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欅坂46に感謝

命は神が与えたDeadline(※1)。

そんなものものしい歌詞にうなだれていた。

改名が発表されたのは今年(2020年)の7月。メンバーに知らされたのはその1~2ヶ月前くらいだろうか。欅坂46としての歴史に終止符を打つと言われて、それもまたやむを得ないことなのかなと納得していた自分がいた。

アイドルが自らの生活において占める割合は人それぞれだと思う。どれだけ熱中しようが、どれだけ斜に構えていようが、それぞれが抱く期待や理想が言葉となり渦となりグループの推進力となっていく。

いつからだろう。そんな声をなかなか聞かなくなった。

いや、もちろん、グループ自体は存在していたし、話題がないこともなかった。冠番組は続いていたし、誰かがグループを離れたり、恋愛スキャンダルが発覚したりするたびに、それなりに誰かが喋り、誰かが意見していた。
しかし、継続的にグループを応援していく気概を持った人が、ひとり、またひとりと消えていった。前向きな気持ちで、グループの行く末を「ああだこうだ」と言い合う、オタク同士の活発なやり取りが消え、停滞の原因や、ヴェールに包まれた内部事情を、短絡的な妄想でぶちまけてしまうことが増えた(※2)。

限りなくたくさんの人の中からアイドルに憧れてあの世界に入ったきた女の子たちは、何か“特別な”アイドルとしての使命を背負わされたかのように奮闘した。

「楽曲が良い」「世界観がカッコいい」「今までにないアイドル」

それが、本当に彼女たちが求めていたものかどうかは分からない。アイドル界での地位を確立し、もっともっと大きく、認められるようなグループへと成長していくために、必要な戦略だったとは思う。ただ結果として、上手くコントロールできず、イメージが一人歩きし、情緒不安定なグループの脆弱性が露呈した。もっと純粋に、楽しく、笑顔で、元気よく振る舞うことが許されていたなら、誰かを騙したり、誰かを失望させたり、誰かを傷つけたりすることが今よりももっと少なかったかもしれない(※3)。

どれだけ甘いアイドルファンであろうと、それを肯定したいとは思わない。ただ、見つめることさえできていれば良かった。

生まれてから死ぬまでの約80年間、これからは100年だって言われている時代に、人は色んなことを経験して、達成して、失っていく。命の期限なんてものは誰が定めたものでもない(神が定めたと考える人もいるけど)。病気でも事故でも老衰でも、いずれ人は死ぬことになる。人によっては、死んでしまうとすべてなくなって消えてしまうと言うけど、その魂が誰かに乗り移ってまた新しい人へと命が繰り返されるなんて話も聞く。本当にそうなのか私はよくわからないけれど、身近な死者との記憶や思い出は薄れることはあっても、無くなることはない気がしている。それがどれだけ嫌な思い出であったとしても、簡単に忘れることのできない痕跡がある。思い出に拘泥するのとは違う次元で、言葉や体験がフラッシュバックする。

永遠より長い一瞬なんて矛盾した言葉だが、永遠に続く時の流れの中で、今この時に自分自身が実存していることを強く意識する瞬間はないだろうか。それは愛する誰かとコーヒーを飲みながら語りあう瞬間かもしれないし、苦難を乗り越えて夢を叶える瞬間かもしれないし、贔屓チームを仲間とともに応援し、喜怒哀楽を表現する瞬間かもしれない。

彼女たちが歩んできた5年間は毀誉褒貶に満ちていた。平手友梨奈という圧倒的な存在がグループを大きく押し上げ、称賛を浴び、狂信的なファンも作り上げた一方で、彼女無しでは何もできないというレッテルを貼られ、違和感を押し付けられてきた。そんな栄光と苦難に満ちた数年を、彼女たちはどのように思い出すことになるだろう。

彼女たちが歩んできた一瞬一瞬が、輝いたものであったなら、欅坂46に所属していたことを誇らしいことだと思えるなら、私はそれでいいのではないかと思う。グループを卒業しても、櫻坂46として新たな道を開拓していくとしても、自らが歩んできた歴史はこれからの未来を形成する一部となる。その歴史を“伝説”とか“革命”といった扇動的な表現で称える人もいるだろうけど、そんな歴史を担っていたのが脆弱さを抱えた女の子たちの集団であったことを忘れないでいたい(※4)。

挫折や停滞感を一番感じていたのはメンバー達だろうけれど、ファンの一人としては状況を打開することができず、あることないこと悪いイメージが広まってしまったことは無念だ。だが、初めてまともに現場に通うようになったアイドルの歴史をこの目で見ることができたのは良かったと思うし、停滞気味の人生に、夢や希望や生きていく意味をもたらしてくれたグループとメンバーには心からのありがとうを言いたい。

特に、あまり器用ではないけれど、メンバー想いでそれぞれの魅力を引き出そうと奮闘してきたあかねん。ありがとう。今でも好きです。グループの先頭に立って、優しい笑顔と柔らかな声でいつも癒しを届けてくれて、目を背けたくなるような事件や状況にも実直な言葉で対処し続けてくれたゆっかー。ありがとう。これからの人生が幸せなものになりますように。
大好きなグループでした。


※1欅坂46のベストアルバム「永遠より長い一瞬~あの頃、確かに存在した私たち~」に収録されている楽曲「Deadline」の歌詞のフレーズ。
※2メディア報道のすべてが間違っているわけでもなく、それらをどのように受け取るかはファンに委ねられている。しかし、SNSの発達とともに誰もが自由に発言することができるようになったことで、鬱屈した感情も目につきやすくなった。
※3もちろん、そのような振る舞いを禁止されていたわけではないが、メンバーのパーソナルな個性を前面に押し出すような戦略を取れなかったことは残念だ。
※4プロならば、ファンを楽しませることに全力を注ぎ、失望させることのないように努力すべきだろうし、それが感じられないと思い離れていったファンもたくさんいるだろう。欅坂46は良いことばかりではない。だから、 “伝説”や“革命”のように特別優れたところを強調するような態度に私は与しない。毀誉褒貶も含めて好きだったのだから、良いものだけを見て好きだなんて言うような態度は誠実ではないと思う。