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アイフィールプリティが救うのは女性だけじゃない

映画「アイフィールプリティ」
自尊心と自己肯定感の大切さがテーマの作品。
笑って泣いて、共感しての2時間だった!

レネー(主人公)の気持ち、わかる、わかるよ!と感涙した5秒後に笑わせにくる、テンポとバランスが絶妙で、ある程度展開は読めていても飽きさせない。

絶世の美女になった(と勘違いした)レネーの常識外れな言動は、共感性羞恥が極度に強い人には耐えがたいかもしれません。

美女になった主人公を二人一役にせず、本人のメンタルと笑いで乗り切ったところに拍手を送りたい。エイミーシューマー、あんた凄いよ!
ラストのレネーのプレゼンの力強さとストレートさにアメリカ!を感じた。察する、くみ取ることよりも、言語化して意思表明をする、そこにはまっすぐな言葉の力が確かにあった。

エミリーラタコウスキー演じるマロリーも自尊心が低く悩みがあること、どんな美女もコンプレックスがあることを描いてくれてよかった。


ただ、コメディなので目を瞑ったほうがいいのかもしれないが、いくつか気になる点も。

以下、映画の展開に関わるネタバレを含みます。

まず真っ先に思い浮かぶのが、全編を通してナンパされること、ホットに見られることが名誉なこととして描かれていた点。今は2019年、キャットコール(野次)がストリートハラスメントとして認知されてきている。現実においてもナンパをされてあら、嬉しい!なんてことはまぁまず無い。迷惑なものとして世間にようやく定着してきた最中にこれはどうなの?

マロリーがドラッグストアで突然ナンパされるシーン、どうせならもっとあからさまにあしらえばいいものをなぜやんわりと社交辞令を吐かせてまで丸く収めたのか現実味のなさにモヤっとした。

一方で、レネーの勤めるコスメ会社や5番街通りに脚の長〜い美女しかいないのは「いやいや実際そんなわけねーだろ!」と思う人もいるかもしれないが、女性が自分を惨めに感じるという心理描写を大げさに表現したのだと思うと納得できる。

「美醜」というテーマに踏み込んだ話をすると、レネーが勘違い行動のあれこれから高飛車になってしまい、友人2人から縁を切られてしまうシーン。「美人になることが夢なんて悲しすぎる」と友人に言われたところに疑問を感じた。

いいじゃないか、美人になることが夢だって!欲を言えば、「ありのままを受け入れる」だけではなく、もう一歩踏み込んで「自分の理想を追い求めて努力する」姿も描いてほしかった。私が監督なら最後のエアロビのシーンでレネーに叫びながら自転車立ち漕ぎさせたなぁ、、、


映画の感想をつらつらと書いていると、もっと根本的なテーマが見えてくる。この映画では「男性にジャッジされる圧力」がスッポリと抜け落ちているのだ。女性が自分にコンプレックスを抱くとき、男性の視線が関与していることは少なくない。
世間(その半分を構成している男性)の規格に則った美しさを追い求めるとき、ありのままの自分とギャップを感じて悩み苦しんだ経験は、多くの女性があるのではないだろうか。

ところが「アイフィールプリティ」に登場する男性は皆レネーに優しく、レネーのはつらつとした言動とまっすぐな内面に惹かれていく。正直、そんなうまい話あるかいな!とツッコミながら観ずにはいられなかった。

本作ではその「男性からジャッジされること」にほとんど触れないところに違和感も感じたが、この作品が本当に描きたかったのはいがみあう男性vs女性ではなく、ルッキズム、マチズモで溢れる男性至上主義社会に生きるコンプレックスを抱えた全ての人なのかもしれない。

美女として目覚めたレネーの前に現れたのは、男性的な環境に馴染めない男性、イーサン。社内の男性優位的な空気感に馴染めず、恋にも奥手な彼は「女性向け」とされているズンバエクササイズに通っている。自分主導でグイグイ引っ張るレネーに振り回されるうちに、いつしか心地よいと感じはじめる奥手な姿は「草食系男子」を彷彿とさせる。

彼もまた、「女性をリードしてこそ真の男」という呪いをレネーの魔法で解放した主人公なのではないか。

もう一人の色恋要員、社長の弟のグラントも、美貌や金目当てに寄ってくる美女たちとは一線を画すレネーの奔放さに惹かれるも、最終的にヴィランには転じずレネーの活躍を応援するようになる。

自分を愛することで、周りの人々と本気で向き合えるようになる。そんな優しい世界も、あながち遠い理想ではないのかもしれない。

それにしてもこの映画、ブスやデブといった言葉が一言も出てこない。日本でこの作品を作ったとしたら、まず必ず出てくるだろう。ハツラツに生きることで、変なヤツ!と思われても、誰も貶さない。私たちの社会がアイフィールプリティのような映画を生み出し、観客が心から笑ってヒットする日が来るのはいつになるのだろうか。

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