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消えた紙コップ 和歌山毒物カレー混入事件(9)

 前回の記事を書いている中で、第一審の判決記録を入手することができた。狭山事件もそうだったが、一部のメディアの伝える内容はデマや嘘を孕んでいるため、ファクトチェックを厳重にしないと事実でないことが非常に多い。
 さらに噂レベルの根拠のない話も多く、映像に至っては切り取りや編集で与えるイメージを操作することができ、過剰なバイアスや偏見を生み出した。
 また、証言は事後情報効果により時間と共に書き換え、書き加えされていく。この事件、調べても嘘が多すぎて真実に辿り着けていない気がずっとしていた。
 可能な限り正確な情報を知るためにも、裁判記録を探していた。狭山事件の裁判記録は本になっているため比較的入手が簡単だったが、この事件は和歌山地裁に行かないと閲覧できないため、他の入手方法がないか探していたのだが、ようやく見つけることができた。
 一通り目を通して、その内容は私のこれまでのカレー事件の捉え方を変えるものだった。ずっと気になっていた七色に変化する「青色紙コップ」のさらに詳しい情報を入手できた。狭山事件ではトマトが気になって仕方なかったのに、和歌山毒物カレー混入事件を調べてからはずっとこの紙コップが気になって仕方なかったのだ。
 この紙コップは、「唯一の真犯人に繋がる物証」だ。こじつけのドラム缶やミルク缶などどうでもいい。この紙コップだけが出どころが全くわからないものなのだ。
※なお、裁判記録には個人の名前を伏せるため都道府県や東京23区が使われているが、そのまま使用する。 

 7月25日、午後11時より夏祭り会場の現場の実況見分が始まった。例の青色紙コップは会場北東東端付近の千葉b夫方のブロック塀沿いに置かれたゴミ袋の中から発見された。

この見取り図で言えば右上のあたり

 このブロック塀沿いにはゴミ袋5つがあり、うち2つにゴミが入っていた。これらゴミ袋には(ア)〜(オ)の記号がつけられた。

ゴミの状況

 さらに、会場中央北端付近にゴミの入ったビニール袋7袋があり、これには(カ)〜(シ)の記号がつけられた。会場では計12袋のゴミ袋が見つかっている。

写真手前に見えるのはおそらく中央北端付近のゴミ

 それらのゴミ袋の中の(エ)から当該の青色紙コップは発見されている。会場北東東端付近ブロック塀にあったゴミ袋の二つのうちの一つだ。さらに、(オ)のゴミ袋からも青色紙コップ一つと、黄色紙コップ一つが見つかっている。
 なお、この3つの紙コップ以外はこの会場のゴミからは紙コップは出てきていない。つまり、紙コップは会場内に「3つのみ」だったのだ。
 そして、(エ)のゴミ袋の中には以下のものが入っていた。
 ・卵の殻
 ・卵用段ボール
 ・白トレー2枚
 ・小トレー1枚
 ・野菜屑の入った〇〇(スーパーの名前)と記載されたビニール袋
 ・ゴムホース片などが入った〇〇(スーパーの名前)と記載されたビニール袋
 さらに、この野菜屑の入ったビニール袋の中には
 ・野菜屑
 ・ジャガイモのビニール袋
 ・ニンジンのビニール袋
 ・皮むき器(ピーラー)
 ・ラップ
 ・新聞
 ・青色コップ
 ここに例の青色紙コップは入っていた。ゴミ袋の中のものから考えると、わざわざ後から入れたのでないのならば、午前の調理中に砒素が混入された可能性も十分にありうるということだ。

(エ)のゴミ袋の中身 右下に見えるのが紙コップか?〇〇は店の名前だろうか

 しかも、このゴミ袋(エ)は元々ガレージにあったもので、ガレージ出入口付近あるいは前庭室外機付近にあったゴミ袋を静岡(主婦の名前)がゴミ袋の両端を持って縛り口を締め、夏祭り会場のブロック塀付近に持っていったため、会場にあった。

 さらに青色紙コップについて述べる。8月2日、このコップ3つのうちひとつにグトツアイト法で陽性反応を認め、砒素が検出された。
 さらに、8月7日にアミラーゼ検査が行われ、
(エ)青色紙コップに唾液の付着なし
(オ)青色紙コップ、黄色紙コップには唾液の付着ありと判定された。
 ただし、血液型が判明するほどの量ではなかった。一体この3つのコップはどこから出てきたものなのか。

よく出る紙コップ画像
よく出る紙コップ画像

 時間を少し巻き戻す。カレーは8時30分頃からガレージで調理が開始された。ガレージに青いビニールシートを敷き、各自が包丁やまな板を持ってビニールシートの上でカレー用のジャガイモ、ニンジン、玉葱の皮を剥いて切り、鍋で炒め初めた。
 この時調理に参加したメンバーは、以下の18人だ。
・群馬b子
・品川
・山口c子
・茨城b子
・徳島b子
・滋賀a子
・石川a子
・兵庫b子
・高知a子
・高知b子
・目黒a子
・福島d子
・大久保a子
・高田a子
・大阪a子
・静岡c子
・福岡c子
・佐賀c子
 もし、調理時に砒素が混入されたのであれば、この18名の中に真犯人が存在するということだ。さらに、この中に真犯人が存在するとすれば、そいつは確実にどこかで嘘をついている。また、当然だが真犯人は一人ではない可能性もある。
 紙コップの初登場はここからだ。8時30分に大阪が調理の際に飲んでもらおうと水筒に入った麦茶とコップを持ってガレージに行き、コップの載ったお盆はボンベ(甲)の上に置き、ボンベの足元に水筒を置いた。

ボンベ甲はガレージ内の壁側に置かれた

 大阪が持ってきたコップは、ガラスコップ4個と紙コップ4個であった。どうもこのコップがゴミ袋に入ったと思われるが、そう考えると見つかったコップは一つ足りない。さらにこのコップの使い方も証言に存在する。
・静岡は麦茶を紙コップに入れて飲み、口を上にしてお盆の上に置いた。もう一度飲もうとするとコップがなくなっており、別の紙コップを使い、それをエプロンのポケットに入れた。
・目黒は、麦茶を紙コップに入れて飲み、エプロンのポケットに入れた。
・群馬は、おでんの継ぎ足し用の出汁を作る際に紙コップを使い、出汁の味見をし、洗って盆の上に置いた。
 ということで、これで4つの紙コップは全て使われた事になる。そして、すでに一つ無くなっている。

 カレーの野菜を切ったところで、おでんの調理が始まった。
 平鍋でお湯を沸かし、そこにだしの素やだしつゆを入れ、そこに醤油、砂糖、酒、みりん、すじ肉をなどを加えてだしを作った。
 この間、群馬はゴミ袋、調味料、お玉など必要となったものを自宅に取りに帰り、自宅とガレージの間を何度も往復している。
 9時30分ごろ、目黒と大阪は近所のスーパー〇〇に前日注文したカレー用の肉とおでん用の厚揚げを取りに行っている。この〇〇の袋がゴミ袋の中に入っていたと思われる。
 10時20分ごろ、スーパーの食材が届くと、入りきらないカレーの具があるため品川宅でもう一つカレー鍋を作ることになり、山口と品川は品川宅に行き平鍋で調理を始めた。その際に岡山がガレージに4脚の椅子を持ってきた。
 おでんの具も多く、鍋に入りきらないことから群馬、福岡、佐賀の家でもおでんを小分けして炊くことになった。
 午前10時30分ごろ、東カレー鍋には静岡、西カレー鍋には滋賀がカレーのルーを入れた。静岡は味をまろやかにするために、自宅からコーヒーフレッシュを持ってきて、カレー鍋に入れた。カレーをかき混ぜたのは、静岡、滋賀、高知、目黒らであった。
 その後、午前11時すぎにはカレーは煮込むだけとなり、群馬、奈良、目黒、静岡らが東鍋カレーの味見をし、高知、目黒、静岡らが西鍋カレーを味見した。この時、東カレー鍋はまずまずの出来となったが、西カレー鍋は水っぽい状態であった。この頃に残っていたのは静岡、高知、滋賀、目黒、福岡、福岡の娘二人であった。
 その後、午後0時ごろから班長らが1時間起きに交代で見張りを行なった。見張りの順番は林死刑囚ー高知ー滋賀ー群馬ー静岡ー島根であった。ここでようやく林死刑囚が登場し、紙コップを使って砒素を混入したとされる。なお、林死刑囚は午前中のカレー調理には参加していない。なんなら、林死刑囚はガレージで紙コップを持っていた主婦1名を思い出し警察に情報提供している。
 そして、裁判記録によればガレージに一人でいる時間があったのは林死刑囚だけではない。
 ・群馬b子
 ・高知a子
 ・滋賀a子
 この3名もガレージで一人の時間があった。さらに一審の記録ではこの3名のみ亜砒酸と関係性があるかどうか家族の職業なども調べられているが、関係なしと判断されている(ちなみに群馬の夫は保険会社、高知の息子はプレスの仕事、滋賀の夫は製材業であった。さらに他の自治会住民についても林死刑囚の実兄の持つ亜砒酸やプラスチック容器との接点はなかったらしい。これは言い回しの問題なのか、他59缶ではなく、あくまで関係するドラム缶やミルク缶との接点について調べられていると私は解釈する
 さらにこの間では、林死刑囚の次女の西カレー鍋の味見があった。午後1時ごろとされている。
 午後3時から会場の準備ができたため、鍋やコンロを会場に運ぶことになった。
 鍋が夏祭り会場に運ばれた後、高知、滋賀がガレージを掃除した。静岡は、ガレージの掃除に行ったが高知、滋賀、佐賀c子らが掃除をしていたので、ガレージのゴミ袋を夏祭り会場に運んだ。
 午後4時から見張り番の熊本と五反田がテントの高知、滋賀、目黒と合流したため、高知、滋賀、静岡らは一度帰宅した。
 午後5時からは群馬が各鍋に火をつけ、木しゃもじでカレーをかき混ぜ始めた。そこに茨城が来たので茨城が東鍋を、群馬が西鍋をかき混ぜる。かき混ぜ始めた時、東鍋の底は焦げついており、黒い焦げが浮かんだという。
 その後はその場にいた大阪、佐賀、香川が交代でカレーをかき混ぜた。この時香川は木しゃもじについたカレーを指につけて舐めたが、量も少なく熱かったのですぐにジュースを飲み、カレーの味はしなかったと供述している。
 そして、午後5時半頃から子供たちが集まり始め、午後6時頃からカレーの給仕が始まった。

 なお、急性砒素中毒の症状がなかった香川、大阪、山口は医療機関で検査を受けている。また、午前中にカレーの味見をしたが夏祭りではカレーを食べていない目黒、静岡、千葉らは捜査機関に対して尿中砒素濃度の測定のため尿を提出している。その結果は以下であった。
 ・目黒 176μg
 ・静岡 153μg
 日本人の尿中砒素濃度の一般健常者の平均値は132μg、カレーを食べたものの尿中砒素濃度の平均値は1143μgで、上下限値は198〜3411μgであった。

妄想と考察
 まず、真犯人について子供による犯行説があるが、私は否定的である。そもそも子供が鍋を倒さないように、育児のプロである主婦たちが見張っていたにも関わらず、小さい子供が何かよくわからないものを鍋に入れるのを簡単に許すだろうか。
 百歩譲ったとして、忍者のような動きをする子供が俊敏な動きを駆使し間違って砒素を入れた可能性があるとしても、その子供は一体どこから亜砒酸を持ってきたのだろうか。家の台所にでも紙コップに入っていた亜砒酸がたまたまあったというのか。そうでないとしたらわざわざ何かから掬って持ってきた事になる。
 そのレベルで子供が亜砒酸を簡単に入手できるのなら、木工用ボンドぐらい家に普通に置いているものという事になってしまう。考えるほど子供に紙コップの亜砒酸が渡ること自体が難しそうなのだ。
 この事件、状況証拠の積み重ねで林死刑囚は犯人に仕立て上げられた。虹色紙コップと真犯人を直接繋ぐものが今のところないため、私も状況証拠から青色紙コップの行方を考察する。
 まず、ゴミの状況から考えると、午前中のカレーを作る際に亜砒酸が混入された可能性がある。これは、真犯人がカレーを調理した者18名の中にいる可能性があるということを示唆している。
 もう一つ、もっと後(カレーが完成し、夏祭り会場で)からここに隠すように入れた、と考えることもできる。
しかし、一体どのタイミングで袋に青色紙コップを入れたのだろうか。これを入れた人間は何かから隠すためにここに入れたはずだ。
 ゴミ袋の口は縛られて置かれていたため、会場で投入するとなるとわざわざゴミ袋の口を解いて、さらに野菜屑の袋に入れないといけない。写真でゴミ袋が置かれていたところを見ると雑草が伸びている未整備のところであり、ここでゴソゴソと動いていたらかなり怪しくは見える。祭り開始直前に投入されていたとしたら、誰かが嘔吐している前後にそのような行動をしていれば誰かが覚えてそうなようにも感じる。確かに、ゴミの状況からも鍋が運ばれる前に投入し廃棄されたと考える方が妥当だ。そして、意図的に入れられたとするとゴミ袋の中に野菜屑のゴミ袋がもう一つ存在することを知っている人間のはずだ。
 ゴミ袋が縛られる前の廃棄だとすると、午前8時30分から午後3時までに捨てられたという事になり、意図的に野菜屑ゴミ袋に入れられたとすると、午前中の調理に関わったものの可能性が高い。もっと言うとゴミ袋に他の人間がアクセスする必要がなくなったと判断してから捨てただろう。つまり、もうゴミが出なくなってからのはずだ。そう考えると紙コップが捨てられたのはカレーが煮込むのみとなった午前11時ごろから鍋が移動する午後3時までだ。
 しかしなぜ、そんな分かりやすいところに紙コップを捨てたのだろうか。ここからも、亜砒酸の怖さを知らなかった者なのかもしれないという疑惑が強まる。少しお腹を壊すぐらいで投入したのであればコップを探されることもない、と思っていた節がある。隠したつもりだったのだろうが、詰めが甘すぎる頓珍漢なところが子供の犯行説を刺激するのだろう。つまりは、真犯人はここまでの被害になると思っていなかった者だ。
 まず、私がヒ素を投入したら、そのカレーは持ち帰らないし、食べない。発覚を恐れるために、自分も中毒になることで捜査を撹乱しようとする可能性はある。しかし、家族の行動はコントロールできない可能性もあるため、できる限り食べさせないようにするために遠ざける行動に出るはずだ。もし家族のことを気にしてなかったのであれば、かなりのサイコパスだろう。
 そして、この東鍋カレーは食べても症状が起きなかった者も、そもそも食べてない者も存在する。ここが不思議なのだが、1300人を殺すことのできる濃度の亜砒酸を投入しているにも関わらず味見も含めて食べた者が何の症状も起こさなかったなどありうるのであろうか。私なら、少しだけ食べて軽い症状を出して疑惑の目を逸らす。もしくは、他に食べなかったものがいるなら、私は味見をしたと嘘をつくだろう。犯罪者は自分への疑惑を逸らすための行動を最大限に取ると思われるからだ。そして、ここまでの効果が出ると思っていなかったのなら、惨状を見て確実にパニックになっていたはずだ。
 紙コップについては、これまで大量に会場に溢れているものだと思っていたが、この会場内には3つしかその存在が確認されなかった。カモフラージュのために持ち歩いてたのなら違和感はないが、祭り会場に3つしかないのであれば事情が違う。そして、最初にガレージに運ばれた紙コップがこの発見された3つにあたるのであれば、一つ足りない。
 そう、一つ明確に無くなった紙コップがあるのだ。口をつけて麦茶を飲んだとされる2つの紙コップ、これからは唾液が採取された。もう一つは味見をして洗われたとされる紙コップ。さらにもう一つ、飲んだ後に無くなった紙コップが存在する。調理に携わった人間による犯行であれば、これを使った人間の誰かが嘘をついている可能性がある。
 そのうち誰かは1人は家に持って帰って捨てたんじゃないの?と言われたらそれまでだが、3つは見つかっている上にこのコップは貴重な物証のため、最後の1つの所在も捜査機関は探しているはずだ。一体どこにあったのだろうか。
 さらに、いかにも林死刑囚にしか毒物を投入できる機会はない、と言い切った風のイメージ戦略は大成功したのだが、他にも1人の時間があった人間が3人もいたのだ。この者たちの毛髪は採取されてないし、大SPring-8閣下も使われていない。
 これでは、林死刑囚は調理に参加せず、毒だけカレーに入れ、その場で使ったコップを捨て、夏祭りに参加せず、カラオケに行ったさすらいのテロリストだ。無差別に毒物をばら撒くヴィランは特定の人間を狙っていないため、その効果をメディアなどで知るしかないが、この犯行は顔のわかる人間を狙っている可能性が高い。私なら対象に攻撃がヒットしたか効果判定のために必ず状況を確認できるところにいたい。食べずに最後までいて、警察の動きを見たい。
 さらに、犯人が調理者の中にいるとしたら、急に怪しい白い粉末を投入しようとすればかなり目立つはずだ。カモフラージュするには、一度水などで溶かすとか、調味料と混ぜ込めば投入することができる。例えば小麦粉や片栗粉、醤油、ミルクなどだ。ヒ素は砂糖のような見た目のため、何かに溶かした方が良さそうだ。そういえば、東鍋にはコーヒーフレッシュが入れられていた。

当時は粉末のコーヒーフレッシュも家庭用では沢山あった

 亜砒酸は本来難水溶性で、沈澱しやすい。なんならカレールーを入れたタイミングで投入して、一番下まで混ぜなければ強い中毒症状は起こらないかもしれない。そう言えば東鍋は底が焦げ付いていた。しかしサスペンス映画じゃあるまいし、紙コップを現場で捨てるやや間抜けな犯人がそこまでの化学知識を持っているとはあまり思えないが。
 そして、私なら投入した鍋にはつきっきり調理につく。味見も私がよそえばいいのだから。そう言えば、西鍋は東鍋に比べて水っぽく、さらに煮込みが必要だと言っていた。わざと東鍋をしっかり作っていれば、注意は西鍋に移るだろう。さらに、会場に持って行ってもまだ水っぽい西鍋はさらに煮込みが必要なため、必然的に東鍋からの給仕となる。

 なお、黄色紙コップの写真は、この会場で見つかった3つのうちの黄色紙コップが誤ったキャプションにより出たものだと私は考える。
 さらに、次女の味見は奇跡的に西鍋だっただけだ。ここで東鍋を味見していればここまでの惨事は防げたのかもしれない。
 さらに検察により「封じられた証言」で少年が見た林死刑囚の持っていた紙コップはピンクだった。そして、なぜか主婦達には林死刑囚が持っていた紙コップの証言が全くない。
 これらは、バイアスやデマにより起こった誤った情報である可能性が非常に高い。嘘もつき続ければ真実になる。

 その上で各主婦の動きを見直すとどうしても気になってしまう者が何人かいるのだ。まだご存命であるだろうし、無用な犯人扱いは避けたいが、どうしても気になるのだ。

 味見をしたにも関わらず症状が出なかったのは?
 紙コップを一つ無くしたのは?
 紙コップのゴミ袋を持っていたのは?
 コーヒーフレッシュを入れたのは?
 事件当時の記憶が曖昧なのは?
 東カレー鍋を担当したのは?
 水っぽい西カレー鍋をわざわざよそったのは?
 状況証拠だけで考えるなら怪しい人物は他にもいるのだ。

より重要な情報を隠すために無関係な情報を含ませることがありうると考えられている(p24より)
嘘をつく人は、自分たちの話が外的にも内的にも一貫することを確認し続けなければならない。これらの情報操作への配慮は、認知的負荷を高めるものである(p38より)
彼らは、自分自身を罪に陥れないために重要な情報を隠さなくてはならない。真実を示すかわりに、彼らはかわりとなる説明を提供しなくてはならない(たとえば、実際には犯罪現場にいたときにショッピングモールにいたと主張する)自らの現実の行動を隠すために偽りの情報を提供することは、危険を伴うことになる(p220より)

「虚偽検出 嘘を見抜く心理学の最前線」P・A・ギヨンゴビ A・ヴレイ B・フェルシュクーレ 北大路書房 2017

 これらの事実により私なりの犯人像を主張する。動機は鍋を借りた店への攻撃、もしくは夏祭りを快く思ってなかった、もしくはカレーを作った主婦の誰かへの恨み、つまりは個人的な「怨恨」によるものだ。青色紙コップにより砒素が投入されたのは午前11時から午後12時の間で、これは衝動的な犯行ではなく、計画的犯行である。
 そして砒素の効果を知らない者による犯行だ。砒素の効果を知らなかったのであれば悪戯の可能性もあるため、単独犯ではない可能性もある。そして、自分で投入したが効果が酷かったため、取り乱して誰よりも早く適切な処置を取ろうとしたはずだ。まだパニック状態の会場で誰よりも早く救護活動に出たはずだ。そして、可能な限り現場に留まっただろう。

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