青菜に雪

 祝日寒空の下、前に向かって、
「公園ですか? 」
と私が聞くと彼はコクコク頷いた。その反応がこどもみたいで、おもわず笑った。思えばこの人の無邪気な笑顔なんて、久しく見ていなかった。

 二人とも生まれは北海道だった。流行りものに流される目敏さをもって都心に出てきたのはいいもののあまり思うようにはいかず、お互い傷を隠す相手が必要だった。

 何度か会ううちに自然と付き合った。似た者同士は惹かれあったわけではなく、寄り添い何も言わずにいてくれる相手を求めていた。傷をひけらかして笑いをとるほど、完成された人間ではなかった。彼は魅力的に、私は蠱惑的に生きた。必死に傷を隠す二人を、西日射す太陽と二人にとっては暖かい冬の寒さがつつんだ。

「むこうではいまごろ積もってるかな 」
「クリスマス前に積もるのが例年だから、そろそろじゃない? 」
「雨が雪に変わるなんて、そんな洒落たものでもないしね 」
「溶けかかっててね 」

 公園は彼の家から案外すぐのところにあった。思ったより広かった。
「いいとこじゃん! 」
「でしょ 」
 珍しく私も彼もはしゃいだ。遊具に乗って、見も知らぬ子どもと遊んだ。彼は想像よりずっと扱いに慣れていた。

 遊んでいる彼はずっと子どもみたいで、私はなぜだか置いて行かれたような気持ちになる。私たちにとって童心とは、切っても切れぬ過去の栄光だった。

 子どもと遊んでいる彼を西日が照らした。私は目を細める。眩しくて涙が出そうだった。おもわず俯いた。

 伏せた目線の先では、木と光が橋を作っていた。彼に向かって掛かっている。綺麗だった。その光景でモラトリアムはすっと空気に紛れ、いつしか雪になった。
「雪! 」
 彼は笑って私を手招きした。

 私は影を踏まないように橋をジャンプして、彼の方に向かった。

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