見出し画像

【JICA Volunteer’s Next Stage】ブルキナファソでのブログ発信から記者へ

人間関係も仕事も0から作り上げる


☆本コーナーでは日本で活躍するJICA海外協力隊経験者のその後の進路や現在の仕事について紹介します

西出 直哉さん
●出身地 : 京都府京都市出身
●隊 次 : 2010年度1次隊
●任 国 : ブルキナファソ
●職 種 : 環境教育
●現在の職業 :日本テレビ 報道局社会部 記者
       (株式会社Jpエンジン)


大きな反響に鼓舞
 ひたむきに生きる人に光を当てる仕事がしたいという思いから、記者として発信を続けているのが西出直哉さんだ。西出さんは現在、日本テレビ社会部の記者として、こども家庭庁と環境省を担当し、ニュースを届けている。昨年までは遊軍記者としてコロナと戦う社会の様子などを報道してきた。メディアを志す一つのきっかけになったのは、協力隊員のときに書いていたブログだった。ブルキナファソというアフリカの中でも知名度が高くない土地について発信を続けたことで、少しずつ注目が集まり、全く知らない読者から「通勤時に毎日見ています」「更新を楽しみにしています」など反響が届くようになった。電波が悪く、更新に苦労したからこそ、コメントなどで日本と接点を持ててうれしかったという。「みんなが知らないような国で、なかなか見られなかったり体験できなかったりすることを、実際に現地で見られることが刺激だったし、自分が発信したことにレスポンスをもらえて、人に伝わることに喜びを感じた」と西出さん。
 現在も視聴者からの声がやりがいとなっている。個人ブログとは比にならないくらい反響が大きく、取材したニュースの中にはYouTubeで285万回(1月9日現在)再生した動画もある。コメント欄には温かな言葉が多く、世の中の関心が高いニュースを発信していることが分かる。
 「ネタ探しから番組をつくるところまで0から1をつくる仕事が多いが、そこには協力隊の経験が生きている」と西出さんは語る。「例えば、こども家庭庁は2023年に発足したため、記者クラブも0から立ち上がった。行政との関係だけでなく、横のつながりも作って他社とも連携しながら取材活動に臨めている。コロナも誰もが経験のない事態だった。どのように報じればいいか先例がない時も、いろいろな人に飛び込みで取材した。協力隊では、母語も文化も異なる外国人に協力を得ないといけなかった。それを考えると、日本で言葉が自由に伝わる状況で頭を下げてお願いすることはそこまで難しくない」。

環境庁の記者クラブで原稿を作成する西出さん=2023年12月に撮影
協力隊でSIAOにリサイクル製品を出展した時の様子

『捨てればごみ、拾えば資源』を伝える
 協力隊ではブルキナファソ・クーペラ市の環境・持続開発省クリテンガ県局に所属。任地は、隣国や他の都市に行くバスのターミナルとなっており、多くの人が行き交っていた。現地の人々はバスからごみをポイ捨てすることが多く、中でも“レジ袋”や飲料水の入れ物のビニール袋が目立った。西出さんは「あまりにもポイ捨てが多かった。『捨てればごみ、拾えば資源』という概念を伝え、何とかごみ問題を解決しようと思った」と言う。その後、美化活動をしていた女性団体と一緒にごみの回収を始めた。
 首都ワガドゥグで2年に1度行われるワガドゥグ国際工芸見本市(SIAO)を訪れた西出さんは、ビニール類をリサイクルしたリュックや財布などの商品を見つけた。任地でも同じようなリサイクル品を作ることでポイ捨て問題を解決したいという思いを抱き、お土産にリサイクル商品を買って任地に帰った。しかし間もなく、政情不安が理由で日本に一時帰国することに。だが4カ月半後、任地に帰ると、一緒に活動していた女性たちが見よう見まねでビニール袋を再利用した製品を作っていた。「それまでは、途上国の人には一から技術を教えないといけない、と彼女たちの能力を見くびっていた。彼女たちには技術はあるが、その技術や人材をうまく生かせていないことが課題だったことに気づいた」(西出さん)。その後は、SIAOで売られていた財布やリュックサックよりも制作が簡単で、端切れも出にくいトートバックやランチョンマットの制作に取り掛かった。西出さんは次回のSIAOまで任期を延長すると決めた。一時帰国後、協力隊員が少なくなってしまったが、西出さんが過去の出展団体や隊員関係者に声を掛け回り、準備を進めていった。任地で作った商品も出展し、日本人バイヤーの目に留まったことがきっかけで、日本の百貨店への販路拡大にも成功した。
 この行動力を記者の活動でも生かしていると語るのは、西出さんの上司で、日本テレビ社会部デスクの庭野めぐみさんだ。「人に食い込む力がある。取材対象者の胸に飛び込み信用されることで、しっかり情報を得てくる。取材前には真面目に勉強をしているし、真摯に向き合っている姿が取材相手にも伝わるのだろう」と称える。
 マスメディアで伝えるという重責のある仕事だが、取材に協力してくれた人にもポジティブな影響を与えられるように、相手のバックグラウンドも想像しながら仕事をしているという西出さんを見習いたい。
(編集部・吉田 実祝)

一時帰国後、職人が見よう見まねで作った織物を見せてくれた
ブルキナファソの職人たちと。トートバッグやランチョンマットを作った

掲載誌のご案内
本記事は国際開発ジャーナル2024年2月号に掲載されています
(電子版はこちらから)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?