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あの日のつづき。

ファーストデートから数日後のお話。

映画に行こう。そんな平凡なデートを提案してしまった自分がくすぐったくて、こんな提案を付け加えた。

「ミニシアターに行ってみたい」

今度はマイナーすぎるかなと様子を伺っていると、きみは喜んでぼくのお誘いに乗ってくれた。

待ち合わせは有楽町。まずはランチでパスタ屋さんに向かう。ふたり口を揃えてカルボナーラが食べたいと言う。あれ、なんだかいい感じじゃない?

お腹を満たしたぼくらは映画館へと向かう。
スマホを見ながら二人で面白そうだと選んだ映画。

映画が始まる。映画館が暗くなる。

大ざっぱなぼくたちらしく、下調べを全然していなかった。想像してたより重いストーリーが続く。
感動のシーンですっと手をにぎり…なんて展開もなく映画は終わり。

ジェンダーがテーマの映画だったようで、悪くはないけどちょっと難しかった。きみの顔を伺うけど良かったのか悪かったのか表情からは分からない。

ぼくは少し苦い顔をしていたと思う。自分が提案した映画が思ったより盛り上がらなかった。

そんなぼくを見て、きみは恐る恐る訊ねる。

「どうだった…?」
「うーん、ちょっと難しかったね!」

きみが感動していると申し訳ないので当たり障りのない返事をする。
そんな回答を聞いて、彼女は何だかほっとした表情をする。

「ね!私もよくわかんなかった!!」

そのときは気を遣って言ってくれたのかと思ったけど、いま思えばほんとにきみもよく分からなかったんだね。

なんとなくバツの悪い雰囲気になってしまったが、今日のメインイベントの焼き肉ディナーまでは時間がある。

銀座でもぶらぶらしようか、と提案する。

お互い銀座なんて数えるほどしか来たことないんだけど、きみが行ったことのあるという商業施設に行くことにした。

本屋さんで好きな雑誌の話をしたり、好きな漫画の話をしたり。イベント広場に有名なファッションデザイナーがいて、二人で目を凝らして探してみたり。

値段の高くて聞いたことのないお店が並ぶなかを二人でそそくさと通りすぎてみたり。

他愛もない話ばかりしていたのだけど、ぼくはふときみの気持ちを確かめたくなり、下りのエスカレーターできみに体を預けてみる。

一段低いところにいるきみはぼくを見上げる。

「なにー?笑」
「いや、なんでもない。そろそろご飯行こうか。」

自分で仕掛けたのに恥ずかしくて話をそらしてしまった。

今日はきみのリクエストに答えて、ぼくのおすすめの焼き肉屋さんに連れて行く。

「わたし、牛タンさえあれば生きていける!」
「さすがに牛タンだけじゃ物足りないからいろいろ頼むね?」

牛タン以外もよく食べる彼女。
自然とぼくの箸も進む。

お腹も膨らみ落ち着いてきたところできみに聞く。
あまり手応えがなかったので実は不安だった。

「今日はどうだった?」
「すごく楽しかったよ!!」
「映画もよくわかんなかったけど、どの辺が楽しかったの?」
「うーん、エスカレーターかな?」
「ん??」

一日一緒にいたのに、最後のエレベーターが一番。
やっぱり変な子だ。

結局、手応えがあったのかなかったのか分からなかったので、今日のところは大人しく帰ることにする。
モテる人ならここでもう一軒誘うのだろうか。

残念ながらそんな甲斐性もなく、君を駅まで送り届けてぼくの任務は終了。

定型文のようなLINEを送って、家に帰って今日はおしまい。そう思っていた。

「今日はありがとう。映画はあれだったけど一日楽しかったよ。」

君から返ってきたのは定型文じゃなかったので、びっくりしたのを今でも覚えてる。

「もう少し一緒にいたかったなぁ。」

家に着き、寝る準備をしていたぼくは、急いで部屋の電気をつける。思わずきみに電話をする。

「はい、もしもし。」

電話越しに君の声がする。

あのとき、何を話したっけ。よく覚えていないけど、この前桜を見たばっかなのにお花見の約束をした。

次が3回目のデート。
今、桜は七分咲きくらいだろうか。

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