上演台本『ダンスリライトのための超市場的幻想曲』

こちらは2021年、吉祥寺ダンスリライトvol.2参加作品の妖精大図鑑『ダンスリライトのための超市場的幻想曲』の上演台本です。
ダンスを再定義するというテーマで、永野百合子と相談してネタ出しをしました。ダンスショーケースでこんなにいっぱい喋らせていただけるとは…


妖精大図鑑
『ダンスリライトのための超市場的幻想曲』

舞台上に段ボールが一つ。永野はその段ボール箱を開く。
箱の中身を見て何か驚く。
段ボール箱をひっくり返し、何かを探す永野。

永野:…え、嘘でしょ。え、無い。無いって事ある?無いって事があるの?なんで?え、無い。無い無い無い。あれが無い!

犬 :歩こう~歩こう~わたしは元気~♪と、ご機嫌にお散歩をしていたらおおっと…なんだかすごい現場に通りかかってしまった…。百合子先輩。一体何が無いんだ?覗き見。

永野:やっぱり無い…ダンスショーケースに出るのに、ダンスが無い!
犬 :…!(息を飲む)……大変だ!…大変だ!…これは大変だ!

(デデーーン)

ナレーション:幻の「ダンス」を探すため、我々はアマゾンへと向かった。果たして、平山犬は幻の「ダンス」を見つける事ができるのか?!

(デンデンデンデンデンデンデデーーン)
字幕:秘境に眠る幻の「ダンス」を探せ!!
(ギャアギャアギャアギャア…)

犬:ふう…。ダンスを探して三千里。カバンの中も、机の中も、探したけれど見つからない。そんな時にはアマゾンを探すしかない。ここになければおしまいだ!頼む!ダンスリライトにコントを持ち込むわけには行かないんだ!たのもーーーー!

店員:いらっしゃいませーーー!ピッ!ピッ!ピッ!こちらタイムセール2割引商品です!ピッ!ピッ!只今!ビニール袋が!有料になっておりま
客 :いりません!
店員:ポイントカード
客 :持ってません!
店員:1980円です!
客 :ペイペイで!
店員:ペイペイ!ありがとうございましたーーーーー!!!いらっしゃいませー!スーパー美好、アマゾン秘境店にようこそ!
犬 :スーパーマーケットだ!
店員:スーパーマーケットです!

M1 

曲が終わる頃には、犬くんは何故かスーパーで働くことになっている。
店員1が社訓の唱和を教えている。そこに店員2がやってくる。

店員1:いらっしゃいませ!
犬  :いらっしゃいませ
店員1:ありがとうございました!
犬  :ありがとうございました
店員1:スーパー美好アマゾン秘境店にようこそ!
犬  :スーパー美好アマゾン秘境店にようこそ
店員1:カミツキガメの罠はこちらです
犬  :カミツキガメの罠はこちらです
店員2:大丈夫です秘密は守ります!
犬  :誰だ!?
店員1:私たちはお客様を第一に考え、常に戦闘態勢。
店員2:そこに無ければありません
店員1:ここに無いものはありません
店員2:ここに無いものはこの世に無いものです
店員1:ピラニアの食欲
店員2:どんなもんだアナコンダ
店員1:地球上で最大級
二人 :スーパー美好、アマゾン秘境店にようこそ

字幕:スーパー美好アマゾン秘境店

店員1:これが社訓の唱和です。
犬  :…なるほど
店員2:ええと今日からだっけ?
犬  :平山です。よろしくお願いします。(字幕:新人 平山犬)
店員2:よろしくお願いします。飯塚です。(字幕:飯塚)
店員1:鈴木2号店です。(字幕:鈴木2号店)
犬  :鈴木…2号店さん?
店員1:鈴木は2人いるので、先にいた方が1号店、後から入ったので2号店。
犬  :あー
店員2:佐藤さんは3号店まで居ます。
犬  :…はい!
店員2:たくさん居るから、すぐには覚えられないと思うんだけど…まあ、おいおいね。
犬  :はい。
店員1:分からないことがあったら、ここ二人にまず聞いてもらえれば。
犬  :はい。…お二人は長いんですか?
店員2:3年くらいですかね。
店員1:私はその半年後くらいにやってきました。
犬  :あ、じゃあ結構長いですね。
店員2:いやーここの中だと全然ですね。10年選手も沢山いますし。あ、あの…(ヒソヒソ)あそこに居る人、見えます?乾物コーナーあたりの…試食販売やってる。
犬  :ええと、あ、はい。わかりました。
店員2:あの人、伝説のパートさん。
犬  :伝説のパートさん?
店員2:しーーーー!
犬  :すみません…。伝説っていうのは。
店員2:あの人…ずっと居るんです。
犬  :…え?
店員2:ずーっと居て、いつから居るのか誰も知らないんです。
犬  :…本人に聞けばいいんじゃないですか?
店員2:怖くて聞けないよ!それに、他の質問には何でもパーフェクトに答えてくれるのに、自分のことについては、名前以外の一切を答えてくれないんです。
店員1:でもお店のことは、何でも知ってる。
店員2:噂によると、1000年前からああやって試食販売をしているとか…
犬  :1000年前?
店員1:それが伝説の1000年パート、
二人 :植原さん

字幕:伝説のパート 植原さん
雷の音のSE ゴロゴロゴロゴロ 永野が出てきて植原さんに話しかけに行く。

店員2:おっと。スコールかも。
店員1:どうしても分からないことがあった時には、植原さんに聞きに行くと分かります。
犬  :はい…
店員2:ちょっと!ちょうどいいところに永野さんも来ましたよ。
店員1:え、今日でしたっけ?(犬に)あ、ええと植原さんのところにやってきた人見えます? 
犬  :えー…あ、はい。見えました。
店員1:あれも生きた伝説。棚卸師の永野さん。

字幕:棚卸師 永野さん

犬  :棚卸師?
店員2:棚卸が神業級に早いんです。迅速で正確。そして棚卸の日にしか現れない。
店員1:棚卸の神様、人呼んで「棚卸師の永野」初日に見られるなんてツイてますね!
犬  :はあ…
店員2:1000年パートと棚卸師なに話してんのかな~。聞きて~。
店員1:今日の閉店後の打ち合わせですかね…?
店員2:って、今日棚卸ですか?
店員1:棚卸師が来てるってことはそうですね。
店員2:はーー。これは早速平山くんに教えることがあるなー。
犬  :は、はい。棚卸ですね?
店員1:いや、その前に、まずはじめに覚えるべき奥義がある。
犬  :奥義?って何ですか?
店員2:この危険いっぱいの熱帯雨林で、まだ何一つ武器を持っていない新人くんには、身を守る術を身に付けてもらわなきゃあならない。
店員1:これは新人にしか使えない奥義。そしてありとあらゆる場面で重宝する万能技。
店員2:万能ネギ 万能だし 万能鍋 そして万能奥義。困った時に頼りになるのはこいつら。よく覚えてね。
犬  :…よく分かりませんが、分かりました…!
店員1:簡単だからそんなに緊張しなくて大丈夫ですよ。こうして、こうです。
犬  :こうして…こう?
店員1:そうそうそうそう。もっかいやってみて。こうして…こう。そうそうそう。
犬  :こうして、こう…。こうして、こう。え、これは一体?
店員2:まあまあまあ、今度はこれを持って、同じことをしてください。
犬  :これは?
店員2 持てばいいんです。はい持って。はい。じゃあさっきと同じ様に。
犬  :え、さっきと同じでいいんですか?…これを、こう…

持たされた板には「次の日」
と書いてある。奥義炸裂。そして時間は次の日になる。暗転
字幕:奥義炸裂 次の日

M2 

ナレーション:説明しよう!奥義「次の日」はその名の通り、使うと次の日になる究極技。これは全体像を掴む間もなく目の前の作業に頭がいっぱいいっぱいになることが許される新人にしか使えない。それまでの流れを全てぶった斬り過去にすることができる。

全ては昨日の事となり暗転
明転

店員12:おはようございます。
犬  :おはようございます。
店員1:どうですか?慣れてきましたか?
犬  :いやー覚えることがいっぱいあって、まだまだですね。
店員2:あーそうですよね。あんまり一度にいっぱい教えられても覚えられないですよねぇ。
犬  :すみません
店員1:というわけで一個ずつ覚えていきましょう。これは呼び込みくんです。
犬  :呼び込みくん?!
店員2:呼び込みくんです。
犬  :ちょっとよく分からないです…
店員1:分からないですか…。ではこれはどうでしょう?ポチ!

呼び込みくんのメロディが流れる。

犬  :あ!この音楽は!
店員2:これは聞いたことあるんじゃ無いですか?
犬  :あります!あー、これ呼び込みくんっていうんですね。

呼び込みくん 「スーパー美好アマゾン秘境店へようこそ」

犬  :あ、声も追加できるんですね。
店員1:ピンポーン。その日のお買い得品やタイムセールなど、必要な音声を追加で録音することが可能です。
店員2:と言っても、大体同じやつを流しっぱなしにしてるんですが。
店員1:設定いじるのが久々すぎて忘れてますね。ええっと切り替えは…これか。ポチッと。

呼び込みくん:「いらっしゃいませ!いらっしゃいませ!安いよ!安いよ!」

店員1:ポチッと

呼び込みくん:「本日は、スコールの中ご来店いただき、誠にありがとうございます。」

店員1:ポチッと

呼び込みくん:「毎月29日は肉の日!」

店員1:ポチッと

呼び込みくん:
「ザザザ…皆さんこんにちは。スーパー美好アマゾン秘境店へようこそ」ここ、アマゾン秘境店にある品物は全て、このスーパーの創立者、経営者で冒険家の3代目みよし店長が買い付けしたものです。

店員1:こんなのありましたっけ?
店員2:3代目ってずいぶん古い音声だね。
犬  :今の店長は何代目なんですか?
店員1:24代目。
 
呼び込みくん:
「店長!店長!それを何処で見つけたんですか?」
「私は莫大な金をかけ、命を危険にさらしてこいつを手に入れた。商店街の皆様方は手放すのを嫌がったがね。」
「(笑)店長。それは呪いの呼び込みくんだと言われてますよね?」
「はん。呪いの呼び込みくんだと?ばかばかしい。」
「(笑い声)」
 
呼び込みくんの呪いは本物だ。これ以上これを聞いてはならん。
私と同じ運命になるぞ。  
私の忠告を聞け! 呪いは本物だ!
呼び込みくんの目が!
(うわーーーーーー)
早く逃げろ。まだ間に合う。
 
 犬  :え?今のは?
店員1:なんだこれ初めて聞いた!
店員2:ちょっと待ってまだ続きがあるっぽい
 
呼び込みくん:
「愚か者が…なぜ忠告を聞かなかった…。だが一番愚かだったのはこの私だ。世界中に出店することに心を奪われ、わが身の破滅を招いてしまったのだから…。私はあの在庫を抱える恐怖を、永遠に繰り返す運命なのだ。
さぁ手を振ってこの世の自分に別れを告げたまえ…」

店員1:ポチ!ポチ!ポチ!止まらないです!
店員2:バグった?!
犬  :えええ?
3人 :どうしよーーーー
店員1:あ!困った時には
店員2:植原さーーーーん

呼び込みくんのメロディ

犬  :この時、植原さんはとても落ち着いていた。落ち着き払っていた。何なら少し懐かしそうな雰囲気すらあった。暴走する呼び込みくんを迷わず受け取ると、くるりと裏返し、そして名札の安全ピンを外した。安全ピンの針の先が必要だったのだ。そうして、伝説のパート、植原さんは針を扱いやすい様に持ち直すと、呼び込みくんの裏側にぷすりと刺した。それはリセットボタンだった。

呼び込みくんが止まる。

店員12:さすが植原さん!
犬  :この時、僕は思った。植原さんだったら、どんな質問にも答えてくれるんじゃ無いかって。

暗転
明転

おばさん  :春雨ってどこかしら?
植原さん  :あちらです
おじいちゃん:サービスカウンターっていうのは?
植原さん  :そちらです
ちびっこ  :クレヨンください!
植原さん  :3階の文具コーナーです
おじさん  :あの…あれよ…あの…川が海から逆流する…
植原さん  :ポロロッカですね。
おばあちゃん:桐箪笥ってあります?
植原さん  :4階にございます
犬     :ダンス?!

M3 

おばさん  :春雨ってどこかしら?
植原さん  :あちらです
おじいちゃん:サービスカウンターっていうのは?
植原さん  :そちらです
ちびっこ  :クレヨンください!
植原さん  :3階の文具コーナーです
おじさん  :あの…あれよ…あの…川が海から逆流する…
植原さん  :ポロロッカですね。
おばあちゃん:桐箪笥ってあります?
植原さん  :4階にございます
犬     :ダンス?!(おばあちゃんと植原さんの視線に気が付き)あ…失礼しましたー。そうだ!そうだった!ここに来たのは幻のダンスを探す為だった!え?何でいつの間にか働く事になったんだ?!ええ?
店員1   :平山くーんそろそろ休憩時間だよー
犬     :鈴木二号店さん!あの、ダンスってどこにあります?
店員1:ダンス?
犬  :ダンスです。
店員1:洋服ダンスなら家具のあたりにあるんじゃない?
犬  :あ、箪笥ではなくて、ダンス。
店員1:箪笥じゃ無い、ダンス…?
犬  :はい!
店員1:ええと、それは家具なの?
犬  :家具ではなくてですね。こう、踊り、そう踊りです。
店員1:踊り…?集団生活をする鳥が、仲間の姿に引かれて寄ってくる習性を利用して、池に浮かべて寄ってきた水鳥を捕獲する、別名デコイと呼ばれている?
犬  :それはおとりです。
店員1:デコイだったらなー。地下のハンティングコーナーにあったと思うんだけどなー
店員2:あれ?まだ休憩行ってなかったの?
店員1:あ、飯塚さんダンスって分かります?
店員2:家具コーナーにあるんじゃない?
店員1:いや、それが箪笥じゃないんだって
店員2:え?じゃあ何なの?
犬  :あの、踊りの方のダンスです。
店員2:踊り…?デコイ?
犬  :違います。
店員1:大きさとか色とか、何のためのものなのかとか。
犬  :ええと…大きさ…色…すごく広いところが必要な時もあれば、小さい空間でも成立することもあって…お祭り?とか娯楽のため…とも限らないんですけど…儀式とかが最初なのかな…?ええと…
店員2:あー!わかった!UMA?
犬  :はい?
店員2:ああいうのって何であんなに説明難しいんだろうね。
犬  :何の話してます?
店員1:平山さんも未確認生物を探しに来ていたんですね。
犬  :んん?
店員2:私はチュパカブラを探して、ここスーパー美好にたどり着きまし
た。
店員1:私は雪男を探しています。
犬  :熱帯雨林に居ます?
店員1:雪山という雪山は探し回りました。その中で得たいくつかの手がかりを追いかけたら、最終的にこのスーパーマーケットにたどり着いたんです。
店員2:そこに無ければありません
店員1:ここに無いものはありません
店員2:ここに無いものはこの世に無いものです
店員1:ピラニアの食欲
店員2:どんなもんだアナコンダ
店員1:地球上で最大級
二人 :スーパー美好、アマゾン秘境店にようこそ!
店員2:探し物が見つかると良いですね。
店員1:ダンスとやらは我々には分かりませんが…きっと地球のどこかに居るはずです!
店員2:じゃ!休憩です!休憩!
店員1:解散!

バルコニー組はけ。棚卸師永野が舞台面にいる。

M4 

店員1:飯塚さーん!
店員2:はーいー?
店員1:鳩ってどっちでしたっけ?
店員2:手品用?
店員1:伝書鳩です。
店員2: あー伝書鳩はレース関連でまとめられてた気がしますー。って重いな!!!
店員1:何運んでます?
店員2:責任。
店員1:ああ、あれ嵩張るし重いんですよね 。       

犬   :あの、すみません植原さん。ダンスってありますか?
植原さん:…(ニコニコ)
犬   :あの…
植原さん:…
犬   :…自分で探してみま~す…

犬はける。植原さんはスーパーの裏の扉をあけ、引き戸の向こう、数字認証と顔認証をパスし、罠を掻い潜り、大きな岩を退かして秘密のシャッターのボタンを押す。するとその向こうには永野がいる。永野に在庫のことを尋ねると、いくつか段ボールが出てくる。あれでもないこれでもないと探し物をするうち、永野が何かを思い出し倉庫の奥へ。ドンガラガッシャン。そして一際古びた段ボールを持ってくる。その箱からは何やら音が聞こえ、開ければ中が光っているのだった。

M5

閉まっていくシャッターに間に合わない犬君。再度シャッターを開けると、段ボールを見つけ、それを持ち帰る。
場所は移り変わって、最初のゆりこ先輩が困っている時空。

犬:ゆりこ先輩!見つけましたよ!お探しのダンスです!

段ボールからデコイが出て来る。

永野:……これは囮。

おしまい

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