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チャイルド・グルーミング(Child grooming)の手法

 グルーミングとは元々「毛繕い」という意味だが、子供に近づき親しくなって信頼関係を得る行為もこう呼ばれる。正式には「チャイルド・グルーミング」と呼ばれる。
 これらグルーミングは性的な行為を目的に子どもと親しくなる手法で、インターネットが発達する前は直接会話をしなければ不可能であったことだ。
 しかし近年はSNSの発展により小学生から高校生までグルーミングの対象は広がり、未成年者の手なづけと捕獲が容易になった。これらのグルーミング行為はオンラインゲームやSNSを通じて行われる。

●なりすまし、近づく
 SNSでは簡単に仮想のキャラクター設定ができるため、「悩みを真剣に聞く人」「同年代の人」「男性なのに同年代の女性」などになりすまし、対象に近づく。やりとりから信頼を得たところで「裸の写真を送ってほしい」「自分の家に泊まりに来ないか」と誘い出し性暴行を行う。
 彼らペド嗜好の者たちはさまざまな趣向を凝らし、釣り針をいくつも垂らし、時に撒き餌を行い、獲物が餌に食いつくのをじっと待っているのだ。
 チャイルドグルーミングを行う際は、子どもたちに優しい言葉をかけたり、悩み相談に乗ったり、SNSのプロフィール設定を偽って「同級生」という設定にして親近感を持たせたりと、さまざまなパターンを使って子どもたちに近づく。最近ではボイスチャット機能のあるオンラインゲームを使い、直接会話をするものもいる。
 被害者にとっては「いい人」に感じる行動を取るが、それらは全て性暴行を行うための長期的な戦略であり、被害者が「私は行為は嫌ではなかった」と思わせて犯罪であると被害者に認識させないように本当の恋愛関係を演出する。被害者は「本当の恋愛関係だった」と思っていると犯罪だと認識しにくいため、被害が表に出るまでに時間がかかることが多い。または、被害者の個人情報を取得し脅迫行為を行い、関係の継続を迫ったり、養育者に暴露させないようにしている。

●思いこませ、錯覚させる
 もっとも多い手口としては、「2人の関係を恋愛だと思い込ませる」手法で「かわいいね」などと容姿を褒めたり、悩み相談をしたりするうちに疑似恋愛状態に陥るのを狙っている。中には性被害の発覚後も、子どもは周りの大人に「(相手とは)付き合っている」と話すこともある。
 何度も接した相手に心理的に好感を抱きやすくなる「単純接触効果」も影響しており、子どもの多くはグルーミングによる性被害をネットでの恋愛だと捉え「普通のことだと思った」「何が起きているか理解できなかった」と振り返る。
 これらの行動は「性的誘引」と呼ばれる。奴らはチャットルーム内などで児童の警戒心を解き、手なづける。誘引者は、自分が望むような行動をとってくれそうな児童や、自尊心が低い児童、家庭に問題のある児童を選択的に狙い、釣り針を垂らしている。
 そして、悩みを吐露する子供たちに、優しい言葉で巧みに近づき、信頼関係を築いて性的行為に及んだり、裸の画像を送らせたあと、「ネットに公開する」と脅迫し性暴行に及ぶケースもある。性欲を露出するまで被害者は誘引者であることがわかりにくい。

●データたち
 警察庁によると、令和3年にSNSを通じて略取誘拐の被害に遭った18歳未満の子供は86人で、平成28年の20人から約4倍に増加している。これら深刻な事態を受け、法務省の法制審議会はこうした行為を取り締まる「性的グルーミング罪」の試案を発表し、1年以下の拘禁刑もしくは50万円以下の罰金を科した。
 さらに、警察庁が発表した2021年における子どもの性被害状況は、SNSに起因する事犯の被害児童数は1812人にも上る。SNSを介した子どもの性被害は、ここ数年にわたって高止まりにあるようで、特にTwitterやInstagramといったメジャーなSNSに端を発するものが多い。
 しかし、警察統計はあくまでも警察が被害を認知している数である。これは被害届を出す、警察に相談するなどの被害者からの届け出があり、犯罪自体が明るみに出た件数であり、内閣府が3年に一度実施する調査では「性暴力の被害に遭った人のうち、警察に相談した人は5.6%である」というデータもあり、かなりの暗数があることが考えられる。性被害に遭っている子どもの実際の数は、データの数十倍はあるだろう。
  ある調査では、性的な画像の送信掲載の経験があると回答した者のうち、自画撮り画像の送信掲載行動に至る要因を分析したところ、「孤独感」がそのリスクを上昇させることがわかってきた。つまり友人関係がうまくいかない人、家庭内での虐待などつらい経験を持つ人などは、自尊心が低く、送信掲載行動をとりがちであり、リアルな世界よりもネット上での対人関係を希求する傾向があるということだ。優しい人に何かを求められることが「必要とされている」という自己肯定感に繋がるからだ。
 また、山本らの研究では小学生がネット上で見知らぬ人とコミュニケーションを取ったことがあるのは28.9%で、そのうち2.0%は実際に相手と会ったことあると報告されている。中学生になると実際に会ったのは7.4%で、他の調査では、高校生がネットで見知らぬ人とやりとりした43.4%が実際に会い、実際に異性にあった人のうち12.2%が「そういうつもりがなかったのに、性的関係になった」という気味の悪いデータが出ている。
 更に、「恋人以外で性的関係を持った経験がある人」のうち約半数(48.6%)が「インターネット上で知り合った人」であったことも明らかになっている。ネットでの出会いはもはや「普通のこと」なのだ。
 加えて、直接会ったことのある最も親しい男性に性的な自画撮り写真を送付した経験は、高校生相当年齢で4.9%であることが示されている。これら画像データが保存でき、半永久的に残るものであることを理解していないということでもある。
 これらの行為は海外ではセクスティング:sexting(sex +texting)と呼ばれており、SNSなどを介して性的に露骨な又は刺激的なメッセージ、画像、動画を送受信することを指す。
これらの犯罪者の特徴としては、ネット上で自分のことを隠したり偽ったりして被害者に接する傾向があり、また自分の性的動機をオープンにする傾向があるとも言われている。
 ネットによる性犯罪者は、性的対象は成人であるが衝動や好奇心から思春期児童を対象にすることや、暴力的ではなく、犯罪歴や薬物使用歴は少ないことが指摘されている。
 自画取り被害者についてのある研究では彼らは①被害児童に脅すようなことを言う「脅し群」、②児童に頻繁に連絡し、積極的に関わろうとする「偽善群」、③被疑者の積極性や攻撃性が低く、児童による性的な書き込みが見られる「効率群」の3群に分かれるとされている。
 また青少年に対するネット犯罪の類型について犯罪者のログを分析したDerhetの研究では、①犯罪の専門性が高く、常に複数の被害者を抱え、被害者を引きつけるために複数の手法を用いる「専門家型」(32%)、②1人か少数の被害者しか持たない皮肉屋型(34.6%)、③被害者に対して純粋な愛情を抱いている愛情重視型(21.3%)、④すぐに性的な出会いを求めるセックス重視型(12%)の4類型に分けられるとしている。この研究でも彼らは複数被害者と同時に連絡を取り、反応のあるターゲットを探し出し、写真やテキストなどを交換し、リスクを回避しつつ性的行為に至ることがわかっており、グルーミングの手法と同じだ。
 更にやりとりについて具体的時間を調査している研究もある。一番多いパターンとして、交流期間としては4日強であり、交流開始から10分で「被害者の写真を求める」、12分で「セックスについて言及する」、50分で「会うことを求める」、1時間6分で「連絡手段を変えることを提案する」、1時間11分で「リアルタイムでの性行為、又は促す」行為が見られるという。彼らはあまり長期戦を求めないようだ。性的衝動からのやりとりなので当たり前と言えば当たり前だが。
 Wolakらによると64%の加害者らは、直接会う前に1ヶ月以上オンラインでコミュニケーションを取り、79%が電話で会話をし、48%がオンラインで写真を送り、47%が贈り物や金銭を提供している。その結果被害者は、加害者に愛情を感じ、逆に警察や親から攻撃されていると感じることがあるという。
 これらは「特別なご褒美」や「愛の告白」等と呼ばれ、物・心両面から可愛がり命令、脅しなどを用いて子どもの弱みを巧みに掌握し、支配、洗脳、あるいは統制しようとしている。
 なお、支配的関係に子供が取り込まれてゆくまでには、段階があるとされている。まず、加害者は子供に寄り添いながら近づき、日頃子どもの愚痴を聞くなど味方を演じるところから関係が始まる。そして、徐々に性的な話題が持ち込まれ、プライベートゾーン以外へのタッチなどの些細な親密性の逸脱から、身体を舐められる、プライベートゾーンへの接触や性交などのあからさまな性的侵害行為に及ぶとされている(加藤,2015;岡本,2008;山本,2010;高岡,2016)
 その後は、子どもの罪悪感や恥辱感などを利用して支配的関係に持ち込み、問題の秘匿(口止め)、被害者を共犯者に仕立て上げることなどによって、構造を強固にし、暴力・搾取の持続化を図るとされる(山本,2010)

●CSAAS
 グルーミングや洗脳操作などにより、性暴力被害を受けた子どもには特異的・ 特徴的な症候群が発生することが指摘されている。それらは性的虐待順応(調節)症候群(Child Sexual Abuse Accommodation Syndrome: CSAAS, Summit, 1983)と呼ばれ、性的虐待を受けている場合に、①性的虐待の事実を秘密にしようとする、②自分は無力で状況を変えられないと思っている、③加害者を含めた周囲の大人の期待・要請に過度に順応しようとする、④性暴力被害を認めたがらず、説得力の無い、遅くタイミングのずれた矛盾した証言を行う、⑤いったん性暴力被害を認めた 後で(恐怖感等に由来して)証言を撤回する、といった様相を呈するものである。
 心身症状がなく 「適応的」に見える場合があることや、介入の拒否などを含めた「加害者にとって都合の良い」振る舞いをする場合も例に上がる(神奈川県中央児童相談所, 2018)。
 「性被害から逃れることはできないのだから、自分から加害者を誘って、早く行為を終わらせて早く眠りたい」といった、歪んだ生存スキルを身につけることもある。これらの症候群は、裁判等を含めて子どもの発言に対する信用性を失ってしまうなどの影響が示唆される(山本, 2010)「擬似恋愛状態」の進行が中断されたのだから当たり前と言えば当たり前で、脅迫を自覚していない限りこれらは証言の信憑性を怪しくさせる。加害者を庇うような行為に繋がることは容易に想像できる。

 そういえば、日本は元々ロリコン文化である。平安時代の男女は早婚、男性だと17〜20歳、女性だと13歳から15歳ぐらいで結婚していた。後の鎌倉、室町、安土桃山時代も初婚年齢はあまり変わっていない。江戸時代は地域差があるが、東北は男性が18〜20歳、女性が15歳、西は男性25〜29歳、女性は21〜23歳であった。初潮を迎えると結婚年齢と見做されることも多く、思春期を境に男性は女性を性対象として扱っていた。
 そういえば、ロミオは17歳、ジュリエットは13歳だった。もちろん、昔の人はもっと寿命自体が短いし、出産後も必ずしも全ての新生児が生存できるわけではなく、感染症で死亡していたため、妊娠が可能になった時点で生殖行動を開始し長期に渡って種の保存を行う必要がある。女性は若ければ若いほどいい、という刷り込みは大昔からあるのだろう。日本はいまだに男尊女卑の文化が根強く残っており、女性を性的搾取の対象としてみなす男性も少なくない。
 ペドフィリアやチャイルドモレスターたちはインターネットという最強のツールを手にすることでその欲望を加速した。彼らは未成年者に性的暴力をふるうただの滓だ。このような行為は一部の国では晒し者にされ、投石され撲殺される国も存在する。私なら人権など無視して去勢したいところだが、そうもいかない上に彼らはインターネットに隠れてその姿はより分からなくなった。
 そのような人間が一定数存在することは事実で、彼らは「いい人」のふりをして釣り針を垂らしている。彼らの毒牙から逃げる方法やそれが「擬態した毒牙」だと勘づく方法を学習する手伝いをしなければならない。
 しかし、調べてみると孤独であったり精神的に脆弱な子が狙われている。親や友人から見放された子、見放されたと感じている子、このような未成年者が存在するのもまた事実だ。多様性と生存戦略の観点からお互いに補完し合っているとみることもできるが、それが本当の恋愛感情を伴っていない以上はやはり搾取だろう。悪意のある搾取はそれ相応の報いを受けるべきだ。弱く脆弱なものだけ狙う擬態した性器はやはり滓だ。

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