カラフル 小説「カラーズ」11 (全17話)

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 いつから心踊らなくなったのか。
集めた折り紙を眺めていた頃、クレヨンやクーピーを持ち歩いて、自由に色を塗ることに夢中になっていた私はどこへ行ったのか。

星さんが一心不乱に色を塗る様子を見ていたら、そんなことを思った。

ぶらんぶらんと、ふわふわと、着地点が見えず浮遊している。

子どもがいれば、離婚しなければ、一人ぼっちにならなければ、こんな気持ちを感じずに済んだのだろうか。


 休みの日の記憶。電車で向かいの座席に座った若い家族。小さな女の子を父親が抱きかかえ、手すりにつかまらせている。女の子をとなりに座らせると泣き出した。母親が「つかまるのが好きなのよ」と言い、父親は再び女の子を抱っこし、膝の上に乗せ手すりを触らせた。うすい茶色の細くやわらかそうな髪、きれいな形の頭、真新しく白い皮膚、くりくりと動く眼球。女の子は笑顔になる。

眺めながら「ああ、私の人生には、やってこないんだ」と思い、目をそらせた。何気ない家族の一コマ。あの人たちには特別でないかもしれない、あたりまえの日常。私には特別に感じられる。

持つことが叶わなかった私の家族。会えなかった私の家族。

それとも今、どこか別の次元で笑い合ってるだろうか。

「私も作ってみようかな」

聞こえないのか返事もせずにひたすら三角形の千代紙を貼り付ける星さんの向かいに座り、作ってみた。出来上がった私の作品を室長の立花さんは「なによ、これ〜」と言った。一方で星さんのはべた褒めだった。私のは無心でないし、奇をてらったところがお見通しだったのだろう。ちょっと傷ついた。でもやってみて良かった。ただ横で見ているよりは。

 時間がくると、星さんは目を合わせずちょこんと頭を下げて姿勢良く歩いて行った。スラックスとポロシャツ、黒い靴。街を歩く姿は普通のサラリーマンのように見えた。

一人になってもう一度見比べて、彼の作品集の100均のおえかき帳を引き出しにしまった。



12へつづく↓



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