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新元号「令和」の出典を現代語訳してみた

新しい時代が清く美しい光で照らされ、やわらかで爽やかな風に彩られますように。
令和の二字を目にしたとき、まっさきに浮かんだことでした。

新元号の発表に感激しております。

それは和歌(とくに古今集と万葉集)が大好きなツキサカの、大好きな序文の、指折りの大好きな一文の引用だから、というだけでなく、それよりも、今この時代にこの一節が選ばれたことへの感激です。

今までの多くの元号って「平和に統治する」「大きく事を成す」といった意味合いが大きかったと思うんですね。平和・共存とともに、統治・達成・成就の意味が強かった。あくまでも govern、achieve。

それが、それがですよ。この、細やかで風流な日本語が失われ、混沌殺伐とした中であらゆる日本が斜陽に向かっている時に「清らかで美しい月、静穏でやわらかな風」とな。控えめにいってヤヴァイです(オイ、その日本語があかんのや!)

日本語を母語に生まれついて幸せ…なんて美しいんでしょう。
この間、大学の近くの湯島天神梅まつりに行った折にしたためて下書きのままにしていた「梅花の宴」の文なのですが、急遽題目を変更。新元号のせっかくの美しい出典が書き下し文しか出回っていないようなので、現代語訳の紹介をさせてください。本当は原文や書き下し文で読めたらいいのだけれど、親しみのない人にもたくさん愛でてほしいなぁ。書き出しがねぇ、本当に美しいんです…(⸝⸝⸝´_ゝ`⸝⸝⸝)🌸🍃

最初にただすと「令が『命令』みたい。となると、和も『大日本帝国』みたいに見えて気持ちわるい…」というツイートを見かけることが少なくない、その気持ちは今の政治を見ていて分からなくないですが、ちがいます。

以下の現代語訳を読んでくださればわかる通り「令」は、出典中の文脈では「清らかで美しい」という意味です。命令の令ではありません。「令月と風和」つまり「清らかで美しい月と、静穏でやわらかな風」。月と風を、爽やかに朗らかに、晴れやかに愛でるのに選び抜かれた、流石の一字だと思っています。
(ちなむと「令」は「命(いのち)」という漢字のもとでもあります。甲骨文字や金文では令の字を命の意味で用いています)

たった三十一文字のうちに情と景とを詠み込んで、その歌のやりとりによって、人に恋をし愛をし憎みもした和歌の時代は、日本語の力が一番にあった時代のように思います。「目に見えない思いの丈を言の葉にのせて伝える」という薫り高い大力が。Twitterでも140字なのに(笑)たった一節を口ずさむだけで同じ歌の情景を浮かべることのできた時代の人々が羨ましい。令も和も、その時代の流石の一字です。

末尾にはおすすめの万葉集本も載せました。 なお、令和の名は序盤の太字の一文からです。

❁❁❁❁
『万葉集・巻五・815~846:梅花の歌三十二首あわせて序』

旅人の邸宅で催された歌会「梅花の宴(ばいかのえん)」にて。(現在の太宰府国分寺のあたりです)

折しも、初春の佳月は美しく映え、空気は清く澄みわたり、静穏な風がやわらかにそよいでいる。梅は美しい女が纏う鏡前の白粉(おしろい)のように咲いて、蘭は身を飾った香のように薫る。

そればかりか、明け方の峰には雲が移りうごいて、松は雲の薄絹をまとって蓋(きぬがさ)をさしかけたようだ。夕方の山洞(山のくぼみ)には霧が湧きおこり、薄霧に鳥が閉じ込められて林を飛び交っている。庭には生まれたばかりの蝶が舞い、空には秋に来た雁が帰っていくのがみえる。

ここに一同、天を屋根(きぬがさ)とし、地を座として、膝を近づけ盃をかわす。皆、一室の裏に言葉を忘れ、雲霞の彼方に向かって胸襟を開いている。心は淡々としてただ自在に、思いは快然としてただ満ち足りている。ああ、文筆によるのでなければ、どうやってこの心を表すことができよう。

漢詩にも落梅の作がある。
昔も今も、何の違いがあろうぞ。
さあ、この園の梅を題として、しばし倭の歌を詠もうではないか。
❁❁❁❁

といって和歌が続くのです。美しかろう…🌸🍃 

古今集になりますが、月坂架がいちばん好きな春の歌です。

以下、月坂架の好きな『万葉集・巻五・815~846:梅花の歌三十二首あわせて序』の歌を紹介します。(訳文は恐縮ながら、出典を参考にしつつ月坂架が改編しています。序文訳についても同様です)おすすめ本、月坂架の戯言などはその下にあります。下のコメントにもお目を通していただけると嬉しいです。

815番 大弐紀卿
「正月(むつき)立ち 春の来らば かくしこそ 梅を招(を)きつつ 楽しき終へめ」
訳文
「正月が過ぎ春がやってきたならば、毎年このように梅の花を迎えて、楽しみの限りを尽くそうぞ」

816番 少弐小野大夫
「梅の花 今咲けるごと 散り過ぎず 我が家の園に ありこせぬかも」
訳文
「梅の花よ、散ってしまうな。今咲いているように、我が家の園にずっと咲き続けておくれ」

(815番をうけて816番では眼前の梅の不変を願っている)

829番 薬師張氏福子
「梅の花 咲きて散りなば 桜花 継ぎて咲くべく なりにてあらずや」
訳文
「梅の花が咲いて散ってしまったら、後にはちゃんと、桜の花が咲くようになっているではないか」

830番 筑前介佐氏子首
「万代に 年は来経とも 梅の花 絶ゆることなく 咲きわたるべし」
訳文
「万代の後まで、春は訪れ、また去ってゆくけれど、この梅の花は絶えることなくここに咲き続けるであろう」

832番 神司荒氏稲布
「梅の花 折りてかざせる 諸人は 今日の間は 楽しくあるべし」
訳文
「梅の枝を折り髪を飾っている人々は皆、今日は一日、楽しみが尽きないであろうよ」

833番 大令史野氏宿奈麻呂
「年のはに 春の来たらば かくしこそ 梅をかざして 楽しく飲もう」
訳文
「春が巡って来たら、来る年も来る年も、こうやって梅をかざして、思いきり楽しく飲もうではないか」

834番 少令史田氏肥人
「梅の花 今盛りなり 百鳥の 声の恋しき 春来(きた)るらし」
敢えて訳しません

835番 薬師高氏義通
「春さらば 逢はむと思ひし 梅の花 今日の遊びに 相見つるかも」
訳文
「春になったら逢いたいと思っていた梅の花だったけれど、その梅の花に集った今日のこの宴で皆にめぐり逢うことができたよ」

846番 小野淡理
「霞立つ 長き春日を かざせれど いやなつかしき 梅の花かも」
訳文
「霞の立つ長い春の日、その一日中、こうやって髪に插している(挿して飾っている)けれど、この梅の花ときたら、ますます心惹かれて離しがたい気持ちだ」

【三十二首をすべて楽しみたい方へ】
こちらのサイトに紹介があります
・http://manyou.plabot.michikusa.jp/manyousyu_maki5.html
・http://souenn32.hatenablog.jp/

【はじめて手にとる方におすすめの万葉集本】
https://www.amazon.co.jp/dp/4061313827 
月坂架が選んだ基準
・原文の掲載がある
・現代語訳が原文に忠実でいて美しい
・価格が手頃
・できれば大判サイズでなく持ち運べるもの
欠点
・解説文が少ない

いちばんおすすめなのは、できれば一冊は、どれでも良いのでいいなと思ったものを自分で購入し、それを携えて図書館に行って色々な訳本や解説本を広げ、気にいったものを書き足していくことです。万葉集に「書き下し文」があるのは、原文が漢字で書かれていて漢文の体裁を成しているから。つまり、書き下し文でさえも「正解」はないんです。だから、必ず原文が載っているものを手元に、あとはお気に入りを集めて自分で解釈することをおすすめします。

【参考文献】
・https://www.amazon.co.jp/dp/4002400026
・https://www.amazon.co.jp/dp/4106203219
・https://www.amazon.co.jp//dp/4061313835

ヘッダー画像はこちらから拝借しました。
梅花宴の地、太宰府天満宮の梅です。
https://www.dazaifu-japan-heritage.jp/bunkazai/

【月坂架のつぶやき】
和歌を味わう豊かな心を教えてくれたお母さん、ありがとう。十にも満たない私とお母さん、よく通った温泉の露天風呂で、声に出して読んでいました。

そんな母の名前にもある「和」が4位に繰り上がりました。

田舎の小学校の木張りの床に貼り付いて、昼休みに百人一首かるたをしてくれた地元の友達、ありがとう。貴女達以外にあの楽しい遊びで張り合える友人を他に持っていません。平成に生まれ、平成しか知らない私たち。令和の時代も、美しい明日を信じられるような今日を、重ねていこうね。

粋な命名に嬉々とするばかり。こういう「時代の変わり目」を何度も経験している方々はやはり凄い。令和を名付けてくれた方々、ありがとうございます。これをきっかけに、令和を生きるたくさんの人に和歌が読まれるようになるといいなあ。そして、新しい時代が清く美しい光で照らされ、柔らかで爽やかな風に彩られますように。

浮かんだ和歌を紹介したツイートを引っぱってきました。東京に来てからは風が無機質で季節の足音をなかなか運んでくれないのでツイート数が減っていますが、ふと浮かんだ歌について、時折つぶやいております。


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月坂架 絃 (Ito Tsukisaka)

フィドル奏者、化学者、薬学者、物書きを称する東京大学学徒が、本郷の小さな喫茶店で綴る編著作。WHO WE ARE (https://note.mu/ifname_i/n/n50774dab8065)

薫風日誌

つれづれなるまゝに、日暮らし、硯に向ひて、心に移り行くよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、怪しうこそものぐるほしけれ。我を知らずして外を知るということわりあるべからず。されば己を知るものを知れる人というべし。ひとり灯のもとに文をひろげて、見ぬ夜の貴君を友とするぞ、こ...
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コメント2件

初めまして。フェイスブックでシェアさせていただきました。とても素敵な記事をありがとうございました。
はじめまして。コメント、シェアともに嬉しいです。ありがとうございます。Namiさんにとって佳き春になりますように💐
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