2020ベストアルバム(的な)

年に一回ベスト的なものを書くためにだけしか稼働していない気がするこのnote。今年も例にたがわず。
結構今年は色々聴けたなー、と思っていたのだけど、2020年の作品は全然聴けていなかった件。まあでも10作品分くらいはあったので自分の記録のために記載。アルバムと書きつつ、シングル作品も混じってるので、的な、ということで。話題作だけしかキャッチアップできないアンテナをそろそろ別の方向に向けられるようになりたいお年頃。
ライブという興行自体が危機的な年だったけど、年明け直後のBon Iverと先日のROTH BART BARON公演は本当に聴きに行くことができてよかった。この災禍の年において希望とか喜びに溢れた、最高の時間だった。

10.TAILWINDS/FEARLESS FLYERS

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今年KGLMC関学文総軽音という関西学院大学の軽音サークルのYoutubeチャンネルにはまってコピーバンドをいっぱい見てたんですけど、その中でやってたvulfpeckの演奏が最高で、そこから本家をおっかけたらこれまた最高で、んでなんかサイド・プロジェクトのバンドが新譜出してるっていうから聴いてみたらこれまたアゲだったっていう一枚です。
カッティング、バチボコに決まるリズム、ファンク・スピリッツ、好きなものしか入ってなくてめちゃくちゃいいです。ドラマーのネイト・スミス(Nate Smith is the Ace of Aceって曲名も頭悪すぎて最高)、そして何よりギターのコリー・ウォン(vulfpeckの正式メンバーだとこの文章を書くまで思ってた)が最強。今年のフジロックで観たかった。
けど、本家であるvulfpeckのライブ盤をめちゃくちゃ聴いてた故に、本作自体の総再生回数はあまり高くなかったのでこの位置にしてみました。


9. Mutabul Set/Blake mills

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音が良すぎる。
Alabama Shakes『Sound &Color』(2015年)のプロデューサーと聞けば納得。あのアルバムの洗練された音処理同様、本作も耳の中で弾いてます?と思うような解像度で楽器が鳴っている。
しかしただただハイファイな録音をしているというだけではなく、各楽器の音を精緻に調整して、チェンバーな広がりを堪能できるように計算し尽くして鳴らしてると思う。先行配信された「Vanishing Twin」が一番聴きやすいでしょうか。


8.Set My Heart On Fire Immediately /Perfume Genius

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マイク・ハドレアスこと、パフューム・ジーニアスの5thアルバム。ゲイ・セクシュアルである彼が「アメリカン・ポップの正史に繋がること」を意図して作られた作品だそうです。「この作品で、一番伝えたかったのは「繋がり」という感覚。」(引用:Turnインタビュー2020/5/21)と彼自身は述べています。
セクシャル・マイノリティとして社会で居心地の悪い思いをしてきた過去の自身と、今そう感じているかもしれない人たちを頭の片隅に置きながら、連綿と続くポップ史に「繋がる」ような作品を作る。それにより、自分達も歴史に連なる人間であることを表明し、かつての社会で居心地の悪い思いをした人がいたことも忘れないー。
曲自体はとてもバラエティに富んでいて、前述したアメリカン・ポップへの意識やドゥー・ワップみたいなメロディが感じられる「On the floor」、「Without you」のシンセ・ポップのようなキラキラしたものから、本人がMVを監督した妖艶な踊りと荘厳な曲構成が聴き手を圧倒する「Describe」まで様々。
なお余談ですが、前段で紹介したブレイク・ミルズは本作でもプロデューサーを担当しててほんま稀代のマルチ・タレント。

7. Think About Things/Daði Freyr

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ダディ・フレイル、って読むっぽいです。アイスランドのアーティスト。
なんかtiktokだかtwitterだかでこの曲を使って踊ってる動画見て、何となく耳から離れなくなったと思ったら年間通してずーっと聴いてましたって感じです。
ファンキーなベースライン、ぱっぱらぱあな感じなのになんかテンション低い感じで歌い続ける低音ボイスのボーカル、中毒的な感じでした。
何ていうかこういうキッチュなもの好きなんですよね。The B-52's辺りのニュー・ウェーブ期のアーティストを子孫にして連綿と続いてます、みたいな感じの安さがいいです。


6.RTJ4/Run The Jewels

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ラッパー/プロデューサーのエル・P(El-P)とラッパーのキラー・マイク(Killer Mike)によるヒップホップ・デュオによる4thアルバム。今年の5月に黒人のジョージ・フロイドが白人警官によって殺害された事件を受け、前倒しのリリースを行うなど「Black Lives Matter」と密接に関連した作品だ。(キラー・マイクは同事件を受けて、暴徒化した人々へのメッセージを発するなど、パーソナルなアクションも起こしている。)
歌詞も人種差別や警察官によって殺害されるアフリカ系アメリカ人(上記とは別の事件。結果的予見的なアルバムになっている辺り悲痛な思いになる)について歌われるなど、非常にコンシャスで怒りに満ちた作品ではあるのだが、個人的には単純に曲がカッコいいという理由ではまった。
オールドスクールなトラックとスクラッチが特徴的な「Ooh LA LA (feat. Greg Nice & DJ Premier)」やダークなビートの上で"ドル札の上で澄ましている奴隷主(=ドル紙幣に印刷されている奴隷農場主だった人物達)をよく見てみろよ"というフックが叫ばれる「JU$T (Feat. Pharrell Williams & Zack De La Rocha)」などなど、単純に曲としてアガるものが多いという強靭さがすごい。


5. Fetch The bolt Cutter/Fiona Apple

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ピッチフォークで10点満点と話題になった本作ですが、難しいところまでは理解が及んでないので個人的なポイントだけ。これも方々で言われてはいますが、「叩く」ということが一つ大きなトピックになっている作品です。
全編を通して様々なものが打楽器として用いられ(ジャケットに顔が出てる愛犬の骨まで使ってるらしい!)、それが様々な位相から響いてくる。ステレオで聴くよりもヘッドホンを使って聴いた方がその立体感を味わえるのと思うのでおすすめです。
音階のある楽器はかなり少なく、声とパーカッションだけのかなりそぎ落とされたアルバムで、Tune-yardsなんかとの類似性を感じたりしました。一番好きな曲は「For Her」。展開のダイナミックさがたまらないです。


4.For You/India Jordan

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ユーロ・ビート、レイヴを通ってきてないはずの世代が放つ、同ジャンルへの憧憬って感じ。
”Is this song for you?/On my memory...”という歌詞というかサウンドの一部も、「僕の記憶の中にはないはずなのに、なんで懐かしく感じてしまうんだろう...?それともこれは君のための歌?」みたいな感じで、自分が生まれる前の音楽への憧れを助長させてるみたい(妄言です)。
まあ聴いてみてくださいよ、今年のナンバーワン・ダンス・ミュージックやね。なんか爆発的に盛り上がるわけでないこじんまりした展開も、自宅で過ごさなきゃいけなかった今年の雰囲気にマッチしている気がするわ。


3.いいね!/サニーデイ・サービス

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サニーデイ・サービスというバンドは過去の作品への反省や、その時代の音楽シーンへの反発、批評などを原動力にして作品を作ってきたバンドであった。しかし今年のこの新作はいうなれば曾我部恵一48歳、中学二年生、初めてのアルバムである。こんなにも瑞々しくて真っすぐな作品をこのキャリアから生み出せるなんてすごすぎる。
各曲も意味合いを考えたりするのではなく、なんとなく出てきた歌詞に合う形で曲をつけたりしたものが多いらしく、小難しいことをしないように、素直に自分の中にあるものを描きだそうとしている。それ故におそらくもうこの突き抜け感は次作では出来ないだろう。それをやったらまがい物になっちゃうだろうから。"僕を目覚めさせて/君の匂いをかがせて/春の風が吹いている"(春の風)とか天才の所業でしょ。
曾我部恵一BAND的なキラキラしたロックンロールだなって最初は思ったけど、よく聴くとそれよりもネオアコっぽいものなんじゃないかと思う。何ていうか、ソカバンは振り切ったハッピーが閉じ込められた曲を演奏するけど、サニーデイって少しだけ曲に含まれる諦念感みたいなものがある気がするんだよね。
最近ストレートなバンド・サウンドには久しく響いてなかったけれど、これは心からしびれました。


2.南下する青年/BBHF

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何が良い、というのを言語化するのが難しいのですが、間違いなく今年一番日本の作品で聴いたアルバムになりました。Galileo Galilei解散後の活動においての最高傑作を作られたなと思います。
北から南へ、とある青年が旅をするで成長していくことを表現した二枚組の小説のような作品である、という説明を目にしました。確かに曲のボリュームといい、ジャケットに使用された因藤壽の作品『麦ふみ』が持つ妖艶さといい、コンセプトは壮大だと思います。
だけど、曲を聴くと、どれも日常的なトピックを取り上げたものが多く、そのコンセプトに反して地に足がついた生活感があるんですよね。その手触り感がよかったのかな。サウンド的にはダイナミックさと儚げで澄んだ音が同居している曲が多く、すごくそのミスマッチなバランス感が良いんですよねー(例えば「Siva」とか「とけない魔法」とか)。
そして一番の聴き所は「僕らの生活」以降の流れじゃないかと思います。特に「君はさせてくれる」までが白眉。
2枚目の冒頭「鳥と熊と野兎と魚」の荘厳なポエトリーリーディングは旅の中間地点でたどり着いた壮大な景色を思わせるようです。
だけどその後、青年は女性と出会ったと思われ、「僕らの生活」ではどこかの良くある街で腰を落ち着けた暮らしを始めたようです。その暮らしに幸せを自覚しながらもここにいていいのか、みたいな焦燥が歌詞と性急なギターからは感じられます。
そして「君はさせてくれる」の、一晩を共にした後に訪れた朝のような、穏やかで満たされた空気感。綺麗な女性のユニゾンが、寄り添う二人を思わせます。けれど、"そんな気に君はさせてくれる"という言い方にはやはり「本当はそれじゃダメだということをわかっている」という旅人の気持ちが含まれているようです。
そして次の「フリントストーン」では"ハンカチを振って/別れを惜しんで/無事を祈って空中を闊歩"と、誰かとの別れの様子が描かれていきます(石器時代の車、っていうのが個人的にはGalileo Galilei解散時のおもちゃの車、っていうワードと結びついてすごく示唆的に感じる...!)。

今年、唯一鑑賞した有料配信ライブが彼らのリリース・ライブでした。
個人的な思い出話ですが、僕は彼らがGalileo Galieiとして閃光ライオットで優勝した11年前のライブを観に行ってて、ずっと同世代として一方的に思い入れを持ってました。あの頃自分が中心的に聴いていた日本のギター・ロックの王道からキャリアを始めた彼らが、歳を重ねて、欧米のメイン・ストリームからの影響を受けて、そして今アジアに生きることを意識した、でも邦ロックとくくられていたあの頃とは明らかに違う音像の世界にたどり着いていることが自分のことのように嬉しいのです。
そして今でも自分が彼らの音楽を好きでいられていることも。


1.CATCH/Peter CottonTale

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Donnie Trumpet & Social ExperimentのピアニストであるPeter Cottontaleのソロアルバム、といいつつChance the RapperもJamila WoodもDonnie trumpetことNico SegalのバンドJuJu Exchangeもクレジットされてて、実質これSocial Experimentの新作くらいの感じがしました。
なんでこんな最高のゴスペル・アルバムなのにあんまり話題になってないのかわからない。このパンデミック下の世界においてこんなに喜びに満ち溢れた空気感を閉じ込めた作品はなかったと思います。キリスト教徒でない僕ですらこう思うのに。逆に宗教感が強すぎるのかな?
「Feels like Church」のはじけるようなクワイア、「When I Get There」の駆け出したくなる清涼感、打ち込みとベースで構成された「Find you(New Jerusalem)」のミニマルなリズムの上で歌われる伸びやかなゴスペル。
Gotchが年末に出したソロ・アルバムはこれに影響されてる感じあるなーと思ったら、彼の年間ベストも本作が一位。納得。

晴れた日曜の午前中とかにこのアルバムを聴いてごらんよ、たぶんそれだけで幸せな気持ちになれるから。


※番外編 New Schooler/Break My Heart(Dua Lipa cover)

二十年前のハモネプをきっかけに日本でもアカペラ人口が増えましたが、最近レベルアップが顕著だな~と思ってて、いよいよもって大学サークルでもここまで来たかと思わされたのがこのチーム。真ん中のしもれんくんっていう方はアカペラ関連の主要動画に絶対いますね。世代のエースなんでしょう。
全員ビートボクサーだから従来のように常にコーラスが並走するアレンジではないのに、グルーヴとフィルインのキメで最後までがっちりと持っていく。要所でのハモリもめちゃくちゃ決まってる。
選曲も今年のダンス・ミュージックとして人気のあったDua Lipa(多分Pentatonixのカバーからたどり着いてるのかな?と予想)を選んでたりして視野が広い。
自分もハモネプに影響されてやってたクチなのですが、完全にもう次世代に移行したなって思いました。次は聴けるオリジナル作品が出てくることを個人的には楽しみに待ちたいです。












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