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ゲームに現代美術の新しい道を見出した飯田和敏さん

前回の記事では、
「芸術的なゲーム」
と題して、
二つのゲームを紹介しました。

プレイステーションで発売された
『アクアノートの休日』
『太陽のしっぽ』

この二つのゲームを手掛けたのは、
飯田和敏さんです。

飯田和敏さんは、
多摩美術大学を卒業されており、
現代美術の造詣が深い方です。

マルセル・デュシャンを
はじめとするダダイズムに
影響を受けた飯田さんは

新しい現代美術の手法として
「ゲーム」にその可能性を見出し、
ゲーム業界に入りました。

マルセル・デュシャン
1887~1968。
フランスの美術家。
美術館に便器を模した作品
『泉』を展示したことで有名。

飯田さんが最初に入社したのは、
アートディンクというメーカーで、

このメーカーもゲーム業界の中では、
一風変わったゲームを出す
メーカーとして知られていました。

(『A列車でいこう』シリーズ
 『ネオアトラス』シリーズが有名)

飯田さんのディレクターとしての
デビュー作
『アクアノートの休日』は、

ひょんなことから
こんなゲームになったようです。

当初、飯田さんは
ヴァンパイアを題材にした
ゲームを作るつもり
だったそうなんですが、

社長も交えたプレゼンの場で、
社長室に飾られている
ラッセンの絵画を見て、

その場で、
潜水士が海底を探索する
ゲームに提案を
切り替えたそうです。

クリスチャン・ラッセン
1956〜
アメリカの画家。
イルカなどの海洋生物を
モチーフにした
マリンアートで有名。

こうして
『アクアノートの休日』が
生まれたのですが、

当時は、こんなゲームは
どこにもなく、
一部のファンからは
高い評価を得たようです。

(ある程度ヒットした作品だけが
 選出される
 プレイステーションの廉価盤
 「The Best」の一本にもなった)

そして、二作目に手掛けたのが、
『太陽のしっぽ』でした。

このゲームは、
筒井康隆の短編
『原始人』に着想を得た作品で、

プレイヤーは原始人を操作して、
自由に原野を駆け回ることが
できます。

『アクアノートの休日』とは違い、
飯田さんは若いスタッフを
まとめる立場で、

ご本人的には
「モーニング娘。をまとめる
 つんく。のような気持ち」
だったと振り返っているのを
本で読んだことがあります。

(米光一成・著
 『デジタルの夢で
  メシを食うためにボクらは!』)

ちなみに、
『太陽のしっぽ』は、
プレイ中に一定の時間が過ぎると、

勝手に原始人が寝てしまい、
操作できない時間が生じます。

この設定は
「操作できない時間があることで、
 逆に操作できることが際立つ」
という意図で入れられたものです。

しかし、この原始人が
寝るタイミングは
非常に複雑なパラメーターで
設定されているそうで、

作った人にも
どんな周期できているのか、
予測できないほどの
ものなんだそうです。

(これも若いスタッフが
 多かったゆえの不完全さ
 ともいえるが、
 そこもまたおもしろい)

飯田和敏さんは、
この二つの作品を手掛けたあとに、
アートディンクから退社し、
独立しました。

そのあとに手掛けたゲームも
非常に芸術的だったので、
次の記事で紹介します。

【参考文献】
『デジタルの夢でメシを
 食うためにボクらは!』
米光一成/マイクロマガジン社/
2006

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