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「万年補欠」

深夜0時。一人暮らしの6畳一間のアパートに
冷たい隙間風が吹き込んできた。
シミのついたグラスに注がれたウイスキーを
厚志はぐいっと飲み干した。

「頑張っても、頑張っても虚しいったらねえ
誰も俺を認めてくれやしない。ちくしょう。」
  
小説家を目指す厚志は40歳を超えていた。
フリーターをしながら懸賞を目指しているが、いつも入賞どまりだった。

「俺だって結果が欲しい。結果が欲しんだ。
ちくしょう、ちくしょう。結果が出なきゃどうしようもないじゃんか。」
  

 
ふと目の前に置いてある豆本に目を向けた。

3日前に文学仲間の女性がプレゼントしてくれたその本は、マッチ箱よりも小さく、本というよりも気持ちのこもった手紙のようだ。その装丁は、細部に至るまでとても丁寧だった。

彼女は豆本づくりの世界ではちょっとした有名人らしい。
本を製作する過程をアップした動画は、50万回再生されていた。
「すげえーこんな世界もあるのか。いいなあ、有名人だ
それに比べて俺のやってることなんて、どんな意味があるのか」

厚志は自分を責めるのがいつしか快楽になっていた
 
俺は誰よりも俺が一番に注目されたいんだ。
俺のこと、一番に愛してくれるファンが欲しい。

俺も愛されたい。大切にされたいんだ。 
ちくしょう。俺の人生!
喉の奥からうめき声が溢れ出した。

いつもサポートしてくれて本当に感謝です。 文字があるから、私たちは生きていける。繋がっていける。 そんなことをかみしめて生きています。 イイねや ナイスや スキ そんな暖かな気持ちに ありがとう。本当にありがとう。