朝令暮改

なぜあなたの会社の社長は朝令暮改が多いのか

「うちの社長の言うことがコロコロ変わるの、ほんとまじ勘弁してほしい」「うちの社長の朝令暮改っぷりまじハンパない。その都度、現場は死ぬほど大変だからやめてくれ!」――。

会社トップの朝令暮改に対する恨み辛みは枚挙に暇がありません。

かくゆう僕も、きっと会社のみんなから「あいつなんなの?馬鹿なの?」とか、「ちょw またスかww 今回はまたエライ早いスねwww(トチ狂ってる!)」とか思われていると思います。

最初に言っておきますけど、本エントリは自分の不甲斐なさを無理やり肯定するために書くのではありません。世の経営者の多くがただの馬鹿ではなく、朝令暮改にはちゃんとした理由があるんだよ…てことを知ってもらいたいという切なる想いによるものです(ほんとだよ)

とはいえ、僕も含め、すべてが「ちゃんとした朝令暮改」ではなく、思慮や考察の甘さゆえ、結果として「イケてない朝令暮改」をしてしまうこともゼロではありません(みんなごめん)

イケてない朝令暮改は少ない方がいい。でも、経営者だって全知全能の神じゃありません。猛烈なスピードで流れる経営環境と競合動向の中で、限定的な情報と経験をもとに、会社の進むべき方向や大方針を決定しなければならない。

その決断が吉と出るか凶と出るか、結果はやってみなければわからない。「勝ったら現場の功績、負けたら自分の責任」と腹をくくり、その時点では最善・最良と考える策ひとつに決定しなきゃならない。

そんなトップが、なぜ一度決めた大方針を、数日や数週間で覆す(くつがえす)のか。

それは、視座とスピードが関連しています。

視座とは?

視座とは、物事を見る姿勢や立場のことを指します。ここでは主に、視座の高低について考えます。

現場スタッフと経営者は、視座(地上を見る視点の高さ)が違います。ここで言う視座や視点の高さは、良い悪い、偉い偉くないの話ではなく、役割や習性としての違いです。

トライバルの事務所は銀座二丁目にありますが、例えるならこういうことです。

1.5m(ヒト)の眼

現場スタッフの視座。地上がくっきり見えます。セブンイレブンがあることも、その前の街路樹も自転車も細かく把握できる。

100m(ビルの屋上)の眼

リーダーの眼。トライバルが入居する東急銀座二丁目ビルを上空から眺め、銀座の半分くらいを見渡すことができる。どこにどんな道が通っていて、周辺にはどんなビルが建っているのか、どこの道が渋滞しているのか、細かく把握し、対応できる。

ここからさらに視座が高くなって、銀座全域、銀座周辺の隣町まで見渡せるようになるとマネージャーとしての力がついてきている兆し。

1,000m(山の頂上)の眼

部長の眼。首都圏全域を見渡しながら全体最適の陣頭指揮が執(と)れる。山手線各駅の部分最適を考えるのではなく、山手線全線の全体最適を考える。

各駅長からは「駅員が足りない!」とか、「駅前の再開発に着手したい」などの要望があがってくるけど、経営資源は限られているため、山手線および首都圏全域の全体最適を考えると、各駅長のすべての要望には答えてあげることができなくなる(でも部分最適を職務とする駅長からの不満は大きくなる)

10,000m(飛行機操縦士)の眼

経営者の眼。東京だけでなく、関東全域から近県までを見ている。関東・甲信越・中部・近畿・北陸などの地域、都府県を上空から俯瞰して、さらに大きな全体最適策を練る。

この視座がもっと高くなって、日本全土、アジア圏、全世界を見渡せるようになったら、立派なグローバル経営者。

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キングダム50巻の朱海平原の戦いで、玉鳳隊の王賁に「大将軍の見てる景色」が見えて戦局を大きく動かすのも、アオアシの青井 葦人が鳥の眼でフィールド全体を見渡したゲームメイクをするのも、すべては視座の話です。

くどいけど、ここで言う視座は、良い悪い、偉い偉くないの話じゃなく、役割や習性の話だからね。

社長がいろいろわかってない理由

「うちの社長は、現場のことを何もわかってない!」という不満は、それこそ日本にある300万社すべてに共通することだと思います。

これは、言い訳じゃなく、役割分担としてある意味致し方ないことで、10,000mの眼から銀座二丁目の渋滞情報を確認して交通整理することは難しいし、仮に見えたとしても社長自らがその仕事をやるべきではない。

社長の仕事は、ヒト・モノ・カネ・情報・時間・企業文化という有限な経営資源を、社員や顧客を含むできる限り多くの人が幸せになるために全体最適化し、持続可能な会社経営をすること(ゴーイングコンサーン)。その過程で、必ず現場スタッフ全員の期待に添えないところは出てしまう。

でも、それは仕方のないことです。

もちろん、トップは現場のことを理解しようと努力をしなければならなりません。「社長なんだから現場のことなんて全部わかっていなくて当然だ!」と居直るつもりもありません。

大切なのは、トップと現場の視座の違いと、そこから生じるコンフリクト(葛藤)をすり合わせるために組織があるということです。トップと現場の間に生じる様々なギャップを埋める調整弁が、ボードメンバー(役員)であり、部長であり、マネージャーであり、リーダーです。

共通のミッションとビジョンの実現を目指すメンバーが集まるひとつの会社であっても、担当する範囲や目指す(部分最適としての)ゴールは異なるから、そこはもう「調整」をし続けるしかない。

現場スタッフやリーダーが、「社長がまた突拍子もないことを言い始めた」とか「そんなスケジュールじゃ無理だよ、現場のことわかってんの?」と憤る気持ちもわかります。

でもね、もし社長が1.5mや100mの視座で会社を経営してごらんなさい。朝令暮改も無理ゲーなトップダウンもなくなるかわりに、隣の県の競合が攻めてきて、あっという間に会社は潰れてしまいます。

現場スタッフが社長の視座を持っていないように、社長も現場スタッフの景色は見れていません。それが役割分担であり、組織であり、会社です。だから、ひとりよりもダイナミックで、大きなチャレンジができるんです。

社長が朝令暮改ばかりする理由

これは、視座とスピードの両方が影響しています。

なぜ社長は朝令暮改が多いのか。それは、スピードが早いというよりも、そのことを考えている絶対時間が長いからです。

語弊を恐れず単純化すると、

・現場スタッフは1日8時間、週に40時間働く
・リーダーは通勤中も仕事のことを考えている(+2時間、週+10時間)
・部長は週末も仕事のことを考えている(週+20時間)
・社長はメシ食ってるときも、風呂入ってるときも、寝ている間も仕事のことを考えている(週+50時間)

て感じだと思います。

合算すると、社長は、意識・無意識含め、週に120時間は仕事のことを考えている。現場スタッフの約3倍です。だから、現場スタッフが一ヶ月過ごしている間に、社長は三ヶ月分試行錯誤をしている。

一ヶ月間、上空10,000mで様々な思考実験を繰り返すと、見える景色が変わって「あ、これ違うな」とか「こっちの方が圧倒的にいいじゃん」と考えが変わってしまう(朝令暮改)。でも、現場は「は?方針発表してからまだ一週間なのにうちの社長大丈夫か?」となる。

繰り返しますが、社長と言えども人の子。たかだか皆さんより数年長く生きているだけの、同じ生身の人間です。だから、思慮や考察が甘いイケてない朝令暮改をすることもある。

そんなとき、社長は素直に非を認め、「現場に混乱と迷惑をかけてしまって申し訳ない。◯◯という理由で最適と思った決断だったけど、よくよく考えてみたら(やってみたら)間違っていた。ごめん!」と謝れば良い。

だからね、現場のみんなにもわかってほしいんだ。

社長は、偉そうなこと言う割に、何本もネジ抜けてて、朝令暮改ばかりするしょうもない奴だけど、みんなとは違う持ち場で、全体最適、つまり、社内外の一人でも多くの人が幸せになる方法を探り ―― 経営資源は有限だから ―― 全員が幸せになることはできない苦渋の決断をしなければならない生き物。

社長が朝令暮改をしたら、「自分たちが一所懸命現場を回している間に、少し先まで旅をしてきたんだな」「3回転したら考えが変わったんだな」と思ってあげて欲しいんです。

朝令暮改が少ない会社は、社長が10,000mの高さをマッハスピードで飛行していない証拠。職務怠慢。放漫経営。

大企業と比べて経営資源のほとんどにおいて劣るベンチャーが持つ唯一の競争優位はスピードしかない。だから、朝令暮改は健康な証拠!

逆に朝令暮改が少ないのは思慮深くなりすぎて意思決定がコンサバティブになりすぎているか、組織に気を遣いすぎてドラスチックな意思決定ができなくなっているか、いずれにせよあまり良い兆候だとは思えません。

社長の存在意義は、できる限り朝令暮改をしないことではなく、朝令暮改をしようがしまいが、経営環境や競合環境が猛烈なスピードで変化する中で、限りある経営資源を全体最適化させ、戦いに勝ち続けること(=世の中をより良くし続けること)です。

だからみんな、せっかくだから「ビバ朝令暮改!ナイストライ俺たち、次行こう次!」と楽しんじゃおうZE…!そして、(あなたの会社の)社長の朝令暮改を温かく受け入れてあげてください…!

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続編もどうぞ。

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