京セラ【6971】市況低迷と積極投資のコスト増で利益低迷が続く話

日経平均に採用されている銘柄を全て取り上げているこのnote、今回取り上げるのは京セラ株式会社です。

京セラという社名の通りで、セラミックに強みを持った企業で、そのセラミックなのかでも高温処理を受け、高度に制御調整された「化学組成」や「製造プロセス」によって製造され、特に高い才良特性や寸法精度を備えたファインセラミックスに強みがあり、スマートフォンや自動車などの半導体を製造する際にも利用されています。

事業内容と業績のポイント

それでは事業内容を見ていきましょう。

京セラの主要な事業セグメントは以下の3つです。

①コアコンポーネント:ファインセラミックスを活用した部品など
 (1)産業・車載用部品:半導体製造装置用ファインセラミック部品、EVリレー用部品、車載カメラモジュール、FA・医療用光学ユニットなど
 (2)半導体関連部品:各種セラミックパッケージ、有機パッケージ、車載ミリ波レーダー用基板
 (3)その他:デンタルインプラント、人工関節、セラミックキッチン用品など

②電子部品:セラミックコンデンサなどのコンデンサ、水晶デバイスやパワー半導体など

③ソリューション:
 (1)機械工具:切削工具、空圧・電動工具
 (2)ドキュメントソリューション:複合機・プリンタなど
 (3)コミュニケーション:通信エンジニアリング、スマートフォンなど
 (4)その他:太陽電池、クレイ型蓄電池、デッドアップディスプレイなど

セラミックの技術を中心に、車載や半導体関連の部品やコンデンサを提供していたり、工具や複合機、さらにスマートフォンなども展開している企業となっています。

2023年3月期時点でのセグメント別の売上構成と(利益の額)は以下の通りです。
①コアコンポーネント:29.2% (895億円)
 (1)産業・車載用部品:9.8% (247億円)
 (2)半導体関連部品:18.0% (677億円)
 (3)その他:1.4% (▲30億円)
②電子部品:18.7% (441億円)
③ソリューション:52.8% (422億円)

 (1)機械工具:15.2% (422億円)
 (2)ドキュメントソリューション:21.5% (337億円)
 (3)コミュニケーション:10.3% (117億円)
 (4)その他:5.8% (▲30億円)

売上は③ソリューション事業が約半分を占めており、機械工具や複合機やプリントなどを提供するドキュメントソリューションの規模が大きいですが、利益面はコアコンポーネントが約半分を占めている主力事業で、特に半導体関連部品の規模が大きいです。

利益面は半導体市場の動向に影響を受けやすいという事ですね。

続いて売上の推移を見ていくと、長期的な拡大が続いており2023年3月期は過去最高を更新しています。

一方で利益面を見てみると、増減のある推移になっています。
ここ2年ほどは高利益水準を維持しているものの、過去最高の売上だった2023年3月期は前期比では減益となっており、売上に伴って利益も拡大しているわけではありません。

高利益水準は維持しつつも増収減益となっていた2023年3月期の業績についてもう少し詳しく見ていきます。

セグメント利益の前期比は以下の通りです。
①コアコンポーネント:+278億円
 (1)産業・車載用部品:+49億円
 (2)半導体関連部品:+235億円
 (3)その他:▲5億円
②電子部品:▲38億円
③ソリューション:▲265億円
 (1)機械工具:▲39億円
 (2)ドキュメントソリーション:+3.7億円
 (3)コミュニケーション:▲270億円
 (4)その他:+40億円
④その他:▲141億円

コンポーネントは増益で好調だったものの、電子部品が若干の減益となり、ソリューション事業が大幅減益となっています。
特にソリューション事業の中でもコミュニケーションが大きな悪化を見せています。

ではどうして、ソリューション事業が大きく業績を落としていたのかというと、原材料高やエネルギー価格、物流価格の高騰といった要因もありますが、それに加えて携帯末端の販売台数大幅減少と、構造改革に伴う在庫評価損が大きな影響を与えています。

というのも、京セラはスマートフォンの製造販売も行っていますが不採算が続く中で撤退を決めており、2023年3月期で新規開発を完了し、2025年3月期で供給・販売を終了する見込みです。

事業撤退の費用がかさんだ側面があるという事ですので、2024年3月期以降は構造改革による業績の改善が期待されます。

ではそれに伴って2024年3月期は企業全体の業績の回復が期待できるのかというとそうではありません。

減益となっていた電子部品事業を見てみると、原材料費高騰やスマホ部品向けの需要減速が影響しています。
2024年3月期原材料高が続きますし、インフレが続く中で消費低迷も懸念されます。
となると需要悪化も継続すると考えられますので、苦戦が継続する可能性が高いという事です。

コアコンポーネントは販売増に加えて円安もあり好調でした。
ですが、この事業は先ほど見たように半導体関連の利益の規模が大きいです。
そして半導体市場は低迷が続いています。

四半期ごとの業績の推移を見ても、半導体関連の事業利益は4Q単体では前期比で減益となっており半導体市場低迷の影響がみられます。
2024年3月期に入っても市況の改善はみられていませんので、業績の低迷が続く可能性が高そうです。

2024年3月期では、2023年3月期の利益の悪化要因となっていた、ソリューション事業のコミュニケーション事業は業績改善が期待されますが、それ以外の事業が苦戦する可能性が高く利益面の苦戦が予想されるという事ですね。

そのように、直近では市況の悪化もあり苦戦が想定される京セラですが、2024年3月期~2029年3月期までの6年間で1兆円の売り上げ拡大を目指しています。
1兆円~2兆円までの成長には22年かかっていますから、積極投資の姿勢を見せています。

今後注力していくのは、最先端半導体や5G/6G、モビリティとなっており、これまでの実績もある得意分野で市場の成長も期待できる分野での成長を見込みます。

新工場建設も続々と進んでおり、積極的な設備投資を行っています。
コンポーネント事業では2021年3月期~2023年3月期の3年で1726億円の投資を行っていますが、2024年3月期~2026年3月期の3年間では4000億円の投資を計画しています。

電子部品事業でも2021年3月期~2023年3月期の3年で1323億円の投資を行っていますが、2024年3月期~2026年3月期の3年間では2100億円の投資を計画しており積極投資の姿勢が鮮明です。

京セラは創業来の黒字経営を続けており、2023年3月末時点では総資産が4兆円で自己資本比率が74%となっています。

黒字経営を続けつつ、自己資本を中心に事業を展開しており非常に財務基盤が安定した企業です。

財務基盤が強く投資余力のある企業ですから、積極投資によって生産能力の拡大が可能で、長期的には市場拡大が進む中での成長が期待できます。

とはいえ、先ほど見たように2024年3月期は市況悪化による業績悪化が予想されます。となると積極投資によるコスト増加も業績の押し下げ要因になる可能性がありますので、その点を考えても2024年3月期の業績は苦戦したものになりそうです。

という事で京セラはその社名の通りでセラミックの技術に強みがあり、車載や半導体関連の部品やコンデンサを提供していたり、工具や複合機、さらにスマートフォンなども展開している企業です。

業績は長期的に売上の成長傾向が続く一方で、利益面は増減ある推移となっており2023年3月期は高利益水準を維持するものの前期比では減益となっています。
それにはスマートフォンからの撤退など構造改革が影響しており、それによって業績の一定の改善は期待されます。

ですが企業全体としては利益面では半導体関連の規模が大きく、2024年3月期は半導体市場悪化の影響を受ける事が想定されます。
さらに原材料費の高騰も続いていますし、インフレが続く中で消費の低迷悪影響があると考えられますから2024年3月期は業績の苦戦が想定されます。

直近の業績

それでは続いて直近の業績を見ていきましょう。
今回見ていくのは2024年3月期の3Qまでの状況です。

売上高:1兆4927億円(▲2.2%)
営業利益:798億円(▲29.9%)
純利益:904億円(▲23.9%)
減収減益と苦戦した状況となっており、これまでは増収傾向が続いていた売上も減収に転じています。

セグメント利益の前期比は以下の通りです。
①コアコンポーネント:▲257億円
 (1)産業・車載用部品:+12億円
 (2)半導体関連部品:▲299億円
 (3)その他:+30億円
②電子部品:▲265億円
③ソリューション:+103億円
 (1)機械工具:▲74億円
 (2)ドキュメントソリーション:+67億円
 (3)コミュニケーション:+79億円
 (4)その他:+31億円

構造改革を進めたソリューション事業は業績が改善したものの、コンポーネント事業の半導体関連製品と電子部品事業が大幅減益となり業績悪化に繋がっていた事が分かります。

コンポーネント事業ではスマートフォン市場向けのセラミックパッケージや情報通信インフラ市場向け有機基盤の販売減少があり消費低迷の影響を受けています。

さらに減価償却費の増加もありました。

通期予想を見てみると、減価償却費は+62億円、研究開発費は+117億円を見込んでおり積極投資を進める中でコスト増加が起きています。

低迷する半導体市場や消費の影響に加えて、積極投資によるコスト増があり大幅減益に繋がっていたという事ですね。

電子部品事業も情報通信市場向けコンデンサや水晶部品などでの在庫調整があったようで、消費低迷の影響を受けています。
その結果稼働率低下によって利益率が悪化し、さらに原材料高騰の影響も受けて大幅減益になったようです。

業績回復のためにはやはり市況の回復が重要です。
半導体関連企業の今後の見通しを見てみると2024年中での市況回復を見込んでいる企業が多いですから注目です。

また、世界経済の減速に加えて、半導体関連や情報通信関連市場の回復が想定以上に遅れ、4Qも同様の状況が継続する事を見込み下方修正も行っています。

さらに設備投資に関しても従来から100億円ほど見直しを実施しています。

想定以上に苦戦する中で設備投資にも影響が出始めており、今後の成長目標に対しても遅れが出てくる可能性がありますので注意が必要そうです

という事で直近では減収減益で苦戦した状況になっています。
市況の悪化に加えて積極投資を進めている事でのコスト増加も影響しています。
そして今後も市況低迷が見込まれる中で下方修正も行っています。
業績回復が進むかには市況の回復が重要ですから、その動向に注目です。


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