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ニューヨーク州知事クオモ様。あなたが命じた1月22日のライトアップのことですが、日本人のだれもがドン引きするんですけど。

クオモ知事。あなたの待望の法案が州議会を通過したことで、ニューヨーク州では、妊娠している女性は妊娠期間中いつでも堕胎が可能となりました。正期産に入り40週を迎える妊婦でも合法的に妊娠中絶手術が受けられることになったのですね。それが個人の基本的人権の拡張ということなのですね。妊娠40週まで育った赤ちゃんの生きる権利と生命を奪われる苦しみは微塵も顧みられなくていいのですね。胎内にいるあいだに措置してしまえばそれは決して嬰児殺しには当たらないわけですね。

法案成立を受けて、あなたは次のように意気揚々と宣言されました。「これはニューヨーカーならびに進歩を重んじる人々にとって歴史的な勝利であります。…この画期的な偉業を祝すとともに国全体を導く輝かしい光を照らすために、ここにわたしはニューヨークのランドマークをピンク色に灯すことを命じます」。よほど嬉しかったんですね。さすがにそれは越権行為ではないかと配慮する余地もなかったんですね。画期的なゴールを達成した進歩的なニューヨークの後につづいて、全米で、そして全世界で、妊娠した個人(それを「女性」と限定することも差別的なんでしょう、進歩派によれば)に無期限に堕胎を選択できる自由が与えられるようになることをあなたは心から望んでおられるのですね。

クオモ知事の命を受けて、911のグランドゼロに建てられたワンワールドトレードセンターをはじめ、NYを象徴する摩天楼をピンクにライトアップする記念イベントは1月22日に決まりました。1月22日が特別な日だったからですね。堕胎を全米で合法とする最高裁判決が下ったのが1973年の1月22日のことでしたから。今日までアメリカではニューヨーク州をはじめ多くの州が妊娠24週までの中絶を認めてきました。一方、国が合法であると判断したとはいえ堕胎の自由を厳しく制限する州も多く、事実上妊娠6週を超えたら中絶は不可能な州もありました。最近のアメリカ世論の動向をみれば、全面的に堕胎の廃止を求めるプロライフの人々はともかく、堕胎にはやはりある程度の制限が必要と考える傾向が強くなってきていたのは明らかです。進歩的な民主党を支持するひとでも大半が後期妊娠中絶には反対するようになっていました。そんな流れをよそにニューヨーク州がこのたび一気に「無期限」を達成したことは、たしかに画期的だったと言うしかありません。
つまり、空いた口が塞がりません。おい、マジかよ。

あのピンクのライトアップを見て、ニューヨーカーはほんとうに自由と進歩の”戦勝”に沸き返ったのでしょうか。すみませんが、日本人はみんなドン引きです。「そこまでやるか!?」と違和感をおぼえないひとはいません。普通の日本人だったら誰もが不快な気持ちにしかならないでしょうし、堕胎の権利を主張する進歩的なひとたちだってあなたの有頂天に共感することはないでしょう。あるいは余りにも対岸の火事すぎて、感情を動かされることもなく、ただ固まるだけかもしれません。妊娠40週の子どもの中絶を可能にする法律ができたことを喜んで街のランドマークをピンクにライトアップすることを命じるなんて政治家は、日本では悪趣味なマンガの世界にも存在しません。

クオモ知事。あなたは洒落にもならない意味不明な謎キャラです。いまどきそこまで意味不明にならなければ、進歩を誇りとするニューヨーカーは体面を保てないのでしょうか。

しかしニューヨーカーだって多くは普通の市民生活をいとなむ生身の人間ですよ。よほどいかれたドラッグか、あるいはリベラルのイデオロギーで眼を曇らされていない限り、普通の市民感情において、妊娠40週のいのちが合法的に奪われる可能性を公に祝おうなんて真似は正気の沙汰ではないと思わないですか。朱に染まる摩天楼の突端を見て、メスで切り刻まれる赤ん坊の血を想像したひとが、この法案の支持者の中にさえいたのではないでしょうか。市井の人間は、あなたのようなリベラルエリートとはちがうのです。凝り固まったイデオロギーによって突き動かされているわけではないのです。

クオモ知事。墓穴を掘ってしまったことに気づきませんか。進歩進歩を呪文のように繰り返すリベラルの化けの皮がはがれたことがわかりませんか。つねに進歩の先を行くニューヨーカーはこの先も進歩をつづけなければならないとしたら、次はなんですか。全妊娠期間をカバーできた後は、生後直後の新生児も始末できる法案を通してしまうのでしょうか。生後7日までは周産期のうちですから、分娩後であってもそれはまだ自立した人間ではない、それを妊娠していた個人の付属物だというへ理屈でも何でもこねるのでしょうか。しかし、どれほど理性を曇らされた眼でも、人間には超えられない一線というものに直面する瞬間があるにちがいありません。その一線をまざまざと見せつけてくれたのが不気味に輝く摩天楼の突端にほかならないのです。

進歩の名のもとにウソを塗り固めていくのがリベラルという立場であることが、おかげさまでピンクに照らすライトアップを見ながら腑に落ちました。これがディストピアの光景でなくてなんでしょう。進歩の罠にハマったニューヨーカーのみなさん、とんでもないところに行き着いてしまったようですね。デッドエンドです。ようやく目が覚めましたね。ここから先は地獄です。さあ、踵を返しましょう。もう正気の道に戻るしかありません。

妊娠している個人には堕胎の選択を考える様々な事情があるでしょう。しかし、ニューヨーカーのみなさん、理由がどうであれ、妊娠40週で中絶することはありえないですね。ピンクのライトアップへの違和感からそれがわかりましたね。では妊娠24週ならどうですか。やはり中絶することはありえないですね。24週で早産した子どもでも現代の医療技術のもとでは十分生きられますからね。妊娠18週はどうですか。あと6週間そのままにしていれば臍の緒が切り離されても生きていけるようになりますね。やはり中絶はありえないことでしょう。妊娠10週はどうですか。初期だからといって中絶がゆるされる理由になりますか。それは成長をつづける生命です。やはり中絶はありえないことですね。産んでも育てられない状況なら養子縁組を利用することもできますね。妊娠7週でも4週でも同じですね。受精の瞬間に誕生し、産まれ出るときに向けて必要な時間をかけて育まれていく一つのいのちです。妊娠40週で中絶することがありえないとわかれば、妊娠のどの段階であっても中絶を認める正当な理由は見当たらないことが、わかってきましたね。

こうして、ひとはだんだん真理に目覚めるようになるでしょう。それがほんとうの進歩というものではありませんか。ピンクに怪しく光る摩天楼の衝撃から反転して、ニューヨーカーが世界に正気への道を示す光を灯しましょう。妊娠21週までは中絶を認める法律を無批判に受け入れている日本人も、それにつづきましょう。

クオモ知事。自由を偽る邪神の光を崇めるあなたによって、皮肉なことにリベラルの価値に躍らされていた人々にも真実に導かれる気づきの機会が与えられました。あなたの灯した絶望の光を、いつくしみの神が希望の光に変えてくれたことを、いつか歴史が証明してくれることを願いましょう。

そして、クオモ知事。あなた自身が回心に向かわれるように、あなたのために祈りましょう。

<参考>
Governor Andrew Cuomo orders New York landmarks to be lit up in pink to celebrate legalizing abortion until birth

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