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ブックガイド「中東を通して、世界を知る」/ 翻訳家 マイサラ・アフィーフィー

この連載では、飯田橋文学会のメンバーがテーマごとに必読書をご紹介していきます。今回は、翻訳家 マイサラ・アフィーフィーが「中東を通して、世界を知る」をテーマに5冊オススメの本をご紹介します。


「中東を通して、世界を知る」

いま中東は大変なことになっている。パレスチナ問題、第一次と第二次の湾岸戦争そしてイラク戦争。2010年の暮れから始まった、いわゆるアラブの春。その結果いくつかの国が内戦状態に。複雑すぎる中東情勢を理解するのは簡単なことではない。今回紹介するのはそんな中東問題を知るうえでの格好の手引き。ぜひご一読を。(マイサラ・アフィーフィー)


『マチネの終わりに』平野 啓一郎

大人の恋愛小説として、あらゆる世代から人気を集め、まさに話題の小説。しかし、この小説はそれだけではない。著者の平野啓一郎氏が世界の情勢をできるだけわかりやすく物語の中に盛り込んでいる。パリに拠点を置く国際的なジャーナリスト・洋子を通じ、イラク戦争からヨーロッパに逃れる難民の状況に理解が深まる。


『危険な道 9.11首謀者と会見した唯一のジャーナリスト』 ユスリー・フーダ 著、師岡カリーマ・エルサムニー 訳

アルカイダ幹部との接触や交渉の末、インタービューを成功し、この取材で中東衛星テレビ局アルジャジーラが世界中から脚光を浴びた。そのアルジャジーラの元記者、フーダ氏が、その詳細な経緯をみずから語っている。謎めいた中東事情をわかりやすく紐解いた一冊だ。


『言葉と爆弾』ハニフ・クレイシ(著),武田 将明(訳)

この書籍は短編小説とエッセイからなっているもので、いま世界中を悩ませている課題を追究する。イスラム教徒の父とイギリス人の母との間で、ロンドンに生まれた著者。ヨーロッパ生まれのイスラム教徒二世代が、原理主義組織に流れる背景と原因に迫り、その対策を提言する貴重な本。


『日本人のための宗教原論 あなたを宗教はどう助けてくれるのか』小室 直樹

マックス・ヴェーバーが確立した宗教社会学という学問の手法に則って、世界のさまざまな宗教を比較し、それぞれの宗教が出張する教義を説明する。特に、キリスト教とイスラム教(の中でユダヤ教も)に深く踏み込んでいる。


『イラク再生 アラブ・メディアがもたらす民主化』新谷 恵司

元外交官の著者は、アラビア語が堪能で、アラブ諸国にある数多くの日本大使館で要職を歴任している。アラブ人と中東を知りつくした日本人として名高い。民主化を求めて勃発したアラブの春以前に、著者はこの本でアラブの民主化における、メディアの果たすべき役割を論じている。


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マイサラ・アフィーフィー

アラビア語通訳・翻訳家。1971年、エジプト・カイロ生まれ。カイロ大学地球物理学科卒業。在エジプト大使館で日本語を学ぶ。1996年、留学生として来日。1999年からフリーランスの翻訳家となる。平野啓一郎の『日蝕』、三島由紀夫の『志賀寺上人の恋』、小室直樹の著作等、幅広く翻訳を手がけた。