2010年4月。ベルマーレにハマった日

私は生まれてからほとんどの時間を「浦和」にほど近い地域で過ごしている。
なのでサッカーと言えば子供の頃から新年に大宮公園で行われる高校サッカーで、初詣の帰りにフェンスの隙間から見ていたりしていた。
でもそれ以外は当時大人気となったサッカー漫画を読んだりするくらいで、釜本、奥寺あたりをぼんやりと知っている程度だった。

そして、時は流れそれがやってきた。
1993年、Jリーグの発足。

当時私は浦和でアルバイトをしていたが、当時はお察しであったことや、友人・知人にファン・サポーターがいなかったため、「興味がある」程度でしかなかった。
やがて発売当日に徹夜覚悟で並ばないとチケットが手に入らないとか、5人以上で後援会に入らないと見れないらしい、といった話が耳に届くようになり、興味は遠のいて行く。
そしてそこが優勝に至る頃には「Jリーグサポーターは怖い」という認識が出来上がるのであった。

ところで、私の夫という人は昔ベルマーレサポーターだった、という人で、当時もたまに試合結果をサイトで確認しているのは知っていた。
その時2009年、秋。
「昇格だ!J1だ!」
喜ぶ彼の隣で何の気無しに言った一言がある。
「じゃあ、埼スタの時はいけばいいじゃん」
自宅から30分ほどの、いわゆる最寄りのスタジアム。本来であれば、そこに通うのが一番楽で、毎回見に行くことも容易い。
「そうしようか」
大体こんな会話をしたはずだ。

年が明け、試合日程が発表されると、4月3日という案外早いタイミングでその日はやってきた。
なお残念ながら、何時に行ったとかそういうことは覚えていない。
この時点で見に行きたかったのは私ではなかったし、あくまで遊びに付き合う感覚でしかなかったからだ。

埼スタの入り口をくぐり、アウェイゲートへと進む。
いきなり遭遇したアクシデントに(やっぱりここは怖い)と感じながら階段を登った。
スタンドに入ると、目に入ってきたのは美しい緑のフィールドと。
「こんにちわ!今日もがんばりましょう!」
スタンドに入った時に、チャントの歌詞カードと笑顔をもらった。
正直、そういう「中心」の人たちは排他的な過激な人ばかりだと思っていたから、かなり驚いた。

応援の邪魔にならないよう、少し上の方の席を取り、試合が始まるのを待った。
上の方だったこともあり、リードはほとんど聞こえなかったが、ウォーミングアップ中にも選手を応援し、鼓舞し、スタンドがだんだん一体化していくのを感じていた。

試合について覚えていることは実はあまりない。
最後の最後で中山元気選手が1点を返して、スタンドが沸き立ったことだけは覚えている。
それだけ、リアルで初めて見るJリーグの、ベルマーレのサッカーに圧倒され、感動し、強く惹かれていた。

何よりも、チャントを知らない私たちを咎めることもなく、温かく接してくれた周囲の人たちには今でも感謝しかない。
集まった人たちが手を上げ声を合わせてチャントを歌い、チームのために一体となって共に戦う。
サポーターは12人目の選手、知識はあったがそれを体験したことはなかった。
衝撃的で、熱く、エキサイティングとしか言いようのない、未体験の空間。
「応援」することがこんなに楽しいとは思わなかった。
試合が終わった時、私の心には「また見たい。全力で応援したい。」という思いが残ったのだった。

それからは早かった。
「次に行けそうな試合」として川崎戦を選択し、チケットを買い、チャントを調べて聞き覚え、公式サイトを眺めて所属選手を覚え、グッズを買い、少しでも多くの情報を入れるよう努力した。
まさに「ハマった」としか言いようがない。
それまで堰き止めていた、サッカーへの想いがすべてベルマーレへ注がれていく、そんな状態だった。

そして一ヶ月後の川崎戦。
同じように、温かく接してくれる人たちを感じながら、同じように楽しい時間を過ごすことができた。
いや、ベルマーレが好きになっていたから、同じように、ではなく更にもっと楽しい時間を他のサポーターと共有することができた。

そうだ、私は元々サッカーが好きだった。もっと、早く素直になればよかったのかもしれない。
でもこのタイミングがあったから、ベルマーレを好きになることができた。
2010年という年、4月というシーズン序盤での初観戦、優しい古参のサポーターの人々。
多分どれか一つでも欠けていたなら、ベルマーレを愛することはなかったのかもしれない。

逆にもう少しサッカーにハマるタイミングが早ければ、適当に埼スタか大宮公園へ行き、ゴール裏ではない場所で今とは違う想いを抱きながら見ていたのかもしれない。

応援することは楽しい。チームが勝てばもっと楽しい。
2010年4月3日、その日初めて体験したことを、私はずっと忘れないだろう。

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