2016年の「メディア進化論」~プラットフォームのニュース争奪戦と伝統メディアの必死の抵抗


ウェブ編集者・佐藤慶一さんからの寄稿です。言わずと知れた、日本が誇る若手編集者です。この原稿、ちょっとした書籍くらいの分量あります(笑)

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■メディア進化論

絶滅、生存、そして自然淘汰――。最近、生物学における「進化論」を、メディアを取り巻く状況変化にうまく適用できないかと考えることがある。

これにはきっかけがあった。

2015年8月、オランダのメディア取材で同国のジャーナリズム基金を訪れたときのこと。この基金ではメディア関係者150名以上にヒアリングをしてまとめた「What's New(s): Scenarios for the Future of Journalism」という未来予測レポートを出しており、米国とはまた異なる未来を描いている。

米国ではThe New York Timesの「イノベーション」という社内改革レポートが漏洩して話題となったが、オランダジャーナリズム基金の場合はそれとは対照的に外に向けて公開されたレポートとなっている。特に注目すべきは、4つのシナリオを通じて未来予測していることだ。

そのひとつに、「Darwin's Game」というシナリオがある。ダーウィンの進化論を引き合いに、メディアが環境の変化に合わせて進化していくという未来を描くものだ。伝統メディアは適応しなければ絶滅してしまうのである。

また、たとえ適応したとしても、ソーシャルメディアがコンテンツ流通に大きな力をもつので、読者は広告や真偽不明の情報があふれる状況に嫌気がさし、限られたメディアだけが信頼される状況が生まれる。この未来では透明性や責任説明が重要になり、さまざまなことを可視化する必要性が高まる。

メディアは環境が変わるたびに、生存のためのコラボレーションや実験を繰り返すため、どんどんメディアのスリム化が進む。多くのメディアはフリーミアムモデルで収益を上げ、クオリティの高い記事や調査報道は少数読者の課金によって成り立つ──。

そんな未来像がシナリオのひとつとして描かれていた。基金のジェネラル・ディレクターを務めるRené van Zanten氏は「この基金は新聞を残すためではなく、ジャーナリズムを残すためにある」という。たとえ新聞がなくならないとしても、「なくなった世界」を想像しながらトライアンドエラーを重ねることが重要になるだろう。

環境変化が激しい現在、「メディア進化論」を研究するにはまず、その変わりぶりをできるだけ正確に押さえる必要性がある。そこで数回にわたって、主に2015年以降における重要な動きを記していきたい。

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■ 世界最大のメディア兼プラットフォーム「Facebook」

2015年はプラットフォームによる「ニュース争奪戦」が激化した1年だった。Facebook、Snapchat、Twitter、Apple、Google、LINE……。多くのプラットフォームがそれぞれのやり方で、ニュースと向き合い、時間を奪い合っている。

その先頭を進むのは、いまや月間アクティブユーザー数16.5億人(日間アクティブユーザー数は10.9億人)を超えたFacebookだ。Facebookメッセンジャーの月間アクティブユーザー数も9億人以上となり、もはや敵なし状態である。そんなFacebookは、世界最大のソーシャルプラットフォームであると同時に、多くの人にとっては最大のメディアとしても機能している。

Facebookが対外的にメディアとしての色を強めだしたのは、2015年5月に新サービス「Instant Articles(インスタント記事)」を発表したことに端を発している。これはアプリ内でリンク先に飛ばずとも記事を読むことができるホスティングサービスである。

当初、BuzzFeedやThe New York Times、The Guardian、National Geographicなど9媒体をパートナーに迎えて米国でスタート。昨年10月にはiPhone版Facebookアプリ、同12月にはAndroid版Facebookアプリの利用者はInstant Articlesを利用できるようになった。昨年12月には韓国、インド、台湾などアジアの50以上のメディアとの提携を発表し、今年1月からは日本でのテスト導入が開始した。

実際に体験するとわかるが、記事表示の素早さが大きな長所となっている。媒体側でFacebookのサーバーに記事をアップする仕組み(プラグインなどを利用すればもっと容易に配信できる)で、パブリッシャーは各種データにアクセスできる。Facebookによれば、これまでは記事の読み込みに「平均8秒」かかるとされており、これを10倍以上速くするのだという。また、Instant Articlesの利用で記事のクリック率が2割、シェア率が3割増すことがわかっている。

(デモ動画)

表示速度のほか、実はニュースや広告をよりリッチに表現できることもメリットのひとつ。メディア側は、地図や写真のパン・チルト(上下左右振り)、写真への音声埋め込み、動画や音声の自動再生など新しいニュースの閲覧体験を提供できる。Facebookの技術力に乗っかるかたちで、伝統メディアの記事表現が多様になる、なんてことを感じる機会も増えてくるのかもしれない。

収益面については、Instant Articlesには広告を掲載することができ、メディアが販売する場合は広告収入の100%がメディアに入る仕組み。Facebook側が出稿する広告の場合、広告収入の70%がメディアのものとなる。伝統メディアのなかでは、2015年9月にすべての記事をInstant Articlesで配信すると発表したワシントン・ポストが積極的に利用している。しかし、広告と課金のうち、後者の収益モデルを描くメディアはどこか躊躇している印象がある。

Instant Articles開始から約1年。まだ一部のメディアによる利用にとどまっているため、個人の利用も広がらないと適切な評価はできないだろう。ただ、サービス名に「記事(Articles)」という言葉が入っているのは、ニュースとまっとうに向き合う姿勢を表しているのかもしれない。発信者としては、こういったプラットフォームをどれだけ有意義な接点にできるのかが問われている。

FacebookはInstant Articlesのほか、著名人限定の「Facebook Mentions」、Trendingセクションの設置、ジャーナリストがコンテンツの発見・記事投稿するための「Signal」機能、ニュース通知アプリ「Notify」のリリース、そしてライブ機能のリリースなど、ニュースやジャーナリズムをめぐる施策を次々打っている。

また、4月のF8カンファレンスで発表があったように、「bot(ボット)」がメディアやコンテンツの接点として重要な機能を果たすようになる可能性もあるかもしれない(現状はコマースでのカスタマーサポート的なチャットボットが大動脈なのだろうが……)。

Pew Research Centerの調査では、Facebookを日頃のニュースソースとしている大人は4割というデータが出ている。各種メディア自体を第一ソースとするのではなく、SNS自体が情報収集のための場所と化しているのだ。

当然ながら外部でコンテンツが消費される場合、ブランド認知の獲得や読者との関係構築をどのようにおこなっていくのかが大きな課題となる。これらを丁寧に積み上げていくならば、プラットフォームに乗らない、もしくは自分たちでプラットフォームをつくってしまうくらいのほうが、賢い選択となるだろう。


■ミレ二アル世代を押さえた「Snapchat」

世界的に見てFacebookに次ぐ、注目プラットフォームは2011年にローンチされたSnapchatだろう。消えるメッセージングアプリとして、送信者が10秒以内の閲覧時間を設定、受け手はその時間以上コンテンツを見ることができない特徴が若者たちを惹きつけた。

デイリーアクティブユーザーは2月時点で1億人以上、デイリーの利用時間は25~30分、月間の動画再生数が100億回を超える。Facebookの月間動画再生数は昨年11月に80億回と発表されている。その後の成長を加味すると、投稿される動画の種類は異なれど、Facebookとほぼ同等の規模感を誇る(ちなみにSnapchatは2013年にFacebookの30億円の買収提案を断っている。この2つのプラットフォームの勝負はさらに見所がありそうだ)。

そんなSnapchatは、2015年1月、パブリッシャーがコンテンツの入稿・配信を行う「Discover」という動画セクションを設置した。ローンチ時の12媒体には「CNN」や「Vice」などが名を連ね、いまでは「BuzzFeed」「Vox」なども参加。コンテンツは24時間で消滅し、縦型ならではのコンテンツが毎日並び変わる。どの媒体も1日分として10本前後のコンテンツを配信。記事と記事の間に動画広告が差し込まれる。収益に関してはレベニューシェアモデルを採用し、パブリッシャーは広告掲載料の7割を手にすることができる。

Snapchatは縦型かつ写真や動画などビジュアルコンテンツがメインのプラットフォームであるため、Discoverはこれまでのコンテンツのあり方を大きく変える可能性を持っている。百聞は一見に如かず。実際に見てもらえば、これまでになかったスマホにおけるコンテンツ体験だということはすぐに理解できるはずだ。

多くの媒体がテキストよりは、アニメーションやモーショングラフィックが多用される。チャンネルをもつ新興メディアの自由なコンテンツを体験すると、その新規性、革新性に驚くだろう。USA TODAYによれば、Snapchatの縦型動画は通常の横型動画よりもエンゲージメント率が9倍高いことがわかっており、このプラットフォームを積極的に利用する理由もすでにある。

FacebookのInstant Articlesは「記事(Articles)」とあるように、あくまでこれまでの記事体験の延長線上で、読み込みを速くするサービスだと捉えることができる。しかし、縦型動画のDiscoverは記事の概念自体を大きく変え、新しい時代にフィットした新しいコンテンツのフォーマットを定義しようとしているのではないだろうか。コンテンツはある程度メディアのかたちに規定されるところがあるのだから、Snapchatが多大な影響力をもつようになれば多くの動画が縦型への転換を求められるタイミングが来るのかもしれない。

comScoreの調査によれば、Snapchatの利用者の7割が18~34歳(ミレニアル世代)である。特にDiscoverは、若者とニュースの接点を築けなかった伝統メディアにとってみれば、新たなコンテンツ流通に向けた貴重な場だろう。参画したいメディアは多いと推察されるが、動画やグラフィックコンテンツのため人材獲得は課題となりそうだが……。

また、Snapchatはほかの機能も充実している。たとえば、2013年にはユーザーが「Story」を投稿できるようになった。ライブ配信できる「Live」機能は毎日1500万人を超える視聴者がいる。自社のオリジナルコンテンツも制作するため、分散型メディアの代表格「NowThis」社長を務めたシーン・ミルズ氏をオリジナルコンテンツ部門のトップに採用し、2015年に「Snap Channel」というオリジナルコーナーを設けた(しかし、2015年10月には閉鎖発表された)。

と、ここまでいい面を強調して紹介したが、動画についてビューアビリティ基準に課題は残る。再生数に応じて広告費が発生するにもかかわらず、動画広告がほぼゼロ秒でも再生カウントされていることがあると海外メディアでたびたび報じらている。まだ広告事業が順調とはいえないが、Business Insiderによれば年間1億ドル(約120億円)の売り上げも見えてきているそうだ。

さらに話はそれるが、2016年はトランプの躍進などもあり、米大統領選が盛り上がっている。Snapchatはニュース部門のトップに元CNNのピーター・ハンブリー氏、Googleで政治関連広告を担当していたロブ・サリターマン氏を迎えて、政治関連のコンテンツ制作もおこなっている。オバマ大統領の時代にはTwitterと選挙の関係が注目されたが、政治とメディアにおいてもSnapchatから目が離せない。


■速報に強いが、決定打がない「Twitter」

ハドソン川の奇跡やアラブの春など、社会的にも重要な価値を発揮してきたTwitter。それでも2016年の1~月期の純損益が7973万ドルという発表もあり、低迷が続く現状がある。近々の機能アップデートを見ていても、「お気に入り」から「いいね」の変更が示すようにFacebookの後追いのような印象も受ける。

そんなTwitterは、特に速報ニュースにおいて独自の立ち位置を築いてきた。しかし、(特に長い)コンテンツへの取り組みが弱い印象がある。これまでも、たびたび「Flipboard」や「Nuzzle」などのニュース・マガジンアプリを買収するのではないかと報道されてきた。

FlipboardのCEOのマイク・マッキュー氏は2010~2012年にかけてTwitterの取締役も務めていたことすらある(競合関係が強まり、メンバーからはずれたが)。Twitter前CEO ディック・コストロ氏が退任した際には、彼が次のTwitterのCEO候補として名が挙がるほどの関係性だ。Twitterがニュース系アプリやコンテンツ拡充をどのように図っていくのかは、プラットフォームとして生き残りが関わる点となるだろう。

もちろん2015年には、「ニュース機能」や、編集スタッフやツイートや画像などをまとめる「Moments」機能がはじまってはいるものの、ほかのプラットフォームと比較してしまうと決定打には欠けている。追って詳述するグーグルによるモバイルアプリのロード時間を短縮するプロジェクト 「Accelerated Mobile Pages(AMP)」にも参加しており、この効果は今後期待されるところである。

Pew Research Centerが実施した米国のTwitterユーザーへの調査によれば、その半数がニュースに関してツイートをし、4割が意見も合わせてツイートしている。加えて、ニュース取得のためにTwitterを利用するユーザーは6割を超えているというデータもある。本当にニュースに強いプラットフォームであるはずなのだ。しかし、あらゆるプラットフォームのなかでいまいち優位に立てていない。

今年に入ってからの迷走といえば、字数制限を撤廃し1万字まで投稿できるようにするのかどうかという話題だ。後日、CEOのジャック・ドーシー自身によって否定されているが、これはコンテンツをめぐる大きな一歩になり得るとも思われていた。

つまり、Facebook(Instant Articles)やSnapchat(Discover)と違って、メディアのコンテンツをホスティングする機能がないTwitterが長文コンテンツを受け入れるようになるのか、と。

Twitterではスクリーンショットでのコンテンツ共有も盛んなように、またInstant ArticlesやDiscoverのように、リンクに飛ぶという行為は減っていくだろう。この点において、字数制限の撤廃(の実現)は、ほかのプラットフォームに追いつく一手でもあったはずなのだ。

Twitterは速報ニュースへの強みを保持している一方で、やはりメディアやコンテンツへの向き合い方が問われている。記事、写真、動画、中継などでどのように差別化していくのか。また買収などを通じた強化策があるのか。決定打が待たれる。


■Apple、ニュースアプリの衝撃

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