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市販の弁当や冷凍食品の利用が死産リスクを倍増させる~妊婦10万人を対象とした調査から

人の手によって作り出された様々な化学物質が環境中に広がり、野生生物たちの健康を脅かしているのではないか。いわゆる環境ホルモンと呼ばれる、内分泌攪乱物質に対する警告は、ずいぶん前から存在していました。検出するのが難しい低濃度でも、健康影響がでることが指摘されていました。しかし、おそらく、急性の健康被害ではないことや、研究自体が容易ではないことなどから、大騒ぎとなった一時のブームの時が過ぎ去ると、また社会の関心は薄れてきていました。しかし、プラスチック製品に含まれる、さまざまな添加剤が、ヒトへ与える影響については未だよくわかっていないと思われ、様々な研究が現在でも続いています。
 さて、表題の研究結果は、環境省が行っているエコチル調査という、妊婦10万人を対象とした調査データを分析することで見出されたものです(Tamada et al. 2022)。この調査では、研究目的に合致した94062組の親子のデータを用いたとのことで、母親が妊娠中に「調理済み食品(市販の弁当、冷凍食品、レトルト食品、インスタント食品、缶詰食品)」、「市販の飲料(コーヒー豆や茶葉から抽出されたもの、ペットボトルや缶で販売されているコーヒーや茶類)」をどれくらいの頻度で飲食していたのかというデータと、妊娠帰結(死産、早産、SGA、低出生体重)との関係を調べてみたということです。その結果、市販の弁当冷凍食品をときどき食べていた人は、それらをほとんど食べていなかった人に比べて、死産の割合がほぼ2倍に上っていたというのです(下図)。

市販の弁当の摂取頻度が中くらいの人は少ない人に比べて死産リスクが2.054(1.442-2.926)倍
市販の弁当の摂取頻度が多い人は少ない人に比べて死産リスクが2.632(1.507-4.597)倍
冷凍食品の摂取頻度が中くらいの人は少ない人に比べて死産リスクが2.225(1.679-2.949)倍
冷凍食品の摂取頻度が多い人は少ない人に比べて死産リスクが2.17(1.418-3.322)倍
括弧()内は95%信頼区間 / Tamada et al. 2022 および 名古屋市立大学プレスリリースより

そして、レトルト食品、インスタント食品、缶詰食品については、摂取頻度と死産との関連は見られなかったというのです。このことから、著者らは、この結果の原因を、「食品パッケージであるプラスチックに含まれている化学物質が食品に移り、それを摂取したことによるのではないか。そのような汚染は電子レンジの調理によって度合いが増しているのではないか」、という推察をしています。この研究では、「市販の弁当」や「冷凍食品」を選んでいる背景にある、他の環境要因などについては調査されていないので、「プラスチックパッケージ×電子レンジ」というリスク因子は可能性の一つにすぎません。しかしながら、プラスチックに含まれている、様々な添加剤が内分泌かく乱物質として働くことがわかっていることを踏まえると、上記の推論は否定できないと思います。
 予防原則の立場から考えると、「プラスチックパッケージ×電子レンジ」は意識して避けるべきでしょう。大きなコストをかけずに実施できますし。

References:
"Impact of Ready-Meal Consumption during Pregnancy on Birth Outcomes: The Japan Environment and Children’s Study", Tamada, H. et al., 2022,
Nutrients 2022, 14(4), 895; 名古屋市立大学プレスリリース


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