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thanks skmt 坂本龍一プレイリスト(3)

※3500字以上の記事です。
 お時間のある時に
 お付き合いいただけると嬉しいです。

前回に引き続き、坂本龍一の音楽活動を振り返っていきます。

前回の記事では、’84~’03年の楽曲の中から選曲し、プレイリストを作成しました。

今回は'04年以降の楽曲の中から選曲し、プレイリストを作成しています。
前回と同様に、あまり深く考え過ぎずに、全体のバランスも考えつつ、DJ 感覚での選曲です。

'04年以降の坂本龍一の活動を振り返ると、ソロアルバム『CHASM』以降のエレクトロニカな作風が際立っています。

それ以前の電子音を使った作品とも異なり、電子音の粒子が細かく柔らかい印象です。この作風は YMO でともに活動をした細野晴臣、高橋幸宏による「スケッチ・ショウ」とも共通したもので、彼らとはお互いの作品でも協力関係にありました。

こうして、久方ぶりに揃った三人は、'07年以降に事実上、3度目の YMO 再結成をひっそりとはじめることになります。YMO の活動自体は、ライブ活動が中心で、年を追うごとに生楽器による演奏の比率が増えていきました。

その後、坂本の電子音を使った作風は、海外の若いアーティストとのコラボレーション作品で発揮されることになります。

▼ドイツのアルヴァ・ノトとは、たびたびコラボした

▼オーストリアのクリスチャン・フェネスとのコラボ

▼アメリカのクリストファー・ウィリッツとのコラボ

また、『1997』('97)や『BTTB』('98)以降に顕著となったクラシック路線の作品も印象的です。
ピアノを主体にした作品では『/04』('04)、『/05』('05)といったカバーアルバムで、過去の自身の楽曲をピアノによるアレンジで披露しました。

これらの活動で得たものを集結して作られたのが、ソロアルバム『out of noise』('09)で、この作品では、メロディー、ハーモニー、リズムといった要素すらも排除され、そこにあるのは「音」そのものの美しさです。

この辺りから坂本は自身の「残された時間」を意識していることを、発言するようになり、本来の自分が作りたい作品づくりに邁進していきます。

'14年にガンを患ってからは、特にこの傾向が顕著で、療養期間を経て発表されたアルバム『async』('17)については、「あまりにも好きすぎて、誰にも聴かせたくない」とコメントしたほどでした。

これまで多くの人たちのリクエストに応える形で、たくさんの作品を作ってきた坂本が、晩年に辿り着いた「もっとも聴きたい音」が、これらの作品だったのです。

2020年にガンが再発し、闘病を続けながらも、体調のいい時には創作活動が続けられました。
そして、2023年1月には、自宅のスタジオで録音されたスケッチをまとめたアルバム『12』を発表します。

アルバム発表と同時に公開されたインタビューでは、音楽を奏でることが自身の「薬」になっていたと明かしました。
他人のために音楽を奏でていた坂本が、最期は純粋に自分のための音楽を奏でたのです。
その一音、一音には、一人の音楽家が生涯をかけて重ねてきた年輪の深さが感じられます。

なお、今回も解説の中で特記していない限り、コラボ曲以外は坂本龍一が作曲した楽曲です。

①undercooled/坂本龍一('04)

13作目のソロアルバム『CHASM』より。同アルバムの先行シングルとして発表された。韓国のラッパー、MC Sniper が作詞を手掛け、ラップも披露している。
ジャキス・モレレンバウム(チェロ)、ルイス・ブラジル(ギター)、小山田圭吾(ギター)、スケッチ・ショウ(プログラミング)も参加。

②Asience-fast piano/坂本龍一('04)

ピアノによるセルフカバーアルバム『/04』より。同アルバムに唯一収録された新曲で、花王の「Asience」の CM 曲でもある。
原曲は打ち込みのビートが際立った曲でもあったが、ピアノバージョンでは落ち着いたアレンジになっている。坂本が得意とする東洋と西洋を組み合わせた独自の世界観が感じられる。

③Moon/alva noto+Ryuichi Sakamoto('05)

アルヴァ・ノトとの2作目のコラボレーションアルバム『insen』より。
細かいノイズのような電子音と静かなピアノの音が相性抜群で、ドラムやパーカッションで奏でられるビートとは異なるリズムが感じられる。

④A Flower is not a Flower/坂本龍一('05)

ピアノによるセルフカバーアルバム『/05』より。
原曲は'98年に発表されたグートレーベル(坂本がフォーライフ傘下に設立したレーベル)のベスト盤『the very best of gut years 1994-1997』に収録された曲である。
コード感がジャズっぽい、隠れた名曲で、最後となったライブ配信でも披露された。

⑤ax Mr.L/alva noto+Ryuichi Sakamoto('06)

アルヴァ・ノトとの3作目のコラボレーションアルバム『revep』より。
『戦場のメリークリスマス』のテーマ曲を細かく切り刻んで、リミックスしたような曲で、ソロ作品ではありえないコラボならではの楽曲になっている。

⑥haru/fennesz+sakamoto('07)

オーストリアのアーティスト、クリスチャン・フェネスとの2作目のコラボレーションアルバム『cendre』より。環境音のような電子音とピアノで構成された楽曲で、晩年の坂本の映画のサウンドトラックに通じるものが感じられる。

⑦Umi/WILLITS+SAKMOTO('07)

アメリカのアーティスト、クリストファー・ウィリッツとの1作目のコラボレーションアルバム『Ocean Fire』より。電子音主体の楽曲で、不穏な空気と心地よさが同居したアンビエント的な味わい。

⑧koko/坂本龍一('08)

16作目のシングル曲。JP日本郵政グループ郵便事業株式会社の CM 曲で、坂本自身も CM に出演した。ピアノ曲だが、クラシックよりも童謡や合唱曲に近く、メロディーの明瞭さに日本的な雰囲気がある。

⑨hibari/坂本龍一('09)

14作目のソロアルバム『out of noise』より。ピアノによるシンプルで短いフレーズを輪唱のように重ねた楽曲になっている。メロディーの良さはもちろんのこと、リズムのズレ具合がおもしろい。

⑩ambiguous lucidity - pf/坂本龍一('09)

17作目のシングル『nord』より。同シングルは、ホクレン農業協同組合連合会の CM 曲で、北海道地区限定でリリースされた。原曲は打ち込みを使った曲で、こちらのバージョンはピアノバージョンである。
ひたすらシンプルなフレーズの繰り返しだが、メロディーの良さと構成の魅力で聴く者を飽きさせない。

⑪a life/大貫妙子&坂本龍一('10)

大貫妙子とのコラボレーションアルバム『UTAU』より。同アルバムはカバー曲が中心で、この楽曲が唯一の新曲であり、Netflix オリジナルアニメシリーズ『日本沈没2020』の主題歌に起用された。
坂本によるメロディー、大貫妙子による詞、どちらもシンプルでわかりやすい魅力が感じられ、素朴ながら聴き応えのある楽曲になっている。

⑫0423/fennesz+sakamoto('11)

クリスチャン・フェネスとの3作目のコラボレーションアルバム『flumina』より。ピアノによる、ごく短い不規則なフレーズ、それを飲み込んでいくようにノイジーな電子音が展開される。こういった構成は、のちの坂本のソロ作品にも影響があるように感じられる。

⑬Tamago 2004/坂本龍一('12)

ピアノ、ヴァイオリン、チェロによるトリオ編成で演奏されたセルフカバーアルバム『THREE』より。原曲は'79年に発表したパルコの CM 曲で、セルフカバーアルバム『/04』でカバーしたものを元にしている。原曲よりもテンポを落とし、より哀愁を帯びたアレンジである。

⑭andata/坂本龍一('17)

療養期間を経て、発表された15作目のソロアルバム『async』より。バッハなどに通じる宗教的なテーマを感じさせる(途中からピアノがパイプオルガンに変わる)。その演奏音が徐々に波のような音に飲み込まれていく構成になっている。

⑮City Radieuse/alva noto+Ryuichi Sakamoto('22)

アルヴァ・ノトとのコラボレーションシングル。発表された時期的には坂本の療養期間なので、恐らく過去に坂本が演奏したピアノのデータをアルヴァ・ノトがアレンジしたものだと思われる。ピアノも電子音も健やかで明るい音で、弾むようなリズムが心地よい。

⑯20220302 - sarabande/坂本龍一('23)

16作目のソロアルバム『12』より。同アルバムは、療養期間中に録り溜めたスケッチの中から12曲を選曲したもの。『12』に収録された楽曲のタイトルは録音された日付のみとなっているが、この楽曲だけは「sarabande(サラバンド:3拍子の舞曲)」なるサブタイトルが付いている。最後のライブ配信でも披露された。


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