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「学校に行かない」という子どもの選択に、不安なんてない。「札幌トモエ幼稚園」と「パーマカルチャー研究所」で感じた安心という自由。【7月15日〜16日 北海道札幌市】

娘の体調が回復し、ホッと一安心。長らく滞在した北海道を7月17日に発つことを決め、フェリーを予約。あと2日間で、公園と幼稚園とエコ村、札幌で気になっていた3箇所を巡ることに。

ごみ処理場にできたアートな公園「モエレ沼公園」

まずはモエレ沼公園。彫刻家イサム・ノグチさんが設計したことで知られている、ゴミ処理場の跡地にできた広大な総合公園。私は以前、何かのイベントでお話を聞き、一度訪れたいと思っていた。天気も良いので朝食をとったあと朝一番で向かったが、今日は海の日。既に多くの車が停まっていた。駐車場脇にはレンタサイクルがあり、多くの人で賑わっている。見ると子どもを後ろに乗せるタイプのものも。「自転車乗りたい!!」と血が騒いだ私、さっそく2台レンタルして、私は娘を後ろに乗せ、主人は息子を抱っこで公園を駆け抜ける。わぁ、風が気持ちいい!!

見渡す景色は、一面の芝生。その向こうには丘も見える。走っていくと、ガラスのピラミッド、人工のビーチや遊具、サッカー場や陸上競技場と、次々と景色が変化していく。思っていた以上に広大な敷地で、大人も好奇心が掻き立てられる。まるでアート作品の中を駆け抜けているかのよう。

なにこれめちゃワクワクするね、やっぱり北海道はスケールがぜんぜん違うね、自転車が無かったら歩くの大変だったね、なんて話しながら、4人でぐるぐるとサイクリング。途中、ピラミッドに登ったり遊具に立ち寄ったりしたあと、娘が気に入ったビーチで遊び、買ってきたお弁当でピクニック。この公園、遊び方は無限にありそう!

あぁ、なんだか茅ヶ崎での日常が戻ってきたような感覚。札幌市民だったら私たち、この公園で休日を過ごしているのかもなぁ。ゆるゆると、後先あまり考えずに、たっぷり子どもと遊びながら家族の休日の時間を味わえるって、本当に幸せ。思えば旅に出てから、いつもお風呂やご飯、寝るところ探しにバタバタと慌ただしく過ごしてきたからね。こんな日常感を私は欲していたのかもしれない。普段、いかに“日常”に安心をもらっていたかを、しみじみとありがたく感じた1日だった。

ちなみにこのモエレ沼公園、札幌市の市街地を公園や緑地の帯で包み込もうという「環状グリーンベルト構想」における拠点公園として計画された総合公園で、ゴミ処理場の跡地を公園化したことはもちろん、ガラスのピラミッドに雪を活用した冷房システムを導入していることなど、自然環境保全の観点からも注目を集めているのだとか。人と自然がいかしあって心地よくともに生きるかたちを、存分に体感させていただいた。

幼稚園という名の小さな村「札幌トモエ幼稚園」

翌朝。向かったのは、南区にある「札幌トモエ幼稚園」。ずっと気になっていた、“親子で育つ幼稚園”。行事の日だけでなく、毎日家族で通うことができるのだとか。予め見学を申し込むと、快くお返事いただけて、丁寧な日程のやり取りの末、家族全員で訪問させていただけることになった。札幌の街なかを車で走り、現地が近づくと、急に山深い景色に変わってくる。スキー場の看板が出始めるエリアに入り、ひとつ山を越えたところ、谷に降りていくような土地に、ビニールハウスと白い建屋が並ぶ空間が現れた。子どもたちが駆け抜けている様子が見える。

車を停めると、すぐに駆け寄って出迎えてくださったのは、この園に娘さんが在籍し、家族で通っているという三栗祐己さん。greenz.jpで三栗さんを取材した際、私が編集者として関わったご縁で、今回ご一緒させていただくことになった。園に見学を申し込んだ際、三栗さんの知人であることを伝えたため、アテンドは三栗さんがしてくださることになったよう。園のスタッフと保護者の間に壁がないことを感じる計らいに、なんだかうれしくなる。

三栗さんに連れられ、まずは裏山のような場所へ。手づくり風のブランコがいくつかあり、まわりに子どもたちが集っている。その中のひとつは、見上げると、かなり高い木の上からロープが吊り下げられている。いったいどうやって吊るしたんだろう。

「乗ってみますか?」と声をかけてくださったのは、宮武大和さん。トモエのスタッフで、子どものありのままの姿をうつしだすフォトグラファーとしてもご活躍。共通の知人が多く、私にとっては「やっとお会いできた!」という感じ。子どもたちにとっては、きっとこんな方。笑

大和さんに誘われ、その長ーいロープのブランコに挑戦してみる。わぁ、揺れ方がぜんぜん違う!なんというか、振り子の重りになった気分。森の中で風を切る爽快感も加わって、未体験の気持ち良さ。息子も抱っこで、一緒に体感させていただいた。聞くと、このブランコは最近、スタッフと保護者の皆さんの手でつくられたもので、こうやって裏山は常に変化し続けているのだとか。子どもたちも次々に裏山に現れ、遊んでは別の場所へ。フィールドが豊かな幼稚園っていいなぁ。

森で過ごしていると、娘がどこからか、木の実を摘んできた。「こっちだよ。行こう!」と連れられて今度は道の反対側にある園舎の奥へ。自然の姿そのままのお庭に、ヤギが2匹。その奥に、何種かの果樹が実っていた。手に取ると、そこに居た子どもたちが、木の実の名前を教えてくれた。甘酸っぱくて、いい香り。

園舎の脇には、大きな竈があり、大人のみなさんが火の調節をしながら、ワイワイとお昼ご飯を食べている。聞くと、以前子どもたちがつくって乾燥させていた土粘土の作品を、中で焼いているのだとか。毎週決まった曜日には、ここで食べ物を持ち寄って焼きながらお昼ご飯を食べるそう。保護者の方もスタッフの方も手を動かしながら、ゆるやかに過ごす様子が心地よくて、私もしばらくそこに混ぜてもらったり。

そうこうしていると、すっかりトモエに馴染んだ様子の娘が呼びに来た。園舎でのマット遊びを見せたい、と。ここでやっと、私も園舎の中へ。入り口から谷へ向かい、下り階段に沿ってゆるやかに続く空間はとても広く、窓の外からは青々とした新緑が視界に入ってくる。仕切りのない空間にのびのびと身体を動かせるマットや遊具、静かに過ごす絵本や紙芝居などがゆるやかに配置されている。あぁ、これは間違いなく、楽しい場所だなぁ。

子どもたちが自由に遊び、大人もその横で何やら作業をしたり、お昼を食べたり。娘と少し遊んでから、テーブルのあるスペースで、私たちも買ってきたお弁当をいただく。隣のテーブルには、少し大きな子どもたち。話をすると、「俺3年生」「私は4年生」と、学年を教えてくれた。あれこれ話し、お昼ご飯も早々に済ませて意気揚々と遊びに行った小学生たち。そのとなりには、赤ちゃん連れのお母さんたちがゆったりと談笑している。本当にここには、多様な人が集っている。幼稚園というより、みんなの居場所であり、小さな村のよう。

三栗さんに聞くと、いつも園には160〜170人ほどの人がいて、在籍園児はそのうちの60人程度。つまり園児の数は、ここにいる人のたった三分の一。PCを持ち込んで仕事をするお父さん、手仕事を楽しむお母さんたち、毎日通う小学生たち。実に多くの人がトモエを居場所として、ここで暮らしを営んでいる。ゆるやかに子どもたちを見守っているスタッフの方々もいらっしゃるけれど、その役割に明確な線引は感じられず、それが、みんなにとって本当の意味での居心地の良さをつくりだしているように思える。

先程の小学生について三栗さんに聞くと、卒園後もここに通っている子たちだと教えてくれた。トモエに通うという選択を自らしていて、ここで遊び、小学校には行っていない。でもほとんどの子が、あるとき自ら「学校に行く」と言い出す。トモエを思う存分楽しんだ子どもたちは、不思議と学力もすぐに追いつき、その後も自らの足で歩んでいく。三栗さんの息子さん・ゆうだい君も現在小学校4年生。学校には行かずトモエに通っているが、そういう先輩たちの背中を見ていることもあって、不安はないという。

今、私の娘は年長で、ママ友の間でもっぱらの話題は、”小1の壁”。幼児教育はとても多様になりつつあって、自主性を大切にのびのびとすごすことができる環境も増えてきた。私の住む関東など都心部では特に、選択肢も多い。それなのに、小学校に行くと、お決まりの一斉教育がはじまる。今まで良しとされていたことができなくなり、当然のことながら子どもも混乱するし、親も幼児期に培ったものをいかせない環境に、悩むようになる。かといって、自分の子どもが学校に行かないのは、やはり不安。その感情は、私も親として、とてもよく分かる。

でも、ここには、「学校に行かない」という選択をしてトモエで過ごし、学校教育をある程度俯瞰できるようになってから「学校に行く」という道を選ぶ子どもたちの姿が普通にある。そういう先輩たちの姿をみていると、子どもたちも、親も、不安なく過ごせる。いや「不安」どころか、三栗さんを見ていると、ゆうだいくんの選択を尊重し、トモエで過ごす姿を「安心」と「信頼」の眼差しで見守っているようにさえ見える。

「小1の壁」問題の解決のためには学校教育を変えなければ、と、途方に暮れてしまうこともある。でも、トモエのように、学校に行かない子どもたちのサードプレイスとしての居場所さえあれば、子どもたちは自らの意志で人生を選び取っていけるのではないだろうか。子どもも大人も、お互いの存在をいかしあって、ともに生きるトモエのあり方に触れ、そんなあたたかな希望を感じ取ることができた。

園長の木村仁さんにも、お話を伺うことができた。私が感じ取ったことを伝えると、「楽しいと感じる体験をとにかくたくさんしてほしいですね」と、静かに語ってくださった。そして、「子どもたちが本能的に好きな人を選び取れる環境をいかにつくれるか、ですよ」とも。多様な大人と子どもが集うこの村では、きっとみんなの本能的な「好き」が花開く。私には、そう思えてならない。

大人が子どもに教育やしつけをしようとする関わり方は、子どもの柔らかい豊かな感性から送られてくる多くのサインを受けとめる感覚を鈍らせることになります。教育や子育てとは、子どものそばにそっとより添い、見守り、成長の支えになってあげることです。お互いにひとりの人間として快く生きることを考え、子どもの人生を邪魔をしない大人になりたいものです。子どもの大切な時間を泥棒しない大人に・・・・・。私たちは、心地よい生活体験を創ろうと努力しています。(札幌トモエ幼稚園ホームページより)

子どもも大人も、心地よい生活体験を送る、幼稚園という名の小さな村。「札幌トモエ幼稚園」からは、教育やしつけという名のもとに、私たちが忘れかけてしまっている大切なメッセージをたくさん受け取ることができた。娘とはしゃいだトランポリンも、最高に楽しかったな。

開拓者たちのエコ村と、パーマカルチャー研究所

「札幌トモエ幼稚園」を満喫した私たちは、車に乗り込み、さらに南東方面へ。三栗さんのご自宅兼「パーマカルチャー研究所」をご案内いただくことに。ここがまだ札幌市内であることに驚くほど山深い道を、奥へ奥へ。舗装された道から砂利道へと進んだ先に、小さな集落が現れた。ここが、通称「エコ村」と呼ばれる自給自足の暮らしを目指す人たちの暮らしの場。三栗さん一家のご自宅も、この中にある。奥さんが描いた可愛らしい家族のイラストが出迎えてくれる。

三栗さんは、「パーマカルチャー研究所」の代表として、住まいを手作りし、少ないエネルギーで家族とともに楽しめる暮らしを自ら実践、発信している。最近は、その概念を多くの人と共有することにも力を入れていて、見学や滞在型の体験の受け入れも始めた。このエコ村に完全に移住してから約1年。この日も「昨日やっとトイレとお風呂の電気がついたんです〜!」とうれしそうに語ってくださったが、ゆっくりゆっくり、家族との暮らしのかたちを整えている。エコ生活の詳細はgreenz.jpの記事に譲るが、当時アウトドアにしかなかったキッチンは部屋の中に設置され、いまはテント泊もしなくて良くなったそう。

奥さんのさえさんが嬉しそうに見せてくださったのは、三栗さんお手製の発酵器。電気・エネルギーがご専門の三栗さんらしく、デジタルで温度表示もされるすぐれもの。中には米糀の花が開こうとしていた。

現在6世帯が暮らしているというエコ村もご案内いただいた。三栗家がお世話している烏骨鶏の小屋に行くと、3つの卵を生んでいて、子どもたちは大興奮。まだあたたかい卵をそーっと持ち上げて、にっこり。

畑や農具庫など、個人のものもあれば、共用のものも。この村を開拓した村長さんのような存在の大家さん・通称「五郎さん」は、なんでも必要なものは自らの手で作り出してしまう方。力のない女性でも使える薪割り機、自然エネルギーを使ってバッテリーに蓄電する電気自動車など、その発想の豊かさに驚く。根っからの開拓者である五郎さんの発明は、エコ村のみなさんの暮らしを豊かにしている。

三栗さんにご案内いただき、あれこれ話していると、先程から畑で作業していたご夫妻から大きなズッキーニのおすそ分けが。「わぁ、これで生きていけますー!」と、三栗さんご夫妻。「生きていける」という言葉に、お互いの得意なことを差し出しながら、いかしあって生きるエコ村のあり方を、とても心地よく肌で感じさせてもらった時間だった。

部屋に戻り、スイカをいただきながら、三栗さん、さえさんとあれこれ、暮らしの話を。三栗さんは最近、パーマカルチャー研究所をやっていてよかったな、と思った瞬間があったのだとか。それは、ゆうだいくんにこの暮らしの楽しさについて聞いたところ、「お父さんがつくっている家に住めるのがうれしい」と言われたこと。三栗さんの場合、パーマカルチャーを実践する際に、前提としてあるのが「家族」という存在。家族とともに楽しむパーマカルチャーの価値を伝えたいのだ、とも語ってくださった。

暮らしをゼロからつくるのは、本当に大変なこと。でもその苦労を伴う楽しさは、生きる力を育むことにもつながるし、確実に、子どもたちにも伝わっている。家族のあり方としてのパーマカルチャーを実践していく三栗さんの姿には、私たち家族が「育休キャラバン」を通して伝えたいこと、大切にしたいこととの共通項も感じ、うれしくなる。暮らしも仕事も、遊びも学びも、家族まるごとで共有し、生きていく。そんな仲間の存在は、本当に心強い。

三栗さん、さえさん、ゆうだいくん、こゆきちゃん、本当にありがとうございました。また必ず、お会いしましょうね。

「いかしあう」あり方をどっぷり体感した札幌での2日間を終え、明日はフェリーに乗船。長かった北海道滞在ともついにお別れし、本州へ戻ります。あたたかなたくさんの出会いに、感謝の気持ちを携えて。

貴重な時間を割いて読んでくださったこと、感謝申し上げます。みなさんの「スキ」や「サポート」、心からうれしく受け取っています。