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日記と「女の気持ち」2/7毎日新聞掲載

2024.2.7の日記

9時20分のバスで行くと伝えたが9時を過ぎても息子は起きてこない。何度も声かけしてようやく9時13分に起き、私が用意したシュガーバターパンとホットミルクをゆっくり食す。私はコートを着て「18分になったから出るね」と言うと、息子は無言で着の身着のままのスウェット姿でジャンバーを羽織り、私より先に玄関に向かった。顔も洗わず寝ぐせも直さず。予想外の行動で驚いた。

駅に着いてコンビニで毎日新聞を二部買ってきてもらった。
ホームで新聞をめくると載っていた。私の書いた文章が。家でゆっくり読むことにする。
特急に乗り換える。よく晴れているが二日前に降った雪が家々の屋根に残っている。
鍵を取りに行く途中、息子はうつむいて歩みが遅くなり、どうしたの?と聞くと「吐きそう」と答える。ビルに着いてすぐトイレに向かった。なんのことはない二日酔いだ。私は新しい家の鍵を受け取った。
前から入ってみたかったドトールの高級版に行く。息子はクラブハウスサンド、私はエビドリア、二人ともホットコーヒーのセット。

家電量販店ではIHのみでガスコンロがなかった。コーヒーメーカーのガラスポットを注文。去年、落として割ってしまったのだ。
上の階の日用品を扱う店にガスコンロはあった。パロマの現品限りの商品が安かったのでそれに決める。茶色と白でかわいくて気に入った。カセットコンロも買う。前のは20年以上使っていた。いつ爆発するかと息子が友人を連れてきて鍋をやるたび最後のほうはヒヤヒヤしていた。

前の日にLINEでブチギレてしまった。
息子が引っ越し当日の午前中もバイトしていいか聞いてきたからだ。
明日から6時〜16時の4連勤。休みの日は夜出かける。今日以外、引っ越しまで丸一日家にいる日がないのだ。
コロナ後遺症で荷作りが思うように進まないので私は焦っていた。そこにきて引っ越し当日もバイト?「いい加減にしてくれ」とLINEした。
彼は非常にマイペースなのだ。
バスの時間に家を出るのが普通。バスは大抵遅れるから間に合うのだが。私はそんなことができない。

毎日新聞の「女の気持ち」はきれいにまとめたところがあるが、現実の母はイラ立ち、息子は二日酔いでゲ◯を吐き、息がクサいクサくないで言い合い、最後は「俺汚ねぇ。3K。キツイ、汚い、クサい」と駅のエレベーターの中で言うので大笑いする。
家に着き「パンツ三日も替えてないのは今どきバッグパッカーでもいないよ」と言う私の声は届いたか届いてないか。息子は布団で夢の中。
夜、父から電話があり、新聞読んだと言う。実家に送ろうと思って二部買ったが余ってしまった。


〜以下、2/7毎日新聞朝刊掲載「女の気持ち」より〜

「虫捕り網」

 引っ越しのため荷物を整理していたら、押入れから虫捕り網が出てきた。かつて息子がたくさん遊んだものだ。網はうす汚れて金具は少し曲がり、いびつな円を描いている。もう使うことはないから捨てることにした。立てかけた虫捕り網を見て、いろいろなことを思い出した。
 息子は幼いころ、夏は真っ黒に日焼けして丸坊主で、夢中になって虫を追いかけていた。そっと近づいてパッと網をかぶせ、つかまえたと思っても逃げてしまう。また追いかける。あのとき捕ったたくさんのチョウやバッタ。当たり前だが、もういない。
 網に大きな穴が開いたため、私が縫った跡もある。家庭科の成績が「2」だっただけあって、雑にザクザクと縫われている。息子は出来などお構いなしで、これで虫が逃げないと喜んだ。離婚してお金がなく、公園で売られていた300円の虫かごを買ってあげられない自分が情けないと思ったこともあった。
 息子を心身ともに健康に育てることを目標に突っ走ってきた。とにかく元気で生きていてくれればよかった。現在、息子は21歳だ。大学生活はあと2年。今はホッとしている。
 公園で虫を追いかけていた男の子は、夢を追う青年になった。この大きな世界で存分に駆け回り、遊んでほしい。空っぽの網を眺めながら、さあ私はどんな夢をつかもうか、と考えている。



〜最後まで読んでいただき、ありがとうございます♪〜

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