晴れ時々床寝(仮

これは床寝 Advent Calendar 2015の9日目の記事です。

以前人に聞いたところ床寝は「ゆかね」と読むそうです。「床(とこ)で寝る」のは普通の言い回しなので、あえて「ゆかね」ということは床(ゆか)に直に、もしくはほぼ床(ゆか)に接しているのと近い状態で寝ていることを協調したいのでしょう。

そこでまず思いつくのがござ(茣蓙)ですね。今回この文章を書いていて漢字を初めて知りました。

夏になると布団の上で寝ると熱がこもって眠れないということが往々にしてあります。たとえ掛け布団をタオルケットに取り替えたところで布団が貯めこむ熱量はじりじりと増えていきます。つらいですね。

そういうときには茣蓙です。茣蓙は風通しがよく、まったく熱がこもりません。暖簾に腕押しです。茣蓙っぽい暖簾もありますしね。最近は夏になると100円ローソンでも売っていてお手頃です。中国製なのが気がかりです。

ただ茣蓙というと実家の茣蓙を思い出してしまいます。これは僕が物覚えのついた頃から使っていたもので、まくらのような膨らみがありとても寝心地のいいものでした。しかし高校生ぐらいのころにひさしぶりに引っ張りだしてみたところ、その枕の部分に白い虫がいっぱいいました。即刻廃棄しました。100円ローソンの茣蓙は大丈夫なんでしょうか。

もうひとつ思い出すのが道路です。連日終電間際まで会社で仕事をしてヘトヘトになり、やっと外に出たところで「あ、もうここで寝たい」と思うことが誰しもあるかと思います。あのときは暑さも寒さも関係なく、ただ眠い、その一心です。とはいえ私も人の子ですから、恥の多い人生、これ以上の恥を塗り重ねるのは御免こうむるというわけでなんとか両の足を動かして家路をたどるのです。そしてちゃんとベッドで寝ます。そこにねこがいたら最高ですね。

しかしそんな恥だらけの道路に、自らの意志で横になった男がいたのです。あれは桜の舞う卒業式の終わったあと、まだかすかに寒さを感じる春の夜でした。飲み会が終わって研究室のメンバー数人で東池袋を歩いているとひとりの後輩が突然「腹が痛い」と言って道路に横になったのです。仰向けでもうつ伏せでもなく、痛みだした左脇腹が地面の冷たさに触れられるように寝ていました。

突然のことにびっくりした我々ですが「大丈夫です、ときどき痛むんです」「いつもこうやってます」と言い出したのです。知り合ってから3年ほど経っていたのですが、まさか大都会東京の片隅で彼が時折道路で寝ているとは知りもしませんでした。喧々囂々と問答をしているうちに健全なメンバーにも「わかる」と言い出す輩が出る始末。なにがわかるだ。俺も寝たい。

現在、彼は北の国で悠々自適に結婚生活を送っております。もしかしたら今でも雪の中で痛い腹を地面につけて横になっているかもしれません。そんな彼を見かけたときは決して笑わず、「彼はいま必死に痛みと闘っているんだ」とハンカチ片手に応援してあげてください。

以上をもちまして床寝2015への挨拶と代えさせていただきます。