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人間が中心ではない島- 西表島

去年奄美大島で見たマングローブをもう一度見たい、と言う理由で4月中旬に西表島へ向かった。仕事に効率性ばかりが求められる社内風土に心身共に疲れ切っていて、ただ人間界から離れたかった。コンビニが一軒もない島で大丈夫かなと思った1日目を経て、私はこの島の自然の豊かさに、人ではなくて動植物が中心の西表島の暮らしの中で生きる人達の素敵な笑顔や言葉に心を洗われることになった。

まだあまり島の全体像がよく分からない中で、ホテルの裏のビーチに向かい夕日をただぼーっと眺めてみた。夕日が時間と共にゆっくりと落ちるのを、何も制限されることなく味わったのはいつぶりだろうと思ったりした。ここでは、毎日ただ夕日が水面にゆっくりと、ゆっくりと沈んでいく。地球に流れる時間は、本来きっとこんな風にゆっくりとしているんだろうと、ぼんやりと思った。

次の日の朝に、ホテルの無料エコツアーに参加させて頂き、同じビーチをまた歩いた。色んな話を教えてもらったけど、特に台風とウミガメの話が印象的だった。台風は、人視点で見ると、大きな災害をもたらすものでしかない。だけど、自然界にとっては、台風によって海が搔きまわされ、それによって海水温が下がるために重要な役割を果たしているそうだ。また、ホテルはビーチに近い割に、ヤシの木に覆われて、観光の目玉になりそうな「オーシャンビュー」の部屋は残念ながらない。その理由に、毎年ウミガメが産卵にやってきて、生まれたウミガメの赤ちゃんが、光の方を目指して海に向かうのを妨げないように、ホテルからの人口の光をヤシの木によって隠しているのだそう。こうした話を聞いていると、本来人間は自然豊かな地球に暮らさせてもらっているのに、それを完全に忘れてすべて人間中心で物事を判断しているなぁという気がした。

2日目の午後にホテルの近くにあった西表島エコツーリズム協会に立ち寄ってみる。協会にいたのは、東京から移住された千穂さんという方で、社会情勢が不穏な中で自分が平穏でいられるためにはどうしたら良いかということや、農業の話など、興味や関心が重なることが多くって、初対面とは思えない感じがした。「人は皆居場所を探していると思うんだよね」という言葉をさらっと千穂さんは言ったけど、本当にその通りだなぁと思う。自然への敬意の念が強いからだろう、西表島では昔から続く祭事が今でも村単位で執り行われているのだそう。そして西表島のアダンと言う植物で編んだ草履で祭事に出るために、皆自分の手で編むのだそう。手先が器用ではない私にとっては苦行でしかなさそうだけど、自分たちの身の回りにあるものを工夫して生活する暮らすぶりには、本当の意味でのサステナビリティがある気がした。

西表島エコツーリズム協会の裏のマングローブ。光が差し、優しい風が吹く。

今ネットニュースには、「コスパ」や「タイパ」など、効率重視の言葉ばかりが並んでいる。でも一体そんなに効率を重視して、何を実現したいのだろうかと思う。私の組織でも、Productivityという言葉をリーダーシップが使うたびに、ミヒャエル・エンデが「モモ」の中で書いたように、時間泥棒がやってきて大事なものを失いそうになっている気がしてならない。西表島は行くのも暮らすのも便利ではない。ただ、思うのは、本来の地球の在り方を身近に感じられて、あるべき人間の立ち位置みたいなものを教えてくれる大事な島だと言うことだ。いつか何らかの形でこの島と関わり合いが出来れば良いなぁと思う。


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