自民党はどっちを向いて政治をするだろうか? ―党に寄附するあの企業・あの団体―
わたしは政治にはあまり興味を持ってこなかった人間だと自認しているが、日本とはどういう国だろうか、どういう原理で動いている国だろうか、ということには関心がある。
そのような関心のもとにいろいろ調べていくと、おそらくどのようなルートを辿っても、いずれはここに至るに違いないと思われるポイントがある。
政治資金――。
例えば次のような記事がある。
この記事が紹介しているデータは総務省のウェブサイトに公開されている。「トップ>選挙・政治資金>政治資金>政治資金関連資料」と辿っていくと、政治資金収支報告の概要(報道資料)【総務大臣届出分】という見出しのもとに「令和元年分(令和2年11月27日公表)」という名称でPDFファイルがある。
これに掲載されている政党本部の収入の要点を抜き出すと次のようになる。なお億円未満は切り捨てている。
2021年10月解散時の衆議院議席数の上位は、一位の自民党が275議席、二位の立憲民主等が110議席というが、自民党には立憲民主党本部の3倍以上もの資金力がある。
これだけの差がある中で選挙を戦えというのはそれだけで酷な気もするが、自民党本部の最大の収入源は政党交付金である。これは何か?
これは同じく総務省のウェブサイトに掲載されている説明である。
要するに、国民一人あたり250円を負担して、政党に政治活動費を渡しているのである。政党助成法の第一条には次のようにある。
自民党の収入の大半(72%)は今や、黙っていても議席数等に応じて自動的にキャッシュ・インしてくる政党交付金なのだ。
この政党交付金を増やすにはどうすればよいか?
選挙で勝てばよいのである。裏返せば、選挙によって私たちは国会に送り込む議員を選ぶと同時に、どの政党に多くの活動費を与えたいかを表明しているのだとも言える。もし選挙に勝つにはカネが要るとすれば、資金力のある方が有利である。勝てば勝つほどカネが入ってくるとすれば、政党交付金の制度は、強い政党が固定化するのを助長しているのではないかという気もする。
しかし、ここで着目したいのは寄附の方である。
自民党27億円、共産党6億円、れいわ新選組5億円――。
他にも寄附を受けている政党はあるが、トータルで1億円に達しない。
これらの寄附を行っているのは誰なのか?
これについても総務省のウェブサイトから、ある程度知ることができる。
ここでは、〝年間に1000万円以上の寄附をしている団体〟に着目してみたい。
自民党については額が大きいので後回しにする。
先に自民党以外について、年間に1000万円以上の寄附をしている団体を調べてみると、次のとおりである。
なおUAゼンセンというのは「繊維・衣料、医薬・化粧品、化学・エネルギー、窯業・建材、食品、流通、印刷、レジャー・サービス、福祉・医療産業、派遣業・業務請負など、国民生活に関連する多種多様な産業で働く仲間が集結しています」とウェブサイトにあるが、要するに労働組合のことである。
民主党系は一部の労働組合に支持されているのだということがわかる。
なお、公明党、共産党、日本維新の会、社会民主党、れいわ新選組、NHKから国民を守る党には〝年間に1000万円以上の寄附をしている団体〟は見当たらなかった。
(ここで参照している資料の現物は、総務省のウェブサイトの「トップ>選挙・政治資金>政治資金>政治資金関連資料>令和元年分政治資金収支報告書の要旨(令和2年11月27日付け官報)」に掲載されているから、気になる方はご自身で確認されるとよい。)
では、共産党の6億円、れいわ新選組の5億円の寄附はどこから来ているのか?
これらは個人から来ている。
例えば共産党には、3425万5941円を寄附している石田勝實なる人物がいる。他にも1000万円以上を寄附している人が7名ほどいて、共産党の6億円はこうした個人寄附の集積である。
れいわ新選組も同様である。寄附のほとんどを個人から集めている。れいわ新選組の場合、最高額は上川吉彦なる人物の300万円だった。
さあ、問題は自民党である。
寄附27億円の内訳を見ると、個人分3億円、団体分0億円、政治団体分23億円である。
政治団体分23億円とは何かというと、これが先に引用した新聞記事にも出てきた「一般財団法人国民政治協会」である。
国民政治協会は28億円の寄附を集めている。そのうちの23億円が、自民党本部に流れているということなのである。
国民政治協会が集める寄附28億円の内訳は、個人分1億円、団体分24億円、政治団体分3億円である。
つまり自民党に対する寄附の主要な流れは、団体→国民政治協会→自民党本部である。
したがって、自民党に誰がいくら寄附しているのかを知るには、国民政治協会に寄附している団体の内訳を見ればよい。
ただしその前に、国民政治協会を通さずに、自民党の支部に直接寄附している団体があるので、これを見ておこう。
日本医師連盟というのは、そのウェブサイトに「日本医師会の目的を達成するために必要な政治活動を行うことを目的とする」とある。要するに、新型コロナ対応でも話題となった日本医師会である。それが1億円以上を自民党の群馬県の支部に寄附している。
全国農業者農政運動組織連盟というのは、農協(JAグループ)の政治団体の全国組織である。
日本歯科医師連盟というのは、そのウェブサイトに「日本歯科医師会の目的を達成させるために必要な政治活動を行い、国民医療の発展に資することを目的に設立した」とあるから、日本歯科医師会の分身と考えてよいだろう。
日本薬剤師連盟というのも、そのウェブサイトに「日本薬剤師会の目的を達成すること、その他薬事・薬業の振興に必要な政治活動を行うことを目的とする」とあるから、日本薬剤師会の分身と考えてよいだろう。
フォーラム21というのは、日本の大手企業と省庁の集まりである。世話人に日本アイ・ビー・エム名誉相談役の椎名武雄がいる、と言えばおおよそのイメージが湧くだろう。
全国商工政治連盟というのは、商工会議所の政治団体である。
経和会というのは、インターネットで検索してもよく分からなかった。自民党の地元議員の支援団体かもしれない。
これだけ見ても、自民党を支援しているのが日本におけるどういう団体なのかということかについて、だいたいのイメージが掴めるだろう。
ただし自民党に対する寄附を見るときの本丸は、団体→国民政治協会の流れである。
国民政治協会には誰が、いくら寄附しているのか?
〝年間に1000万円以上の寄附をしている団体〟に着目して、それを以下に一挙掲載しよう(万円未満切り捨て)。
※1 自由社会を守る国民会議……ウェブサイトには「本会は、自由主義と保守主義の理念を基調とし、これを創造的に発展しつつ、自由社会を守るため、自由民主党の改革と再生を強力に支援する、巾広い国民運動を推進することを目的とします」とある。
※2 日本自動車工業会……ウェブサイトには「国内において自動車を生産するメーカーを会員として設立され、自動車メーカー14社によって構成されています」とある。会長はトヨタ自動車の代表取締役社長・豊田章男。
※3 日本電機工業会……会長は日立製作所の取締役代表執行役執行役会長兼CEO・東原敏昭。
※4 日本鉄鋼連盟……ウェブサイトには「鉄鋼を生産する主要なメーカーと鉄鋼流通を担う商社で構成されています」とある。会長は日本製鉄の代表取締役社長・橋本英二。
※5 石油連盟……ウェブサイトには「わが国の石油精製・元売会社、すなわち原油の輸入・精製、石油製品の全国的な販売を行っている企業の団体として創立され」とある。会長はENEOSホールディングスの代表取締役会長グループCEO・杉森務。
※6 不動産協会……ウェブサイトには「都市の開発や魅力的なまちづくりに取り組む企業により構成される団体です」とある。理事長は三井不動産の取締役社長・菰田正信。
※7 ワールドメイト……ウェブサイトには「八百萬の神々を崇敬する神道系宗教法人です」とある。設立者は深見東州。首都圏鉄道の車内広告でお馴染みのアノ人である。
※8 プレハブ建築協会……ウェブサイトには「プレハブ建築の研究開発及び建設・普及を通じて、良質な社会資本の形成と豊かな生活環境の創造を推し進め、もって国民経済の繁栄と国民生活の向上に寄与することを目的としています」とある。会長は積水ハウスの代表取締役副会長執行役員・堀内容介。
※9 石油化学工業協会……ウェブサイトには「石油化学工業の健全な発達と国民経済の発展に寄与することを目的としています」とある。会長は三菱ケミカルの代表取締役社長・和賀昌之。
※10 全国宅建政治連盟……ウェブサイトには「47宅建政治連盟に所属する会員業者の権益擁護と業界の健全な発展ならびに消費者保護を目的としています」とある。会長は東日本不動産流通機構の理事長・瀬川信義。
※11 日本商工連盟……日本商工会議所の政治団体である。日本商工会議所の会頭は日本製鉄の名誉会長・三村明夫。
※12 全国信用金庫協会……ウェブサイトには「全国の信用金庫を会員とし、信用金庫の健全な発展と社会的使命を果たすことを目的に設立された公益性をもつ金融団体です」とある。名誉会長は城北信用金庫(本部は東京都北区)の会長・大前孝治。
※13 日本船主協会……ウェブサイトには「100総トン以上の船舶の所有者、賃借人ならびに運航業者等であって、日本国籍を有する者を会員とする全国的な事業者団体です」とある。理事長は国土交通省からの天下り官僚であるが、理事に、日本郵船の代表取締役社長・長澤仁志がいる。
ここでもトップに日本医師連盟(2億円)が出てくるのか、と笑えてしまう――どれだけ貢ぐんですかw
これでは新型コロナ対応に際して自民党政権が日本医師会に厳しいことを言えなかったとしても不思議はないだろう。むしろ、自民党が日本医師会に対して何の遠慮もしなかったと考える方が不自然である。
日本医師会は少し異常だとしても、1000万円以上の寄附をしている企業・団体には、ご覧の通り、日本の大企業の名前が並ぶ。(PDFファイルを目視で確認しているから、多少の見落としがあるかもしれない。)
わたしはこれは大いに問題だと思う。
もう一度、自民党の収入の内訳を掲載する。
この、合わせて27億円の寄附をした者の金額上位が、今みたように医師会や大企業群である。
自民党の政党交付金176億円を負担しているのは全国民だ。個人の顔は見えない。
しかし寄附した企業・団体の名称やトップの顔は見える。
これでは、比較的多めの寄附をしている企業・団体が、党にとっては無色透明な政党交付金176億円のレバレッジを効かせて自分たちの要望を通すということになりはしないか。
例えてみれば、
「全国民から140円ずつカンパしてもらってるよね。でも自分たちの組織はそこに追加でカンパしてあげるよ」
と言って2億円の札束の入ったボストンバッグを持ってきた人がいたとして、その人の希望や悩みを聞いてあげないということがあるだろうか?
わたしは記者ではないから、政府の意思決定の実情は知らない。
しかし、〝多くの国民のための自民党〟という像は、すでに外形的に破たんしている。
これではいくら自民党の新しい総裁が「一人ひとりの声に寄りそう」とか言ってみたところで無駄だろう。
政党交付金という制度がありながら億単位の寄附も受け取るという政治資金のあり方――ここを正すのでなければ、立憲民主党の枝野党首の言葉ではないが、「まっとうな政治」にはいつまでたってもならないと思う。
自民党は医師会や大企業の言うことに耳を傾ける党に違いない――。
これを是とするか非とするかは別として、そのことは外形上明らかだということは、老若男女を含めたすべての国民が知っていてしかるべきだろう。
(2021年10月24日記)
関連する記事
最後まで記事をお読み下さり、ありがとうございます。賜りましたサポートは、執筆活動の活力とするべく大切に使わせていただきます。