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1枚高いのより8枚安いの着込みますから!

【こ、この男…底が知れん…!】
山王戦で流川が覚醒したときと陵南戦で仙道が追い詰めてくるときにゴリが発した台詞。私の人生のピークがミニバスだったのを抜きにしても最近これが頭に浮かんでくる。

先日12/16『ザ・細か過ぎて伝わらないモノマネ』の放送で無事に「〜三島由紀夫vs東大全共闘50年目の真実より〜東大生の質問に気分良く答え最後に儚げで美しい笑顔を見せる三島由紀夫」がオンエアされたその前日に財布を紛失し、カード諸々を停止して再発行した次の日に警察の方から届きましたよ〜と連絡がきて、私は遺失物センターに来ていた。待ち時間にオンエアを見て頂いた方の感想やネットの反響を再び見ながら精神のバランスを整えてから受付へ行き、カード以外の現金だけを抜かれた財布を確認して、「自己嫌悪は非生産的」だと何度も口に出していたが、トイレの個室に用も足さないのに暫く居座った。ぷよぷよでもしようかなと思ったけどここのトイレはスマホの電波が入りずらい。地下だから。

地下といえば、都内では毎日毎日どこかで計り知れないほどの無数のお笑いライブが開催されている。需要もないのに勝手に供給(ハガキ職人)していく。いつからだろう。そしていつまでこの張がおりてる世界が成立していくのだろう。ある意味永遠の闇(FF9のラスボス)となる未解決事件みたいなことかもしれない。夜勤明け何者でもなくなっている朝方の西武新宿線沿いを練り歩いていると私もその一部だということを忘れてしまう。
昔、先輩芸人とのやりとりで「すいません。あそこのやりとり事故ってしまいました」と謝ると「ああいいのよ。地下ライブは存在が事故ってるんだから」と「助かりました」とか言っちゃって地下の居心地が良くなっていく一方で地上には適合しなくなっていた。

地下へ。地下へ。
限りなくブラックに近いグレーへ。

今、ここは地下何階なのだろうか?と気付いたら、私は遅れてきた就活生みたいなスーツ姿で営業の仕事を始めていた。まだ正常でいたかった防衛本能か我に返ったところで我も正常じゃないのに。コロナ禍の真っ最中だった2年前は大好きな先輩方のライブのお手伝いだけを仕事終わりにしている日々だった。楽屋の姿見に写ったその舞台に立たないスーツ姿は、鬼滅の刃の上弦の弌の鬼の「侍の姿か?これが?」と死に際に放っていたあの感じくらいデーターとなって消えてゆきそうだった。もう地下でも無くなっていた。

そして、中野Vスタジオで地上にはいない見知りの地下芸人が催していた、客がその遅れてきた就活生のような姿の私しかいないライブの記憶までパッと飛ぶ。私はど真ん中の最前列へ座っていた。

この景色、音、匂い、肌感覚。
正常な人にとっては間違いなく有害だろう。
比喩的にも物理的にも酸素が薄過ぎる。
客が私1人に対して20組以上の芸人が出てきた。
面白さ以前にここには明らかに「明瞭さ」が欠けていた。今思い出すと少し面白いが、ネタの内容や滑舌とかでなく手が絆創膏だらけで全く漫談が入ってこないなど。ここは地下何階なのだろうか。

むしろ正常な判断が出来る地上を想定した状態で来てしまっていたら北斗の拳の雑魚キャラの如く身体が弾け飛び肉片になっていただろう。私もまた地上よりも地下で適合してきた生物だ。しかし、こんなに潜っている生物がいるとは思わなかった。地下何階とかいうレベルではない。RPGの攻略本にない隠しダンジョンみたいだった。

それが、ハワイユー野田さんだった。

なんのネタをやっていたか記憶はないが、学ランを着ていてなにかしら喚き散らして顔面をマッキーで塗りたくっていたような気がする。そして、三島由紀夫と大声で叫んでいた。

曖昧な記憶だけどなんだかそれが、美しかった。

突き抜けていればどん底なんてない。それだけを教えて貰った気がした。麻痺はしてくるけど。

そして、お宿になった。

「では、やり方を教えますね!」
……????
「ここはこう!これはこう!おれはこう言いますから!これならこうですね!それははこう!あれならこう!ぶわぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁ!」

ONとOFFがないところが良さだとして、無駄に響く大声と飛沫と血走った目とおでこと眉間のくっきりとした皺と一本だけ長い眉毛は、OFFでもONでもきつい。インサイダー取引の現場を担当して大失敗して欲しい。

書いたネタを「では、やり方を教えますね!」
と主導権を握られるのは、なにハラスメントなのだろうか。元いじめられっ子としてこの感じに慣れていたとはいえ溶け込むまで「苦虫って、こんな味だったかな…」と、新たな免疫をつけるまでに掻きむしったうなじの炎症で久しぶりに皮膚科に通うまでに時間は要さなかった。

「ここは接続詞違い…いや、三段無視で笑いが取れますね!!」
……ナンダソレハ?また、本筋からズレた側の笑いになる。
「三輪車は使ってしまったので注射器を使いましょう!」
……また道具だ。漫才とはなんなんだろうか。
「冬は、1枚高いのより8枚安いの着込みますから!」
……なるほど。この人は、ホンモノだ。

そんなにこだわりがあるなら、書いてきてくれればいいのにとは高望み過ぎた。
この人は「本や漫画は音がないから読めない!」という全てをアニメで追う、童心の権化だったから。

ぶっちぎりのネタを書けたとは思わない。
それでもどんなボツと呼ばれるネタでも我が子のように可愛くて、それを、呪術廻戦の改造人間みたいにされるのは、どこに問い合わせれば解決出来るのだろうか。

しかし、わかっている。
私はこの人の魅力に取り憑かれている。
いつも散々喋った後に「そうすれば、おれのネタが書けますよ!」とマルチ商法スレスレのような手法で私は育成されている。
別れた後にはこの人の面白さを伝えたくなっている。
一年以上経ったがまだ私はトライアル雇用だろう。
何故なら私はむっつりスケベだからだ。
全てを曝け出すこの人と違い全てを押し殺してきた工作員のような私は、この人に畏怖の念すらあり、そんな私はこの人のネタを書くために育成され続ける。
奇妙なパワーバランスが成立した。

ハワイユー「申し訳ございませんでしたぁーー!!!」(敬礼)
スズメ「謝罪よりも愛国心が強くないですか?」

大冒険は続く。


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