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サー・ロバート・マーティンさん講演録

2023年10月17日。知的障害者として初めて国連障害者権利委員会の委員に選ばれたサー・ロバート・マーティンさんたちの講演会(主催:DPI日本会議、ピープルファーストジャパン、全国自立生活センター協議会、東京都自立生活センター)が衆議院第二議員会館で開かれました。

昨年、国連障害者権利委員会から日本政府に出された総括所見(勧告)では、「地域移行」と「インクルーシブ教育」について早急な措置が必要であるとされました。このうちの「地域移行」をテーマとしたマーティンさんのお話を書き起こし(基本は通訳ママ)の形で紹介したいと思います。


こんにちは、みなさん。本日、みなさんにお話できることを光栄に思います。

「脱施設」の問題は私にとってとても大切で、長年にわたって私が訴え続けてきた課題なんです。今日は、私自身の体験とこの施設に入れられるということがどんなに害を及ぼすかについて話をしたいと思います。また、少しですが、私の国ニュージーランドで今何が起こっているのかについてもお話しします。

また、国連障害者権利委員会の独立専門家としての私の役割についてもお話ししたいと思います。それから障害者権利条約(CRPD)の19条の緊急時を含む脱施設化に関する委員会ガイドラインと、昨年の国連障害者権利委員会によるみなさんの国の審査についてお話ししたいとおもいます。

最初に申し上げておきたいんですが、今回私はニュージーランドの代表としてきているわけではありません。私は今回、ピープルファーストニュージーランドの終身会員として、また国連障害者権利委員会の独立専門家としてお話したいと思います。ただ、今回は私が権利委員会の代表として話をしているのではないことをご承知いただきたいと思います。

私はニュージーランドの入所施設で育ちました。私は、子どもも大人も、決して私がしたようなこうした経験をすべきではないと強く信じています。

子どもは家族に属しているものです。だから、もしも、子どもが生まれたところの家族と一緒にいられないのであれば、里親の家庭と一緒に暮らすべきです。

また、これははっきりしていることなんですが、たとえグループホーム(GH)であっても、他の住み方であっても、もしそれが障害を理由に子どもや大人を隔離するようなところは、はっきりと施設だといえます。

施設は、強い傷を生み出します。その傷は一生続いています。私は世界中の施設を見てきましたが、どこの国でも同じようなものでした。

施設は家族と共にいる権利を奪います。

施設で育った子どもたちは、家族がいるとはどのようなことなのか、また愛されたり、気遣われたり、抱っこされたりということを含めて、知りません。

家族の一員であるとはどのようなことか。兄弟姉妹、おじさんやおばさん、従兄弟たちと一緒に育つということがどんなことなのか、知りません。

また、施設は健康でいる権利を奪います。

施設では、人は単なる数字にしか過ぎません。そして適切な医療を適切な時期に受けることができないのです。

そして、施設は地域で暮らす権利を奪います。近所の人たちや、地域の一員ではなくなってしまいます。地域の一員であると感じられずに、また市民であるとも感じられません。

また、施設は教育を受ける権利を奪います。そして学校の一員ではなく、他の子どもたちは教育制度を通じて経験していくのに、その経験を施設にいるとできない。

そして、施設はあなたが何者であるか、ということも奪っていきます。私はなにもありませんでした。わたしは何者でもなかったのです。

そして、私には誰もいませんでした。そして、私が持っているものは何もありませんでした。私は人間とされなかったのです。

私が施設を出た時、そこから私は人生をどうやって生きていくかということを学び直さなければなりませんでした。

施設では、私には同じ年頃の人たちが経験したようなことが何もありませんでした。

その時、私は自分の国の文化、また当時の政治についても知りませんでした。

ニュージーランドにはオールブラックスという有名なラグビーチームがあるのですが、そのとき私はオールブラックスのことや他のスポーツのことも知りませんでした。

また世界の中で起こっていたことも、私は知りませんでした。たとえばベトナム戦争や公民権運動があったこと、また人が月に降り立ったことも知りませんでした。

私は、人との付き合い方を知りませんでした。また、他の人をどのように尊重していくか、大切にしていくか、私は知りませんでした。だから、私は人間にならなければならなかったのです。

私は施設に入れられることによって傷つけられ、そして、今でもその影響を受けて生きています。私の多くの友人や世界中のこういった施設を経験してきた人、施設から生き残ってきた人もみんな同じです。

障害のある子どもたちが家族の中で育ち、兄弟姉妹といっしょに地元の学校に通うことはとても大切なことです。

家族が必要としている支援を受けられること、また、その家族が障害者権利条約について知る機会を得ることもとても大切です。それによって障害のある子どもたちは、有意義で価値に溢れる人生を送れるような大人に育っていくことができます。

だから私は、家族や障害者が施設に入れられるということは受け入れません。そして、より良いものを求めて努力をしています。

そして、私はすべての政府が、障害者が価値のある市民として扱われるインクルーシブな社会の実現に向けて取り組むことが重要だと思います。

今、ニュージーランドの政府には、障害者担当大臣がいて、障害者省があり、また障害者戦略があり、障害行動計画があります。

ピープルファースト・ニュージーランドは、国内で6つの障害者団体で構成されている障害者連合の一員です。この障害者連合は、障害者権利条約のさまざまな権利を実現するために、政府と密接に協力しています。障害行動計画を策定し、計画が確実に実現されるように取り組んでいます。しかし、障害者がすべての権利を獲得できるようにするためには、ほとんどの国と同様に私たちはまだやるべきことが残っています。

ニュージーランドでは、最後の大きな入所施設、キンブリーというところなんですが、ここで私も育ちましたが、この施設が2006年に閉鎖されました。このことをみなさまにお伝えできるのはうれしいです。しかし、それが起こったのは、政府がこの施設を閉鎖すると言ってから12年も経った後のことでした。政府は、閉鎖すると口にしていながら、それを行う決断をしなかったからです。ですから、ピープルファースト・ニュージーランドは国会まで行進をして、政府に施設閉鎖を求める請願書を提出しました。そして施設が閉鎖されました。しかし、ニュージーランドではまだ施設化が進んでいます。

私は、施設をつくるのはレンガやモルタルといった建材だけではないと思います。それは、人の考え、行動、態度こそが施設をつくっているんだ。私はそう思います。

ニュージーランドでは、いま約7500人の人が居住サービスを使って暮らしています。それらの住居、このサービスの住居はしばしばGHと呼ばれています。ほとんどのGHでは、4〜5人の人がスタッフと一緒に暮らしています。そして、それらのGHで生活しているほとんどの人が知的障害のある人たちです。

しかし、施設をつくり出すというのは、その住宅そのもののことではないんです。人々がどのようにその住居に入れられて、その中で何が起こっているか、ということが大切なことです。

大規模な施設やそれよりも小さな施設、つまりGHなどは、障害者権利条約の19条の内容に沿ったものではありません。人々がどこに住むか、誰と一緒に住むか、どのように暮らすかを選べるようにする必要があります。そして、それに必要な支援、またアシスタント、介助が得られるようにすることです。

ニュージーランドでは、EGL、良い生活を可能にするという意味なんですが、こういったEGLという指針がつくられています。この指針は、障害者を支援する新しいアプローチのためのものです。障害があるために、障害者が受けるサポートについてより大きな選択肢とそれをコントロールすることを提供するものです。

障害者と支援者は、障害支援サービスを変えるために政府と共に活動しています。

その中で私たちは、さまざまな地域で三つのパイロット事業を実施しましたが、もっと多くのことを行う必要があります。

私は、障害者省と協力して「マイホーム・マイチョイス」という新しいプログラムなんですが、そのプログラムの主要なメンバーとして関わっています。このプログラムは入所サービスを受けている人たちがより多くの選択肢を持ち、自分の生活をコントロールできるようにするために支援の方法を変えようというものです。また、入居サービスからの退所を考えている人のために、選択肢や代替手段を開発しようとしています。このプログラムは障害のある人たちが良い生活を送るために、障害のない人々と同じ選択肢を持つことができるようにするための取り組みも検討しています。

障害者が日常的な場所で、日常的な、普段の生活を送れるようにするために必要なことがあります。

このためには、次のことを市民の権利としてはっきりさせる必要があります。学ぶことであるとか、働くこと、家と呼ぶことができる場所を持つことや、地域社会に完全に参加できるようにすることなどです。こう言ったことのための取り組みも検討しています。

障害者省は、障害者と家族と共に、人々の声や経験によって変化がもたらされるように取り組んでいます。

いま私は国連障害者権利委員会の独立専門家として2期目を務めていますが、私はこのことを誇りに思っています。この委員会には、世界中から18人の委員がいるんですけども、その中で私は唯一の知的障害者です。

権利委員会は、条約に署名したすべての国がすべての条文の権利をどのように自分たちの国に取り入れているか、導入しているかを調査します。

私たちは年に2回、スイスのジュネーブにある国連で会合を開いています。この会合は3週間から4週間続きます。

この権利委員の役割から、私は障害者の権利を得られるようにするために、世界中でやるべきことがまだまだたくさんあることをわかっています。

みなさまの国は2022年に国連の審査を受けました。これは権利委員会と日本との素晴らしい対話だったと思います。ジュネーブで、日本からあれほど大勢の障害者が支援者と共に参加し、審査に貢献してくれたことをとても嬉しく思います。権利委員会は、障害者団体や市民団体との話の機会をとても大切にしています。

この審査はすべて、各国が条約の権利を前進させるために建設的対話を行うことを目的としています。

権利委員会の日本に対する総括所見は、障害者権利条約の各条文に関する委員会の懸念と勧告をそれぞれ並べています。

本日はその中からいくつかを紹介したいと思います。

まずは「医療モデル」から「人権モデル」への移行です。医療モデルはもう過去のものです。今こそ人権モデルへの転換の時であり、障害者権利条約はそれを援助するツールです。

続いては、障害者権利条約について学ぶこと、知ること。その中での、権利条約第8条の意識啓発についてですが、障害者とその家族を含め、すべての市民が障害者権利条約について知ることはとても大切です。また、すべての政府部門や司法部門で働く人たちにとってもこれは重要なことです。人権の基礎となるものであるため、障害者権利条約についての教育や意識向上がとても大切です。

権利条約について知ることは、今私たちが使っている言葉を、時代遅れの言葉からこの2023年にふさわしい人権を尊重する言葉に変えていくことを助けてくれます。

また、この権利条約を知ることで、より良い政策やその実践ができます。

そして、権利条約を知ることは、差別や偏見をなくすことにつながります。

次のポイントは障害者と共に活動すること、障害者と協働することです。障害者に影響を与えるすべての事柄について、政府が障害者の代表組織を通じて障害者と共同していくことは非常に重要です。このように協力することで政策や実践が障害者のために、より機能するようになります。

条約に述べられている権利を現実のものとすること。このことは、障害者の生活をより良いものにしていくことにつながります。そしてこれによって、社会の資源が無駄に使われるということがなくなります。

続いてですが、地域社会での生活と脱施設化についてお話したいと思います。

多くの国では、障害者が、障害を理由に共同生活を強いられている施設がまだ存在しています。この施設の中では、障害者は自分の人生を自分で選び、コントロールしていくことができません。もう一度言いますね。施設の中では、私たち障害者は自分のことを自分で決めたり、自分の人生、生活をコントロールすることができないのです。

また、新型コロナ感染症の拡大は、多くの障害者が一緒に暮らさせられること、共同生活を強いられることが非常に危険であるということを示しています。

だからこそ2020年に、権利委員会は緊急時を含む脱施設化に関するガイドラインを作成したのです。

私たちは、すべての国が脱施設化ガイドラインを活用し、脱施設のための行動を始めることで、施設化の弊害を止め、条約の第19条の権利を現実のものにすることを望んでいます。

みなさまの国への総括所見では、条約の第19条で地域での生活、また一般的意見の第5号、自立した生活および地域社会の包容、それから脱施設化ガイドラインに言及していますが、これは、この脱施設化の分野で前進し、第19条の権利が進んでいくことを支援していくためのものです。

いまこそ良い方向に帰る時です。そして、いまこそが脱施設化に焦点を当てる時です。そして、いまこそ、地域でのすべてのサービスが、すべての障害者のためになるように焦点を当てていく時なのです。

障害者団体を通じて障害者と共に活動してください。

そして、また、共に権利条約の第19条と一般的意見第5号、それから脱施設化ガイドラインを共に検討していってください。また、一緒に、予算と期限を決めた計画を立てていってください。

もう一度言いますね。一緒に、予算と期限をつけた計画を立ててください。

共に行動を起こしましょう。そして、共に行動を起こすことで、私たちやあなたたちは変化を起こすことができます。

ありがとうございました。


サー・ロバート・マーティンさん プロフィール
(講演会資料より)

ニュージーランド出身の障害者権利活動家で、セルフ・アドボカシー運動を国際的に推進し、国連障害者権利条約の締結手続きに携わった。インクルージョン・インターナショナルの副会長をつとめ、国連障害者権利委員会でははじめて知的障害者として委員に選ばれた。
2022年8月に行われた障害者権利条約の対日審査においても委員として日本政府に対して地域移行に関して鋭い質問を投げかけた。

2020年にはSir(ナイト)の称号を授与される

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