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「インクルーシブ・ライティング」について調べてみた

文章を書いたり、言葉を選ぶ上で、気になっていた「インクルーシブ・ライティング」。グローバル企業が公開しているガイドラインを調べ、まとめたのでnoteで共有します。

ガイドラインを抄訳し、日本語に置き換えていますが、日本語や地域固有のニーズに適応させ、議論する必要があると考えています。


参考にしたガイドライン

インクルーシブ・ライティングとは

インクルーシブ・ライティングは、特定の人々に対する偏見や固定概念、差別的・暴力的な視点を反映する言葉やフレーズを避け、あらゆる人を包摂するために意識的に文章を書く方法と言われています。

潔癖的に表現を正し、制限することではなく、意識的に使用する言葉を決定するための方法と位置付けるのが良さそうです。

なぜインクルーシブ・ライティングを意識する必要があるかと言われると、「固定観念や偏見に基づいた表現が、受け手を傷つけ、損害を与える可能性があるから」ですが、製品やサービスを開発している立場からすると、より多くの人を巻き込むためにインクルーシブな表現に努めることは、ユーザー体験の向上といった意味でも重要になります。

インクルーシブな表現のためのポイント

複数のガイドラインから共通している要点を抜き出して整理しています。

【1】 文脈を考慮する

意識的に言葉を選択することが目的なので、文脈次第で判断は変わります。避けるべき表現が許容される(必要となる)文脈もありえます。読み手が不特定多数の場合は、意図とは異なる言葉を受け取られる可能性を考慮する必要があります。また、時代や地域、言語によって、言葉の使用方法は変化するため、言葉の影響について広く捉える姿勢が求められます。

言語の美しさは、伝えたい意味と同じように、あるいはさらに明確に表現する用語が常に存在することです。

Apple 一般的なガイドライン

【2】 偏見や固定概念に基づく表現を避ける

差別用語や暴力的な表現を使わないことは意識しやすいですが、誤解や偏見を招く言葉を使用しないことも重要です。無意識的に否定的な解釈が含まれていないか注意する必要があります。

例えば、「徘徊」という言葉です。

「徘徊」という言葉には、「目的もなく、うろうろと歩きまわること」という意味がありますが、認知症の方の外出の多くはご本人なりの目的や理由があるとされています。「徘徊」という表現は、そうした認知症の方の外出の実態にそぐわないことや、「認知症になると何も分からなくなる」、「認知症の方の外出は危険」といった誤解や偏見につながる恐れがあります。

大府市では「徘徊(はいかい)」という言葉を使用しません

また、メッセージの方向性についても意識する必要があります。例えば、「混雑した車両や、扉付近は避けましょう」といった痴漢注意喚起のメッセージです。

「混雑した車両や、扉付近は避けましょう」「勇気を出して通報を 泣き寝入りしないで」府警が作り、京都駅などに掲示されていたもの。学生からは「混んだ車内には痴漢がいる、という前提のポスター。痴漢を容認しているかのように取られかねない」「被害者に自責の気持ちを抱かせないかな」などの声が上がった。ほかの学生からも「変わるべきなのは加害者や、見て見ぬふりをする周囲の人ではないか」といった意見が出た。

なぜ被害者に注意喚起?痴漢防止ポスターもやもやの背景

【3】 差別的な言葉を避ける

意識すべき表現について、代表的なカテゴリーを整理しています。

引用元:
(※G) Google 「Write inclusive documentation」最終閲覧日:2024/04/03
(※A) Apple「Apple Style Guide | Inclusive Writing」最終閲覧日:2024/04/03
(※Ad) Adobe「Writing about people」最終閲覧日:2024/04/03
(※At) ATLASSIAN「Inclusive Language」最終閲覧日:2024/04/03

障がい者差別的な表現

  1. 障害のある人々について書く際は、その人の障害そのものではなく、個人の業績、人格、メッセージに焦点を当てる。障害について言及する必要さえない場合もある(※A)

  2. 幅広い障害を認識する(※A)

  3. 障害のない人が標準であるかのような言葉を使用しない(※A)

  4. 障害を克服すべきものとして扱うことは避ける(※A)

  5. 障害でその人を定義する言い方を避ける「個人優先(Person first)言語」を使用する。一方で、障害が自分のアイデンティティ(特徴)の一部であると考えている人に対しては、「アイデンティティ優先(Identity first)言語」を使用する。特定の個人やグループについて書くときは、どのように識別されることを好むかを常に尋ねる(※A)(※G)


性差別的な表現

  1. 性別(sex)とジェンダー(gender)の違いを理解する

    • すべての個人的な関係は異性愛であるという前提を強化し、同性間の関係の現実を否定するような言葉は避ける(※At)

    • ユーザーから個人データを収集するときは、人の性別を尋ねる必要があるかどうかを検討する(※Ad)

  2. 性別に中立な言語を使用して言い換えることができる場合は、性別の二元論を避ける(※A)

    • NG:多様な背景を持つ男女を雇用することで、イノベーションの文化が促進されます。

    • OK:多様な背景を持つ人材を雇用することで、イノベーションの文化が促進されます。

  3. 特定の人を指す場合は、その人の名前や外見に基づいてどの代名詞を使用するかを推測しない。誰かをどのように参照すればよいかわからない場合は、その人に尋ねる(※A)

    • NG:田中太郎さんです。はデザイナーをしています。

    • OK:田中太郎さんです。田中さんはデザイナーをしています。


人種差別的・階級主義的な表現

  1. 人の出身国や人種を説明するときは、人種や民族を一般化しない(※At)

  2. 例を示す場合は、さまざまな民族性や性別を反映した名前、性別、年齢、場所を使用する(※A)

  3. 色に、善悪を割り当てることを避ける。色は、実際の色を説明するためにのみ使用する(※A)

    • 例:ブラックリスト、ホワイトハッカー

  4. 自分自身の特権を認識し、階級差別的な言葉の使用をやめる。出身地や職業に関係なく、すべての人を公平に扱う(※Ad)


地域・文化・宗教依存的な表現(※G)

  1. あまり文化的に限定しない。特に、特定の祝日、文化的慣習、スポーツについては、それらが世界中で知られていると確信できない限り言及しない

  2. 公的な文章では、不必要なユーモアは避ける。ほとんどのユーモアは翻訳が難しく、多くのユーモアは文化的に特有のものである

  3. 季節について言及することは避けてください。北半球の春は南半球の秋(秋)です。代わりに、月、四半期、または気温 (該当する場合) を使用する

    • NG:変更は毎年にリリースされます。

    • OK:変更は毎年10月にリリースされます。

  4. 宗教的な起源を持つ用語やフレーズは使用しない

    • NG:メリークリスマス

    • OK:ハッピーホリデイ


年齢差別的な表現(※At)

  1. 実年齢だけを理由に、特定の年齢層が多かれ少なかれ能力がある、または典型的な特徴を持っているという固定観念や暗示を避ける。「若くて活気がある」などの表現を避ける

  2. 「年上」や「年下」などの用語は相対的なものであるため、文脈に応じて明確に使用する

数秒で文章が生成される時代の言葉選び

以上、インクルーシブ・ライティングについて公開されているガイドラインの内容をまとめました。冒頭にも書きましたが、日本語や使用する文脈によって、議論が必要な言葉も多くあると感じます。数秒で文章が生成される時代だからこそ、意図的か非意図的かにかかわらず、使用する言葉の影響を意識していきたいです。

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