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交通インフラのバージョンアップ

写真はDF50「四国型」のNゲージ。1980年ころにはこれが旧型客車や貨車を引っ張っていました。他に山陰本線とか日豊本線でも走っていましたが、四国型というのは前面に独特の「補強材」が追加されていて、なかなか味わいのある顔つきです。1980年、土讃本線でDF50が先頭に立つ旧型客車に一度だけ乗りました。冷房なし、照明は白熱電灯、座席の背もたれは板張り。39年前の話。

で、四国の鉄道事情についてですが、土讃線の「輸送密度4000人/km」というのは、昔の国鉄で言う「第3次特定地方交通線」相当で、今はバスか第三セクターに転換されている。ということはもう「民間鉄道会社の手に負えるものではない」のではないでしょうか?(JR四国を純粋な民間企業と呼べるのかどうかという疑問はあるにせよ、企業というのはあくまで「儲け」るための組織なのですから。)

実は国鉄末期に「国鉄独自の国鉄再建案」というのが発表されたことがありまして、これがまたとんでもなくブーイングを食らっただけで誰もまともに取り合ってくれない雰囲気だったのですが、その「独自の再建案」というのは、
(1)国鉄として残すのは「本州」と「九州」だけ。
(2)北海道と四国は鉄道経営が成り立たないので、独立採算制の「国鉄」から切り離す。
(3)鉄道貨物はもはや役目を終えたので廃止。
……他にも細かいプランが色々あったと思いますが、「北海道と四国を見捨てる気か!」とか「交通渋滞と大気汚染(排気ガス)が酷いのに鉄道貨物をやめるとは何事か!」とか、もうボロクソでした。
しかし30年後の今、国鉄の憂鬱は大当たりだったのです。

予測が外れたのは貨物。近年になってようやく貨物が黒字を(少しだけ)出せるようになった。これは「環境問題のクローズアップ」と「ドライバー不足」という社会的背景が大きい。もちろんJR貨物の貨車の改良や経営努力も大きいし、線路使用料が比較的安く抑えられているという、間接的に旅客会社に支援して貰っている部分もある。

ともあれ貨物は予測が外れてくれたみたいですが、北海道と四国に関してはモロ国鉄の憂鬱が当たってしまった。
北海道は面積の割に人口が少ない。人口密度で見れば札幌圏を除けば鉄道事業は難しい。札幌ー旭川みたいに儲かりそうなところは高速道路と競合している。その上に、例えば稚内とか根室とか、国境に近いところまで行く鉄道を廃止してしまって良いのか?とか、もはや営利企業が背負える範囲を超える問題まで抱え込んでしまっている。新幹線の札幌延長が大成功を収めてくれることを祈るばかりです。個人的には北海道新幹線の成否はJR東日本に掛かっているような気がします。東京ー札幌間4時間半などと生ぬるいこと言ってないで新青森まで400km/h運転やってください。東京ー札幌間1035.2キロを表定速度300km/hで3時間25分。大雪の日でも運休なし。これは人気が出るでしょう。もともとニーズの多い区間ですが、さらに多くの人が利用するようになるかも知れない。でも「窓なしの新幹線」だけは勘弁してください。リニアにだって小さいながら窓はあるのですから。

で、四国ですが、人口の少なさという背景もありますが、JR四国の屋台骨となるはずの主要区間を、ショートカットする高速道路が縦横に完成した影響は大きい。高速道路は平成の技術で作ったインフラ。直線的な長いトンネル、長い橋梁。広々とした車線。対するに土讃線は100年前のインフラ。長いトンネルや急勾配を避けるために迂回していたり半径200mの急カーブがあったり、そりゃいくら車輌に「世界初の気動車の車体傾斜」という革新的技術を投入しても、勝負の土俵そのものが違いすぎる。距離だけで見ても高松ー高知間は、高速道路130kmに対してJRは150km。JRと自動車が同じスピードで走っても差が付いてしまう。というか、平均速度で考えれば同じスピードで走るのは難しい。なぜか?それは土讃線は単線だから。半径600mのカーブを120km/hで駆け抜けるという驚異的なスピードを実現したとはいえ「行き違い待ち」は避けられない。そんなこんなで高松から高知まで特急列車は2時間半かかるところ、高速バスは2時間で走っている。高速バスはおそらく法定速度を守っているでしょうから最高速度は100km/h。なのに速いのです。さらには自家用車になると高速道路で120kmとか130kmくらい出すのが当たり前になってしまって、かつインターチェンジと目的地の間の移動も「乗換なし」でフォローしてしまうので、場合によってはドアtoドアで2時間とかあり得る。高速道路の自動運転が実現したら、もしかしたら「自動運転車に限り」最高140km/hとか認可されるんじゃないでしょうか?

で、最近になって「単線でもいいから四国に新幹線を作れないか」みたいな話も出てきているようですが、いや、ちょっと待てよと。人口減少、しかもそれが大都市への人口集中と同時に起きている状況下で、国の財政事情も厳しい。なのに「新幹線と高速道路」という2本のインフラ、維持出来るのでしょうか?新幹線を作る資金が捻出できるなら、その分高速道路の自動運転化+スピードアップにお金を掛けた方が便利なような気がしないでもない。

北海道と四国に関しては、国鉄をJRに転換する時に、合わせて「鉄道」と「道路」を総合的に観て、交通インフラの「バージョンアップ」のビジョンを作っておいたらよかったのかもしれない。適宜区間を分けて「新幹線」と「高速道路」、どっちがよいか?と。
多くの区間は「高速道路のほうがいい」という話になると思いますが、新青森-札幌間は青函トンネルをトラックが走れない関係上、新幹線という選択肢になりそうだし、逆に、瀬戸大橋は高速道路だけにした方が安く作れるという話になっていたかもしれない。
で、30年くらいたってブーイングが起きて「あの区間は在来線を通しておくべきだった」と頭を抱えていたかもしれない。快速マリンライナー、大人気ですもんね。新幹線じゃないから特急料金いらないし。あのお陰で四国の中学生が岡山の高校に進学できるようになった(逆もある)。

インフラのバージョンアップといえば九州の長崎新幹線も揉めていますが、高速道路と国道の改良で陸上交通はバージョンアップが済んでいて、この上さらに長崎から武雄温泉までという「離れ小島新幹線」なんて作って、本当に大丈夫なんでしょうか?「並行在来線の廃止」ではなく「並行新幹線の廃止」とか、悪い冗談みたいな結末にならなければよいのですが……


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