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【Trend of JICA】SDGsネイティブ世代に打ち込み

改定大綱でも強調された開発教育
国際協力の関係者には、「中高生のころ、途上国の課題に触れた」「国際協力に関わっている人の講演を聞いたのがきっかけ」と話す人が少なくない。2023 年6 月に閣議決定された改定開発協力大綱では開発教育/ 国際理解教育の一層の推進が明記された。持続可能な開発目標(SDGs)の浸透やオンラインツールの普及、外国につながる子どもの増加もあって変化の時期を迎えるJICAの開発教育/国際理解教育支援の動きを紹介する。



学校側からの要望テーマが多様化

 JICA の開発教育支援の取り組みは、大きく5つある。主に子どもや学生を対象としているのが、①自分の体験から感じたことをまとめる「国際協力中高生エッセイコンテスト」と、②国際協力の関係者が体験談などを話す「国際協力出前講座」、③展示を通して学習を深める「JICA 地球ひろば等施設訪問」の3つだ。主に教職員を対象にしているのは、④「教員向け研修・セミナー」と、⑤「開発教育のための教材の作成・提供」の2 つで、研修の中には、教員が途上国の現場を訪問し、現地の課題や解決に向けた取り組みを知る「教師海外研修」などのプログラムがある。
 総合調整や全国対象のプログラムをJICA 広報部地球ひろば推進課が所管し、地域での取り組みは各地を所管する全国15カ所の国内拠点が、学校や自治体と連携しながら進めている。
 「小学校の社会の授業で、発展途上国でお米を食べられない人がいることを知って驚いた。自分が農業を学んで伝えに行ければ、少しでもお米を食べられる人が増えるのではと思った」
 これは2022年度のエッセイコンテストで入賞した農業高校生のコメントだ。2022年度のコンテストでは、全国の中高生から約44,000 件の応募があった。
 コロナ禍の2022年度でも、全国で約1,700件を実施し、受講者数が15万人近くに上るのが出前講座だ。JICA海外協力隊の経験者らが学校を訪問し、現地の様子や活動について話すものが多い。この出前講座が大きく変わりつつある。
 変化の一つは、学校側からの要望が「難民に関する話が聞きたい」「SDGs と国際協力の話を」「現地の農業について話してほしい」など多様化してきたことだ。JICA 地球ひろば推進課の畔上智洋課長は「2020年以降、導入された小・中・高校の新たな学習指導要領で『持続可能な社会の創り手の育成』が明記され、教科書にSDGs が多く取り上げられたほか、新たな高校必修科目の地理総合に国際理解と国際協力が柱に据えられたことや、総合的な学習の時間の拡充といった教育現場の変化が背景では」と分析。「"SDGs ネイティブ" の世代に、さらに国際協力への理解を深めてほしい」と話す。
 もう一つは、オンラインツールの活用。以前から、派遣中の協力隊員の活動として、現地の学校と隊員の地元の学校とのオンライン交流などはあったが、オンラインツールの普及により、現地から出前講座を実施することも可能になった。「オンラインであれば、派遣中の隊員やJICA 事務所員に加え、現地の住民や関係者も一緒に話すことも可能だ。子供たちに現場の様子を体感してもらうこともでき、学校側のニーズも高い」(畔上課長)。

出前授業で、JICA関係者から、世界について学ぶ子どもたち

文科省、大学との連携を強化

 開発教育の内容に加え、そのアプローチにも変化がある。2023年3月、JICA東京は文部科学省所管の国立教育政策研究所と共同で国際教育比較調査を始めた。対象はイギリス、カナダ、オーストラリア、韓国の4カ国で、開発教育への示唆を得ることを目的としている。背景に、文科省との連携強化の動きがある。
 JICAはこれまでも全国各地で教育委員会との連携を推進してきた。加えて文科省の方針の把握とそれに沿った事業展開を重要視し、情報交換や双方の事業での連携を進めている。2023年度から文科省とJICAの定例意見交換会も新たに始めた。
 今後は、大学生へのアプローチも視野に入れている。特に重視しているのが、将来、教員になる学生が多い教育系の学部だ。学習指導要領の改定で教科書にもSDGsの記述が増えているが、「国際系の学部に比べ、教育系の学部では、開発途上国の問題やなぜSDGsが重要なのかということは授業であまり取り上げられていないようだ。教員の卵である学生の段階でJICAが貢献できる部分はあるのでは」と畔上課長は指摘する。


開発コンサルタント、NGOとの協働も

 今後について畔上課長は次のように話す。「協力隊応募者の約4人に1人が志望動機の一つとして何らかの形の開発教育を記載していた。文科省でも海外の日本人学校への教員の派遣効果をみるため、資質・能力の向上を数値で示す工夫を試みている。開発教育についても、国際協力人材の裾野拡大や教育的効果などを検証・発信し、取り組みの強化につなげたい」
 また、開発に関わる他のアクターと一緒に開発教育を盛り上げていくのが理想だという。
 「開発教育を全国の児童・生徒に広く届けていくために、教育や現場での知見・経験が豊富なNGOやコンサルタントの皆さんと連携して取り組んでいけないかと思っている。生徒たちは多様な取り組みや課題を知ることができ、それがきっかけとなって、将来のコンサルタント、スタッフが生まれるかも知れない」
 開発教育は「5年後、10年後の国際協力の担い手や理解者を育てる取り組み」ともいわれる。公的機関ならではの息の長い取り組みが続く。


【Interview】進路選択の軸に国際協力

きっかけは中学校での「総合学習の時間」
アイ・シー・ネット株式会社 ビジネスコンサルティング部 佐藤 綾香氏

 国際協力との最初の接点は、中学生のころの「総合学習の時間」。気になる新聞記事を選んで、関連することを調べ、壁新聞を作るという内容だった。
 新聞を見ていると、ユニセフのイベントの記事があった。小学校のとき、「ユニセフ募金」の取り組みがあり、ユニセフが子どもに関係しているというイメージはあったが、詳しくは知らなかった。そこでユニセフについて調べることにした。
 調べてみると、ユニセフが各国の支援で成り立っていることが分かった。日本が戦後、ユニセフからも支援を受け、それが復興につながったことを知って、衝撃を受けた。世界中で戦後の日本と同じような状況があり、ユニセフの活動が続いているという。図書室で関係する本を探し、ストレートチルドレンの調査や支援に関わっている人の本も読み、「こういうことで困っている子どももいる」と感じた。
 このことがきっかけになって、親とも世界のことについて話すようになった。高校生になると、「海外に行ってみたい」と思うようになり、自治体の姉妹都市への派遣事業でカナダに行き、ホームステイを経験した。ところが英語ができなかったので、交流プログラムに参加しても内容が分からないし、滞在先との家族とも話ができなかった。「言葉ができないと始まらない」と感じ、大学選びでは外国語が身に着けられる学校を選んだ。大学は、国際開発や開発経済を学ぶことができる学部を選んだが、途上国を含めた生活の改善につながる仕事として、製造業の会社に就職した。海外からの調達などの仕事をしながら、ボランティアとして外国ルーツの子どもたちに勉強を教えたり、休暇にネパールの孤児院で活動したりした。
 9年間、この会社で働き、仕事も覚えたが、長年、関心のあった国際協力の分野に一度、飛び込んでみようと転職した。現在は、ブルキナファソでのJICA の教育関連の事業や、教育機材を海外で普及する民間企業の案件などに関わっている。子どもへの関心から、教育や人を育てる取り組みへの関心に広がっていったが、進路選択の軸にはいつも、国際協力への思いがあった。そのきっかけは、総合学習の時間だった。
 最近は「社会の役に立ちたい」というマインドの学生も増えている。そうした世代に世界の課題や国際協力の取り組みを伝えられれば、きっと将来の選択肢の1つになると思う。


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本記事は国際開発ジャーナル2023年8月号に掲載されています
(電子書籍はこちらから)


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