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タロットから垣間見る物質世界の在り様

何かを書かなければならないという必要性を感じ、そのエクチュアリーのなかで己と対峙し、発見する過程を経て、これまで気づくことのなかった世界への眼差しを醸成していきたいと思う、今日この頃である。

最近、タロットに入れ込んでしまっている。

占いといえば朝のニュース番組で流れる星座に即したものを思い浮かべ、良い運勢の時は信じ、悪い運勢の時は信じないという、なんとも都合の良い立場から受容していただけなので、タロットにはまりだしたことは、偶然の産物の何物でもないように思える。

しかしタロット的世界観で考えるならば、この一件偶然に思える事態の中にも、人知を超えた運命の糸が絡んでいるのであり、その意味で、あの時、京王デパートの本屋で、タロットを見かけたことは、どこかの時点で何かしらの必然の鎖につながれていたともいえるだろう。

とはいえ、初見のときには、何の関心も寄せなかったことは事実である。
しかし、会社で働き、その単調な一日が終わる間近になったとき、ふとタロットを始めようと思ったのである。

なんでも経験だという、向こう見ずな青年ならば一度は考えたことがあるだろう、ありふれた動機によって、京王デパートにそのまま駆け込んでいったのであるが、入門としてのガイドブックが織り込まれた、5000円ほどするタロットセットは、新しい世界を見せてくれる期待を、久々に私の心にもたらしたのである。

さて初めての占いは、「今日夕食でステーキを食べてもいいか」ということであった。ドラマ『結婚できない男』のワンシーンを思い出し、ワインで火を燃え上がらせた大きなステーキを食らいたいと思ったのである。

ところが、いざ占いを始めると、その思いは一気に打ち砕かれたのである。

行った分析は、「スリーカード・スプレッド」で、これは過去・現在・未来の状況を説明してくれる。私の問いに対する答えとしては、過去として「ペンタクルの2の逆位置」「ワンドの6の逆位置」「ペンタクルのエース逆位置」が出た。全て逆位置だったのである。

私はいまだ経験不足であり、解釈そのものの技術に関しても未熟であるため、大いに間違いを含んでいることを念頭に置きながら考察してみると、暴飲暴食を意味する過去の状況としての「ペンタクルの2の逆位置」は、その日までかなりの飲み会や食事会によって太ってしまってきている状態を意味していると考えられた。

そしてよく考えてみると、その日、同僚に「太った?」と言われ、どことなく気にしてしまっている自分がいたことが思い出される。それがまさに屈辱感を意味する「ワンドの6の逆位置」に相当することは、疑問の余地がないのであった。

井上教子によれば、タロットカードとは「何かを当てるためだけのもの」(井上 2000:11)ではなく、「有意義な生き方をするために、生きる指針、アドバイス、自分の精神や能力に関しての暗示を得るため」(井上 2000:11)のものであるらしい。すなわち、タロットカードによってもたらされるのは、自分の未来なのではなく、今の現状とその現状を作り出す土壌としての過去を省みる機会であり、その思考の果てに新たな現状を作り出すための道標なのである。

その意味において、「ペンタクルのエース逆位置」は、外食による巨額の出費による「経済苦」であり、「不健康」であり、誰かからの「落胆」なのである。「ステーキを食らう」という選択によってもたらされる未来は、破滅が待っているとまで言えるかもしれない。

私はタロットの何に、こんなにも魅力を感じているのだろうか。
鏡リュウジの『タロットの秘密』(講談社現代新書)を読んでみたものの、そこに書かれている内容は私の求めているものとは明らかに違った。「タロット占いに神秘的なロマンを感じるファンにとっては、軽いショックを覚えるような事実」(鏡 2017:43)として挙げられているような、占いではなく単なるカードゲームとしてのタロットという社会科学的な「歴史」には、寸毫の興味も沸かない。

私がタロットに求めているのは、社会科学的な実証に根差した客観性なのではなく、自分の経験世界と密接に交わる「何か別の物」であり、その「創造性」なのである。

その意味でいわゆるオカルト的な物質世界の背後にあるだろう「不可視の霊的世界」(鏡 2017:39)を信じているのではなく、物質世界と深く関係している中でうまれる「不可視の霊的世界から見た物質世界の創造」そのものを楽しんでいるのである。実態としてある「霊的世界」を信仰しているのではなく、常に流動的で偶然の産物として変化しうる、創造の産物としての「霊的世界」に魅かれているのである。

<参考文献>
鏡リュウジ,2017,『タロットの秘密』講談社現代新書.
井上教子,2000,『タロット解釈実践事典 大宇宙の神秘と小宇宙の密議』国書刊行会.




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