帝国ホテルの決算から考えるサービスアパート事業を始めた理由とその影響度

どうもコージです! 私は、毎日決算書を読んで企業の未来を妄想しています。 そんな私が決算書の中で面白かったポイント、未来への妄想ポイントを説明しています。

今回取り上げるのは株式会社帝国ホテルです、もちろん帝国ホテルの運営をしている会社です。

さて、こんな発表がありました。

帝国ホテルはサービスアパートメントという形で、ホテルの部屋を利用してアパートのように月額料金で利用できるサービスの提供を開始するようです。

具体的な料金設定としては一番安い部屋で30泊36万円との事ですから、1泊1万2千円の計算になります。
帝国ホテルに泊まったらもちろんそんな値段では止まれませんので、非常に割安なサービスだという事が分かりますね。

さらにフィットネスセンターや、プール、サウナ、ビジネスラウンジなども使えるようですし、3万円の追加料金でクリーニング、6万円ほど追加料金さえ払えばルームサービスもついてくるようですから食事にも困りません。

もちろん、ホテルのサービスを利用出来て部屋の清掃などはついていますから、帝国ホテルの立地に賃貸借りて、家事代行を頼んで、フィットネス契約をすると考えただけでも36万円の料金設定は非常にお得ですよね。

金銭に余裕な方がセカンドハウス的な利用や地方部富裕層の方などもこの機会に1ヶ月くらいといって利用するようなケースもありそうです。

なにより最近はホテル暮らしの方も多いですから、そんな方は利用する可能性が結構ありそうです。

料金設定的に考えても完売する可能性は十分にありそうなサービスですね。

今回はどうして帝国ホテルはこうしたサービスを開始するのか、今後がどうなっていくのかについて考えていきましょう。

それでは早速こちらの資料をご覧ください。

売上高は61.6%減の166億円、営業利益は42.1億円の黒字→84.3億円の赤字へと赤字転落、純利益は30.5億円→86.8億円の赤字となっており6割もの大幅減収で赤字転落と非常に厳しい状況にいる事が分かります。

続いてもう少し詳しく業績を見ていきましょう。

帝国ホテルの事業セグメントは①ホテル事業②不動産賃貸事業と2つあります。

それぞれの事業の業績の推移は
①ホテル事業:売上138.2億円(65.8%減) 利益45.5億円の黒字→85.4億円の赤字
②不動産賃貸事業:売上28億円(4.4%減) 利益16.2億円(4.2%増)
となっており不動産事業は堅調ながらも、ホテル事業の方が大幅な業績悪化となってしまった事が分かりますね。

不動産事業に関してはこのnoteでも何度か取り上げていますが、好立地に不動産を持っているところはたいてい堅調な業績となっています。

今回の新型コロナで好立地不動産の強さを再認識させられましたし、今後も大きく業績が悪化する事は考えにくいですから、今後も不動産事業に関しては堅調な業績が期待できるでしょう。

続いてホテル事業の方をもう少し詳しく見ていきましょう。

ホテル事業では1度目の緊急事態宣言では営業活動の縮小を余儀なくされ1Qでは極めて厳しい業績になったとしています。
ですが2Q、3QとGoToや様々な施策を通じてある程度回復の兆しが見えていたものの第3波に伴う感染者の急増によってGoTo中止などがあり再び厳しい状況になったとしています。

2Qまでの時点で67億円の営業赤字で、3Qまでの累計で84.3億円の赤字ですから、3Q単体で17.3億円ほどの営業赤字だったようです。

3QはGoToが盛り上がりホテル業界は活況となっていた時期も含まれていますから、4Qは1月から緊急事態宣言に入り、3月までの延長が決まっている中で当然これ以上の赤字になっている事は間違いないでしょう。

となると通期では100億円以上の営業赤字となってしまうと見て間違いなさそうです。

また、イベントなどの縮小も悪影響があったとしています。
もちろん帝国ホテルではパーティーなど様々なイベントごとで利用されていましたから、その需要が無くなってしまったのは悪影響が大きいです。

そういったイベントが売上のどの程度の割合かは分かりませんでしたが、同じくラグジュアリーホテルを運営している藤田観光の椿山荘では、宿泊の売上げ以上に婚礼や宴会といった売上の方が規模が大きいですから、帝国ホテルでも相当程度あると考えられます。

今後もしばらくイベントは開きにくい状況が続くでしょうからその点から考えても大きな業績悪化が続きそうです。

さらにインバウンドの縮小も大きな悪影響を受けたとしています。

実は帝国ホテルはインバウンドの比率が非常に高く50%程度が海外からの宿泊者となっていました。
これは数年前からインバウンドの取り込みを頑張っていた結果です。

ではどうしてインバウンドを増やしていたかというのはホテルの売上げの構造を考えれば分かります。

「ホテルの売上=客室数×稼働率×客単価」となりますよね。
当然客室数は一定です。さらに日本全体としてここ数年はインバウンドの増加などもあり高稼働率が続いていました。

となるとどうすれば売り上げを増やせるかというと、増やせるのは客単価の部分しか無い訳です。
となるとどうすれば客単価が上がるかというと、所得が伸び悩み相対的に貧しくなっている日本人客の取り込みに力を入れるよりも、高単価が期待できるインバウンドの増加を狙ったほうがいいという訳です。

だからこそインバウンド比率が高まりをみせていました、しかしその需要が無くなった事で新型コロナの悪影響が大きくなってしまったという事ですね、近隣や国内に顧客を作っていなかったのでダメージが大きいという事です。

また、費用削減を進めたものの固定負担が重いとも言っています。

実際に売上166億円に対して販管費が218億円と、売上を販管費が超えてしまうような状況だと分かります。

もちろん販管費の全てが固定費ではないですが、固定費が比較的多いですから現在の売上げでは固定費をまかなえるような水準にいないと考えらえます。

しかしそんな状況の中でも従業員の雇用継続に鋭意取り組んだとしている事からも分かる通りで、雇用の維持を続けています。

売上を販管費が上回ってしまうような状況ですから、余剰人員がかなり出ているでしょうし、固定費削減というためにも人員削減を進めても不思議ではありません。

ですがそうしないのはやはりブランドの維持というのはあるでしょう、顧客層としても年配層が多いですし、リストラをすることでイメージの悪化は避けたいところです。

また、帝国ホテルともなれば現場のレベルまでの社員教育というのも時間がかかるでしょうから、しっかり育った従業員を手放すのは損失が大きいという事もありそうです。

そして人員削減をしない最大の要因としては財務状況が非常に良好だという事もあります。

やはり資金繰りに行き詰ってはもちろん雇用の維持は出来ません、現状手元資金+有価証券で361億円ほどあり、一方で流動負債は46.5億円、負債全てでも172億円というような状況ですから非常に良好な財務体質です。

しかしいつまでも余裕といっていられる状態だという訳でもありません、今期では100億円以上の営業赤字となる可能性が高いと話したように、当然不振が続けば資金は失われていきます。

そんな状況への対応策として出されたのがサービスアパートメントですね。

当初に触れたように、非常に割安ですのである種ブランドの毀損に繋がる可能性もあるサービスです。
ではどうしてこの取り組みを決めたのかというと、新型コロナの変異種の流行が大きいのではないかと思います。

インバウンドが戻ってくるのが大分先になった事は間違いなさそうですよね。

となると低稼働率が長期化するだろうという見通しが確実になってきた事でこのサービスアパートの取り組みを決めたのではないでしょうか。

というのも、、低稼働率で空室が出ている状況であればそういった空室の有効活用に繋がりますが。実質1泊1万2千円と通常の宿泊に比べて格安で泊まれますから、もしホテルが高稼働となって泊まれない通常の顧客が生まれるとサービスアパートに利用している部屋は機会損失が大きいわけです。

その部屋を通常の宿泊客に回せばもっとお金取れるよねって事です。

ではこのサービスアパートメントはどの程度業績へインパクトを与えるのでしょうか?

まず具体的には3フロアを回収して99室をサービスアパートメントとしたようです。

室料としては30泊36万円、72万円、60万円の3タイプあります。
どのような構成になっているかは分かりませんが、全部33部屋ずつだと仮定すると1ヶ月の売上げは5544万円、年間でも6億6528万円とそこまで業績に大きなインパクトを与える水準ではありませんね。

業績に大きなインパクトを与えるわけではありませんが、これは雇用維持には十分に役立つ可能性があります。

というのも現状明らかに余剰人員が生まれている状況です、ですがこの余剰人員を削減せずに雇用し続けるとするとその分のコストはそのまま損失となってしまいます。

なのでその人件費だけでもペイできれば雇用維持にとってはインパクトがあるでしょうし、接客などでは休ませるよりもサービスの品質維持にも、従業員のモチベーション維持にもつながるでしょう。

という事で、業績としては帝国ホテルではイベント需要の減少とインバウンドの減少の影響が長期化する可能性が高く、長期的な業績悪化となる可能性が高そうです。

サービスアパートメントに関しては、そんな状況の中で低稼働率の長期化そを受け入れ、雇用維持のための1つの取り組みではないかと考えています。



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