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『キャプテン・マーベル』と『ダンボ』、ある意外な共通点

最近、映画『名探偵コナン 紺青の拳』が2日間で興収14億6400万円を記録したりと映画界が勢いにノリノリで嬉しいです。

そんな最中ディズニーがコナンとのガチンコ勝負を避けるかのように少し早めに2本の大作を公開いたしました。

MCU21作目の『キャプテン・マーベル』と1941年公開のアニメ映画を実写化した『ダンボ』。

前者は4月末公開の『アベンジャーズ/エンドゲーム』に繋がる作品として、後者はあのティムバートン監督による最新作として注目を集めています。

両作品とも全く違う作風と題材。スタジオ以外に共通点はあるのか?

実は撮影監督が一緒なのです。

両作品ともベン・デイヴィスというイングランド出身の撮影監督が担当をしています。

そもそも撮影監督って何?

本題に入る前に簡単な解説を。

撮影監督(Director of Photography)またはシネマトグラファーとは照明やカメラなどを駆使して画面に映る映像全てに於いて責任を負う人物のことです。
通常の「監督」と呼ばれる人たちは役者の演技や空気感を指導し、作品を作り上げていくCEOのような存在。撮影監督は監督の思い描く理想を形に整えていくCOOといったほうがわかりやすいでしょうか。

ベン・ディヴィスは『ハンニバル・ライジング』や『キック・アス』等で経験を積んだ後、ハリウッドの常連に。
特にCGを使った撮影に定評があり、MCUも『キャプテン・マーベル』の他に3作を担当。

◆ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー
◆アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン
◆ドクター・ストレンジ

そんな彼は今回ディズニーの目玉作品を同時期に2本も指揮。
めちゃくちゃ忙しい中、異なる性質を持つ2つの作品をどう作り分けたのでしょうか?

『キャプテン・マーベル』の撮影ポイント

ディヴィスは撮影時の時間節約のためにカメラを2台使って撮影。その内の1台は手持ちかステディカム(手持ち用カメラ安定支持機材)を使った撮影を意識したそうです。

『キャプテン・マーベル』は1人の女性にフォーカスした成長物語。彼女の気持ちや成長過程を描くためにブレの生じやすい手持ちカメラで顔のクロースアップを狙いました。彼女が動けばカメラ(観客)が動く。キャラクターと一緒にダンスを踊るかのように、観客に共感を与えます。

『ダンボ』は反対に手持ちなどを使わずに伝統的なクレーンと広角レンズを使ってスムーズな動きで撮影。観客がまるで劇を観ているような感覚を持つことができます。

もう一つ重要なポイントが今回の時代背景。
今作は1995年のロサンゼルスを題材にしているので音楽や衣装などはもちろん、セリフも時代に沿ったものとなっております。
映像も同じです。

今回の撮影のためだけにヴィンテージレンズをパナヴィジョン社に特注。撮影で特に使ったのはちょうどいい30mmだったとのこと。
あとは90年代を演出するために元々フィルムで撮影をしようとしていたのをキャンセルし、一貫してデジタル撮影にシフト。フィルムの質感は編集で足し、特にコダック社のEktachromeを参考にしたそうです。

ティムバートン監督が『ダンボ』で魅せたかった映像

撮影監督は基本的に監督のやりやすい手法に合わせます。
ティムバートン監督はカメラ1台を使ってじっくりと撮影をするタイプなのでディヴィスもそれに合わせることに。

象がリアルなわけがない。彼は「ダンボ」だ。

撮影前にティムバートン監督が最初に発した言葉です。
要するにいくら「実写」であってもリアリティを追求するのはお門違いなのでどれだけ原作に近い映像を作りだし、実写で行う意味を見いだすのかがティムバートン監督のこだわりポイント。

実写ではあるが現実世界とはちょっと違う奇妙な空間を描き、空想であるダンボに命を吹き込まなければいけません。

ロンドンで行われた『ダンボ』の撮影ですが、現地の気候が設定上の「1920年代のアメリカ」にそぐわないため、撮影班は室内セットを一から設計。夕暮れのサーカスを演出するのにピッタリだったそうです。

この室内撮影のおかげで『ダンボ』が持つ絶妙な空気感を演出することに成功したのです。

ティムバートン監督が特にこだわったのが「空」。クルー達に投げかけた言葉は一言だけ:

『風と共に去りぬ』を連想しろ。

デイヴィスはさっそく映画を鑑賞し、ティムバートン監督が描きたいこの「空」の研究をしました。

彼はこの「空」を作るために毎日夜明けと夕暮れに外へ出て、陽の出方や色を全てのアングルから撮影。それらをつなぎ合わせて360°のパノラマ画像を作り、参考画像として照明設定に使ったそうです。
Wendy Light、12K Molebeams/Molepars、Arri SkyPanel等様々な光源を用意して室内に太陽を作り出しました。

また、今作では映像のアスペクト比にもこだわりが。
『キャプテン・マーベル』が2.39:1に対して『ダンボ』は1.85:1。あえて縦幅を伸ばすことによって「ダンボ」が縦横無尽に飛ぶ姿に余裕を持たせたとのこと。自分が何を撮影するかによって映像の大きさも決めなくてはいけないというのは非常に重要なポイントです。

さいごに

同じ撮影監督でも作品の色に合わせた撮影方法を発案しなければいけません。どんなストーリーで、どういったキャラクターが、いつどこで何をするのか。ありとあらゆる要素を考慮し、考え抜いた上で最適な回答を出してアウトプットに生かす。

全ての仕事において言えることですね。

シーン1つ1つ、職人たちによるこだわりと意図が必ずあります。
次に映画を観る際にはぜひ撮影監督にも注目してみてください。

おまけ

『ダンボ』の仕様
アスペクト比:1.85:1
カメラ:Arri Alexa 65
レンズ:Arri Prime DNA

『キャプテン・マーベル』の仕様
アスペクト比:2.39:1 and 1.43:1 Imax
カメラ:Arri Alexa 65, Blackmagic Pocket Cinema Camera, Panavision DXL2
レンズ:Panavision 65 Vintage, Sphero 65, Primo Zoom

参考資料:American Cinematographer April 2019 Edition

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