「保育園落ちた日本○ね」はロスジェネ解放運動である

今(2018年)アラフォーの女性たち、人口の多い団塊ジュニア世代だけあって、大学生くらいまでは自分が文化の中心近くにいるという感覚があったのではないでしょうか。

公称「250万乙女」が雑誌りぼんを愛読していたとき、団塊ジュニア世代はちょうど小学生。250万乙女の一員だったはずです。
少女小説が大流行し、コバルト文庫、X文庫が最盛期だったときは中学生。まさにど真ん中でした。「なんて素敵にジャパネスク」はほとんどの女子中学生が一度は手にしたことがあったはずです。

高校生の間でルーズソックス、ポケベルが爆発的ブームになった時代、まさに女子高生でした。
大学時代は、歌姫ブーム。椎名林檎、安室奈美恵、浜崎あゆみなどの同年代の女性の歌手が大ヒットを飛ばしていました。

でも、同年代の女性が何らかのムーブメントを起こすのを見たのは、それが最後だった気がします。かろうじて、新入社員の頃、エビちゃんが流行ったくらいでしょうか。
そのエビちゃんが着る服もどんどんプチプラになっていき、やがてファッションの最前線からはフェイドアウトしていきました。

どうして急に、社会から同年代の女性が消えてしまったのか。それは間違いなく、就職氷河期の影響のはずです。今思うと、エビちゃんの演じた「愛されOL」は、理想通りの就職が出来なかった氷河期女子の最後の見栄だったのかもしれません。
本来なら華のF1層、生まれる時代が違っていたら、海外旅行ブームや高級ブランドブーム、ワインやフレンチブームの担い手になっていてもおかしくなかったはずです。
ところが実際は、多くの女性が非正規労働者として就職し、旅行やファッションを楽しむような余裕はなかったのです。

およそ十数年ぶりに同年代の女性がムーブメントを起こしているのを見かけたのは、「保育園落ちた日本○ね」運動でした。
かつての同級生はみんな、就職氷河期の谷底に落ちたまま行方不明になってしまったような気がしていたんです。あの運動が起こって、かつての仲間が次々と声を上げているところを見て、「みんな、生きてたんだ……!」と感動したものです。

正直なところ、自分一人だけだったら、声を上げようとはしなかったかもしれません。一応飢えはしない程度の収入はあって、週末に録り溜めたドラマを缶チューハイ片手に消化したり、月に1回くらい友達とトリキで呑めるくらいの余裕があれば、高望みせずに穏やかに生きていけると思っていたかもしれません。

でも、今そういうわけにはいかないのです。なぜなら、子供を育てるという責任を負ってしまったからです。子育ては、「食べるに困らなければいい」わけにはいきません。将来の学費を貯めておきたいし、出来れば何か習い事もさせてあげたいし、高学年になったら塾にも行かせてあげたい。そのためには、育児中でも安定して仕事を続けられる環境が不可欠なのです。

だから私は、「保育園落ちた日本○ね」の運動は、女性解放運動ではなくて「ロスジェネ解放運動」だと思っています。今までずっと牙を抜かれて飼いならされていた私たちが、次世代という守るべき存在を得て、ついに立ち上がったのです。

日本は、「量的には」第3次ベビーブームを起こすことに失敗しました。しかし、「質的には」まだ終わっていません。今の子供たちが、十分な教育を受けられて、それぞれの個性を遺憾なく発揮できるような世の中になれば、日本はまだ死なないはずだと思っています。だから私は、ロスジェネの一員として、少なくとも子育てに関することだけは、臆面なく声をあげていきたいと思っています。

そういえはエビちゃん、最近10年ぶりに「お母さん役」として資生堂のCMに復帰しましたね。ロスジェネ世代が自我を取り戻した、象徴的な出来事のような気もします。

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