水風呂の歌

水風呂。特にさくら湯。あのさくら湯の横暴なほどの湯加減、その極点にある、死の光を見せてくれる水風呂。
あたままでザブリとつかり。氷の上へ浮上するソ連の原水艦。熱せられた体幹は北極海に蝕まれてゆく。

小刻みな代謝は一点に収斂する。ドクンドクンとギアがゆっくりと沈降する。
思考が着陸するような感覚。おそらく脳内の電気抵抗がゼロになってゆき、超電導体になっているのだろう。

やがて息が舟をこぐように穏やかになる、それはまるで寝息のようだ。冷水を口から吐き出すリスと逆立ちに反射する自分、高い天井が映る水面が紫色のもやに包まれる。これは雲の視点だ。

縮みあがった言葉が石のように固まり、そのうち結晶のように輝き出す。息を止めて3分後の悟り。

人類の運命を変えるアイデアが浮かび上がる。人の人生を取り返しのつかない方向へ変えてしまうことも容易くできるように思える全能感。薄くなる意識をどうにか制御してそれを記憶してみる。

しかし、そのようなアイデアがよかったということは、あまりない。

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