあと、正気を失い、レベル・パープルに閉じ込められました。
 
レベル・パープルをジグザグと走る一筋の光線。感情や思考に反応する特殊な光線はドラゴンを探し回っています。
 
ドラゴンは光線から逃れるために7つの脳を自ら脳死状態にしました。光線はドラゴンを素通りしましたが、熱探知や質量センサーによって脳死のドラゴンは見つかり、彼が意識を取り戻すと、レベル・レッドの監獄病院に監禁されていました。
 
猿ぐつわをかまされ、琥珀色のゼリーに浸かっています。ゼリーのベッドは反重力・無重力・全身の筋肉を弛緩させ、鎮静剤が溶け込んでいます。
 
司法官のライナと、科学者のセンフの二人が無力なドラゴンを前に話をしています。
 
ドラゴンを政治的な取引の材料にするそうだ。
 
ドラゴンは遠い遠い昔から、遥かな未来、あらゆる生物、あらゆる場所、多元宇宙のすべてに災厄をおよぼす危険な存在です。
 
ドラゴンを「排出」することで、二人のいる「時」の汚染を取り除くことができるそうです。ここらへんの会話は正直よくわからん。
 
科学者はドラゴンを作業ステージに移すと、機械のスイッチが点き、ステージにつながった排出物タンクが火花と煙に包まれます。
 
ドラゴンに人間の姿がオーバーラップし、やがてドラゴンは一人の正常人の姿に変わります。
 
邪悪なドラゴンの狂気は密閉したタンクに封印されめでたしめでたし、と思いきや、タンクに詰まっているのは残りカスで、危険なエッセンスはあらゆるところに散らばってしまいます。
 
狂気とは生きた蒸気の形をしていて、びんに閉じ込めることができるのに、蓋の空きやすいびんに閉じ込めたのだ。
 
科学者のセンフは裁判にかけられて死刑を宣告されます。わざとやったみたいだし、どういうことなんだろうか・・・。彼もまた「同胞を愛している」と叫んでいる。センフは自分自身を「排出」して、ドラゴンのように人間の姿ではなくて、「生きたパピルス」の姿に変身している。パピルスって古代エジプトの紙のことでしょ。それに顔がついてるってことか。おもしろい発想だねえ。笑
 
フン族の王アッティラはローマで略奪と焼き討ちを行った。そんな絶望的な時にローマの権威を守ったのが、教皇レオ一世。ラファエロの壁画には聖ペテロと聖パウロの使徒が、教皇に力をかすために天国から降りてくるところが描かれている。アッティラは彼らの勢力を遮るものは何もないのに、急にローマの破壊をやめて、軍を引き返した。

全宇宙に散らばった狂気は、切れない一本線(ーーーーー)ってわけじゃなくて、プツプツと途切れ途切れ(・・・ーーー・・・)なんだろうね。モールス信号みたいなイメージ。笑

その後ローマはヴァンダル王ゼイセリクスによって略奪されたが、ドラゴンから排出された狂気が届かない時空もあるみたいだ。
 

ラファエロの壁画


ある日、ドイツでフリードリヒ・ドルーカーという人殺しが、焼けたビルの残骸(スタログみたいにこの男の仕業じゃない?ビルに爆弾を仕掛けたとか)から見つけた七色の箱を開けると、つむじ風と悪魔の群れが飛び出し、紫の煙が立ちのぼった。
 
ドルーカーが紫の煙についてゆっくり考えるひまもなく、翌日、第四次世界大戦が勃発した。

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