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すべての産まれる前の子どもたちが誕生日を迎えるチャンスを掴める社会を目指して立ち上がったカニエ・ウエストの誕生日党。

The Birthday Partyーなんてキュートなネーミング!と感心しつつ愚直に日本語では「誕生日党」としておこうーの綱領はそういうことのようだ。投票権もなければ声も上げられない、胎内の子どもたちが主役の、正真正銘「プロライフ」政党なのだ。2020年のアメリカ大統領選に出馬を表明したカニエ・ウエストが筋金入りのプロライフであるという事実は、本来彼をスターダムに押し上げたリベラル層には不都合極まりない真実である。誰もがハッピーな気分になるはずの”バースデーパーティー”が、リベラルにはちっとも嬉しくないのだ。産まれる前の子どもは蚊帳の外でなければ(もしくは蚊のように潰してかまわない存在でなければ)リベラルは成り立たないからだ。

それにしても感慨深い党名である。これは究極の政党名ではないかとさえ思える。たしかに「お誕生日会」こそ、もっとも基本的な政治の場ではないだろうか。政治家の誕生日パーティーが支持基盤づくりに欠かせないというのはもちろん、子どもたちもお誕生日会という機会をとおして人と人との政治的な関係性を学んでいくのだろう。そのチャンスをすべての子どもたちにと訴える政党である。応援しないわけにはいかない。

「嘆き悲しむことも悔い改めることも否定する世界は病んでいる」

ニック・キャノンの名物ポッドキャスト「キャノンのクラス」に登場したウエストは、彼の政治的=宗教的信条についておだやかな口調で語っている。MCのキャノンはプロライフという立場においてもウエストの朋友である。

神とつながれば、人は産まれる前の子どもを大事にしようとするものだ。神がオレに望まれているのは、そのメッセージを人々に伝えなさいということなんだ。「そのために、わたしはおまえを使うのだ」と。

産まれる前の子どもたちのための代弁者として神は自分をお使いになるのだとウエストは言う。以前彼は、プランド・ペアレントフッド(Planned Parenthood ※日本語では家族計画協会と訳すのが一般的)の実態を「悪魔のはたらきによる白人至上主義」と批判したが、こんどはプランド・ペアレントフッドがもたらしている惨状を「黒人ジェノサイド」と表現し、「日々1000人以上の黒人の赤ちゃんたちが堕胎されているが、オレはそのうちの一人なんだ。つまりジェノサイドは他人事ではないということだ」と指摘する。堕胎という問題に触れるとき、ウエストは聖書の言葉を添えることを忘れない。“I knew you before you were in the womb”(「母親の胎に宿る前からわたしはおまえを知っている」)とキャノンに語ったひと言は、おそらくエレミアの預言1章5節からの引用だろう。

オレは聖書の御言葉に従う。だからプロライフなんだ。

ウエストと同じようにプランド・ペアレントフッドを批判し、実の母が彼を妊娠中に一度は堕胎を考えたが最終的に「いのちを選んだ」というキャノンから、堕胎反対と声を上げることが選挙キャンペーンの最大のカギになるのかと尋ねられ、ウエストはこう答えている。

誕生日党がいのちのこととプロライフに取り組むからこそ、オレは神に栄光を帰することができるんだ。ここには、誕生日を迎えるチャンスを掴もうとしている子どもたちがたくさんいるからね。

ウエスト自身も堕胎されたかもしれない子どもの一人だという。「お袋がオレのいのちを救ってくれたんだ。親父はオレを堕ろしたがっていたから、この世にカニエ・ウエストは存在しなかったかもしれないんだ」と訴えるだけでなく、妻であるキム・カーダシアン・ウエストとの最初の娘を堕胎しようとした過去を告白している。「あやうく娘を殺すところだったんだ」

父はオレがこの話を公にしてしまったことを許してくれた。そしてこう言った。堕胎文化は子どもには魂がないと教えるんだってね。一方、妻はこう言ったよ。「子どもが魂なのよ」ー 今はそう言う妻だが、あのとき恐ろしいことに堕胎ピルを手にしていたんだ。もしそれを服用していたら、翌朝子どもはあの世行きだったんだ。

プロライフの立場を表明したときに受けた反発の中でもっとも紋切り型の批判は「この問題で男が口を挟むべきではない」というものじゃなかったか?われわれ男同士がここに座って堕胎の問題について話し合うなんてことはもってのほかだとされていないか?とキャノンに尋ねられ、ウエストはこう答えている。戦略的に男の意見は会話から取り除かれようとするものだが、「男と女と両方の意見が必要だろう。子どもは両親の子どもなんだから」

さらにウエストは、アフリカ系アメリカ人はみんな家政婦みたいなものだと言う。「もっとも影響力をもつ、もっとも強力な黒人の声となるためには、家政婦さんのようにならなくてはならない。オレは家政婦さんが好きなんだよ。でも実際には家政婦さんが一人声をあげたら、『黙れ、全員クビにするぞ』と言われてしまう。それがわれわれの社会的立ち位置なんだ。奴隷の身分と何も変わらないんだ」と語るウエストは、彼の言う家政婦のようにSNSで声をあげるが、ほどなく沈黙を(削除を)余儀なくされる。

この子たちの魂は生きるに値する

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あの写真をツイートしたのは、ニューヨークでは妊娠9ヶ月を過ぎても堕胎ができるという話を聞いたからなんだ。でもグーグルを見たら妊娠24週までと書いてあった(※訳注:2019年1月22日に新法が発動されるまでのニューヨーク州の堕胎可能上限は妊娠24週)。それで24週の胎児の写真を投稿したんだ。そしたら大炎上だよ。どうして堕胎のことをツイートしたかわかるだろう? この胎児を堕胎するってどういうことかわかるだろう? ただオレは人間性に訴えたかったんだ。だけど、あのときの反応でわかったことは、嘆かわしいことに人々に人間性なんかないということだったんだ。

ウエストはまた、家族の大切さについて語り、アメリカの営利企業がいかに家族を孤立させ分離させることで利益を得ているかを問題にする。「一日の始まり、日中、そして一日の終わりには、オレはパパなんだ」と彼は言う。「自分の家族を養うために自分の人生のすべてを仕事に捧げている父親がたくさんいるだろう。子どもたちのためにできることは稼いで必要な物を与えてやることだけだと思っているかもしれないが、そんなことはない。道徳観や、精神性というものを、気持ちで届けてあげられるんだ」

頂を登りつめたとき神を近くに感じるものだと人は言うかもしれない。だが跪いて子どもたちに話しかけているときにオレは神が近くにいると感じる。




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